Solomon's Gate

坂森大我

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第三章 死力を尽くして

総長の視察

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 イプシロン基地司令室にはデミトリー総長の姿がある。陣中見舞いを兼ねた視察中であり、司令官クェンティン大将と参謀のアーチボルト准将に今後の見通しを聞いていた。

「和平交渉はおろか、捕虜引き渡しにも返答はありませんでした。最早、話し合いで決着が付くような状況ではありませんね……」

 作戦参謀であるアーチボルト准将の話にデミトリーは表情を曇らせた。先の大戦における生き残りは全員が捕虜とされ、イプシロン基地に収容されたままである。

「せめて要人でも含まれておれば話は違ったかもしれない……。やはり戦争は続いていくのだな……?」

「大艦隊が母星ゼクスを発ったと確認されております。最短で十日ほど。遅くとも二十日以内にゲートへ到着するでしょう。大戦に加わらなかった艦隊と合流するものと思われます」

 アーチボルトが続けた。何度も偵察を行っているGUNSはカザインに動きがあったことを確認しているようだ。

「総長、悲観することはありませんよ? 長期戦になればカザインが不利であるのは傍受した内容からも明らか。次の戦闘を勝利さえすれば、自ずとその先が見えてきます。それに我々とて無策で挑むわけではありません。重イオン荷電粒子砲の増設も順調ですし、疲弊した部隊への補充も滞りなく完了しております。準備は万端であると断言致します」

 クェンティンが付け加えるように言った。規模は前回を軽く超えてくると考えられているが、彼は今回も自信満々の様子である。

「カザインの母星といったが、ゲートからどれほど離れているものなのだ?」
「こちらの距離にして約200AU。ユニック群は最初に観測された頃から移動していない模様です。星系は太陽系と比較にならないほど巨大なものであります」

 もしかすると他にも居住地があるかもしれないとクェンティン。現在は敵の警戒を掻い潜っての偵察となる。情報が限られてしまうのは仕方のないことであった。

「次戦を乗り越えられたのなら、我々は次なる段階へと進む予定です」
「ああ、報告書を読んだ。確かS・O・A計画であったか……?」

 続けられた話にデミトリーが頷きを返す。逐一報告を受けている彼は軍部主導での計画書にサインを終えている。

「和平が望めないのであればやむを得ません。迎え撃つばかりが戦争ではない。我々は彼らを威圧し、また我々の姿を見せつける必要がございます」

 イージスの盾と呼ばれるその計画は人類がゲートの向こう側へと侵攻する作戦の一つだ。侵攻には現段階で複数の案が検討されていたが、最も有力とされているのがS・O・A計画であった。ただ問題がないわけではない。現状の軍規では偵察以外にゲート裏へ進入することが禁じられていたのだ。つまりは軍規の改定を待たずして、この計画は進行している。

「戦争とは勝者の歴史。敗者の言い分は決して語られることがありません。勝たなければ意味はない。カザインが戦いを望む以上は勝利するしかないのです」

 声高に勝利を語るクェンティンにデミトリーは頷いていた。戦争には最後まで消極的だった彼であるが、開戦してしまった以上は勝利しかないことを理解している。

「しかし、前大戦のトップシューターが負傷したと私は聞いているが……?」
「どうかご安心を。既に問題は解決しています。確かにアイリス中尉の負傷は痛手でありますが、十分な補充が成されたと報告が上がっています。元より我々は勝利するために存在しているのです。人類の未来はお任せください」

 力強い返答をもらいデミトリーが笑みを見せた。ゲート圏以外ではパイロットの育成から新型機の増産に加え、兵器開発が急ピッチで行われている。だが、イプシロン基地が陥落してしまえば全てが泡と消えてしまう。人類の戦力はここに集中していたのだ。

「どうかよろしく頼む。人類の未来を守って欲しい……」

 言ってデミトリーは視察を終えた。再び始まろうとする戦闘を見届けたく感じていたものの、この先も予定が山ほどつまっている。あとは専門家に託すのみだ。

 一隻のシャトルライナーが後ろ髪を引かれるようにして、長い光の尾を宙域に残した。戦場であるイプシロン基地を静かに離れていく……。
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