青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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Epilogue

二輪の薔薇

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「さあ、行きましょうか! 今日は私たちが主役! 観衆の視線を釘付けにするわよ!」

 会場入りには簡単な紹介がある。慣例的なものでしたが、上位貴族から順に入城していくのです。

 先頭はエレオノーラに譲っています。イセリナが私と一緒に入場したがった結果です。

 本来なら公爵令嬢であり、王子殿下の婚約者であるイセリナが先頭で入場すべきだったのですけれど。

(緊張してきた……)

 三度目の夜会だというのに、私は緊張していました。

 純白をした胡蝶蘭の館を前にして。

 会場も咲き乱れる胡蝶蘭も同じであったというのに鳥肌が立つ。

 私は大きく息を吸って、落ち着こうとしていました。

(どうしてかな……)

 始まってしまえば何てことないのでしょうけれど、入場していくエレオノーラを見ていると鼓動が速まって仕方ありません。

(夢の舞台だから?)

 私はそう結論づけました。

 イセリナであった頃は攻略だったのです。胡蝶蘭の夜会もイベントの一つでしかなく、ただクリアするだけでした。

 しかし、今は苦労した末に勝ち取った未来です。

 上手に踊ること。ルークに恥を掻かせないこと。たったそれだけの理由で私は緊張しているみたい。

(楽しもう……)

 緊張を呑み込む。

 エレオノーラの紹介が終わった今となってはまな板の鯉。緊張したとして上手く踊れるかどうかなんて分からないのだから。

「えっ?」

 不意に私の手が握られています。

 それは隣に立つイセリナでした。

「イセリナ……?」

 恐らく彼女も緊張しているのでしょう。

 私の手を握ることで、一人じゃないと言いきかせているのかもしれません。

「アナ、楽しみましょう」

 笑みを浮かべて頷く。

 そうだね。共に歩んだ時間は嘘じゃない。

 姉妹のように過ごした日々は絆として残っています。

「ええ、行きましょうか」

 二人して会場へと入る。

 万雷の拍手が私たちを迎えていました。

 手を繋いだままでしたが、イセリナの紹介が始まっています。

『次はイセリナ・イグニス・ランカスタ公爵令嬢です。ご存じの通り、セシル殿下に見初められたご令嬢でございます。ブルーのドレスがとてもお似合いですね! どうぞなお一層の拍手でお迎えください!』

 鳴り止まない拍手。

 ここでイセリナは会場を進んでいくべきなのですが、彼女は私の紹介を待つつもりみたいで、一歩も進んでおりません。

(ったく、この子は……)

 いつしか緊張は解れていました。

 いつものように依存するイセリナのおかげで。

『えっと、続きまして隣に立つお方はアナスタシア・スカーレット侯爵です! ご存じの通り大魔法使いであり、王都の懸念であった火竜を僅か十二歳にして討伐し、北部を襲った巨大な黒竜をも討伐されております!』

 ずっこけそうになってしまう。

 イセリナと違いすぎない?

 私の紹介って武勇伝だけじゃないのよ……。

「ぷっ……」

 隣のイセリナが笑っています。

 明らかに悪意のある紹介でしたからね。

 これからダンスを披露するというのに、異なる期待感を持たれてしまうわ。

(しょうがない。会場の雰囲気を聖女成分で上書きするか)

 歩き出すよりも前。私は女神の祝福たる神聖魔法を披露するのでした。

「ホーリー・ブレス!!」

 会場中に満ちる光の粒。鳴り止まぬ拍手の中、私とイセリナは歩んでいきます。

 打ち合わせ通り、屋内ステージの中央で私たちは立ち止まりました。

 これには、どよめきが巻き起こりましたが、私たちはここで踊る予定なのです。


 全員の入場が終わるや、楽団の演奏が始まりました。

 華やかなアップテンポの曲にて胡蝶蘭の夜会が始まります。

「イセリナ!」

「アナ、上手じゃない?」

 約束したように私たちは女性二人で踊り始めています。

 誰もが驚いたことでしょうが、どよめきはいつしかリズムに乗った手拍子へと変わっていく。

 ステージの中央に咲いた二輪の青き薔薇を観衆の視線が追いかけていました。

 背の高いイセリナが男役。私は女性パート。

 イセリナは本当にダンスだけは得意でして、一緒に踊る私はストレスを感じることなく踊り続けています。

「楽しいわ!」

「アナ、もうテラスに行くのはやめましょうか?」

「アハハ、それは流石にね……」

 いつまでも続けばいい。

 そんな至福の時間が過ぎています。

 長くてバラードまでの三曲。

 私たちは二人して、僅かな時間を堪能するのでした。
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