青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十五章 世界と君のために

副都リーフメルにて

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 リックと話を付けたあと、私はリーフメルへと飛んでいました。

 王家のペガサスは今日も元気一杯です。例によってドレスが棚引いていますけど、流石にゴンドラを借りるなんてできませんのでしょうがありません。

「がぁぁっ!」

「マリィ、もうお腹が空いたの?」

 昨日からずっと飛んでいるマリィは燃料切れみたい。

 肥満解消にと連れてきたけれど、いつも以上に食べているので痩せたとは思えないですね。

 抱えると彼女の成長を実感します。ズシリと重たい。ペガサスのスピードが思わず落ちてしまうくらいには。

「食べながら飛べないの?」

「がぁあああ!」

 通じているのか不明だわ。

 今も股の間へと鎮座する彼女は、もくもくとお肉を頬張っているのですから。

 ピークレンジ山脈に沿って飛び続ける。雄大な山々のどこかに黒竜が封印されていると知っているのは私だけなのですね。

「まさか、かつての巨悪が眠ってるなんて誰も思わないよね」

 火竜の聖女伝説の嘘。実際はまだこの山脈のどこかに黒竜がいる。

 一見、長閑にも見える景色だって、破滅と背中合わせであったりするみたい。

 数時間の旅。ペガサスには重労働となってしまいましたが、私は副都リーフメルへとやって来ました。

 思えば、メルヴィス公爵と面会したのが最後。宣戦布告をしようと立ち寄ったことしかありません。

 とりあえずリーフメル城の城門前でペガサスを降ろし、私は入城許可をもらいます。

「アナスタシア様、お待ちしておりました」

 領主自ら出迎えてくれました。

 正式に領主となったことで、セシルにも威厳が芽生えてきたようにも感じます。

「お似合いですよ? 今日は正装されたまま街へ向かうのでしょうか?」

「そうなります。クルセイドでもお祭りをしたそうですね?」

 耳が早いことで。どうやらクルセイドの情報は筒抜けみたいです。

「流石にリーフメルだけでできませんよ。嫉妬されちゃいます」

 アハハハとセシルは乾いた笑い声を上げています。

 自領で行わないお祭りをリーフメルだけでするとなったら、子爵邸に文句を言う行列ができちゃうもの。


 王子殿下が現れたとなっては副都といえども大騒ぎです。更なる混乱を招くことになりかねませんけれど、私は噴水のある広場で声を張りました。

「皆様、アナスタシア・スカーレットと申します! 本日はお隣の領地へ引っ越したご挨拶として、住民の方々にお土産を持参しております!」

 言って私はアイテムボックスから大量のお酒を取りだしています。

 全て我が所領エスフォレストの名産品。宣伝も兼ねて持参しているのです。

「更には食料を扱う全ての店主様、私が全て買い取らせていただきます! 材料が尽きるまで無料で提供してくださいな!」

 王都ルナレイクのときと同じです。

 私は食料だけでなく、レストランや雑貨店、武具屋に至るまでお金を落とすつもりで声をかけました。

 思わぬ話に住民たちは歓喜の声を上げる。

 しかし、セシルが話し出すと、一転して静まり返っています。

 拡声魔法により、届けられるセシルの肉声。初めて聞く人が大多数であったことでしょう。

 この地の統治者となった彼の言葉に全員が耳を傾けていました。

「セシル・ルミナス・セントローゼスです! アナスタシア様が仰ったように、本日はお祭りとします! 王家も出資いたしますので、どうぞ皆様楽しんでください!」

 身なりは少しくらい威厳がでてきたのですけど、やはりセシルはセシルですね。

 私に敬称を付けたり、住民を敬う言葉が混ざり込んでいます。

 かといって、リーフメルは大騒ぎとなっていました。私の破天荒な行動に慣れているルナレイクの住民とは異なり、想像よりも羽目を外しています。

「暴れるのは禁止! 喧嘩も駄目! 仲良く楽しみなさい!」

 こうなると実力行使です。

 私は手当たり次第に喧嘩の仲裁をし、暴徒と化した住民を片っ端から引っ捕らえていく。

 朝っぱらから酔っ払うのに慣れていないのか、制止した私に剣を抜く者まで現れています。

「アナスタシア様!?」

 セシルが声をかけてくれましたが、もちろん私も気付いていますよ。

 それに私のドレスは全て特注品なの。即座にナイフが抜けるようになっています。

「殿下、余興として楽しんでもらいましょうか!」

 言って私はナイフを抜く。

 殺すつもりはないけれど、お祭り騒ぎの一環として剣戟を披露しようかと。

 だからこそ、注目を浴びるかのように声を張っています。

「さあ、遠慮なくかかってきなさい!!」
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