349 / 377
第十五章 世界と君のために
副都リーフメルにて
しおりを挟む
リックと話を付けたあと、私はリーフメルへと飛んでいました。
王家のペガサスは今日も元気一杯です。例によってドレスが棚引いていますけど、流石にゴンドラを借りるなんてできませんのでしょうがありません。
「がぁぁっ!」
「マリィ、もうお腹が空いたの?」
昨日からずっと飛んでいるマリィは燃料切れみたい。
肥満解消にと連れてきたけれど、いつも以上に食べているので痩せたとは思えないですね。
抱えると彼女の成長を実感します。ズシリと重たい。ペガサスのスピードが思わず落ちてしまうくらいには。
「食べながら飛べないの?」
「がぁあああ!」
通じているのか不明だわ。
今も股の間へと鎮座する彼女は、もくもくとお肉を頬張っているのですから。
ピークレンジ山脈に沿って飛び続ける。雄大な山々のどこかに黒竜が封印されていると知っているのは私だけなのですね。
「まさか、かつての巨悪が眠ってるなんて誰も思わないよね」
火竜の聖女伝説の嘘。実際はまだこの山脈のどこかに黒竜がいる。
一見、長閑にも見える景色だって、破滅と背中合わせであったりするみたい。
数時間の旅。ペガサスには重労働となってしまいましたが、私は副都リーフメルへとやって来ました。
思えば、メルヴィス公爵と面会したのが最後。宣戦布告をしようと立ち寄ったことしかありません。
とりあえずリーフメル城の城門前でペガサスを降ろし、私は入城許可をもらいます。
「アナスタシア様、お待ちしておりました」
領主自ら出迎えてくれました。
正式に領主となったことで、セシルにも威厳が芽生えてきたようにも感じます。
「お似合いですよ? 今日は正装されたまま街へ向かうのでしょうか?」
「そうなります。クルセイドでもお祭りをしたそうですね?」
耳が早いことで。どうやらクルセイドの情報は筒抜けみたいです。
「流石にリーフメルだけでできませんよ。嫉妬されちゃいます」
アハハハとセシルは乾いた笑い声を上げています。
自領で行わないお祭りをリーフメルだけでするとなったら、子爵邸に文句を言う行列ができちゃうもの。
王子殿下が現れたとなっては副都といえども大騒ぎです。更なる混乱を招くことになりかねませんけれど、私は噴水のある広場で声を張りました。
「皆様、アナスタシア・スカーレットと申します! 本日はお隣の領地へ引っ越したご挨拶として、住民の方々にお土産を持参しております!」
言って私はアイテムボックスから大量のお酒を取りだしています。
全て我が所領エスフォレストの名産品。宣伝も兼ねて持参しているのです。
「更には食料を扱う全ての店主様、私が全て買い取らせていただきます! 材料が尽きるまで無料で提供してくださいな!」
王都ルナレイクのときと同じです。
私は食料だけでなく、レストランや雑貨店、武具屋に至るまでお金を落とすつもりで声をかけました。
思わぬ話に住民たちは歓喜の声を上げる。
しかし、セシルが話し出すと、一転して静まり返っています。
拡声魔法により、届けられるセシルの肉声。初めて聞く人が大多数であったことでしょう。
この地の統治者となった彼の言葉に全員が耳を傾けていました。
「セシル・ルミナス・セントローゼスです! アナスタシア様が仰ったように、本日はお祭りとします! 王家も出資いたしますので、どうぞ皆様楽しんでください!」
身なりは少しくらい威厳がでてきたのですけど、やはりセシルはセシルですね。
私に敬称を付けたり、住民を敬う言葉が混ざり込んでいます。
かといって、リーフメルは大騒ぎとなっていました。私の破天荒な行動に慣れているルナレイクの住民とは異なり、想像よりも羽目を外しています。
「暴れるのは禁止! 喧嘩も駄目! 仲良く楽しみなさい!」
こうなると実力行使です。
私は手当たり次第に喧嘩の仲裁をし、暴徒と化した住民を片っ端から引っ捕らえていく。
朝っぱらから酔っ払うのに慣れていないのか、制止した私に剣を抜く者まで現れています。
「アナスタシア様!?」
セシルが声をかけてくれましたが、もちろん私も気付いていますよ。
それに私のドレスは全て特注品なの。即座にナイフが抜けるようになっています。
「殿下、余興として楽しんでもらいましょうか!」
言って私はナイフを抜く。
殺すつもりはないけれど、お祭り騒ぎの一環として剣戟を披露しようかと。
だからこそ、注目を浴びるかのように声を張っています。
「さあ、遠慮なくかかってきなさい!!」
王家のペガサスは今日も元気一杯です。例によってドレスが棚引いていますけど、流石にゴンドラを借りるなんてできませんのでしょうがありません。
「がぁぁっ!」
「マリィ、もうお腹が空いたの?」
昨日からずっと飛んでいるマリィは燃料切れみたい。
肥満解消にと連れてきたけれど、いつも以上に食べているので痩せたとは思えないですね。
抱えると彼女の成長を実感します。ズシリと重たい。ペガサスのスピードが思わず落ちてしまうくらいには。
「食べながら飛べないの?」
「がぁあああ!」
通じているのか不明だわ。
今も股の間へと鎮座する彼女は、もくもくとお肉を頬張っているのですから。
ピークレンジ山脈に沿って飛び続ける。雄大な山々のどこかに黒竜が封印されていると知っているのは私だけなのですね。
「まさか、かつての巨悪が眠ってるなんて誰も思わないよね」
火竜の聖女伝説の嘘。実際はまだこの山脈のどこかに黒竜がいる。
一見、長閑にも見える景色だって、破滅と背中合わせであったりするみたい。
数時間の旅。ペガサスには重労働となってしまいましたが、私は副都リーフメルへとやって来ました。
思えば、メルヴィス公爵と面会したのが最後。宣戦布告をしようと立ち寄ったことしかありません。
とりあえずリーフメル城の城門前でペガサスを降ろし、私は入城許可をもらいます。
「アナスタシア様、お待ちしておりました」
領主自ら出迎えてくれました。
正式に領主となったことで、セシルにも威厳が芽生えてきたようにも感じます。
「お似合いですよ? 今日は正装されたまま街へ向かうのでしょうか?」
「そうなります。クルセイドでもお祭りをしたそうですね?」
耳が早いことで。どうやらクルセイドの情報は筒抜けみたいです。
「流石にリーフメルだけでできませんよ。嫉妬されちゃいます」
アハハハとセシルは乾いた笑い声を上げています。
自領で行わないお祭りをリーフメルだけでするとなったら、子爵邸に文句を言う行列ができちゃうもの。
王子殿下が現れたとなっては副都といえども大騒ぎです。更なる混乱を招くことになりかねませんけれど、私は噴水のある広場で声を張りました。
「皆様、アナスタシア・スカーレットと申します! 本日はお隣の領地へ引っ越したご挨拶として、住民の方々にお土産を持参しております!」
言って私はアイテムボックスから大量のお酒を取りだしています。
全て我が所領エスフォレストの名産品。宣伝も兼ねて持参しているのです。
「更には食料を扱う全ての店主様、私が全て買い取らせていただきます! 材料が尽きるまで無料で提供してくださいな!」
王都ルナレイクのときと同じです。
私は食料だけでなく、レストランや雑貨店、武具屋に至るまでお金を落とすつもりで声をかけました。
思わぬ話に住民たちは歓喜の声を上げる。
しかし、セシルが話し出すと、一転して静まり返っています。
拡声魔法により、届けられるセシルの肉声。初めて聞く人が大多数であったことでしょう。
この地の統治者となった彼の言葉に全員が耳を傾けていました。
「セシル・ルミナス・セントローゼスです! アナスタシア様が仰ったように、本日はお祭りとします! 王家も出資いたしますので、どうぞ皆様楽しんでください!」
身なりは少しくらい威厳がでてきたのですけど、やはりセシルはセシルですね。
私に敬称を付けたり、住民を敬う言葉が混ざり込んでいます。
かといって、リーフメルは大騒ぎとなっていました。私の破天荒な行動に慣れているルナレイクの住民とは異なり、想像よりも羽目を外しています。
「暴れるのは禁止! 喧嘩も駄目! 仲良く楽しみなさい!」
こうなると実力行使です。
私は手当たり次第に喧嘩の仲裁をし、暴徒と化した住民を片っ端から引っ捕らえていく。
朝っぱらから酔っ払うのに慣れていないのか、制止した私に剣を抜く者まで現れています。
「アナスタシア様!?」
セシルが声をかけてくれましたが、もちろん私も気付いていますよ。
それに私のドレスは全て特注品なの。即座にナイフが抜けるようになっています。
「殿下、余興として楽しんでもらいましょうか!」
言って私はナイフを抜く。
殺すつもりはないけれど、お祭り騒ぎの一環として剣戟を披露しようかと。
だからこそ、注目を浴びるかのように声を張っています。
「さあ、遠慮なくかかってきなさい!!」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる