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第二章 星系を守護する者たち
人類の敵
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木星圏にあるGUNS統轄本部と研究所間で通信が行われていた。それはソロモンズゲートの調査報告であり、デミトリー総長は昼食もそこそこに通信室まで足を運んでいる。
探査機が持ち帰った映像は数日を要して解析され、光の発生源はユニック的な建造物であることが判明している。またエネルギー反応や電波が飛び交っている状況から、文明が生きていることも明らかとなった。
ただし、ゲートの情報は厳しく制限されている。ただでさえ土星が消失し、他の銀河に繋がっていると伝えたばかりだ。繋がった先の文明がどういった存在か明確になるまで、一般への公表は見送られることになっていた。
「マルコ主席、何か進展はあったのだろうか? 我々のメッセージを送ってから、かなり時間が経っているようだが……」
定例会議でもないこの場では余計な挨拶など不要のようだ。お互いの通信がアクティブとなるや早速と本題に入っていた。
「残念ですが、何も返答はありませんでした。彼らの使用する通信域に加え、念のため我々の通信域でも発信しましたが反応はありません」
研究所は通信の傍受に成功していた。人類が使用するSBFシステムと酷似した超光速通信が宙域に飛び交っていたのだ。
研究所は大量の通信を傍受し、またそれらは既に解析されている。現状の言語補完率は95%以上となり、翻訳ないし意思の伝達にも問題ないレベルにまで引き上げられていた。
「それは我々のメッセージに気付いていないのか? 或いは……」
人類は異文明に対して共存を前提とした対話を申し出ている。利のない戦争を始めるよりも、話し合いで済むのであればそれに越したことはないのだと。
「お察しの通りです。彼らは我々の探査機を確認していますし、我々のメッセージにも気付いております。また公式な返答こそありませんが星系内の通信に彼らの意志を確認しました……」
嫌な予感がしてならない。土星が消失してからというもの、デミトリーは悲観的にしか考えられなくなっている。
「彼らは太陽系を侵略するつもりです――――」
続けられた話にデミトリーは嘆息する。やはり好ましくない予感は現実となってしまう。
「カザイン光皇連は超新星爆発を生き抜いたというのに、なぜ攻め入ろうとするのだ?」
通信の解析から分かったことは少なくない。文明の呼称はカザイン光皇連。光皇とは消失した恒星の名称であり、文明の象徴である。またカザインとは文明を束ねる王の名であるらしい。
「今回の件でカザインは恒星を失いました。恒久的であり安全でもあるエネルギーの確保が彼らの望みです。本来ならバーストは少なからず被害を出していたことでしょう。それが不発に終わったことは我々にとって不運であり、また探査機が見つかってしまったのは失態であります。生命が育まれる環境の存在を彼らに教えてしまったわけですから。既にカザインは太陽系へ侵攻するための軍備を整え始めています……」
カザインは失った恒星の代わりを太陽系に求めているらしい。バースト後も攻め入る余力を残しているのは超新星爆発が不発に終わるというイレギュラーのせいだ。
「傍受した通信によると、彼らの母星ゼクスは生命の住めない氷の惑星となってしまうようです。かの星系には伴星を残しておりますが、それは既に恒星と呼べる星ではありませんし……」
「戦争をしてまで奪おうとするなんて、まるで旧時代の人類だな……。その伴星とやらが、太陽ほどの若い恒星であったらと考えずにはいられないよ……」
デミトリーが仮定の話を口にするもマルコは首を振って答えている。その仮定は万が一にもあり得ないといった風に。
「伴星が恒星としての使命を終えたことこそが、恐らくは生命の誕生に繋がっているかと。伴星まで照りつけていた時代には凡そ生命が育まれる環境ではなかったでしょうから」
彼らの星系に生命が誕生したのは星系が終焉を迎える間際であったようだ。そう考えると気の毒な気もしてくるけれど、彼らが取ろうとする行動までは容認できない。
「カザインは我々の発見を光皇の導きだとしています。信仰対象であった恒星がワームホールを残したという事実。カザインの国民に戦争の気運が高まったのは自然の流れかもしれません。それに加え支配者たちも便乗するようにして国民を扇動しています。我々を乗り越えるべき試練としているのです……」
それは一方的な思考であった。他者に対する敬意が欠落している。倫理観を持たない根っからの戦闘民族なのではないかとデミトリーは考えてしまう。
「超新星爆発の予兆を知っていただろうに、カザインはなぜ星系に留まったんだ?」
「天文学でいうところの近々は千年単位ですからね……。恐らくバーストのタイミングは百年単位までしか分からなかったはず。戦艦でもないユニックでの移動は遅く、バーストのタイミングによっては最悪の事態に陥る可能性があります。しかし、カザインは賭に出る必要などありませんでした。宇宙線シールドを幾重にも張ることによって、最小限の被害で乗り越えられると算段がついていたからです。バーストの方向や威力を予測し、綿密な計算を行っています……」
カザイン光皇連は下手に移動するよりも、待機する方を選んだ。種の保存を優先する手段は逃げ出すことではなかったようである。
「だとしてもだ……。一体その星系に何が残るというのだ? その理由は恒星が信仰対象であった話と関係しているのか?」
「いえ、信仰は無関係です。異なる恒星を求める移住は最初から選択肢になかったことでしょう。何しろ光速で移動できたとしても、その旅路は何万年もかかる途方もない期間を要しますから。道中の資源確保やエネルギー問題を考えれば選べるはずがありません。特に彼らは母星の問題が大きかったようです。母星は食糧供給に欠かせぬ存在だったらしく、また母星の人口は百億を超えていました。バーストに関する調査結果を踏まえ、彼らの住まうユニックや食料プラントを建造するよりも母星を生かす方向で動くべきだと判断されたみたいですね……」
いつ襲い来るやもしれないガンマ線バースト。カザインは調査結果に確信を得ていたのかもしれない。人民を危険に晒すという行為に不確定な予測を信頼するはずもなかった。
「超長期に亘る移住時間が懸念であったのは分かる。だが、危険を冒してまで留まる理由になるとは考えられない……。彼らは恒星を失っているのだぞ? その惑星が同じ環境を維持できるはずはないし、危険と釣り合う価値が星系に残っているとは思えないな……」
デミトリーの疑問は至極当たり前のことだ。星系が恒星を失えば恒常的に発せられていたエネルギーが枯渇する。惑星が以前と変わらぬ環境を維持できるはずもないのだと。
「確かに何もしなければゼクスは氷惑星となります。けれど、カザインとて無策で留まったわけではありません。彼らは期待していたのです。バースト後に生み出されるブラックホールに……。ブラックホールは強大なエネルギー体。発せられる電磁波やX線も使用可能でありますし、何よりリング状特異点から取り出される回転エネルギーは凄まじいものです。彼らはそのエネルギーを取り込み人工太陽を起動しようとしていました……」
言ってマルコは超望遠で捉えたカザインの母星をモニターへと表示する。
薄ぼんやりとしているのは距離があることと光源が限られていたからだ。しかし、間違いなく映っている。巨大な建造物の影。恐らくそれがマルコの話す人工太陽に違いない。
「彼らはブラックホールから取り出した莫大なエネルギーをこの人工太陽に送電するつもりでした。人工太陽によって母星の氷惑星化を防ごうとしていたのです。けれど、結果は知っての通り。今では時間と費用を無駄にしただけの廃棄物に他なりません……」
予定が狂ったのは人類だけではなかった。
超新星爆発を前提としていたカザインにとって今回の事態は最悪の結末に違いない。
人工太陽だけでなく多大なる時間を費やし完成させた宇宙線シールドも未使用のまま廃棄されてしまうのだ。今回のイレギュラーによって全ての計画が破綻している。
「つまり超新星爆発の不発はカザインにとっても想定外でした。それは彼らが追い詰められた原因であり、侵略戦争を選択した理由であります」
何だかカザインを庇うかのような話だ。傍受による大量の解析結果を知るマルコは戦争に至る原因まで理解しているらしい。
「人工太陽が起動できない今、母星ゼクスが氷惑星となるのは時間の問題です。最早ゼクスでの生産は絶望的。カザインは極度の食糧不足に陥るはず。加えてブラックホールに期待していたエネルギーは少しですら享受できませんでした。これから先の慢性的なエネルギー不足は避けられません。またゼクスに住む百億という人民は行き場を失うことになるでしょう……」
カザインの行動は全てが裏目に出ていた。肥沃な大地を持つ母星の存在も、超新星爆発への備えやバースト後の試算さえも。イレギュラーさえなければ問題はなかった。けれど、現実は誰も想定しない結果に帰結している。
小さく首を振ったデミトリーは細く長い息を吐いた。
ワームホールの出現は両文明にとって災難でしかない。本来あるべきように事が成されてさえおれば、少なくとも現状よりはマシな未来に到達していただろう。
「奪うしか選択がないのは理解したが、立場的正義は決して相容れない。共存を持ち掛けたのは我々であるけれど、それだけの人口を受け入れるのは不可能だ……」
戦争回避に淡い期待をしていたデミトリーだが困難を極める難題であると分かった。また信仰が与える影響も無視できない。人類も宗教による戦争を何度も経験していたのだ。信仰が絡むと悪も善と成り得る。兵士たちは大義名分を得て、全ての行為を正当化するだろう。そこに倫理や道徳は含まれていなかった。
「支援ならば可能だが、それは受け入れんだろうな……」
「そう思います。彼らは人類を排除し、太陽系に移住することしか頭にありませんし……。全人民が同じ志の元に団結しています……」
GUNSとしての落としどころは支援物資であるが、宇宙に拠点を移した人類は余剰な生産など行っていなかった。備蓄はあるにせよ、需要量に応じて供給は管理されている。
「もう腹を括るしかないな……。侵略するというのなら戦うことになる……」
「もしも戦争になり人類が初戦を圧倒したとすれば、カザインも交渉テーブルにつくかもしれません。これは希望的な憶測ですけれど……」
全ての移民を受け入るのは現実的じゃない。たとえそれが一部であっても、エイリアンを受け入れたならば混乱は必至だ。かといって支援で済まそうとしても、カザインが受諾するはずもなかった。
一度の交戦もなくテーブルにつかせるのは期しがたいことだ。圧倒的な戦果でもって対等以上の存在と認められなければ、和平はおろか交渉すら始められないだろう。
「マルコ主席、ゲートについての新しい情報はあるか? 助言があれば聞かせて欲しい」
覚悟を決めたのか、デミトリーはそのように聞いた。
その質問には立ち所に返答がある。マルコは直ぐさまゲートの3Dモデルを映し出す。
「ゲートの直径は約100km。N面は存在せずS面のみ存在しています。基本的にS面は常に開いたままで電波やレーザーを向こう側へと送ることが可能です。ただし、ゲートを潜らない限りは向こう側の様子を視認できません……」
宇宙時代に突入した頃、方角の記号は内容が改められた。
常に太陽の方角がSとされ太陽から存在する宙域の惑星に向かってNとされた。また時計回りとなる公転面をUとし、U面S方向の右側がWとなり左側がEとなった。それらの記号は本来あったはずの意味を含まない。ただし分かりやすいように方角の位置関係は変えられていなかった。補足的には反時計回りとなる公転面側はD面と呼ばれる。
「裏側が存在していないとはどういうことだ? 裏側から突入した場合はどうなる?」
「N面からゲート範囲を突き抜けたとしても、通常の宙域と何ら変わりなくS方向へ向かって飛ぶだけですね。S面のみ穴が開き、時空が固定されているようです。この性質は向こう側も変わりません。またゲートが開いているのは彼らの母星側になりますが、直線上からは外れております」
説明が終わるとマルコはモニターを切り替える。次なる映像はゲートから戻ってくる偵察機の様子だった。
「この映像に何か問題でも?」
とても短い映像。ぱっと見た感じは普通に偵察機が戻っているだけ。デミトリーにはこの映像が何を意味しているのか分からなかった。
「これはゲートの特性です。スロー再生すればよく分かります……」
言ってマルコが再び映像を流す。ただし今度はコマ送り再生であり、デミトリーにも違和感がはっきりと感じられた。
「機体が傾いたまま出現している……?」
「一瞬のことなのでスローモーションにするまでは違和感を覚えにくいのですが、この機体は全体が現れるまでゲート面に対して垂直に排出されています。機体が斜めを向いているのにもかかわらずです。従いましてどのような向きで進入したとしても、ゲート面に対して垂直方向以外の力は消去されてしまうことが分かります」
続けられたのはゲートの特性に関して。戦略を練る上で欠かせない情報だった。
「ビーム砲の類も同じだろうか?」
「もちろん変わりません。斜めに撃ち込んだからといって向こう側では垂直に飛んでいくはずです。寧ろ垂直に撃ち込まない場合は威力を損なうことになるでしょう。ゲートは厚さを持たないものですが、時空の歪みを固定していることから、こういった現象が起きているのだと思われます」
とても有意義な報告だった。この特性は戦局に影響を与えるものだ。ゲートについて調査していないカザインよりも優位に立つことができる。
「ならば建造中の重イオン荷電粒子砲についても直線範囲外に移動させた方が良いな……」
「重イオン砲に関しては提案がございます。いっそ重イオン砲はゲートより後方、つまりN面側に配置してはいかかでしょう? 真上に近いところ。角度をつけたなら味方機への誤射も軽減できますし、ゲートより現れた敵機をリスクなく狙い撃ちできます。何より破壊される心配がなく、継続的な戦力として計算できるのです。ゲート付近に航宙機が貼り付けなくなりますけれど、艦船を一網打尽にできるかと考えます」
ゲートの研究を続けるマルコならではの進言にデミトリーは感心していた。このあと予定されていた軍部との通信会議において、早速と提案しなければならないと思う。
「マルコ主席、我々は必ず勝利せねばならない。カザインの偵察を強化し適時報告して欲しい。簡単に明け渡す星系など存在しないのだから……」
了解しましたと返事があり、これにて臨時の報告会は終わった。
軍部との会議を前にデミトリーは疲れ切った様子。ただ彼は覚悟を決められた。
戦争となれば人類が未だ経験したことのない規模となるだろう。しかし、臆してはいられない。この先も人類の栄華が続くようにと、デミトリーは徹底抗戦を誓ったのだから。
探査機が持ち帰った映像は数日を要して解析され、光の発生源はユニック的な建造物であることが判明している。またエネルギー反応や電波が飛び交っている状況から、文明が生きていることも明らかとなった。
ただし、ゲートの情報は厳しく制限されている。ただでさえ土星が消失し、他の銀河に繋がっていると伝えたばかりだ。繋がった先の文明がどういった存在か明確になるまで、一般への公表は見送られることになっていた。
「マルコ主席、何か進展はあったのだろうか? 我々のメッセージを送ってから、かなり時間が経っているようだが……」
定例会議でもないこの場では余計な挨拶など不要のようだ。お互いの通信がアクティブとなるや早速と本題に入っていた。
「残念ですが、何も返答はありませんでした。彼らの使用する通信域に加え、念のため我々の通信域でも発信しましたが反応はありません」
研究所は通信の傍受に成功していた。人類が使用するSBFシステムと酷似した超光速通信が宙域に飛び交っていたのだ。
研究所は大量の通信を傍受し、またそれらは既に解析されている。現状の言語補完率は95%以上となり、翻訳ないし意思の伝達にも問題ないレベルにまで引き上げられていた。
「それは我々のメッセージに気付いていないのか? 或いは……」
人類は異文明に対して共存を前提とした対話を申し出ている。利のない戦争を始めるよりも、話し合いで済むのであればそれに越したことはないのだと。
「お察しの通りです。彼らは我々の探査機を確認していますし、我々のメッセージにも気付いております。また公式な返答こそありませんが星系内の通信に彼らの意志を確認しました……」
嫌な予感がしてならない。土星が消失してからというもの、デミトリーは悲観的にしか考えられなくなっている。
「彼らは太陽系を侵略するつもりです――――」
続けられた話にデミトリーは嘆息する。やはり好ましくない予感は現実となってしまう。
「カザイン光皇連は超新星爆発を生き抜いたというのに、なぜ攻め入ろうとするのだ?」
通信の解析から分かったことは少なくない。文明の呼称はカザイン光皇連。光皇とは消失した恒星の名称であり、文明の象徴である。またカザインとは文明を束ねる王の名であるらしい。
「今回の件でカザインは恒星を失いました。恒久的であり安全でもあるエネルギーの確保が彼らの望みです。本来ならバーストは少なからず被害を出していたことでしょう。それが不発に終わったことは我々にとって不運であり、また探査機が見つかってしまったのは失態であります。生命が育まれる環境の存在を彼らに教えてしまったわけですから。既にカザインは太陽系へ侵攻するための軍備を整え始めています……」
カザインは失った恒星の代わりを太陽系に求めているらしい。バースト後も攻め入る余力を残しているのは超新星爆発が不発に終わるというイレギュラーのせいだ。
「傍受した通信によると、彼らの母星ゼクスは生命の住めない氷の惑星となってしまうようです。かの星系には伴星を残しておりますが、それは既に恒星と呼べる星ではありませんし……」
「戦争をしてまで奪おうとするなんて、まるで旧時代の人類だな……。その伴星とやらが、太陽ほどの若い恒星であったらと考えずにはいられないよ……」
デミトリーが仮定の話を口にするもマルコは首を振って答えている。その仮定は万が一にもあり得ないといった風に。
「伴星が恒星としての使命を終えたことこそが、恐らくは生命の誕生に繋がっているかと。伴星まで照りつけていた時代には凡そ生命が育まれる環境ではなかったでしょうから」
彼らの星系に生命が誕生したのは星系が終焉を迎える間際であったようだ。そう考えると気の毒な気もしてくるけれど、彼らが取ろうとする行動までは容認できない。
「カザインは我々の発見を光皇の導きだとしています。信仰対象であった恒星がワームホールを残したという事実。カザインの国民に戦争の気運が高まったのは自然の流れかもしれません。それに加え支配者たちも便乗するようにして国民を扇動しています。我々を乗り越えるべき試練としているのです……」
それは一方的な思考であった。他者に対する敬意が欠落している。倫理観を持たない根っからの戦闘民族なのではないかとデミトリーは考えてしまう。
「超新星爆発の予兆を知っていただろうに、カザインはなぜ星系に留まったんだ?」
「天文学でいうところの近々は千年単位ですからね……。恐らくバーストのタイミングは百年単位までしか分からなかったはず。戦艦でもないユニックでの移動は遅く、バーストのタイミングによっては最悪の事態に陥る可能性があります。しかし、カザインは賭に出る必要などありませんでした。宇宙線シールドを幾重にも張ることによって、最小限の被害で乗り越えられると算段がついていたからです。バーストの方向や威力を予測し、綿密な計算を行っています……」
カザイン光皇連は下手に移動するよりも、待機する方を選んだ。種の保存を優先する手段は逃げ出すことではなかったようである。
「だとしてもだ……。一体その星系に何が残るというのだ? その理由は恒星が信仰対象であった話と関係しているのか?」
「いえ、信仰は無関係です。異なる恒星を求める移住は最初から選択肢になかったことでしょう。何しろ光速で移動できたとしても、その旅路は何万年もかかる途方もない期間を要しますから。道中の資源確保やエネルギー問題を考えれば選べるはずがありません。特に彼らは母星の問題が大きかったようです。母星は食糧供給に欠かせぬ存在だったらしく、また母星の人口は百億を超えていました。バーストに関する調査結果を踏まえ、彼らの住まうユニックや食料プラントを建造するよりも母星を生かす方向で動くべきだと判断されたみたいですね……」
いつ襲い来るやもしれないガンマ線バースト。カザインは調査結果に確信を得ていたのかもしれない。人民を危険に晒すという行為に不確定な予測を信頼するはずもなかった。
「超長期に亘る移住時間が懸念であったのは分かる。だが、危険を冒してまで留まる理由になるとは考えられない……。彼らは恒星を失っているのだぞ? その惑星が同じ環境を維持できるはずはないし、危険と釣り合う価値が星系に残っているとは思えないな……」
デミトリーの疑問は至極当たり前のことだ。星系が恒星を失えば恒常的に発せられていたエネルギーが枯渇する。惑星が以前と変わらぬ環境を維持できるはずもないのだと。
「確かに何もしなければゼクスは氷惑星となります。けれど、カザインとて無策で留まったわけではありません。彼らは期待していたのです。バースト後に生み出されるブラックホールに……。ブラックホールは強大なエネルギー体。発せられる電磁波やX線も使用可能でありますし、何よりリング状特異点から取り出される回転エネルギーは凄まじいものです。彼らはそのエネルギーを取り込み人工太陽を起動しようとしていました……」
言ってマルコは超望遠で捉えたカザインの母星をモニターへと表示する。
薄ぼんやりとしているのは距離があることと光源が限られていたからだ。しかし、間違いなく映っている。巨大な建造物の影。恐らくそれがマルコの話す人工太陽に違いない。
「彼らはブラックホールから取り出した莫大なエネルギーをこの人工太陽に送電するつもりでした。人工太陽によって母星の氷惑星化を防ごうとしていたのです。けれど、結果は知っての通り。今では時間と費用を無駄にしただけの廃棄物に他なりません……」
予定が狂ったのは人類だけではなかった。
超新星爆発を前提としていたカザインにとって今回の事態は最悪の結末に違いない。
人工太陽だけでなく多大なる時間を費やし完成させた宇宙線シールドも未使用のまま廃棄されてしまうのだ。今回のイレギュラーによって全ての計画が破綻している。
「つまり超新星爆発の不発はカザインにとっても想定外でした。それは彼らが追い詰められた原因であり、侵略戦争を選択した理由であります」
何だかカザインを庇うかのような話だ。傍受による大量の解析結果を知るマルコは戦争に至る原因まで理解しているらしい。
「人工太陽が起動できない今、母星ゼクスが氷惑星となるのは時間の問題です。最早ゼクスでの生産は絶望的。カザインは極度の食糧不足に陥るはず。加えてブラックホールに期待していたエネルギーは少しですら享受できませんでした。これから先の慢性的なエネルギー不足は避けられません。またゼクスに住む百億という人民は行き場を失うことになるでしょう……」
カザインの行動は全てが裏目に出ていた。肥沃な大地を持つ母星の存在も、超新星爆発への備えやバースト後の試算さえも。イレギュラーさえなければ問題はなかった。けれど、現実は誰も想定しない結果に帰結している。
小さく首を振ったデミトリーは細く長い息を吐いた。
ワームホールの出現は両文明にとって災難でしかない。本来あるべきように事が成されてさえおれば、少なくとも現状よりはマシな未来に到達していただろう。
「奪うしか選択がないのは理解したが、立場的正義は決して相容れない。共存を持ち掛けたのは我々であるけれど、それだけの人口を受け入れるのは不可能だ……」
戦争回避に淡い期待をしていたデミトリーだが困難を極める難題であると分かった。また信仰が与える影響も無視できない。人類も宗教による戦争を何度も経験していたのだ。信仰が絡むと悪も善と成り得る。兵士たちは大義名分を得て、全ての行為を正当化するだろう。そこに倫理や道徳は含まれていなかった。
「支援ならば可能だが、それは受け入れんだろうな……」
「そう思います。彼らは人類を排除し、太陽系に移住することしか頭にありませんし……。全人民が同じ志の元に団結しています……」
GUNSとしての落としどころは支援物資であるが、宇宙に拠点を移した人類は余剰な生産など行っていなかった。備蓄はあるにせよ、需要量に応じて供給は管理されている。
「もう腹を括るしかないな……。侵略するというのなら戦うことになる……」
「もしも戦争になり人類が初戦を圧倒したとすれば、カザインも交渉テーブルにつくかもしれません。これは希望的な憶測ですけれど……」
全ての移民を受け入るのは現実的じゃない。たとえそれが一部であっても、エイリアンを受け入れたならば混乱は必至だ。かといって支援で済まそうとしても、カザインが受諾するはずもなかった。
一度の交戦もなくテーブルにつかせるのは期しがたいことだ。圧倒的な戦果でもって対等以上の存在と認められなければ、和平はおろか交渉すら始められないだろう。
「マルコ主席、ゲートについての新しい情報はあるか? 助言があれば聞かせて欲しい」
覚悟を決めたのか、デミトリーはそのように聞いた。
その質問には立ち所に返答がある。マルコは直ぐさまゲートの3Dモデルを映し出す。
「ゲートの直径は約100km。N面は存在せずS面のみ存在しています。基本的にS面は常に開いたままで電波やレーザーを向こう側へと送ることが可能です。ただし、ゲートを潜らない限りは向こう側の様子を視認できません……」
宇宙時代に突入した頃、方角の記号は内容が改められた。
常に太陽の方角がSとされ太陽から存在する宙域の惑星に向かってNとされた。また時計回りとなる公転面をUとし、U面S方向の右側がWとなり左側がEとなった。それらの記号は本来あったはずの意味を含まない。ただし分かりやすいように方角の位置関係は変えられていなかった。補足的には反時計回りとなる公転面側はD面と呼ばれる。
「裏側が存在していないとはどういうことだ? 裏側から突入した場合はどうなる?」
「N面からゲート範囲を突き抜けたとしても、通常の宙域と何ら変わりなくS方向へ向かって飛ぶだけですね。S面のみ穴が開き、時空が固定されているようです。この性質は向こう側も変わりません。またゲートが開いているのは彼らの母星側になりますが、直線上からは外れております」
説明が終わるとマルコはモニターを切り替える。次なる映像はゲートから戻ってくる偵察機の様子だった。
「この映像に何か問題でも?」
とても短い映像。ぱっと見た感じは普通に偵察機が戻っているだけ。デミトリーにはこの映像が何を意味しているのか分からなかった。
「これはゲートの特性です。スロー再生すればよく分かります……」
言ってマルコが再び映像を流す。ただし今度はコマ送り再生であり、デミトリーにも違和感がはっきりと感じられた。
「機体が傾いたまま出現している……?」
「一瞬のことなのでスローモーションにするまでは違和感を覚えにくいのですが、この機体は全体が現れるまでゲート面に対して垂直に排出されています。機体が斜めを向いているのにもかかわらずです。従いましてどのような向きで進入したとしても、ゲート面に対して垂直方向以外の力は消去されてしまうことが分かります」
続けられたのはゲートの特性に関して。戦略を練る上で欠かせない情報だった。
「ビーム砲の類も同じだろうか?」
「もちろん変わりません。斜めに撃ち込んだからといって向こう側では垂直に飛んでいくはずです。寧ろ垂直に撃ち込まない場合は威力を損なうことになるでしょう。ゲートは厚さを持たないものですが、時空の歪みを固定していることから、こういった現象が起きているのだと思われます」
とても有意義な報告だった。この特性は戦局に影響を与えるものだ。ゲートについて調査していないカザインよりも優位に立つことができる。
「ならば建造中の重イオン荷電粒子砲についても直線範囲外に移動させた方が良いな……」
「重イオン砲に関しては提案がございます。いっそ重イオン砲はゲートより後方、つまりN面側に配置してはいかかでしょう? 真上に近いところ。角度をつけたなら味方機への誤射も軽減できますし、ゲートより現れた敵機をリスクなく狙い撃ちできます。何より破壊される心配がなく、継続的な戦力として計算できるのです。ゲート付近に航宙機が貼り付けなくなりますけれど、艦船を一網打尽にできるかと考えます」
ゲートの研究を続けるマルコならではの進言にデミトリーは感心していた。このあと予定されていた軍部との通信会議において、早速と提案しなければならないと思う。
「マルコ主席、我々は必ず勝利せねばならない。カザインの偵察を強化し適時報告して欲しい。簡単に明け渡す星系など存在しないのだから……」
了解しましたと返事があり、これにて臨時の報告会は終わった。
軍部との会議を前にデミトリーは疲れ切った様子。ただ彼は覚悟を決められた。
戦争となれば人類が未だ経験したことのない規模となるだろう。しかし、臆してはいられない。この先も人類の栄華が続くようにと、デミトリーは徹底抗戦を誓ったのだから。
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機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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