青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
362 / 377
最終章 世界に光を

廃プレイヤー

しおりを挟む
 長い時間をかけて愛を確かめ合った。

 私はルークに微笑んで、決意と感謝を述べる。

「黒竜は魔王を誕生させる災厄。私は世界を救って、幸せを手に入れるの」

 もう失いたくはない。

 許されぬ愛に気付いてから、前世をどれだけ悔やんだのか分かりません。

 しかし、あの時間を堪能していたのなら、此度の愛は存在しないのかも。

「待っていてね、ルーク……」

 先に謝っておくわ。

 この人生で最大の試練。恐らく何度も貴方は愛を囁き、私を抱きしめることになる。

 私が黒竜を討つ時までこの時間軸は繰り返されるのだから。


 ズシンズシンと地鳴りが聞こえている。

 ポゼウムを襲ったという黒竜が真っ直ぐにリーフメルへと向かっているのでしょう。

 まだ姿は見えませんが、黒竜は確実にリーフメルへと近付いているはず。

「さてと、行くわ」

「アナスタシア様、我々にできることはないのでしょうか?」

 モルディン大臣の話には首を振る。

 私だって一人で戦うのは怖いけれど、貴方たちにできることなど一つも存在しないのよ。

「祈りを。愛の女神アマンダに祈りを捧げてくださいな」

 ゴンドラと結ぶ鞍をペガサスから外し、私はそれに跨がっています。

「あ、あれが黒竜……ですか……?」

 ようやくと巨大な影が見えてきました。

 まるで死に神が纏う暗雲のようにも見える。

 地平線の彼方に現れた黒竜を見ると、流石にモルディン大臣も協力するなんて言葉を絞り出せないみたいね。

「世界に終焉を告げる者の使い。あれを倒さねば魔王が顕現します。プロメティア世界は滅びの直前まで来ているのです」

 言って私は飛び立つ。無駄話している場合ではないと。

 一度きりの戦闘で勝てるはずもありません。これよりこの時間軸は永遠にも思える時間を繰り返すのですから。


 空に上がると雲行きが怪しくなってきました。雨が降るのかもしれない。

 隣を飛ぶマリィも、雲の流れを気にしている感じ。

「マリィ、貴方は何もしなくて良いわ」

「がぁぁ?」

 本当に分かってるのかな。

 アンジェラは二頭の幼竜をおびき寄せる餌としていましたが、此度はリーフメルへと向かっていますのでマリィの出番はなさそうです。

「ねぇ、マリィ。貴方って私が火竜の聖女だと分かっているのよね?」

「がぁぁっ」

 問いかけようと返事があるだけ。

 せめて言葉を操れたなら意思疎通ができるのですけど、生憎とマリィは返事の内容まで口にできません。

「ま、恐らくマリィは火竜の聖女の面影を私に投影してる。産まれた瞬間に魂の記憶と重なって見えたはず。でもなければ、十二歳の少女に付き従うはずもないわね」

 私は一人じゃない。マリィが側にいる。

 それだけで心を強く持てそうな気がしていました。

 みるみるうちに迫ってくる巨大な竜の影。まだ距離があるというのに、想像を絶する大きさでした。

「これはヤバいわ。トイレ済ませていないのに……」

 不意に頬を雨が濡らした。

 恐怖まで洗い流してくれたら助かるね。あとお漏らししちゃっても分からないのは有り難いかも。

「さあ、やってやるわよ!」

 気持ちを切り替える。

 リセットは織り込み済み。私は絶対に諦めない。

 黒竜を倒したその先にしかハッピーエンドがないのだから、諦めてしまったアンジェラとは違う。

 思えばアンジェラは既に幸せを手にしていました。だからこそ、最後の最後まで足掻けなかったのよ。

「ヌルいプレイしてたのね。私のご先祖様は……」

 何だか笑っちゃうわ。アルティメットモードを選んだのなら、難易度に応じた時間が必要なのよ。

 百回で駄目なら千回。一万回だってリスタートしてやる気概がないとね。

「廃プレイヤーを舐めんじゃないわ!」

 やってやろうじゃん。リセット再プレイはゲーマーの基本なのよ。

 フラグを全回収するまで、私は戦うと決めた。

 黒竜の精神力が尽きるまで、付き合ってあげるわ。

 私は誰にも負けないのよ。

 選ばれしBlueRoseの廃プレイヤーなのだから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...