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第十五章 世界と君のために

気高き信念

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 えっとマジですか?

 この人は言い出したら聞かないからな。

「私はエリカに会おうとしているだけだよ?」

「光の聖女? 問題ありませんわ!」

 何が問題ないんだか。

 まあしかし、イセリナがいると王宮殿に入りやすいのも事実です。

「じゃあ、一緒に行こうか」

 どうせ闇に呑まれるかどうかのテスト。

 リスタートはどこになるのか分からなかったけれど、試さずにはいられません。


 私たちは二人して王宮殿へと向かう。

 流石にイセリナは顔パスで通過し、私も彼女の後をついていく。これだけでもイセリナを同行させた意味があるってものよね。

 私は迷うことなくシャルロットの自室へと到着し、ノックをするとエリカが扉を開いてくれました。

「アナスタシア様!? それにイセリナ様まで!?」

「入ってもいい? 少し話がしたくて……」

 拒否されても入るだけ。どうせシャルロットは入学試験などないのだし、少しくらいは問題ないでしょう。

 ずかずかと入り込み、とりあえず呆然とするシャルロットに礼をします。

「殿下、少しばかりお時間をくださいな。込み入った話があるのです」

「構いません。アナスタシアさま、お久しぶりですわ」

 いつまでも子供だと考えていましたが、シャルロットもしっかりしてきたように感じます。

「それでエリカ、私は貴方の夢を応援すると言ったのだけど、それは困難な状況になっています」

 心苦しい話だけど、避けて通れない。私はエリカと約束したのだし。

「どうして……です……?」

「予知をしました。貴方と王家の血が混ざると、良くないものを喚び寄せてしまうの」

 まだリセットはされていない。

 明らかに私はエリカを誘導していたというのに。

「良くないもの……ですか?」

 私は隠すことなく告げる。ありのままを伝えるだけだわ。

「魔王が顕現する――」

 流石に全員が絶句しています。

 プロメティア世界には魔王という伝承があったりしますけれど、それは魔物の王という意味でしかありません。

「アナ、貴方なにを……?」

「ここだけの話にしてね……」

 扉に防音術式と施錠魔法を施したあと、エリカのドレスを縛る紐を解く。

「ちょっと、アナスタシア様!?」

「暴れないで。誰も入ってこないようにしたから」

 男性はいないので気にしない。ここにいる三人にも分かるように説明するだけよ。

 私はエリカを下着姿にして、身体を確認します。

「これよ……」

 脇腹にありました。

 魔法陣にも見える呪印が。

「この痣ですか? 昔からあったのですけれど……」

「これは呪印。かつて火竜の聖女アンジェラ・ローズマリーが受けた黒竜の呪印をエリカは引き継いでしまっている……」

 急に始まったお伽話のような内容に三人共が小首を傾げています。

「エリカ、貴方は火竜の聖女アンジェラ・ローズマリーの子孫。正当な聖女の後継者です」

 アマンダの意図が今も分からない。

 何しろ私はここまで口にしているというのに、リセットされていないのですから。

「いやでも、私が……?」

「この呪印はアンジェラにもあったの。巨悪という黒竜と戦った折り、彼女は呪われたみたい。それは魔王因子。魔王が顕現するための呪いよ……」

 もう確信している。

 愛の女神アマンダは知っていたのだと。

 私が首を突っ込まぬように、敢えて事実と異なる内容を口にしていた。

 エリカの死がリセットの原因であることを考えると、世界にとってエリカが重要な存在だと分かる。魔王因子を持っていたとして、火竜の聖女の血を引く彼女が失われてはいけないのでしょう。

(何となく分かった気がする……)

 要は私を過小評価していたんだ。

 アマンダは世界線を進めることを重視しただけ。消極的な回避策によって。

(エリカと関われば呪印に気付く。だからこそ、近寄らせないようにした。この世界の真理へと私が到達しないように)

 プロメティア世界には絶対悪が存在する。

 アマンダは分かっていながら対処していない。私には勝てないと考えていたから。

 でもなければ、ゲーマーOLなんか召喚しないわ。巨悪を討つ、或いは討てるのなら勇者でも召喚しているでしょうし。

(巨悪とか笑わせる。私を誰だと思ってんの?)

 アマンダの思惑通りになんか動くもんか。私は自分が信じる道を行く。

「エリカ、前言は撤回します。私は貴方を救うと決めたわ」

 恐らく解決策がある。

 それは黒竜の討伐。呪いの根幹を輪廻に還せば、プロメティア世界の懸念は払拭されるはずよ。

「アナスタシア様……?」

「ちょうど暇になったからね。貴方に呪いをかけた黒竜を退治してくるわ」

 真面目な話であったのだけど、パチパチという拍手が聞こえました。

 それは聞いているだけだったシャルロット殿下。今の話を理解したとは思えないのですけれど。

「流石はわたくしのお姉様になるお方です! ドラゴンスレイヤーは今も顕在なのですね!」

 そいや、幼いながらもシャルロットは五年前の晩餐会に参加していたのよね。

 まあしかし、お姉様。悪くない響きだわ。

「シャルロット殿下、残念ながらドラゴンスレイヤーなどではありませんわ……」

 火竜二頭を蹂躙したのですから、間違いではないけどね。

 だけど、私は信念ともいうべき身の有りようを口にしています。

「如何なる悪をも呑み込む悪役令嬢ですわ――」
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