Solomon's Gate

坂森大我

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第三章 死力を尽くして

大戦、再び

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 にわかに緊張が高まっていた。既にカザインの主力艦隊はゲートに到着している。偵察機の飛来頻度も増し、再戦の時がそう遠くないことを感じさせていた。

「もう三日になるか。偵察機が増えたのは……」

 そう漏らしたのはイプシロン基地司令のクェンティン・マクダウェルだ。

「二度目の侵攻が予想されます。今回はかなりの戦力を投入してくるはず。ですが、我々の準備も抜かりありません。必ずや勝利しましょう」

 クェンティンの呟きに応えたのはアーチボルト参謀である。防衛に余程の自信があったのか、彼は笑みさえ浮かべている。

 慌ただしい司令室。厳戒態勢が続いており、末端の人間は休む暇もなく働いていた。さりとてクェンティンの出番はまだのようだ。葉巻を燻らせたり、雑談を交わす他は部下たちの仕事ぶりを眺めるだけである。

 だがその刹那、突如として計器類に反応があった。瞬間的に全ての警告灯が光を発する。

「ゲート全面に熱源反応多数! ビームきます!!」

 ソロモンズゲートが光を帯びた。直径百キロというゲートがまばらに煌めく。それはビーム砲による一斉射撃に他ならない。

「ダミー戦艦並びにダミードック消失! 被害報告ありません! 第二波きます!」

 連射するようなビーム射撃。ゲートの直線上から艦隊を引き離すためだろう。ただデコイが破壊されただけで実害はない。宙域の爆発は開戦を知らせる合図でしかなかった。

「ようやくお出ましか……」
 クェンティンがフンと鼻を鳴らす。思えば焦らされ続けた三日間だった。彼はまるで開戦を心待ちにしていたかのような表情である。

「続いて艦隊! その数、五百隻! 座標転送します!」
「機雷の射出急げ! 重イオン荷電粒子砲起動! 一隻たりとも抜かれるなっ!」

 クェンティンの指示が飛ぶ。彼は今回も冷静であり的確だった。

「艦首から飛翔体が射出されました! これは……誘導弾です!」
 ところが、戦況は想定通りに運ばない。敵艦は艦首に砲台を装備しており、艦の全貌が現れるよりも先に攻撃を開始していた。

「重イオン砲、三十機が損傷! 尚も誘導弾が射出されています!」
「残存する重イオン砲の座標を変更しろ! 狙われているぞ!」

「ですが、発射準備が!?」
「キャンセルだ! 回避を優先しろ! 浮遊トーチカは誘導弾の撃破に設定変更!」

 同じ轍は踏まないつもりか、カザインは前回の大戦で苦しめられた重イオン荷電粒子砲の座標をプログラムしていた模様だ。真っ先に狙い撃つ作戦だったらしい。

「偵察機は重イオン砲の座標を確認していたのか……?」
「そのようです。増設分はまんまと撃破されてしまいました……」

 肩を落とすアーチボルト。だが、落ち込む間もなく戦況は動いていた。

「敵艦隊α線に到達しました! 撃墜が間に合いません!」
「怯むな! β線以降の配備を急げ! 航宙機部隊も全機発進しろ! α線上の艦隊は引き続きゲートの防衛! これ以上の進入を許すな!」

 戦線は早くも下がっていた。前回ではβ線まで達する敵艦が殆どなかったのに対して、今回は早くもα線上に到達している。

「エイリアン共がやりおる……。なあ、アーチボルト?」
「全くです。まさか実弾に切り替えてくるとは予想外でした……」

 ゲートの背面に位置する重イオン砲は回り込むように攻撃しなければ撃破できない。カザインはその対処法として誘導ミサイルを配備していたのだ。

 決して負けられぬ戦いが幕を上げた。互いの存亡を懸けた一戦は容易に決着を見ないだろう。必ずや総力戦となる。ところが、クェンティンはなぜか強敵であることを喜び、大きな笑みを浮かべていた……。
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