24 / 62
第二章 星系を守護する者たち
決して折れない心
しおりを挟む
交渉期限が過ぎ、緊張状態のまま一ヶ月が過ぎている。ゲートにはカザインの艦隊が集結しており、いつ大戦が始まったとしてもおかしくはなかった。
セントラル基地の面々も遠く離れたゲートの様子を気に懸けている。戦争は避けられぬ未来であり、配備された兵士たちの無事を祈らずにはいられない。
「ミハル、攻撃を仕掛けてみろ。ここからは敵機も攻撃をしてくる。シミュレーションだからといって手を抜くんじゃないぞ?」
『了解……』
ミハルは仮想戦闘シミュレーターに乗り込んでいた。ただし、戦闘訓練ではなく、宙域における認識能力を測定するためだ。測定者はヘルメットのようなギアを装着。コックピットを模したカプセルへと入り、ギアに流れる映像に対して適切な操縦をしていく。
「もっと集中しろ! 支援機が落ちれば単機となるんだぞ!」
『はい! 分かってます!』
中性粒子砲は砲身の冷却を必要とする。二秒近くあるその照射ラグを補うために、戦場では前衛機に対して一機ないし二機の後衛機が編成されていた。
ところが、シミュレーションでは単機であるらしい。グレッグの指示は支援機を失う場面を想定しているようだ。
「しかし、凄いの……。入隊の頃からは考えられんな。いったい嬢ちゃんはどこまで見えておるんじゃ……?」
「バゴスさん、まだまだですよ。この程度で満足してもらっては困る……」
ミハルが叩き出した認識率にバゴスが感嘆の声を上げた。けれど、グレッグは気にくわないのか首を振るだけだ。
「ミハル、もっと積極的に撃墜しろ。前衛機は撃墜してこそ存在を示せるというもの。照射ラグの間に立て直せ。適切な機動を決定する時間はその二秒だけだ」
『了解です……』
手厳しいグレッグにバゴスは苦笑いである。データを見る限りは非の打ち所がない。認識範囲から正確性、瞬間の認識数はトップパイロットのそれと遜色がなかったのだ。
しばらくして計測が終わったのか、ミハルはギアを外してカプセルから出る。だが、息つく暇もなくグレッグに注意を受ける羽目になった。
「ミハル、腑抜けたフライトをしてるんじゃないぞ! 最後の機動は何だ!?」
配属してからというもの、ずっと叱られている。ミハルの人生において、これ程までに怒られた記憶はない。確かに勉強は得意ではなかったけれど、それでも補習さえ受けておれば怒鳴られることはなかった。
「グレッグ、もう良いじゃろう? それだけ言えば嬢ちゃんも分かっとるわい」
「これくらいで音を上げるのならエースなど無理です。アイリスにはもっと厳しく指導していましたし……」
グレッグの話にミハルは唇を噛む。アイリスとの比較は彼女の表情を引き締めた。
「バゴスさん、私なら大丈夫です。もっとやれる。できなかったから怒られているだけです……」
バゴスは仲裁したつもりだった。けれど、ミハルは叱責を受けるという。どこまでも追い込むグレッグに、自ら追い込もうとするミハル。正直に二人を理解できなかった。
測定結果を見ながら静かに去って行くミハルをバゴスは心配そうに眺めている。
「ふぅむ……。訓練所の報告書には極度の負けず嫌いとあったが、従順なものじゃな?」
「バゴスさん、それは当たってるでしょう? 報告書通りにミハルは負けず嫌いだ……」
何も口答えせず怒られるだけの彼女を見ても、グレッグはミハルが負けず嫌いだと話す。バゴスの持つ印象とかけ離れていた。
「あいつは真っ直ぐにアイリスを見ている。俺の小言など気にならないほど腹に据えかねているんだ。アイリスに追いつくのではなく、追い越そうとしている。あいつは目的達成のためならば何だってするだろう。負けん気の強さだけは既にエース級ですよ……」
どうやら育成方針はミハルの性格に合わせているだけのようだ。芯の強さはグレッグが最も評価していることらしい。彼女が決して折れないことをグレッグは分かっていた。
「俺は恨まれたって構わない。あの才能が開花するならば……」
口うるさく言う理由はグレッグもまた期待していたからだ。完全に花開く時を彼は望んでいる。
「ミハルがエースの器であることに疑いはありません……」
過去には数多の新人がグレッグのしごきに耐えられず軍を辞めていった。ミハルに期待しているのはバゴスもグレッグと同じ。だからこそバゴスは口出ししているのだ。
しかし、グレッグの真意を聞いたバゴスはもう何も言えなかった。
本気でエースに育てようとするグレッグの邪魔はできなかった……。
セントラル基地の面々も遠く離れたゲートの様子を気に懸けている。戦争は避けられぬ未来であり、配備された兵士たちの無事を祈らずにはいられない。
「ミハル、攻撃を仕掛けてみろ。ここからは敵機も攻撃をしてくる。シミュレーションだからといって手を抜くんじゃないぞ?」
『了解……』
ミハルは仮想戦闘シミュレーターに乗り込んでいた。ただし、戦闘訓練ではなく、宙域における認識能力を測定するためだ。測定者はヘルメットのようなギアを装着。コックピットを模したカプセルへと入り、ギアに流れる映像に対して適切な操縦をしていく。
「もっと集中しろ! 支援機が落ちれば単機となるんだぞ!」
『はい! 分かってます!』
中性粒子砲は砲身の冷却を必要とする。二秒近くあるその照射ラグを補うために、戦場では前衛機に対して一機ないし二機の後衛機が編成されていた。
ところが、シミュレーションでは単機であるらしい。グレッグの指示は支援機を失う場面を想定しているようだ。
「しかし、凄いの……。入隊の頃からは考えられんな。いったい嬢ちゃんはどこまで見えておるんじゃ……?」
「バゴスさん、まだまだですよ。この程度で満足してもらっては困る……」
ミハルが叩き出した認識率にバゴスが感嘆の声を上げた。けれど、グレッグは気にくわないのか首を振るだけだ。
「ミハル、もっと積極的に撃墜しろ。前衛機は撃墜してこそ存在を示せるというもの。照射ラグの間に立て直せ。適切な機動を決定する時間はその二秒だけだ」
『了解です……』
手厳しいグレッグにバゴスは苦笑いである。データを見る限りは非の打ち所がない。認識範囲から正確性、瞬間の認識数はトップパイロットのそれと遜色がなかったのだ。
しばらくして計測が終わったのか、ミハルはギアを外してカプセルから出る。だが、息つく暇もなくグレッグに注意を受ける羽目になった。
「ミハル、腑抜けたフライトをしてるんじゃないぞ! 最後の機動は何だ!?」
配属してからというもの、ずっと叱られている。ミハルの人生において、これ程までに怒られた記憶はない。確かに勉強は得意ではなかったけれど、それでも補習さえ受けておれば怒鳴られることはなかった。
「グレッグ、もう良いじゃろう? それだけ言えば嬢ちゃんも分かっとるわい」
「これくらいで音を上げるのならエースなど無理です。アイリスにはもっと厳しく指導していましたし……」
グレッグの話にミハルは唇を噛む。アイリスとの比較は彼女の表情を引き締めた。
「バゴスさん、私なら大丈夫です。もっとやれる。できなかったから怒られているだけです……」
バゴスは仲裁したつもりだった。けれど、ミハルは叱責を受けるという。どこまでも追い込むグレッグに、自ら追い込もうとするミハル。正直に二人を理解できなかった。
測定結果を見ながら静かに去って行くミハルをバゴスは心配そうに眺めている。
「ふぅむ……。訓練所の報告書には極度の負けず嫌いとあったが、従順なものじゃな?」
「バゴスさん、それは当たってるでしょう? 報告書通りにミハルは負けず嫌いだ……」
何も口答えせず怒られるだけの彼女を見ても、グレッグはミハルが負けず嫌いだと話す。バゴスの持つ印象とかけ離れていた。
「あいつは真っ直ぐにアイリスを見ている。俺の小言など気にならないほど腹に据えかねているんだ。アイリスに追いつくのではなく、追い越そうとしている。あいつは目的達成のためならば何だってするだろう。負けん気の強さだけは既にエース級ですよ……」
どうやら育成方針はミハルの性格に合わせているだけのようだ。芯の強さはグレッグが最も評価していることらしい。彼女が決して折れないことをグレッグは分かっていた。
「俺は恨まれたって構わない。あの才能が開花するならば……」
口うるさく言う理由はグレッグもまた期待していたからだ。完全に花開く時を彼は望んでいる。
「ミハルがエースの器であることに疑いはありません……」
過去には数多の新人がグレッグのしごきに耐えられず軍を辞めていった。ミハルに期待しているのはバゴスもグレッグと同じ。だからこそバゴスは口出ししているのだ。
しかし、グレッグの真意を聞いたバゴスはもう何も言えなかった。
本気でエースに育てようとするグレッグの邪魔はできなかった……。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる