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第三章 死力を尽くして
シミュレーターを終えて
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「いやぁ! 凄いなミハル! 正直にいって俺は君が派閥間の争いに巻き込まれたものだとばかり考えていた。でもそれは違ったようだ! 謝らせてくれ!」
なぜかハイテンションのダンカン。戻ってきたミハルに頭を下げた。
「やめてくださいよ! シミュレーターのレベルを下げてくれたのですから、これくらいは普通です!」
ミハルはブンブンと顔を振って答える。どうにも歯ごたえのない戦闘だった。ダンカンが気を利かせて、難易度を下げてくれたとしか思えない。
「馬鹿言え! 今のは実際にあった交戦と変わらん。選択したEブロックは最も飛来の少ない角のエリアだが、実際に出現した通りの機数が出現しているぞ。有人機に関しては本物より鈍いかもしれないが、無人機は解析をして得られたデータ通り。実物にかなり近い動作をしているはずだ」
難易度は実際の大戦と大差ないだろうとダンカンは付け加えた。
「何ともこれは凄い結果だ。撃墜数に加え、被弾数ゼロ。何より計測データが抜群だ。機動修正値から反応速度。意識可能範囲はアイリス中尉と遜色ないレベルにある。セッティングが煮詰まっていない段階でこの数値を叩き出すとは恐れ入った。俺は一番機にミハルを据えた意味を今の機動に見たぞ! このデータはベイル副隊長に渡すべきだと考えるがどうだ?」
元はアイリス機の担当であった彼はミハルが示した数値に感動すら覚えている。また隊におけるミハルの立場を分かっていたから、ダンカンは得られたデータをベイル副隊長に報告しようと考えていた。
「やめてください! 私は別に馴れ合いに来たわけじゃありませんから……」
「しかし、ミハルには支援機が必要だろ? 今のままでは単機での戦闘を強いられるぞ? シミュレーターならば被弾しても死ぬことはないが、実戦における照射ラグは君を死へと誘うことになる……」
小隊には担当ブロックがあり、その中でも班によってエリアの割り当てがある。加えて戦闘時は二機、或いは三機単位で行動し、各々がビーム砲の照射ラグを補い合うのだ。
「支援機ならいます。今日は来ていませんけど……」
ミハルの返答を即座にダンカンは理解した。301小隊においてミハルと組もうとする者の存在。たった一人だけ該当することを。
「ジュリアか……。だが、あいつはもう駄目かもしれんぞ? もう何日も隊に顔を出していない。大戦時に負った怪我で休んでいることにはなっているが……」
ジュリアがもう完治しているだろうと全員が知っていた。大戦から二週間が診断による病欠の期限であるらしい。近々にその期限が過ぎ、それでも訓練に顔を出さない場合は処分されるという。
「ジュリアさんは一年前、レースで私に勝ったパイロットです。駄目とか決めつけないでくださいよ。まるで私がその駄目なパイロットに負けたみたいじゃないですか?」
映像判定ではあったが、負けは負けである。決して技術がないわけではない。もし三位以下のパイロットが前を飛んでいたのであれば、ミハルは確実に追い抜いていただろう。
「それは本当か? 確かにジュリアは纏まった良いパイロットだが、とても君に勝てるとは考えられんぞ!?」
かつてのミハルを知らないダンカンは驚きを隠せない様子だ。
そんな彼にミハルは語った。自分がどれ程に増長していたのか。地道な積み重ねを軽視し、才能だけを信じていたことについて。
ミハルは思い知らされていた。小さな山を登り切っては満足し、周囲にある巨大な山を見ようとしなかったことを。
「何ともミハルは気が強いな……。仮に俺がパイロットなら、アイリス中尉のフライトを見て追いつこうなどとは考えん。違う何かだと言い聞かせてしまうだろうよ……」
ダンカンは改めてミハルに才能を見ていた。エースのフライトと比較するなんて、並のパイロットにはできっこないと思う。
「ジュリアの部屋番号を教えてやる。ジュリアを説得してこい。もしもミハルが説得できなければ、俺は副隊長にデータを渡す。ミハルを単機で出撃させるなんて、担当として俺は容認できない……」
単機で大戦に挑むなど無謀としか思えない。適切な支援がなければ、アイリスであっても劣勢を強いられる場面が多々あるはずだ。
「説得してきます。必ずや引っ張ってきますから……」
言ってミハルはドックを後にしていく。ジュリアと会うのはそれこそ航宙士学校以来となるのだが、気後れするとか口にしている場合じゃない。
今のミハルには彼が必要だった……。
なぜかハイテンションのダンカン。戻ってきたミハルに頭を下げた。
「やめてくださいよ! シミュレーターのレベルを下げてくれたのですから、これくらいは普通です!」
ミハルはブンブンと顔を振って答える。どうにも歯ごたえのない戦闘だった。ダンカンが気を利かせて、難易度を下げてくれたとしか思えない。
「馬鹿言え! 今のは実際にあった交戦と変わらん。選択したEブロックは最も飛来の少ない角のエリアだが、実際に出現した通りの機数が出現しているぞ。有人機に関しては本物より鈍いかもしれないが、無人機は解析をして得られたデータ通り。実物にかなり近い動作をしているはずだ」
難易度は実際の大戦と大差ないだろうとダンカンは付け加えた。
「何ともこれは凄い結果だ。撃墜数に加え、被弾数ゼロ。何より計測データが抜群だ。機動修正値から反応速度。意識可能範囲はアイリス中尉と遜色ないレベルにある。セッティングが煮詰まっていない段階でこの数値を叩き出すとは恐れ入った。俺は一番機にミハルを据えた意味を今の機動に見たぞ! このデータはベイル副隊長に渡すべきだと考えるがどうだ?」
元はアイリス機の担当であった彼はミハルが示した数値に感動すら覚えている。また隊におけるミハルの立場を分かっていたから、ダンカンは得られたデータをベイル副隊長に報告しようと考えていた。
「やめてください! 私は別に馴れ合いに来たわけじゃありませんから……」
「しかし、ミハルには支援機が必要だろ? 今のままでは単機での戦闘を強いられるぞ? シミュレーターならば被弾しても死ぬことはないが、実戦における照射ラグは君を死へと誘うことになる……」
小隊には担当ブロックがあり、その中でも班によってエリアの割り当てがある。加えて戦闘時は二機、或いは三機単位で行動し、各々がビーム砲の照射ラグを補い合うのだ。
「支援機ならいます。今日は来ていませんけど……」
ミハルの返答を即座にダンカンは理解した。301小隊においてミハルと組もうとする者の存在。たった一人だけ該当することを。
「ジュリアか……。だが、あいつはもう駄目かもしれんぞ? もう何日も隊に顔を出していない。大戦時に負った怪我で休んでいることにはなっているが……」
ジュリアがもう完治しているだろうと全員が知っていた。大戦から二週間が診断による病欠の期限であるらしい。近々にその期限が過ぎ、それでも訓練に顔を出さない場合は処分されるという。
「ジュリアさんは一年前、レースで私に勝ったパイロットです。駄目とか決めつけないでくださいよ。まるで私がその駄目なパイロットに負けたみたいじゃないですか?」
映像判定ではあったが、負けは負けである。決して技術がないわけではない。もし三位以下のパイロットが前を飛んでいたのであれば、ミハルは確実に追い抜いていただろう。
「それは本当か? 確かにジュリアは纏まった良いパイロットだが、とても君に勝てるとは考えられんぞ!?」
かつてのミハルを知らないダンカンは驚きを隠せない様子だ。
そんな彼にミハルは語った。自分がどれ程に増長していたのか。地道な積み重ねを軽視し、才能だけを信じていたことについて。
ミハルは思い知らされていた。小さな山を登り切っては満足し、周囲にある巨大な山を見ようとしなかったことを。
「何ともミハルは気が強いな……。仮に俺がパイロットなら、アイリス中尉のフライトを見て追いつこうなどとは考えん。違う何かだと言い聞かせてしまうだろうよ……」
ダンカンは改めてミハルに才能を見ていた。エースのフライトと比較するなんて、並のパイロットにはできっこないと思う。
「ジュリアの部屋番号を教えてやる。ジュリアを説得してこい。もしもミハルが説得できなければ、俺は副隊長にデータを渡す。ミハルを単機で出撃させるなんて、担当として俺は容認できない……」
単機で大戦に挑むなど無謀としか思えない。適切な支援がなければ、アイリスであっても劣勢を強いられる場面が多々あるはずだ。
「説得してきます。必ずや引っ張ってきますから……」
言ってミハルはドックを後にしていく。ジュリアと会うのはそれこそ航宙士学校以来となるのだが、気後れするとか口にしている場合じゃない。
今のミハルには彼が必要だった……。
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