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Epilogue

ノブレスガーデンにて

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 時は過ぎ、暦は十二月となっていました。

 議事会の決定通りに私は子爵から侯爵へと陞爵しており、ルークの婚約者として認められています。

「イセリナ、早く着替えなさいよ!」

「手伝って! どうしてこうもパーティードレスは……」

 貴族院の卒業式を終えた私たちは着替えの真っ最中。

 このあと催される胡蝶蘭の夜会へと向かうためです。

「やっぱイセリナはブルーが似合うね?」

 何とか着替え終わったイセリナにしみじみと思う。

 私たちのドレスは同じディープブルーの生地なのですが、やはりイセリナが着ると映えるような気がします。

「アナも良い感じですわよ? 特にお胸のところが……」

「胸の大きさだけが取り柄なのよ!」

 私たちは貴族院にある更衣室で大笑いしています。

 まさかイセリナと最後まで仲良く過ごせるなんて、最初の世界線からは考えられません。

 この子は私の影響を少なからず受けていました。だけど、ずっと一緒に暮らしているうち、張り詰めたものはいつしかなくなっています。

 ぐうたらで、よく笑う公爵令嬢。それが現在のイセリナ・イグニス・ランカスタです。

「アナ、最初に二人で踊りません?」

「ええ? いきなり二人で踊っちゃうの?」

「殿下たちと合流したあとでは難しいと思いますの。なので、最初に踊るのは間違っていないと考えますわ」

 マジすか。未だかつて胡蝶蘭の夜会で女子同士が踊ったことなどないというのに。

 加えて、始まって直ぐに二人して踊るなんて。

「よし、それで行こう。どうせルークたちはテラスにいるから、屋内の中央で踊りましょうか!」

「流石はアナですわ!」

 どうせ文句をいう人間はいません。

 今や侯爵である私と公爵令嬢であるイセリナなのです。

 驚くでしょうが、それ以上の反応はないと確信できますから。

「さあ、ノブレスガーデンへと赴きましょうか!」

 貴族院からは馬車に乗って胡蝶蘭の館があるノブレスガーデンへと向かいます。純白の馬車に乗ってパーティー会場へと赴くのです。

 どうにも高宮千紗であった頃の感情が蘇ってしまいます。

(ルークが王子様……)

 今このときのために、私はイセリナへと転生し、更にはアナスタシアとして生を受けた。

 そう思えてならない現実です。恐らく誰よりもこの先の夜会に私は期待していたのですから。


 ゆっくりと進んだ馬車でしたが、程なく城門を潜ってノブレスガーデンまで到着しています。

 いよいよアナスタシア・スカーレットとしての目標が達成されるのです。

 初めてイセリナに会ったとき、再びこの場所を目指そうと考えた。子爵令嬢でありながら、夜会の華になってやろうと。

(今宵の青き薔薇は二輪……)

 何だか面白いね。イセリナと張り合うのではなく、一緒になって青き薔薇となるなんて。あの頃の私には想像もできない現実でした。

 私が馬車を降りると、

「アナスタシア様!」

 不意に声をかけられています。

 それはよく知る声。エリカが私たちを待っていたのでしょう。

「エリカ、可愛いドレスを仕立てたじゃない?」

「はい! アナスタシア様のおかげです!」

 いやいや、それは違うわ。貴方は報われるべき。数多ある世界線ではエリカが王子殿下と結ばれているの。

 私たちが割り込んでしまったせいで、弾き出されてしまった。ドレスくらいじゃ貴方の夢を壊した償いにはならないはずよ。

「リックは夜会だけ見に来ると言っていたわ」

「本当ですか!? リック様は忙しくされていますのに……」

「あはは! あれでエリカのこと何よりも大切に想ってるのよ。今日はダンスを見せつけて、嫉妬させてあげなさいね?」

「嫉妬してもらえるでしょうかね……?」

 エリカとリックは順調です。

 乗り気ではなかったリックの方が惚れ込んでいます。流石は主人公と言わざるを得ませんね。

「ルーク殿下とセシル殿下はテラス側なのでしょうか?」

「そうなるね。ルークは貴院長だし、準備もあって忙しくしているはず。それよりエリカはエスコートされないの?」

 私とイセリナのダンスパートナーはいずれも特殊です。

 セシルは一年生だし王家の人間ですから、まだテラス側で挨拶回りをしていることでしょう。

 ルークもまた基本的に貴族たちや諸外国の来賓対応に追われているはずです。

「リック様が嫉妬されても困りますしね?」

「言うじゃない? でもダンスは受けてあげてね? パートナーがいない者同士は感情抜きにして踊るものだから」

「承知しております。楽しい思い出にしたいです」

 この分だとエリカは問題ないでしょう。

 卒業生で壁際だなんてあり得ませんし。踊ってなんぼの夜会ですからね。

 だから私は声を張る。威勢良く景気よく。

「さあ、行きましょうか!!」
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