369 / 377
最終章 世界に光を
悪役令嬢
しおりを挟む
黒竜は討伐できたと思います。
というのも、ロナ・メテオ・バーストを撃ち放った場所には本当に痕跡すら残っていないからです。
そこには巨大なクレーターが出来上がっていまして、そのうちに湖ができてしまうんじゃないかと思える大穴があるだけでした。
「リセットされないのだから、討伐できたはずよね?」
正直な感想は無理ゲー。プロメティア世界史にあるどのような英雄にも不可能でしょう。
私だってイセリナ時代があったからこそ倒せた。古代魔法の研究や魔法構築理論があったからこそ、世界を救えたのだと思います。
悠然とペガサスを操り、私は見守ってくれた人たちの元へと戻っていく。
「アナ! あれ何だよ!?」
ルークの第一声は期待と異なる。
私が撃ち放ったロナ・メテオ・バーストについて聞いたのでしょうが、非常に曖昧な問いでした。
「何だよって、古代魔法よ? 見たことあるでしょ?」
「いやいや、あんなに凄かったか!? ここまで突風が届いたし、立っていられなかったぞ!」
まあ確かに。私だって、その威力に驚愕したからね。
さしずめ真・ロナ・メテオ・バーストってとこかしら。
「アナスタシア様、貴方というお人は……。一部始終を記録しようと大量の魔力回復ポーションを用意していたのですが、一本も飲むことなく戦闘が終わってしまいましたね……」
割り込むようにしてモルディン大臣が言いました。
彼は記録魔法にて戦闘の全貌を記録しようと張り切っていたみたい。
死に戻りに関与していない彼らには、ものの五分でケリが付いたと思えていたことでしょう。
「巨大な黒竜を僅かな時間で消し去ってしまうなんて。議事会で映像を提出したとして、誰も信じないかもしれません」
それは困るね。実際には累計何ヶ月も私は戦っていたのに。
今回に限っては巻き戻る時間が裏目に出ています。
「別に認めてもらえなくても構わないです……」
世界を救った事実。ようやく私は二代に亘っての使命を果たせた。
オマケ的な陞爵を願って戦い続けたわけじゃないし。
私はルークを振り返ります。私が頑張れた理由は一つだけなのだと。
「カッコ良かった?」
それだけなんだ。期待するルークに私は応えたかっただけ。
何度も愛を囁いてくれた彼が望む強い令嬢でありたかっただけよ。
一拍おいたルークでしたが、直ぐさま笑みを浮かべました。
「めっちゃくちゃ格好良かった! やっぱアナはすげぇよ!」
思わず笑ってしまいました。
だけど、嬉しいよ。この世界線はお淑やかな令嬢からかけ離れていたけれど、貴方が望む姿であったのなら私は本望です。
「もう魔力切れは起こさないのですな? あれから五年以上が経過していますが……」
今度はレグス団長様。
火竜を討伐した折りには昏倒していた私ですけど、今となってはあと何発かは討てちゃいます。
「問題ありませんわ。私は絶対にリーフメルを守りたかった。ポゼウムを切り捨てる判断を下したのは私なのですから」
どう急いでも間に合わなかった。しかし、派兵を取り止めるようセシルに進言したのは私です。
「いや、あの巨大な竜であれば、何万という兵を送り込もうが討伐できなかったでしょう。貴方様は犠牲を最小限に留めた。それは揺るぎない事実です」
「俺もそう思うぞ! あんなのアナにしか倒せねぇよ! ここで見てただけでも怖かったぞ!」
地上より上空の方が威圧感が薄れたかもね。
私は前に進むしかなかった。期待する人がいたのだから、背を向けるなんてできなかったのよ。
「簡単に倒したようで、割と苦労したのよ?」
「本当かぁ? たった二発で仕留めただろ?」
「あの間にも色々と遣り取りがあったんだって!」
信じてもらえないでしょうね。巻き戻る時間に晒されている人たちには。
私がどれだけ試行錯誤し、あの結末に導いたのかなんて。
「まあしかし、一つの街だけで済んで良かったですな? 失われた者たちには運がなかったのだと思います」
モルディン大臣が話を締めるように割り込んだ。
世界を滅ぼそうという魔王の使徒。今以上を望むなんて絶対に無理よ。
だから祈るだけだわ。失われた者たちが迷うことなく天へと還ることができるように。
「そうですね。愛の女神アマンダも全てを平等に扱えるはずもないのですから」
それは実感していること。あの駄女神が世界を治める限り、世界は完璧とはほど遠い。
何しろ使徒である私にすら言葉足らずなんだもの。
「アナスタシア様、貴方様は英雄です! セントローゼス王国だけでなく、プロメティア世界を救った勇者様です!」
セシルが声を上げた。初めて会ったときから同じ印象なのね。
勇敢勇猛豪胆と私のイメージは攻略対象であった頃から一新されていない。
「セシル殿下、私は英雄でも勇者でもありませんわ。少しばかり魔法に覚えがあるだけです……」
私にだって矜持がある。
勇者や英雄だなんて称号は乙女ゲームに似つかわしくないんだもの。
だから、失礼ですけれど、訂正させてください。
「私はただの悪役令嬢ですわ――」
というのも、ロナ・メテオ・バーストを撃ち放った場所には本当に痕跡すら残っていないからです。
そこには巨大なクレーターが出来上がっていまして、そのうちに湖ができてしまうんじゃないかと思える大穴があるだけでした。
「リセットされないのだから、討伐できたはずよね?」
正直な感想は無理ゲー。プロメティア世界史にあるどのような英雄にも不可能でしょう。
私だってイセリナ時代があったからこそ倒せた。古代魔法の研究や魔法構築理論があったからこそ、世界を救えたのだと思います。
悠然とペガサスを操り、私は見守ってくれた人たちの元へと戻っていく。
「アナ! あれ何だよ!?」
ルークの第一声は期待と異なる。
私が撃ち放ったロナ・メテオ・バーストについて聞いたのでしょうが、非常に曖昧な問いでした。
「何だよって、古代魔法よ? 見たことあるでしょ?」
「いやいや、あんなに凄かったか!? ここまで突風が届いたし、立っていられなかったぞ!」
まあ確かに。私だって、その威力に驚愕したからね。
さしずめ真・ロナ・メテオ・バーストってとこかしら。
「アナスタシア様、貴方というお人は……。一部始終を記録しようと大量の魔力回復ポーションを用意していたのですが、一本も飲むことなく戦闘が終わってしまいましたね……」
割り込むようにしてモルディン大臣が言いました。
彼は記録魔法にて戦闘の全貌を記録しようと張り切っていたみたい。
死に戻りに関与していない彼らには、ものの五分でケリが付いたと思えていたことでしょう。
「巨大な黒竜を僅かな時間で消し去ってしまうなんて。議事会で映像を提出したとして、誰も信じないかもしれません」
それは困るね。実際には累計何ヶ月も私は戦っていたのに。
今回に限っては巻き戻る時間が裏目に出ています。
「別に認めてもらえなくても構わないです……」
世界を救った事実。ようやく私は二代に亘っての使命を果たせた。
オマケ的な陞爵を願って戦い続けたわけじゃないし。
私はルークを振り返ります。私が頑張れた理由は一つだけなのだと。
「カッコ良かった?」
それだけなんだ。期待するルークに私は応えたかっただけ。
何度も愛を囁いてくれた彼が望む強い令嬢でありたかっただけよ。
一拍おいたルークでしたが、直ぐさま笑みを浮かべました。
「めっちゃくちゃ格好良かった! やっぱアナはすげぇよ!」
思わず笑ってしまいました。
だけど、嬉しいよ。この世界線はお淑やかな令嬢からかけ離れていたけれど、貴方が望む姿であったのなら私は本望です。
「もう魔力切れは起こさないのですな? あれから五年以上が経過していますが……」
今度はレグス団長様。
火竜を討伐した折りには昏倒していた私ですけど、今となってはあと何発かは討てちゃいます。
「問題ありませんわ。私は絶対にリーフメルを守りたかった。ポゼウムを切り捨てる判断を下したのは私なのですから」
どう急いでも間に合わなかった。しかし、派兵を取り止めるようセシルに進言したのは私です。
「いや、あの巨大な竜であれば、何万という兵を送り込もうが討伐できなかったでしょう。貴方様は犠牲を最小限に留めた。それは揺るぎない事実です」
「俺もそう思うぞ! あんなのアナにしか倒せねぇよ! ここで見てただけでも怖かったぞ!」
地上より上空の方が威圧感が薄れたかもね。
私は前に進むしかなかった。期待する人がいたのだから、背を向けるなんてできなかったのよ。
「簡単に倒したようで、割と苦労したのよ?」
「本当かぁ? たった二発で仕留めただろ?」
「あの間にも色々と遣り取りがあったんだって!」
信じてもらえないでしょうね。巻き戻る時間に晒されている人たちには。
私がどれだけ試行錯誤し、あの結末に導いたのかなんて。
「まあしかし、一つの街だけで済んで良かったですな? 失われた者たちには運がなかったのだと思います」
モルディン大臣が話を締めるように割り込んだ。
世界を滅ぼそうという魔王の使徒。今以上を望むなんて絶対に無理よ。
だから祈るだけだわ。失われた者たちが迷うことなく天へと還ることができるように。
「そうですね。愛の女神アマンダも全てを平等に扱えるはずもないのですから」
それは実感していること。あの駄女神が世界を治める限り、世界は完璧とはほど遠い。
何しろ使徒である私にすら言葉足らずなんだもの。
「アナスタシア様、貴方様は英雄です! セントローゼス王国だけでなく、プロメティア世界を救った勇者様です!」
セシルが声を上げた。初めて会ったときから同じ印象なのね。
勇敢勇猛豪胆と私のイメージは攻略対象であった頃から一新されていない。
「セシル殿下、私は英雄でも勇者でもありませんわ。少しばかり魔法に覚えがあるだけです……」
私にだって矜持がある。
勇者や英雄だなんて称号は乙女ゲームに似つかわしくないんだもの。
だから、失礼ですけれど、訂正させてください。
「私はただの悪役令嬢ですわ――」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる