青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十五章 世界と君のために

呪印

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『巨悪の種は惹かれ合う。あの男と結ばれてはならない』


 ゴクリと息を呑んだ。

 私は呪印の関係性だけでなく、問題の根幹に気付かされていました。

「魔王因子は異なる二つの呪印が重なることで発現する……?」

 そうとしか考えられない。

 雄と雌と仮定するならば、その二つが交わることが発現する条件ではないかと。

「もし仮に第一王子と第三王子が呪印を受け継いでいたのなら……」

 この推測は恐らく間違いない。

 何しろ私はルークの痣について心当たりがある。

 呪印だなんて思わなかったけれど、毎晩のように抱かれた私は知っています。

「エリカに惹かれるのは必然なのね。でも、どうしてセシルと結ばれたエリカの血筋はひ孫まで発現しなかったの?」

 疑問を感じて直ぐに自己解決。

 雄と雌が交わることがキーであったとして、産まれ落ちるまでの時間が必要だと思う。

 何千年という超長期間の計画において、二代や三代の遅れは誤差の範囲に違いない。

「セシルにも呪印があるのは確実か……」

 思えば、平民出身のエリカが大した問題もなく王子殿下の婚約者となれたのは呪印により惹かれ合っていたのだと感じます。ただ魔王を誕生させるためだけに。

 私は気になる日記の続きを読むことにしました。


『戦うことはやめよう。もしも戦闘が呪印の拡散に繋がるのであれば、戦うべきではない。好戦的な黒竜が媒体に選ばれたのはそれが理由であったはず』


 アンジェラ・ローズマリーは戦いを選ばないらしい。

 ただし、逃げるわけでもないように思えます。


『世界のために滅びるのも悪くない。エルドア王国は今日で終わりだ。悪く思わないでくれ、恐らく世界はセントローゼスの輝きによって照らされるだろう。我らはその贄となり、世界の礎として消え去るのみ』


「うそ? 戦うことをやめるって、味方を全滅させるつもり!?」

 呪印を広めないためであれば、誰も生きてはいられないと思います。

 恐らくアンジェラはエルドア王国を裏切ると決めたのでしょう。現世に残る言い伝え通りに。


『歴史は英雄により刻まれるもの。セントローゼスは英雄として遜色ないだろう。エルドアに代わる施政者として、かつて双子月の片割れが沈んだという湖の街に光をもたらせてくれ。願わくばいつの日か私の嘘を真実に書き換えてもらえると嬉しい。セントローゼスが巨悪を討つことを楽しみにしている。さあ、行こうか。ルナレイク王城を壊滅させよう……』


 死地へ向かう者の決意でした。

 間違っても日記じゃない。

 最後にアンジェラはこう記しています。


『私は後世まで名が轟く悪になってやろう――』


 以降はページが進まない。

 日記はこれが本当に最後の文面だと思えます。

 恐らくアンジェラはかつて存在した王城を壊滅させたはず。そのあとで自害を選んだのではないでしょうか。

「とても重い……話だね」

 私は嘆息していました。

 セントローゼス王家の秘密を知ろうとした結果なのですが、喜ばしい内容はありません。

「あれ……?」

 私は疑問を覚えています。

 アンジェラが書き記した一文について。

『セントローゼスが巨悪を討つことを楽しみにしている』

 どういうことだろう?

 黒竜はアンジェラが封印をし、術式は埋められたはずなのに。

「光属性が鍵なのかしら?」

 現状の王家はルミナスというミドルネームにあるような光属性を誰も持っていない。

 光属性の所有者は少なく、代を重ねるごとにその血は薄まっていったのかもしれません。

「私とエリカだけ……」

 悪を討つ力が光属性の所有者にあるのならば、現状では主人公エリカと転生者の私だけです。

「期待しているってことはアンジェラは結論に行き着いている……」

 そうとしか思えない。

 私が抱える問題の解決策であるとしか考えられませんでした。

「黒竜を倒したなら呪いが解ける……」

 封印した黒竜の討伐を望む理由はそれしかない。

 長く停滞し続けるプロメティア世界のギアが再び動き始めるはず。

 それが唯一の鍵だ。それ以外で時間を進めたとしても、いずれギアは錆び付き、再び時間は止まってしまう。

 唯一無二の解答をアンジェラは示していました。

「倒せるの?」

 問題はその一点。愛の女神アマンダは絶対に諦めている。

 私を召喚した時点で、彼女は討伐を視野にいれていない。

 急場しのぎの介入によって、魔王因子を発現させぬようにしているだけだもの。

「ま、どこに封印されたのかも分からないし、何より隠されている。討伐はアマンダが考えるように無理なのかも」

 エリカには討伐を約束したけれど、実際はそれほど簡単じゃないね。

 封印された場所も分からないし、何よりアンジェラは封印陣を隠してしまったんだ。

 再び天界がコンタクトを取らないのであれば、私は動きようがありません。

 でも、その時が来たのなら必ず……。
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