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第一章 航宙士学校
オープンレースの翌日
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ミハルが参加した航宙機フェスティバルは日曜日である。振り替え休日なんて与えられるはずもなく、彼女は休むことなく授業を受ける羽目になった。午前中の授業は睡魔との戦い。それでも何とか憩いの時間ともいうべき昼休みまで乗り切っている。
「あー疲れたぁ!」
キャロルと共に食堂へ来ている。日替わりのランチを購入し、並んでテーブルに着く。
「お疲れ様! 昨日直ぐに寝ちゃったけど、そんなに疲れたの?」
「そりゃあもう! 外郭部から戻るエレベーターが混みすぎなのよ!」
最後のレースまで観戦したミハル。一応は楽しめたのだが、そのせいでラッシュアワーにも似た混雑の中で帰宅せざるを得なかった。
「でも、レースは勝ったんでしょ?」
どうやらキャロルは結果を知らないようだ。しかし、キャロルは責められない。概ねミハルを知る生徒たちは結果を調べていないはず。彼女が負けるとは誰も予想していなかったことだろう。
「それが……負けちゃったのよ…………」
何とも重い口ぶりでミハルは語った。昨日あったことの全て。ティーンエイジクラスからプロフェッショナルクラスのレース。果てにはアイリスとの邂逅まで。
肩を落として話すミハルにキャロルは察していた。ミハルの敗北は残念に感じていたけれど、誰よりも悔しい思いをしたのはミハル自身であることを。
「そっか、負けちゃったか……。ミハルなら絶対に勝つと思ってたけどなぁ……」
「私は航宙士学校で少しばかり成績を残していい気になっていただけよ。上には上がいる。私はこの六年間で思い上がっていただけなの……」
未だかつてこんなミハルは見たことがなかった。間違いなく落ち込んでいる。だが、やる気を失ったというよりは奮い立っているように思う。
「あたしがもっと上手だったらなぁ。ミハルにそんな想いはさせずに済んだのに!」
冗談ぽく語るキャロルだが、割と本心だった。ミハルが簡単な事実に気付けなかったのは全て同級生である自分たちのせいなのだと。不甲斐ない同級生に囲まれてしまったせいで、世界の広さを勘違いさせてしまった。
以降は会話もなく二人は黙々と食べ続ける。決して気まずくはなかったのだが、二人には適切な会話が思いつかなかったようだ。
昼食を食べ終えると、不意に午後一時を知らせるチャイムが鳴り響く。するとミハルは、あっと声を上げて、
「いけない! 就職指導室に行ってくる!」
立ち上がってランチプレートを片付け始めた。
午後のフリータイムには強制面談の二回目が予定されている。それはキャロルも聞いていたこと。ミハルが将来を考えるための重要な時間となるはずだ。
慌ただしく席を立つミハルに思わずキャロルは声をかけていた。
「ねぇ、ミハル! 負けちゃったけど、レースは楽しめたの?」
そんなキャロルの問いに、あれっとミハルは固まっていた。レースの話題はもう振られないものと考えていたから少し意外に感じている。
背中越しに届いた質問は考えさせられるものに違いない。何しろミハルは負けたのだ。そればかりか圧倒的な技量差を見せつけられている。
ミハルはクルリとキャロルを振り返り、直ぐさま大きな笑みを浮かべた。
「もちろんよ!――――」
「あー疲れたぁ!」
キャロルと共に食堂へ来ている。日替わりのランチを購入し、並んでテーブルに着く。
「お疲れ様! 昨日直ぐに寝ちゃったけど、そんなに疲れたの?」
「そりゃあもう! 外郭部から戻るエレベーターが混みすぎなのよ!」
最後のレースまで観戦したミハル。一応は楽しめたのだが、そのせいでラッシュアワーにも似た混雑の中で帰宅せざるを得なかった。
「でも、レースは勝ったんでしょ?」
どうやらキャロルは結果を知らないようだ。しかし、キャロルは責められない。概ねミハルを知る生徒たちは結果を調べていないはず。彼女が負けるとは誰も予想していなかったことだろう。
「それが……負けちゃったのよ…………」
何とも重い口ぶりでミハルは語った。昨日あったことの全て。ティーンエイジクラスからプロフェッショナルクラスのレース。果てにはアイリスとの邂逅まで。
肩を落として話すミハルにキャロルは察していた。ミハルの敗北は残念に感じていたけれど、誰よりも悔しい思いをしたのはミハル自身であることを。
「そっか、負けちゃったか……。ミハルなら絶対に勝つと思ってたけどなぁ……」
「私は航宙士学校で少しばかり成績を残していい気になっていただけよ。上には上がいる。私はこの六年間で思い上がっていただけなの……」
未だかつてこんなミハルは見たことがなかった。間違いなく落ち込んでいる。だが、やる気を失ったというよりは奮い立っているように思う。
「あたしがもっと上手だったらなぁ。ミハルにそんな想いはさせずに済んだのに!」
冗談ぽく語るキャロルだが、割と本心だった。ミハルが簡単な事実に気付けなかったのは全て同級生である自分たちのせいなのだと。不甲斐ない同級生に囲まれてしまったせいで、世界の広さを勘違いさせてしまった。
以降は会話もなく二人は黙々と食べ続ける。決して気まずくはなかったのだが、二人には適切な会話が思いつかなかったようだ。
昼食を食べ終えると、不意に午後一時を知らせるチャイムが鳴り響く。するとミハルは、あっと声を上げて、
「いけない! 就職指導室に行ってくる!」
立ち上がってランチプレートを片付け始めた。
午後のフリータイムには強制面談の二回目が予定されている。それはキャロルも聞いていたこと。ミハルが将来を考えるための重要な時間となるはずだ。
慌ただしく席を立つミハルに思わずキャロルは声をかけていた。
「ねぇ、ミハル! 負けちゃったけど、レースは楽しめたの?」
そんなキャロルの問いに、あれっとミハルは固まっていた。レースの話題はもう振られないものと考えていたから少し意外に感じている。
背中越しに届いた質問は考えさせられるものに違いない。何しろミハルは負けたのだ。そればかりか圧倒的な技量差を見せつけられている。
ミハルはクルリとキャロルを振り返り、直ぐさま大きな笑みを浮かべた。
「もちろんよ!――――」
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