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第二章 星系を守護する者たち
目標はイプシロン基地
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ミハルたちがセントラル航宙軍訓練所に入所してから五ヶ月が過ぎていた。短いようで長かった訓練生としての期間がようやく終わろうとしている。
本日は面談が予定されていた。それは訓練生の簡単な意識調査と希望配属先を聞くためのものだ。ただそれは慣例的に行われているだけであり絶対的な意味を持たない。あくまで希望を聞くだけであった。
現時点でトップの成績を収めていたミハルは一番最後の面談となっている。
「ミハル二等航宙士、いよいよ配属となるが希望はあるか?」
ミハルに聞いたのはダニエル所長である。白髪をした彼は現役ではない。しかし、五十歳まで前線で戦っていたパイロットであり、指導力を認められ訓練所の所長となっていた。
「もちろんです。私はイプシロン基地でしか戦いたくありません」
毅然と答えるミハル。イプシロン基地はソロモンズゲートに建造されたGUNS最大の基地である。アイリス・マックイーンが異動した基地であり、彼女を目標とするミハルは当然のことイプシロン基地を希望していた。
「どうしてだ? お前も色々と噂を聞いているのではないか?」
公にはなっていないことだが、イプシロン基地やソロモンズゲートには良からぬ噂話が飛び交っていた。だからこそイプシロン基地と答えたミハルにダニエルは疑問を抱いている。
「異文明とか銀河戦争とか関係ありません。私は自分の目的を果たすためだけにここにいます。アイリス・マックイーン中尉にフライトを認めさせるためであれば、戦争があったとして戦うだけです」
近年はダニエルが訓練に顔を出すなんて少なくなっていたけれど、今期に限っては幾度となく現場まで足を運んでいる。かつての教え子を彷彿とさせるフライトデータを発見してしまったから。
輝きを放とうとする原石を彼は見つけていた。
間違いなく才能を秘めていると思う。実際にミハルは測定値でも実地試験でも抜群の成績を収めていたのだが、得られたデータからすると彼女のフライトは物足りない。ダニエルが思うところによると彼女はまだ才能を発揮しきれていなかった。
「お前はアイリス・マックイーン中尉と競うような立場にいない。まだまだ未熟だ。分かっているのか?」
「分かっています。でも私は彼女の前を飛びたい! どうかお願いします!」
軍部の方針として即戦力となり得るパイロットはイプシロン基地以外への配備が求められていた。
人類の戦力はイプシロン基地に集中しており、辺境の基地には如何ほども戦力が残っていない。だからこそ辺境基地は少数精鋭であり、宇宙海賊や突発的な紛争にも直ぐさま対処できる人材を欲している。
「ミハル、お前はもし目的が直ぐに達成できないと分かればどう行動する?」
ダニエルは迷っていた。言わずもがなミハルの配置について。彼女の目的が金や名声であればこんなにも悩まなかったことだろう。私怨ともいうべき目的は軍部の意向と異なっていたのだ。
仮に彼女が目的を果たせなかった場合、想像できる結末は一つだけである。訓練生の配属先について大凡は固まっていたものの、肝心の首席卒所予定者の行き先をダニエルは決めかねていた。
「そんな仮定は考えたくもありません」
返答は予想通りだ。ダニエルは時間を取り何度もミハルと会っている。よって彼女のことは少なからず理解しているつもりだ。ミハルの目的は入所当時から一貫しており、時間外にも努力し続ける彼女が本気であるのは明らか。
「では目的が遠のいたとして、お前はそこで諦めてしまうような弱者か?」
試すように聞く。ダニエルはまたも返答を分かっていたけれど、聞いておかねばならなかった。彼女がどういった答えを出すのかと。
「どういう意味でしょう? 以前にもお伝えしましたが、私が軍部に在籍する理由は一つだけ。自分自身を誇るため。一番になりたいだけです……」
ミハルが語る軍部での目的は今までに見てきた訓練生と明確に異なる。彼女には軍部という組織自体に少しもこだわりがない。資格を取るためだけに入所するものであっても、少なからず年単位という期間を過ごそうと決めているのだ。頼りがいのない彼女の返答には嘆息するしかなかった。
「ミハル二等航宙士、退出したまえ。これにて面談は終了だ……」
「待ってください! 本当にお願いしますよ!? 私は絶対に負けたままではいられないのです!」
最後までミハルは希望を訴えていた。しかし、ダニエルは退出を命じている。確約することなく首を振るだけであった。
静かに退出するミハルにダニエルは長い息を吐く。けれど、自身の選択は間違っていないと思う。才能を生かすという決断が正解であると疑わない。
配属希望をダニエルに伝えたミハル。所長室を出てから、ふぅっと息を吐いた。自身の希望は余すことなく伝えている。だから希望が叶うと信じたい。回り道などミハルはしたくなかった。
「ミハル! どうだった?」
所長室の前にはキャロルの姿があった。どうしてか学校の同窓生であるニコルまでもが待ち構えるように突っ立っている。
「二人共どしたの?」
面談は成績順であり、ミハルが一番最後であると二人は知っていた。だからこそ自室へ戻ることなく彼女を待っていたのだ。
「ミハルはどんな希望を伝えたのかなって! あたしは地元に貢献したいって話をしたんだけど」
どうやらキャロルはセントラル区画の基地を希望したらしい。軍部を腰掛けとしか考えていない彼女は不穏な噂のあるイプシロン基地だけは配備されたくないようだ。
「俺は別に待ってたわけでもないけどさ、ほら俺って次席だろ? だからキャロルと雑談している間にミハルの面談が終わっただけなんだ」
キャロルは睨むようにニコルを見ていた。言い訳ばかりを並べるところは本当に男らしくないと思う。
「ああそうなの? 一応希望は伝えたよ。イプシロン基地しか嫌だって……」
へぇっと揃って頷く二人だが一拍おいて、
「イプシロン基地ぃぃ!?」
二人同時に大声を上げた。
ミハルの希望は二人とまるで異なっている。進んで戦地へ向かおうとするだなんてキャロルたちには考えられない。
「お前馬鹿じゃねぇの!? いや、間違いなく馬鹿だけど、本当に馬鹿だぞ!?」
「ホント馬鹿よ! 少しくらい考えてから行動しなよってずっと言ってるでしょ!?」
総攻撃に遭うミハル。自身の希望を伝えただけであるのに、この言われよう。二人はミハルが何も考えずに行動したとしか考えていないようだ。
「ちゃんと考えたんだって! ていうか、そもそも私はイプシロン基地を目指して軍部に入ったんだから!」
言ってミハルは語り出す。自身の目標であるアイリス・マックイーンという高き壁について。
再び努力し始めた理由。学生生活において自主訓練を始めたのはアイリスに腐されたせいであり、訓練所での努力もまたアイリスに勝つためであると。
「マジかよ……」
「ミハル、本気なの!?」
二人はとても信じられないといった様子。高すぎる目標に目を白黒とさせていた。
「本気も本気よ! 誰が冗談なんかで戦場に行くっていうの?」
まあ確かにとニコル。破滅願望でもない限りイプシロン基地への配属を望むものはいないはず。明確な目的がないのであれば、地元への配備を願うだろう。
「でもイプシロン基地を希望したなら絶対に叶うだろうね。誰一人として希望していないはずよ?」
「だといいけど。私はどうにも我慢ならないんだよね!」
ミハルの負けん気の強さは二人もよく知っている。けれど、明らかに格が違う相手に対抗心を燃やすだなんて想定外であった。
「ま、何にせよこれで訓練所とかいう生き地獄とはお別れね!」
「おうよ。二人ともよく頑張ったな?」
「何を偉そうに……」
三人は笑い合っている。訓練所は厳しいと聞いていたままの過酷な場所であった。しかし、一人も脱落することなく卒所まで漕ぎ着けている。
正式辞令はもうすぐだ。このあと数日を訓練所で過ごした彼らは式のあと巣立っていく。各々が星系の守護者として配属先へと向かうだけだ。
訓練所の半年で学生気分もすっかり吹き飛んでいる。節目を迎えた三人は気持ちを新たにしていくのだった……。
本日は面談が予定されていた。それは訓練生の簡単な意識調査と希望配属先を聞くためのものだ。ただそれは慣例的に行われているだけであり絶対的な意味を持たない。あくまで希望を聞くだけであった。
現時点でトップの成績を収めていたミハルは一番最後の面談となっている。
「ミハル二等航宙士、いよいよ配属となるが希望はあるか?」
ミハルに聞いたのはダニエル所長である。白髪をした彼は現役ではない。しかし、五十歳まで前線で戦っていたパイロットであり、指導力を認められ訓練所の所長となっていた。
「もちろんです。私はイプシロン基地でしか戦いたくありません」
毅然と答えるミハル。イプシロン基地はソロモンズゲートに建造されたGUNS最大の基地である。アイリス・マックイーンが異動した基地であり、彼女を目標とするミハルは当然のことイプシロン基地を希望していた。
「どうしてだ? お前も色々と噂を聞いているのではないか?」
公にはなっていないことだが、イプシロン基地やソロモンズゲートには良からぬ噂話が飛び交っていた。だからこそイプシロン基地と答えたミハルにダニエルは疑問を抱いている。
「異文明とか銀河戦争とか関係ありません。私は自分の目的を果たすためだけにここにいます。アイリス・マックイーン中尉にフライトを認めさせるためであれば、戦争があったとして戦うだけです」
近年はダニエルが訓練に顔を出すなんて少なくなっていたけれど、今期に限っては幾度となく現場まで足を運んでいる。かつての教え子を彷彿とさせるフライトデータを発見してしまったから。
輝きを放とうとする原石を彼は見つけていた。
間違いなく才能を秘めていると思う。実際にミハルは測定値でも実地試験でも抜群の成績を収めていたのだが、得られたデータからすると彼女のフライトは物足りない。ダニエルが思うところによると彼女はまだ才能を発揮しきれていなかった。
「お前はアイリス・マックイーン中尉と競うような立場にいない。まだまだ未熟だ。分かっているのか?」
「分かっています。でも私は彼女の前を飛びたい! どうかお願いします!」
軍部の方針として即戦力となり得るパイロットはイプシロン基地以外への配備が求められていた。
人類の戦力はイプシロン基地に集中しており、辺境の基地には如何ほども戦力が残っていない。だからこそ辺境基地は少数精鋭であり、宇宙海賊や突発的な紛争にも直ぐさま対処できる人材を欲している。
「ミハル、お前はもし目的が直ぐに達成できないと分かればどう行動する?」
ダニエルは迷っていた。言わずもがなミハルの配置について。彼女の目的が金や名声であればこんなにも悩まなかったことだろう。私怨ともいうべき目的は軍部の意向と異なっていたのだ。
仮に彼女が目的を果たせなかった場合、想像できる結末は一つだけである。訓練生の配属先について大凡は固まっていたものの、肝心の首席卒所予定者の行き先をダニエルは決めかねていた。
「そんな仮定は考えたくもありません」
返答は予想通りだ。ダニエルは時間を取り何度もミハルと会っている。よって彼女のことは少なからず理解しているつもりだ。ミハルの目的は入所当時から一貫しており、時間外にも努力し続ける彼女が本気であるのは明らか。
「では目的が遠のいたとして、お前はそこで諦めてしまうような弱者か?」
試すように聞く。ダニエルはまたも返答を分かっていたけれど、聞いておかねばならなかった。彼女がどういった答えを出すのかと。
「どういう意味でしょう? 以前にもお伝えしましたが、私が軍部に在籍する理由は一つだけ。自分自身を誇るため。一番になりたいだけです……」
ミハルが語る軍部での目的は今までに見てきた訓練生と明確に異なる。彼女には軍部という組織自体に少しもこだわりがない。資格を取るためだけに入所するものであっても、少なからず年単位という期間を過ごそうと決めているのだ。頼りがいのない彼女の返答には嘆息するしかなかった。
「ミハル二等航宙士、退出したまえ。これにて面談は終了だ……」
「待ってください! 本当にお願いしますよ!? 私は絶対に負けたままではいられないのです!」
最後までミハルは希望を訴えていた。しかし、ダニエルは退出を命じている。確約することなく首を振るだけであった。
静かに退出するミハルにダニエルは長い息を吐く。けれど、自身の選択は間違っていないと思う。才能を生かすという決断が正解であると疑わない。
配属希望をダニエルに伝えたミハル。所長室を出てから、ふぅっと息を吐いた。自身の希望は余すことなく伝えている。だから希望が叶うと信じたい。回り道などミハルはしたくなかった。
「ミハル! どうだった?」
所長室の前にはキャロルの姿があった。どうしてか学校の同窓生であるニコルまでもが待ち構えるように突っ立っている。
「二人共どしたの?」
面談は成績順であり、ミハルが一番最後であると二人は知っていた。だからこそ自室へ戻ることなく彼女を待っていたのだ。
「ミハルはどんな希望を伝えたのかなって! あたしは地元に貢献したいって話をしたんだけど」
どうやらキャロルはセントラル区画の基地を希望したらしい。軍部を腰掛けとしか考えていない彼女は不穏な噂のあるイプシロン基地だけは配備されたくないようだ。
「俺は別に待ってたわけでもないけどさ、ほら俺って次席だろ? だからキャロルと雑談している間にミハルの面談が終わっただけなんだ」
キャロルは睨むようにニコルを見ていた。言い訳ばかりを並べるところは本当に男らしくないと思う。
「ああそうなの? 一応希望は伝えたよ。イプシロン基地しか嫌だって……」
へぇっと揃って頷く二人だが一拍おいて、
「イプシロン基地ぃぃ!?」
二人同時に大声を上げた。
ミハルの希望は二人とまるで異なっている。進んで戦地へ向かおうとするだなんてキャロルたちには考えられない。
「お前馬鹿じゃねぇの!? いや、間違いなく馬鹿だけど、本当に馬鹿だぞ!?」
「ホント馬鹿よ! 少しくらい考えてから行動しなよってずっと言ってるでしょ!?」
総攻撃に遭うミハル。自身の希望を伝えただけであるのに、この言われよう。二人はミハルが何も考えずに行動したとしか考えていないようだ。
「ちゃんと考えたんだって! ていうか、そもそも私はイプシロン基地を目指して軍部に入ったんだから!」
言ってミハルは語り出す。自身の目標であるアイリス・マックイーンという高き壁について。
再び努力し始めた理由。学生生活において自主訓練を始めたのはアイリスに腐されたせいであり、訓練所での努力もまたアイリスに勝つためであると。
「マジかよ……」
「ミハル、本気なの!?」
二人はとても信じられないといった様子。高すぎる目標に目を白黒とさせていた。
「本気も本気よ! 誰が冗談なんかで戦場に行くっていうの?」
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「でもイプシロン基地を希望したなら絶対に叶うだろうね。誰一人として希望していないはずよ?」
「だといいけど。私はどうにも我慢ならないんだよね!」
ミハルの負けん気の強さは二人もよく知っている。けれど、明らかに格が違う相手に対抗心を燃やすだなんて想定外であった。
「ま、何にせよこれで訓練所とかいう生き地獄とはお別れね!」
「おうよ。二人ともよく頑張ったな?」
「何を偉そうに……」
三人は笑い合っている。訓練所は厳しいと聞いていたままの過酷な場所であった。しかし、一人も脱落することなく卒所まで漕ぎ着けている。
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