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最終章 世界に光を
責任
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貴族院が始まって二週間が過ぎた頃。
今日も今日とてランカスタ公爵邸へと帰ることになるのですが、イセリナが街へ行こうと提案しています。
「ワタクシ、胡蝶蘭の夜会で着るドレスを仕立てたいのですわ!」
ああ、もうそんな時期なのね。
去年もそういえば仕立てしたのを思い出しました。
昨年はイセリナの奢りだったけど、今回は私が支払いを請け負いましょうかね。
「じゃあ、私が支払うわ。去年は出してもらったし!」
「フフフ、良くてよ? ワタクシ、宝石も買いますの」
「どんと来い! 今んとこ私はとても気分が良いからね!」
再び胡蝶蘭の夜会へと。またもイセリナと二人して参加することになります。
さりとて、私たちは卒業生でありまして、去年とは状況が異なるのですけれど。
昨年もお世話になった服飾店にて、二人してドレスを選ぶ。
ふと思うのです。
(エリカってドレス持っているのかな……)
流石に教会が手配するはずですけど、自分の好きなドレスを着てもらいたい。リック以外に良い人が見つかるかもしれませんし。
エリカが壁際の華になるなんて私には許せないことでした。
「支配人を呼んでくれるかしら?」
店員に支配人を呼ぶようにと指示。やはり三着分、私が大枚を叩くべきだと。
「アナスタシア様、何用でしょうか?」
直ぐさま飛んでくる支配人。いやもう、何年か前とは大違いですね。
あの頃は摘まみ出されそうになっていたというのに。
「貴方様は光の聖女エリカ・ローズマリー様をご存じかしら?」
「もちろんです。礼拝の折りにいつも拝見しております」
「それなら話が早いわ。あの子が後日、ドレスを仕立てに来ますので、費用は全て私に請求してくださいな。先払いが必要であれば支払っておきますから」
これでいい。侘しい思いをエリカにさせたくないからね。
たとえ聖女であっても女の子ですもの。晴れの舞台で好きなドレスを着て欲しいわ。
「支配人、ワタクシのドレスもアナが支払いますのよ? オホホ!」
どうして張り合おうとするのかしらね。このお姫様は……。
まあしかし、私たちは真剣に生地から選んでいます。
イセリナ時代は迷わずディープブルーの生地を選んだものですけれど、どうしたものかと考えてしまうわね。
(イセリナは目立ちたいだろうし……)
私が悩んでいるとイセリナが生地を選び終わったみたい。
「アナ、ワタクシはこの生地でドレスを仕立てますわ!」
やはり、彼女はディープブルー。吸い込まれてしまいそうな深い青色をした生地でした。
(なら私は取り巻きらしく薄いピンクで仕立てますか……)
張り合うのは止めにします。私もイセリナも婚約者と踊るだけなのです。必要以上に目立つ必要はありませんでした。
ところが、私がピンク色の生地を物色し始めて直ぐ、
「アナもこの生地にしなさい!」
私は固まっていました。
(え? 本気で言ってるの?)
イセリナの真意が分かりません。
彼女は目立ちたいはずなのに、色味が似ているとかの問題じゃなく、同じ生地を私に勧めている。
「どうして……? 目立たなくなるわよ?」
「良いのです! ワタクシは晴れの舞台でアナと同じ色のドレスを着たいだけですわ。何ならデザインも同じが良いくらいですの」
「いやいや、流石にデザインは変えなきゃ……」
そういや、この人は私に依存しまくりでしたね。
まるで手のかかる妹みたい。ま、実際に手がかかりまくる人なんだけどさ。
「分かった。私もディープブルーのドレスにするよ!」
「楽しみですわね! 一緒に踊りましょう!」
もう滅茶苦茶になりそうだわ。互いの婚約者を放置して、踊り明かすつもりかもしれない。
普通なら冗談だと思うところだけど、何せイセリナだからね……。
「楽しみましょう。別にさしたる問題もないでしょ」
私は受け入れています。正直に転生した頃には、こんなイセリナは考えられませんでした。
私が世界線を動かすまで、一応は彼女もちゃんとした公爵令嬢だったのですから。
だから私は責任を取ろう。
滅茶苦茶な世界線だけでなく、ぐうたらな眠り姫になってしまった責任を……。
今日も今日とてランカスタ公爵邸へと帰ることになるのですが、イセリナが街へ行こうと提案しています。
「ワタクシ、胡蝶蘭の夜会で着るドレスを仕立てたいのですわ!」
ああ、もうそんな時期なのね。
去年もそういえば仕立てしたのを思い出しました。
昨年はイセリナの奢りだったけど、今回は私が支払いを請け負いましょうかね。
「じゃあ、私が支払うわ。去年は出してもらったし!」
「フフフ、良くてよ? ワタクシ、宝石も買いますの」
「どんと来い! 今んとこ私はとても気分が良いからね!」
再び胡蝶蘭の夜会へと。またもイセリナと二人して参加することになります。
さりとて、私たちは卒業生でありまして、去年とは状況が異なるのですけれど。
昨年もお世話になった服飾店にて、二人してドレスを選ぶ。
ふと思うのです。
(エリカってドレス持っているのかな……)
流石に教会が手配するはずですけど、自分の好きなドレスを着てもらいたい。リック以外に良い人が見つかるかもしれませんし。
エリカが壁際の華になるなんて私には許せないことでした。
「支配人を呼んでくれるかしら?」
店員に支配人を呼ぶようにと指示。やはり三着分、私が大枚を叩くべきだと。
「アナスタシア様、何用でしょうか?」
直ぐさま飛んでくる支配人。いやもう、何年か前とは大違いですね。
あの頃は摘まみ出されそうになっていたというのに。
「貴方様は光の聖女エリカ・ローズマリー様をご存じかしら?」
「もちろんです。礼拝の折りにいつも拝見しております」
「それなら話が早いわ。あの子が後日、ドレスを仕立てに来ますので、費用は全て私に請求してくださいな。先払いが必要であれば支払っておきますから」
これでいい。侘しい思いをエリカにさせたくないからね。
たとえ聖女であっても女の子ですもの。晴れの舞台で好きなドレスを着て欲しいわ。
「支配人、ワタクシのドレスもアナが支払いますのよ? オホホ!」
どうして張り合おうとするのかしらね。このお姫様は……。
まあしかし、私たちは真剣に生地から選んでいます。
イセリナ時代は迷わずディープブルーの生地を選んだものですけれど、どうしたものかと考えてしまうわね。
(イセリナは目立ちたいだろうし……)
私が悩んでいるとイセリナが生地を選び終わったみたい。
「アナ、ワタクシはこの生地でドレスを仕立てますわ!」
やはり、彼女はディープブルー。吸い込まれてしまいそうな深い青色をした生地でした。
(なら私は取り巻きらしく薄いピンクで仕立てますか……)
張り合うのは止めにします。私もイセリナも婚約者と踊るだけなのです。必要以上に目立つ必要はありませんでした。
ところが、私がピンク色の生地を物色し始めて直ぐ、
「アナもこの生地にしなさい!」
私は固まっていました。
(え? 本気で言ってるの?)
イセリナの真意が分かりません。
彼女は目立ちたいはずなのに、色味が似ているとかの問題じゃなく、同じ生地を私に勧めている。
「どうして……? 目立たなくなるわよ?」
「良いのです! ワタクシは晴れの舞台でアナと同じ色のドレスを着たいだけですわ。何ならデザインも同じが良いくらいですの」
「いやいや、流石にデザインは変えなきゃ……」
そういや、この人は私に依存しまくりでしたね。
まるで手のかかる妹みたい。ま、実際に手がかかりまくる人なんだけどさ。
「分かった。私もディープブルーのドレスにするよ!」
「楽しみですわね! 一緒に踊りましょう!」
もう滅茶苦茶になりそうだわ。互いの婚約者を放置して、踊り明かすつもりかもしれない。
普通なら冗談だと思うところだけど、何せイセリナだからね……。
「楽しみましょう。別にさしたる問題もないでしょ」
私は受け入れています。正直に転生した頃には、こんなイセリナは考えられませんでした。
私が世界線を動かすまで、一応は彼女もちゃんとした公爵令嬢だったのですから。
だから私は責任を取ろう。
滅茶苦茶な世界線だけでなく、ぐうたらな眠り姫になってしまった責任を……。
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