青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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最終章 世界に光を

悪役令嬢

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 黒竜は討伐できたと思います。

 というのも、ロナ・メテオ・バーストを撃ち放った場所には本当に痕跡すら残っていないからです。

 そこには巨大なクレーターが出来上がっていまして、そのうちに湖ができてしまうんじゃないかと思える大穴があるだけでした。

「リセットされないのだから、討伐できたはずよね?」

 正直な感想は無理ゲー。プロメティア世界史にあるどのような英雄にも不可能でしょう。

 私だってイセリナ時代があったからこそ倒せた。古代魔法の研究や魔法構築理論があったからこそ、世界を救えたのだと思います。

 悠然とペガサスを操り、私は見守ってくれた人たちの元へと戻っていく。

「アナ! あれ何だよ!?」

 ルークの第一声は期待と異なる。

 私が撃ち放ったロナ・メテオ・バーストについて聞いたのでしょうが、非常に曖昧な問いでした。

「何だよって、古代魔法よ? 見たことあるでしょ?」

「いやいや、あんなに凄かったか!? ここまで突風が届いたし、立っていられなかったぞ!」

 まあ確かに。私だって、その威力に驚愕したからね。

 さしずめ真・ロナ・メテオ・バーストってとこかしら。

「アナスタシア様、貴方というお人は……。一部始終を記録しようと大量の魔力回復ポーションを用意していたのですが、一本も飲むことなく戦闘が終わってしまいましたね……」

 割り込むようにしてモルディン大臣が言いました。

 彼は記録魔法にて戦闘の全貌を記録しようと張り切っていたみたい。

 死に戻りに関与していない彼らには、ものの五分でケリが付いたと思えていたことでしょう。

「巨大な黒竜を僅かな時間で消し去ってしまうなんて。議事会で映像を提出したとして、誰も信じないかもしれません」

 それは困るね。実際には累計何ヶ月も私は戦っていたのに。

 今回に限っては巻き戻る時間が裏目に出ています。

「別に認めてもらえなくても構わないです……」

 世界を救った事実。ようやく私は二代に亘っての使命を果たせた。

 オマケ的な陞爵を願って戦い続けたわけじゃないし。

 私はルークを振り返ります。私が頑張れた理由は一つだけなのだと。

「カッコ良かった?」

 それだけなんだ。期待するルークに私は応えたかっただけ。

 何度も愛を囁いてくれた彼が望む強い令嬢でありたかっただけよ。


 一拍おいたルークでしたが、直ぐさま笑みを浮かべました。

「めっちゃくちゃ格好良かった! やっぱアナはすげぇよ!」

 思わず笑ってしまいました。

 だけど、嬉しいよ。この世界線はお淑やかな令嬢からかけ離れていたけれど、貴方が望む姿であったのなら私は本望です。

「もう魔力切れは起こさないのですな? あれから五年以上が経過していますが……」

 今度はレグス団長様。

 火竜を討伐した折りには昏倒していた私ですけど、今となってはあと何発かは討てちゃいます。

「問題ありませんわ。私は絶対にリーフメルを守りたかった。ポゼウムを切り捨てる判断を下したのは私なのですから」

 どう急いでも間に合わなかった。しかし、派兵を取り止めるようセシルに進言したのは私です。

「いや、あの巨大な竜であれば、何万という兵を送り込もうが討伐できなかったでしょう。貴方様は犠牲を最小限に留めた。それは揺るぎない事実です」

「俺もそう思うぞ! あんなのアナにしか倒せねぇよ! ここで見てただけでも怖かったぞ!」

 地上より上空の方が威圧感が薄れたかもね。

 私は前に進むしかなかった。期待する人がいたのだから、背を向けるなんてできなかったのよ。

「簡単に倒したようで、割と苦労したのよ?」

「本当かぁ? たった二発で仕留めただろ?」

「あの間にも色々と遣り取りがあったんだって!」

 信じてもらえないでしょうね。巻き戻る時間に晒されている人たちには。

 私がどれだけ試行錯誤し、あの結末に導いたのかなんて。

「まあしかし、一つの街だけで済んで良かったですな? 失われた者たちには運がなかったのだと思います」

 モルディン大臣が話を締めるように割り込んだ。

 世界を滅ぼそうという魔王の使徒。今以上を望むなんて絶対に無理よ。

 だから祈るだけだわ。失われた者たちが迷うことなく天へと還ることができるように。

「そうですね。愛の女神アマンダも全てを平等に扱えるはずもないのですから」

 それは実感していること。あの駄女神が世界を治める限り、世界は完璧とはほど遠い。

 何しろ使徒である私にすら言葉足らずなんだもの。

「アナスタシア様、貴方様は英雄です! セントローゼス王国だけでなく、プロメティア世界を救った勇者様です!」

 セシルが声を上げた。初めて会ったときから同じ印象なのね。

 勇敢勇猛豪胆と私のイメージは攻略対象であった頃から一新されていない。

「セシル殿下、私は英雄でも勇者でもありませんわ。少しばかり魔法に覚えがあるだけです……」

 私にだって矜持がある。

 勇者や英雄だなんて称号は乙女ゲームに似つかわしくないんだもの。

 だから、失礼ですけれど、訂正させてください。


「私はただの悪役令嬢ですわ――」
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