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第二章 星系を守護する者たち
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イプシロン基地では大戦の後処理が急ピッチで行われていた。失われた無人機の補充からパイロットの異動。破損した艦隊や砲台、あらゆるものの修理が始まっている。
イプシロン基地に接続する施設の一つに病棟があった。そこは戦闘による負傷者の治療を一手に引き受ける場所だ。その中の一室。少しばかり広い個室に二つの影があった。
「姉貴、すまない……。俺が先走ったばかりに……」
「なんだ、ジュリア? お前は見舞いではなく、泣き言を吐きに来たのか? これでも私は安静にしていないと怖いドクターに怒られてしまう重症患者だぞ?」
どうやらアイリス・マックイーンの病室であるようだ。見舞客は彼女の弟であるジュリア・マックイーンに他ならない。彼もまた病棟に運び込まれていたのだが、外傷のみであった彼は精密検査を受けただけで自室療養となっている。
俯き黙り込むジュリアに嘆息するアイリス。これではどちらが入院患者であるのか分かったものではない。
「敢えて言わせてもらうと、ジュリアはまるで見えていない。小さな範囲だけで戦っている。私の支援機であったことを差し引いても、フライトの発想が乏しいと言わざるを得ないな。もしも私のいない間に戦闘があったとしたら命を失うと思え……」
アイリスの指摘は手厳しいものだった。項垂れるジュリアに追い打ちを掛けるかの如く畳み掛けている。
「分かってるよ……。姉貴のように飛べないのは理解した。才能がないのも全て……」
ジュリアは悔やんでいた。自分が吹き飛んでさえいればGUNSはエースを失わずに済んだのだ。下手に生きながらえてしまったばかりに取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。
「才能がない? ふはは! 面白い冗談だ! 腹部を切り裂き縫い付けた姉を笑わせるとは、お前も質が悪いな? 傷口に響いてかなわんぞ!」
「冗談じゃねぇよ! 俺が生き残ったって何の足しにもならない! あの場面で俺を助けるなんて馬鹿な真似してんじゃねぇ!」
ジュリアは声を荒らげた。それでなくとも場違いなエース部隊に編成されてしまったのだ。大した戦果を上げられなかったことに加え、アイリスが戦線離脱する原因となってしまっては今まで以上に肩身が狭くなるだろう。
「いいか、ジュリア? 才能なんて言葉を信用するな。それは努力しない者が作った都合の良い言葉だ。自身の怠慢さを棚に上げるために、他者を特別な存在に昇華させる。天才だ才能だと騒ぎ立てれば自堕落な自分の慰めとなるんだよ……」
アイリスの話は罵倒されるよりもキツかった。自分の事を間接的に責められているように思う。確かにアイリスが歩んできた道のりは才能と一言で片付けるには言葉が足りない。ジュリアは彼女の努力をいつも間近に見ていたのだ。
「まあ、小言はこれくらいにしよう。何にせよ、お前が無事で良かった……」
「どうして姉貴は俺を助けちまったんだ? 俺なんか何の役にも立たねぇぞ!?」
アイリスは面倒くさそうな目をしてジュリアを見た。長い溜め息は愚弟に対する落胆で満ちている。
「なぜってジュリア……」
視線を外すアイリスは鼻先を掻くような素振り。アイリスに返答を勿体ぶるつもりなど少しもなかったが、ジュリアからすれば十分な間があった。
「これでも私はお前の姉なのだが――――?」
知らなかったのかとアイリス。しかし、ジュリアが知らないはずはない。年は割と離れていたけれど、彼女以外に姉弟はいないのだ。だが、その返答は率直に言って肩すかしである。どうせなら、もっと正義を匂わす理由を付けて欲しかった。誰も失いたくなかっただとか、全ての敵機を撃墜するつもりだったとか。
「姉貴に謝ろうとした俺が馬鹿だったよ。じゃあな……」
「さっさと腕を磨け、愚弟よ。ブツクサ言う前に、泣き言をほざく前にな!」
最後まで噛み合わない二人。見舞いも兼ねていたのは間違いない事実だが、ジュリアは症状を尋ねることもなく部屋を出て行く。アイリスのことは心から尊敬していたのに、素直になれないのは彼が男であるからか、若しくは少しばかりのプライドかもしれない。
イプシロン基地に接続する施設の一つに病棟があった。そこは戦闘による負傷者の治療を一手に引き受ける場所だ。その中の一室。少しばかり広い個室に二つの影があった。
「姉貴、すまない……。俺が先走ったばかりに……」
「なんだ、ジュリア? お前は見舞いではなく、泣き言を吐きに来たのか? これでも私は安静にしていないと怖いドクターに怒られてしまう重症患者だぞ?」
どうやらアイリス・マックイーンの病室であるようだ。見舞客は彼女の弟であるジュリア・マックイーンに他ならない。彼もまた病棟に運び込まれていたのだが、外傷のみであった彼は精密検査を受けただけで自室療養となっている。
俯き黙り込むジュリアに嘆息するアイリス。これではどちらが入院患者であるのか分かったものではない。
「敢えて言わせてもらうと、ジュリアはまるで見えていない。小さな範囲だけで戦っている。私の支援機であったことを差し引いても、フライトの発想が乏しいと言わざるを得ないな。もしも私のいない間に戦闘があったとしたら命を失うと思え……」
アイリスの指摘は手厳しいものだった。項垂れるジュリアに追い打ちを掛けるかの如く畳み掛けている。
「分かってるよ……。姉貴のように飛べないのは理解した。才能がないのも全て……」
ジュリアは悔やんでいた。自分が吹き飛んでさえいればGUNSはエースを失わずに済んだのだ。下手に生きながらえてしまったばかりに取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。
「才能がない? ふはは! 面白い冗談だ! 腹部を切り裂き縫い付けた姉を笑わせるとは、お前も質が悪いな? 傷口に響いてかなわんぞ!」
「冗談じゃねぇよ! 俺が生き残ったって何の足しにもならない! あの場面で俺を助けるなんて馬鹿な真似してんじゃねぇ!」
ジュリアは声を荒らげた。それでなくとも場違いなエース部隊に編成されてしまったのだ。大した戦果を上げられなかったことに加え、アイリスが戦線離脱する原因となってしまっては今まで以上に肩身が狭くなるだろう。
「いいか、ジュリア? 才能なんて言葉を信用するな。それは努力しない者が作った都合の良い言葉だ。自身の怠慢さを棚に上げるために、他者を特別な存在に昇華させる。天才だ才能だと騒ぎ立てれば自堕落な自分の慰めとなるんだよ……」
アイリスの話は罵倒されるよりもキツかった。自分の事を間接的に責められているように思う。確かにアイリスが歩んできた道のりは才能と一言で片付けるには言葉が足りない。ジュリアは彼女の努力をいつも間近に見ていたのだ。
「まあ、小言はこれくらいにしよう。何にせよ、お前が無事で良かった……」
「どうして姉貴は俺を助けちまったんだ? 俺なんか何の役にも立たねぇぞ!?」
アイリスは面倒くさそうな目をしてジュリアを見た。長い溜め息は愚弟に対する落胆で満ちている。
「なぜってジュリア……」
視線を外すアイリスは鼻先を掻くような素振り。アイリスに返答を勿体ぶるつもりなど少しもなかったが、ジュリアからすれば十分な間があった。
「これでも私はお前の姉なのだが――――?」
知らなかったのかとアイリス。しかし、ジュリアが知らないはずはない。年は割と離れていたけれど、彼女以外に姉弟はいないのだ。だが、その返答は率直に言って肩すかしである。どうせなら、もっと正義を匂わす理由を付けて欲しかった。誰も失いたくなかっただとか、全ての敵機を撃墜するつもりだったとか。
「姉貴に謝ろうとした俺が馬鹿だったよ。じゃあな……」
「さっさと腕を磨け、愚弟よ。ブツクサ言う前に、泣き言をほざく前にな!」
最後まで噛み合わない二人。見舞いも兼ねていたのは間違いない事実だが、ジュリアは症状を尋ねることもなく部屋を出て行く。アイリスのことは心から尊敬していたのに、素直になれないのは彼が男であるからか、若しくは少しばかりのプライドかもしれない。
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