46 / 62
第三章 死力を尽くして
似たもの同士
しおりを挟む
一週間が過ぎていた。誰も口にしなかったが、次戦の予感を覚えている。いつ始まったとしても動揺しないように各員が覚悟を決めていた。
ミハルはアイリスの病室を訪れている。かといって見舞いとかではない。アイリスに呼び出されてしまっては無視できなかっただけだ。
「悪いな……。このような見舞いの品まで持参するとは背丈と同じで可愛い奴だ!」
「身長のことはほっといてください! それで要件は何ですか? これでも私は忙しいんです!」
相変わらずそりの合わない二人。早くもミハルは顔をしかめていた。
「あれから一週間が経ったからな。近況を聞こうと思ったのだ。訓練の内容は常に報告を受けているが……」
アイリスの要件はミハルの近況であるようだ。だが、ミハルの調子ならば報告を受けているから聞くまでもないはず。ならばとミハルは質問の真意を汲み取っている。
「時間がかかりそうです。根本的に私とはフライトの方向性が違うんじゃないかと……」
「すまない……。あいつは決められた通りに飛ぶのは得意なんだが、どうにも発想力が乏しい。貴様と対極にいるようなパイロットだ。まあしかし、あいつを301小隊に引き留めてくれたことには感謝しかない……」
二人が話しているのはジュリアのことらしい。やはりアイリスも姉であった。自身が戦列を離れた今、隊での居場所がなくなってしまうことを危惧していたようだ。
「高望みはしていないんですけど、どうにもタイミングがずれてもどかしいです……」
言葉は濁したが、ミハルは割と限界を感じていた。自由に飛ぶことを許さない支援機に疲れすら覚えている。
「だとしたらミハルが合わせてくれないか? ジュリアの支援を先読みし、機動を組み立てていくのだ……」
「それ本気で言ってます? 私は貴方の記録を抜こうと頑張ってる。余計な機動は足かせでしかありません!」
ミハルは強く拒否を示した。だが、アイリスは不敵な笑みを浮かべている。どうにも嫌な予感がしてならない。
「先の戦闘で私がジュリアに合わせて飛んでいたとしてもか? 貴様は自由に飛び回り、私はハンデを負いながら戦った。果たしてその二つの結果は平等だろうか……?」
流石にカチンときてしまう。売られた喧嘩は買う性分である。ミハルの気の強さはアイリスにだって引けを取らない。
「そういうことでしたら分かりましたよ! ジュリアまでフォローして飛びます! それでも私が勝っていたら、言い訳しないでくださいよ!?」
「勿論だよ! 可愛い妹弟子の戦果にケチを付けるつもりはない!」
良いように言いくるめられてしまうミハル。鼻息荒くアイリスを睨んでいる。
ところが、そんな眼差しを避けるようにしてアイリスは視線を下げた。
「ジュリアは切っ掛けさえ掴めれば伸びるはずだ。あいつは殻を破れないだけ。私の影を追い続けた結果、自身のフライトを見失っている。エースの器ではないにしても、決して貴様を落胆させるようなパイロットではない。それに私はこれでもジュリアの姉なんだ。私が弟を信じなくてどうする? 最後のチャンスがミハルなのだよ……」
至って真面目にアイリスは語る。姉馬鹿であるのかジュリアの才能について言い訳を並べ、最後は押し付けるようにミハルへと託すのだった。
「その優しさを私も欲しかったものですね!」
ミハルの何気ない返答。なぜかアイリスは頭の中をまさぐられたような気がしている。
その台詞は記憶に埋もれていた。どうにも信じられない話を聞いたあとのことだ。
.
『ミハルはアイリスと似ているな。性格までそっくりだよ――――』
かつての師はミハルとの共通点をそのように話していた。思い出した記憶を辿れば少しも否定できない。アイリス自身も同じような台詞をグレッグに返していたのだから。
一瞬、呆けたあとアイリスはククッと笑う。何だかとてもおかしくて、声を上げずにはいられなかった。
「貴様は図に乗るから駄目だ!」
脈絡も考えず、自身が言われたままをミハルに返した。当然のことミハルは不満そう。そんな彼女の反応まで自分を見ているかのようである。
アイリスは笑みを零した。似ているといわれた時には複雑な心境であったけれど、ミハルを前に思い返してみると、沸き立つ気持ちは期待感しかなかった。
「私に似ているのならやって見せろ! 貴様は宙域の王者となれ! カザインを蹂躙してやるんだ! このアイリス・マックイーンを超えて見せろ!」
細かな指示はなく、とても大局的な話が続けられた。
ミハルはただ頷く。言い付かった内容は簡単に了承できるものではない。けれど、彼女は前へと進む。首を振るなんて時間は残されていなかった。
ミハルはアイリスの病室を訪れている。かといって見舞いとかではない。アイリスに呼び出されてしまっては無視できなかっただけだ。
「悪いな……。このような見舞いの品まで持参するとは背丈と同じで可愛い奴だ!」
「身長のことはほっといてください! それで要件は何ですか? これでも私は忙しいんです!」
相変わらずそりの合わない二人。早くもミハルは顔をしかめていた。
「あれから一週間が経ったからな。近況を聞こうと思ったのだ。訓練の内容は常に報告を受けているが……」
アイリスの要件はミハルの近況であるようだ。だが、ミハルの調子ならば報告を受けているから聞くまでもないはず。ならばとミハルは質問の真意を汲み取っている。
「時間がかかりそうです。根本的に私とはフライトの方向性が違うんじゃないかと……」
「すまない……。あいつは決められた通りに飛ぶのは得意なんだが、どうにも発想力が乏しい。貴様と対極にいるようなパイロットだ。まあしかし、あいつを301小隊に引き留めてくれたことには感謝しかない……」
二人が話しているのはジュリアのことらしい。やはりアイリスも姉であった。自身が戦列を離れた今、隊での居場所がなくなってしまうことを危惧していたようだ。
「高望みはしていないんですけど、どうにもタイミングがずれてもどかしいです……」
言葉は濁したが、ミハルは割と限界を感じていた。自由に飛ぶことを許さない支援機に疲れすら覚えている。
「だとしたらミハルが合わせてくれないか? ジュリアの支援を先読みし、機動を組み立てていくのだ……」
「それ本気で言ってます? 私は貴方の記録を抜こうと頑張ってる。余計な機動は足かせでしかありません!」
ミハルは強く拒否を示した。だが、アイリスは不敵な笑みを浮かべている。どうにも嫌な予感がしてならない。
「先の戦闘で私がジュリアに合わせて飛んでいたとしてもか? 貴様は自由に飛び回り、私はハンデを負いながら戦った。果たしてその二つの結果は平等だろうか……?」
流石にカチンときてしまう。売られた喧嘩は買う性分である。ミハルの気の強さはアイリスにだって引けを取らない。
「そういうことでしたら分かりましたよ! ジュリアまでフォローして飛びます! それでも私が勝っていたら、言い訳しないでくださいよ!?」
「勿論だよ! 可愛い妹弟子の戦果にケチを付けるつもりはない!」
良いように言いくるめられてしまうミハル。鼻息荒くアイリスを睨んでいる。
ところが、そんな眼差しを避けるようにしてアイリスは視線を下げた。
「ジュリアは切っ掛けさえ掴めれば伸びるはずだ。あいつは殻を破れないだけ。私の影を追い続けた結果、自身のフライトを見失っている。エースの器ではないにしても、決して貴様を落胆させるようなパイロットではない。それに私はこれでもジュリアの姉なんだ。私が弟を信じなくてどうする? 最後のチャンスがミハルなのだよ……」
至って真面目にアイリスは語る。姉馬鹿であるのかジュリアの才能について言い訳を並べ、最後は押し付けるようにミハルへと託すのだった。
「その優しさを私も欲しかったものですね!」
ミハルの何気ない返答。なぜかアイリスは頭の中をまさぐられたような気がしている。
その台詞は記憶に埋もれていた。どうにも信じられない話を聞いたあとのことだ。
.
『ミハルはアイリスと似ているな。性格までそっくりだよ――――』
かつての師はミハルとの共通点をそのように話していた。思い出した記憶を辿れば少しも否定できない。アイリス自身も同じような台詞をグレッグに返していたのだから。
一瞬、呆けたあとアイリスはククッと笑う。何だかとてもおかしくて、声を上げずにはいられなかった。
「貴様は図に乗るから駄目だ!」
脈絡も考えず、自身が言われたままをミハルに返した。当然のことミハルは不満そう。そんな彼女の反応まで自分を見ているかのようである。
アイリスは笑みを零した。似ているといわれた時には複雑な心境であったけれど、ミハルを前に思い返してみると、沸き立つ気持ちは期待感しかなかった。
「私に似ているのならやって見せろ! 貴様は宙域の王者となれ! カザインを蹂躙してやるんだ! このアイリス・マックイーンを超えて見せろ!」
細かな指示はなく、とても大局的な話が続けられた。
ミハルはただ頷く。言い付かった内容は簡単に了承できるものではない。けれど、彼女は前へと進む。首を振るなんて時間は残されていなかった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
Geo Fleet~星砕く拳聖と滅びの龍姫~
武無由乃
SF
時は遥か果てに飛んで――、西暦3300年代。
天の川銀河全体に人類の生活圏が広がった時代にあって、最も最初に開拓されたジオ星系は、いわゆる”地球帝国”より明確に独立した状態にあった。宇宙海賊を名乗る五つの武力集団に分割支配されたジオ星系にあって、遥か宇宙の果てを目指す青年・ジオ=フレアバードは未だ地上でチンピラ相手に燻っていた。
そんな彼はある日、宇宙へ旅立つ切っ掛けとなるある少女と出会う。最初の宇宙開拓者ジオの名を受け継いだ少年と、”滅びの龍”の忌み名を持つ少女の宇宙冒険物語。
※ 【Chapter -1】は設定解説のための章なので、飛ばして読んでいただいても構いません。
※ 以下は宇宙の領域を示す名称についての簡単な解説です。
※ 以下の名称解説はこの作品内だけの設定です。
「宙域、星域」:
どちらも特定の星の周辺宇宙を指す名称。
星域は主に人類生活圏の範囲を指し、宙域はもっと大雑把な領域、すなわち生活圏でない区域も含む。
「星系」:
特定の恒星を中心とした領域、転じて、特定の人類生存可能惑星を中心とした、移住可能惑星群の存在する領域。
太陽系だけはそのまま太陽系と呼ばれるが、あくまでもそれは特例であり、前提として人類生活領域を中心とした呼び方がなされる。
各星系の名称は宇宙開拓者によるものであり、各中心惑星もその開拓者の名がつけられるのが通例となっている。
以上のことから、恒星自体にはナンバーだけが振られている場合も多く、特定惑星圏の”太陽”と呼ばれることが普通に起こっている。
「ジオ星系」:
初めて人類が降り立った地球外の地球型惑星ジオを主星とした移住可能惑星群の総称。
本来、そういった惑星は、特定恒星系の何番惑星と呼ばれるはずであったが、ジオの功績を残すべく惑星に開拓者の名が与えられた。
それ以降、その慣習に従った他の開拓者も、他の開拓領域における第一惑星に自らの名を刻み、それが後にジオ星系をはじめとする各星系の名前の始まりとなったのである。
「星団、星群」:
未だ未開拓、もしくは移住可能惑星が存在しない恒星系の惑星群を示す言葉。
開拓者の名がついていないので「星系」とは呼ばれない。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
LOVE PHANTOM-罪深き天使の夢-
希彗まゆ
SF
「ぼくはきみさえいれば世界中に誰もいなくなったって、少しもかまわないのさ」
残忍な瞳で、彼はチカラを使う。
水琴のためにと彼は言う。
「……は、どこにもいかないでね」
失った記憶が水琴によみがえるとき
世界は──。
狂った世界で、人は愛し合う。
世界一罪深い少女・水琴(みこと)と
世界一残忍なチカラを持つ少年・紅凪(くない)の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる