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第二章 星系を守護する者たち
慌ただしい朝
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ミハルの辞令を全員が覗き込むようにしていた。傍目から見るとミハルよりも周りが食いついているようにしか思えない。
「ミハルちゃん、凄いじゃない? うわ! 連名が物凄いメンバーね!」
錚々たる顔ぶれの署名にシエラは声を上げて驚いていた。
承認欄にはクェンティン司令から参謀のアーチボルト准将の名。第三航宙戦団長のテレンス大佐や301小隊の隊長代理であるベイル准尉まで含まれている。更には要請者としてアイリス・マックイーンの名があった。
「これはフロント閥の力が働いておるのぉ……」
小さく顔を振るバゴス。とてもルーキーを呼び寄せるだけの辞令だとは思えない。士官を迎えるような名が連なっていたのだ。
フロント閥とは木星圏を代表する軍事派閥である。所属するのは概ねガリレオサテライト5thを中心としたメガフロントユニック群に関係する兵士たちだ。派閥の長はクェンティン・マクダウェル大将。通常なら一等航宙士に派閥から声が掛かるはずもなく、この辞令には様々な憶測を巡らせてしまう。
「内部異動という形じゃの。形式は出向となっておるが、どうなることやら……」
「おい、バゴスさんやめろよ! 俺は念を押したんだぞ? ちゃんと返せとな!」
ミハルを余所に会話が進む。当人であるミハルはどうにも信じられなかった。承認者に面識はなかったし、何よりミハルを酷評したアイリスが要請するなどあり得ないことである。
「グレッグ隊長、これはどういうことです!?」
堪らずミハルは疑問を口にする。望まれて行くのならば確かに嬉しい。けれど、望まれるような状況にまで達していないことをミハルは自覚していた。
「先日、アイリスから通信があってな。エース格が欲しいと言うから、ミハルを推薦しただけだ。まあアイリスが復帰するまでの繋ぎのようなもの。気楽に行ってこい」
「でも、セントラル基地はどうなるのです!? また二人で戦うんですか!?」
「それなら問題はない。ちゃんと気を遣ってくれているようだ。朝一の定期便でパイロットが二人補充されることになっている。ミハルはその便に乗ってフィフスへと帰れ。シャトルライナーの手配も完了しているらしい」
何と二人の補充が決定していた。元レーサーという肩書きのパイロットたちのようだが、二名も配備されたのは、やはり派閥の力であるのかもしれない。
あまりの手際の良さにミハルは驚いている。突然すぎる辞令には戸惑いしか覚えない。心の準備もないままにミハルは出向することになってしまった。
「お、定期便が到着したようじゃな?」
どうやら朝一の定期便が寄港したらしい。二名のパイロットと入れ替わりで、ミハルはフィフスへと戻ることになる。
「おい、ミハル。早く用意をして定期便に乗り込め。間に合わなくなるぞ?」
グレッグの話にミハルは頷く。悠長にしている時間はなかった。着替えなどを用意して、定期便に搭乗しなければならない。
今もまだ困惑していたミハルだが、元より切り替えは早いほうだ。現実を受け入れ、よしっと小さく気合いを入れた。
「ミハル・エアハルト一等航宙士、行ってまいります!」
敬礼をして全員を見る。それぞれと目が合う度に頷きを返してくれた。
最後に目が合ったグレッグは、彼女を送り出す言葉をかけている。
「ミハル、目にもの見せてやれ! エイリアンも301小隊も全てを圧倒しろ!」
それはこの上なく力強いエールだった。気遣うような言葉ではなく、一途に部下を信じた故の命令に違いない。
「了解……。完全制圧します!」
ミハルの返答も力強いものだ。学生時代とは明確に異なる。根拠のない自信ではなく、積み重ねた努力と経験が裏付けとなっていた。
ミハルに怖じ気付いた様子は見られない。普通なら泣き出してもおかしくはない出向であるというのに、彼女は凛々しく口元を結んでいた。
これよりミハルは戦場に赴く。人類史上最大の航宙戦があった場所へと……。
「ミハルちゃん、凄いじゃない? うわ! 連名が物凄いメンバーね!」
錚々たる顔ぶれの署名にシエラは声を上げて驚いていた。
承認欄にはクェンティン司令から参謀のアーチボルト准将の名。第三航宙戦団長のテレンス大佐や301小隊の隊長代理であるベイル准尉まで含まれている。更には要請者としてアイリス・マックイーンの名があった。
「これはフロント閥の力が働いておるのぉ……」
小さく顔を振るバゴス。とてもルーキーを呼び寄せるだけの辞令だとは思えない。士官を迎えるような名が連なっていたのだ。
フロント閥とは木星圏を代表する軍事派閥である。所属するのは概ねガリレオサテライト5thを中心としたメガフロントユニック群に関係する兵士たちだ。派閥の長はクェンティン・マクダウェル大将。通常なら一等航宙士に派閥から声が掛かるはずもなく、この辞令には様々な憶測を巡らせてしまう。
「内部異動という形じゃの。形式は出向となっておるが、どうなることやら……」
「おい、バゴスさんやめろよ! 俺は念を押したんだぞ? ちゃんと返せとな!」
ミハルを余所に会話が進む。当人であるミハルはどうにも信じられなかった。承認者に面識はなかったし、何よりミハルを酷評したアイリスが要請するなどあり得ないことである。
「グレッグ隊長、これはどういうことです!?」
堪らずミハルは疑問を口にする。望まれて行くのならば確かに嬉しい。けれど、望まれるような状況にまで達していないことをミハルは自覚していた。
「先日、アイリスから通信があってな。エース格が欲しいと言うから、ミハルを推薦しただけだ。まあアイリスが復帰するまでの繋ぎのようなもの。気楽に行ってこい」
「でも、セントラル基地はどうなるのです!? また二人で戦うんですか!?」
「それなら問題はない。ちゃんと気を遣ってくれているようだ。朝一の定期便でパイロットが二人補充されることになっている。ミハルはその便に乗ってフィフスへと帰れ。シャトルライナーの手配も完了しているらしい」
何と二人の補充が決定していた。元レーサーという肩書きのパイロットたちのようだが、二名も配備されたのは、やはり派閥の力であるのかもしれない。
あまりの手際の良さにミハルは驚いている。突然すぎる辞令には戸惑いしか覚えない。心の準備もないままにミハルは出向することになってしまった。
「お、定期便が到着したようじゃな?」
どうやら朝一の定期便が寄港したらしい。二名のパイロットと入れ替わりで、ミハルはフィフスへと戻ることになる。
「おい、ミハル。早く用意をして定期便に乗り込め。間に合わなくなるぞ?」
グレッグの話にミハルは頷く。悠長にしている時間はなかった。着替えなどを用意して、定期便に搭乗しなければならない。
今もまだ困惑していたミハルだが、元より切り替えは早いほうだ。現実を受け入れ、よしっと小さく気合いを入れた。
「ミハル・エアハルト一等航宙士、行ってまいります!」
敬礼をして全員を見る。それぞれと目が合う度に頷きを返してくれた。
最後に目が合ったグレッグは、彼女を送り出す言葉をかけている。
「ミハル、目にもの見せてやれ! エイリアンも301小隊も全てを圧倒しろ!」
それはこの上なく力強いエールだった。気遣うような言葉ではなく、一途に部下を信じた故の命令に違いない。
「了解……。完全制圧します!」
ミハルの返答も力強いものだ。学生時代とは明確に異なる。根拠のない自信ではなく、積み重ねた努力と経験が裏付けとなっていた。
ミハルに怖じ気付いた様子は見られない。普通なら泣き出してもおかしくはない出向であるというのに、彼女は凛々しく口元を結んでいた。
これよりミハルは戦場に赴く。人類史上最大の航宙戦があった場所へと……。
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