青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
347 / 377
第十五章 世界と君のために

愛こそが……

しおりを挟む
 翌朝、朝食を取ったあと、リーフメルへと向かう準備をしていました。

 着替えが終わった頃にリックがやって来ています。

「アナスタシア様、王都から議事会の出欠確認書が届いておりますが?」

 意外な話でしたが、私は理解してもいます。

「来たわね……」

「ご存じなのですか? まぁた上位貴族を廃爵に追い込もうとしているのでしょうか?」

 失礼しちゃうわね。私は敵対していない者にまで突っかからないわ。

 無差別に攻撃するほど暇じゃなくてよ?

「それは査問会じゃないの。ルーク殿下の婚約破棄について話し合う場でしょう。加えてセシル殿下の婚約についても議論されるかもしれません」

「婚約破棄ですか? 急な話なのですね」

 まあ北部にまで届いていないかもだけど、上位貴族にはそれとなく情報が漏れているはずよ。

「別に急な話でもないわ。私も一枚噛んでいるし……」

 一枚どころか全部かもしれない。

 私はここも利己的に自身の望みを優先させたのよ。

「アナスタシア様が関わっているということは、ひょっとしてルーク殿下を?」

 頭の回転が速いわね。

 まあでも、その通り。私が割り込んだことで、イセリナが婚約破棄されるのよ。

「その方向だけど、私は子爵だからね。立場的な問題がある。それに婚約破棄は私が口を出さずとも進んでいたわ」

「ああ、無自覚な人たらしですもんね?」

 この男は……。

 契約を結んでいるというのに、色々と主人の悪口を言いすぎだわ。心臓が破裂したって知らないからね。

「私は人たらしじゃないって……」

 そういえば、どうしてルークは私を選んだのだろう。

 アンジェラの日記によれば、呪印により惹かれ合うはず。

 でも、ルークは私を選んで、セシルはイセリナを選んでいる。

(呪印の効果は……?)

 前世界線ではセシルとエリカが結ばれた。

 それ以前はルークとエリカが何度時間を巻き戻しても魔王を降臨させてしまうと聞いている。

 だから、呪印の効果がないはずもありません。

(呪印を上回るものがあって、効果を阻害しているの?)

 そうとしか思えないね。呪印の効果が抗えないほど強力なものであれば必ず結びつくはずだし。

 そもそも何千年も経過する前に魔王が誕生しているはずよ。

(だとしたら……)

 何となく分かった気がする。

 強い力。世界を動かす力。闇の存在にも干渉できない世界を照らす力について。

(それは愛なのかもしれない)

 愛こそが光ではないだろうか。闇に対抗する手段ではないのかと。

 愛の女神は世界を誘っている。使徒である私でさえも。

(溺れてなどいないか……)

 今になって天界での言葉が身に染みる。

 確かに私は愛に溺れていなかった。求められるがままに身を任せていただけ。

 向けられる愛を受け止めることなく、受け流していたのよ。

 何だか笑っちゃうわ。

 高宮千紗とイセリナ・イグニス・ランカスタの人生を費やしたとして、私は愛に気付かなかったなんて。

(本当にどうしようもない喪女だったわ……)

 二度の転生機会を与えられて、ようやく理解できた。

 何よりも手に入れたい愛というものを。

(分かったわよ、愛の女神アマンダ……)

 この人生では期待に応えてあげる。

 私の愛がどれほどのものか見てなさい。

 息することすら叶わぬ愛の澱みへ沈んであげるわ……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...