341 / 377
第十五章 世界と君のために
バカ騒ぎ
しおりを挟む
クレアフィール公爵家から巻き上げたお金。白金貨千枚は私の生活を格段に向上させることでしょう。
加えて追加分の白金貨千枚は借款を交わしたので、クレアフィール公爵家は白金貨六十枚を二十年に亘って支払い続けることになります。
「もうクレアフィール公爵家は動けないはず。向こう二十年は余裕すらなくなったのだし」
親友を断頭台に乗せた罰。私を怒らせた罪はこの世界で何よりも重いの。
「とりま、あぶく銭は散財と相場が決まっているわね……」
私は思い出していました。
断頭台での記憶。集まった住人たちは全員が私の処刑に反対であったことを。
「味方には利益の還元が必要だわ」
彼らは権力に反発して声を上げてくれた。
結果として処刑を取りやめにはできなかったけれど、それでも私は嬉しく思う。
そうと決まれば実行あるのみ。私は早朝から王都ルナレイクの街へと向かっています。
行き交う人たち。すれ違うや、皆が私に声をかけてくれる。
誰も身分など気にしない。敬うような態度を私が望んでいないと知っているから。
「全ての商店主たちよ、集まりなさい! とっても良いお話がございますの!」
私は拡声魔法を使って、ルナレイク中に呼びかけた。
これから始まるお祭りは断罪回避の大祝賀会となるのだと。
しばらくして、私の呼びかけに応じた商店主たちが広場に集まってきました。加えて一般の市民たちも何事だろうと足を運んでいます。
「食品関係は私が全て買い取ります! 材料が尽きるまで無料で市民たちに提供してくださいな! 食品以外の商店主たち、貴方たちは大通りの飾り付けを始めなさい! お店にあるものや買ってきたものでも構わないわ。費用は全て私が持ちますから、お祭りに相応しい飾り付けをお願いします!」
私は声を大にして言い放つ。本日催される行事について。
「今日はルナレイク中で大騒ぎしましょう! アナスタシア・スカーレットの奢りだから!」
私の声に住民たちは歓喜の声を上げる。口々に私の名を呼び、幸せそうな顔を向けていた。
でも感謝される覚えはないわ。私こそ貴方たちに謝意を。
再び立ち上がれたのは全て貴方たちが味方してくれたからよ。
「一日中、馬鹿騒ぎよ! 商店主以外にも不要な物があれば、私が言い値で買い取ってあげる! ボロ雑巾でも割れた陶器でも何でも持って来なさい!」
たとえ白金貨千枚が尽きようと構わない。
可能な限り、還元してあげるわ。流石に白金貨千枚はなくならないだろうけど。
声かけをしたあとは本当にお祭り騒ぎでした。
先に商店主へ費用を分配したことは、冗談ではなく本気なのだと理解するに充分な出来事。私が散財しようとしていることを住民たちは理解してくれました。
商店では食事も飲み物も全て無料で提供され、指示していない武具屋や雑貨屋まで半額セールとか始めています。
「皆様、楽しむのは大いに結構! ですが、絶対に街を汚さないこと! ゴミは指定の場所に捨てるか、持ち帰ってください! 街を汚すと火竜の聖女が罰を与えますからね!」
あとで清掃が必要にならないように、拡声魔法で知らせます。
ま、彼らは言われずともゴミを出さないでしょうけれど。
「身分に関係なく、無料で提供してよね! この街に住む人々、たとえ旅人であろうとも。費用は全て私持ち! さあ、盛り上がっていきましょう!」
遂には旅芸人たちまで広場に集まっていました。
この騒ぎに便乗しようと、街の至る所で楽器が鳴り響き、皆で合唱なども始まっています。
予想以上の盛り上がり。湯水のように金貨がなくなっていきますけれど、全く問題ありません。
参加した全員が楽しめたのなら、私はそれで良かったのです。
早朝から始まったお祭りでしたが、お昼を過ぎて品切れのお店が続出しています。
依然として楽団や大道芸人たちは盛り上げてくれているのですが、一応は落ち着きを取り戻してきた感じです。
「大成功だね!」
皆の幸せそうな顔を見ると、勢いで実行して良かったと思える。
穢れたお金を純粋な笑顔に変換できるのであれば、今後も開催してみたいとも。
私がベンチに腰掛けていると、
「アナスタシア様、これは一体どういう騒ぎなのです?」
ふと声をかけられていました。
視線を向けると、そこには近衛兵を引き連れたセシルの姿がありました。
流石に馬鹿騒ぎし過ぎたのかしらね。王子殿下までもが様子を見に来るなんて。
えっと、言い訳はどうしよう。
間違ってもダルハウジー侯爵家の廃爵を祝っているなんて言えないし。
「お祭りですわ。ちょっとした収入がありましたので、住民たちに還元しておりますの。幸せそうな顔を見てくださいな。私はお金を出しただけですけれど、全員が協力をしてこの幸せを形作っているのです」
ちょっとした収入というには大金過ぎますけどね。
まあでも、嘘は言っていない。存在しなかったお金を住民に還元しているだけなんだもの。
「お祭りですか? 面白そうですね」
「一緒に見て回りますか? 商店主様がとっても綺麗に飾り付けをしてくださったのです」
私はセシルを案内していく。
王子殿下が食べるには憚られる出店の串焼きや、無料で配布しているお酒を手渡しながら。
「アナスタシア様、もうお腹一杯です! しかし、楽しいですね? 僕の所領でも同じようにして欲しいと思います」
そういや、セシルは副都リーフメルの領主になったのだっけ。
事実上、王太子選に敗北した彼は北の大地を取り纏める役割を与えられていました。
「あ、えっと、色々と済みません……」
明らかに私のせいだもの。謝罪せずにはいられません。
セシルを唯一担いでいたメルヴィス公爵家を私は廃爵としてしまったのですから。
「いえいえ! そもそも王太子となる器ではなかったのですよ。イセリナ様もアナスタシア様の所領の隣に住めることを喜んでおられますし」
もうそんなところまで話が進んでいるのね。
当然、あのぐうたら姫様は喜ぶでしょう。王太子妃という重責から逃れられ、尚且つ専属の侍女が直ぐ隣の街を治めているのですから。
「では、リーフメルでも同様の馬鹿騒ぎをしましょうか! 殿下の就任祝いとして!」
「それは嬉しいです! 来週、初めてリーフメルに行くのですよ。そのときにでもお願いできますか?」
「お任せあれ! 私も北部地域の皆様に挨拶がしたいですし、一石二鳥ですね!」
ひょんなことでお祭りの約束ができてしまいました。
本日の散財でも白金貨一枚には遠く及びません。何日でも開催できちゃうわよ?
きっとリーフメルの住民たちもセシルを歓待してくれるわ。私は前施政者を追い払った悪者だけど、セシル自身は何も関係していないのだし。
思わぬ約束に私は少しばかり楽しくなっていました。
私自身もリーフメルの人たちと分かり合えるかもしれないと。
加えて追加分の白金貨千枚は借款を交わしたので、クレアフィール公爵家は白金貨六十枚を二十年に亘って支払い続けることになります。
「もうクレアフィール公爵家は動けないはず。向こう二十年は余裕すらなくなったのだし」
親友を断頭台に乗せた罰。私を怒らせた罪はこの世界で何よりも重いの。
「とりま、あぶく銭は散財と相場が決まっているわね……」
私は思い出していました。
断頭台での記憶。集まった住人たちは全員が私の処刑に反対であったことを。
「味方には利益の還元が必要だわ」
彼らは権力に反発して声を上げてくれた。
結果として処刑を取りやめにはできなかったけれど、それでも私は嬉しく思う。
そうと決まれば実行あるのみ。私は早朝から王都ルナレイクの街へと向かっています。
行き交う人たち。すれ違うや、皆が私に声をかけてくれる。
誰も身分など気にしない。敬うような態度を私が望んでいないと知っているから。
「全ての商店主たちよ、集まりなさい! とっても良いお話がございますの!」
私は拡声魔法を使って、ルナレイク中に呼びかけた。
これから始まるお祭りは断罪回避の大祝賀会となるのだと。
しばらくして、私の呼びかけに応じた商店主たちが広場に集まってきました。加えて一般の市民たちも何事だろうと足を運んでいます。
「食品関係は私が全て買い取ります! 材料が尽きるまで無料で市民たちに提供してくださいな! 食品以外の商店主たち、貴方たちは大通りの飾り付けを始めなさい! お店にあるものや買ってきたものでも構わないわ。費用は全て私が持ちますから、お祭りに相応しい飾り付けをお願いします!」
私は声を大にして言い放つ。本日催される行事について。
「今日はルナレイク中で大騒ぎしましょう! アナスタシア・スカーレットの奢りだから!」
私の声に住民たちは歓喜の声を上げる。口々に私の名を呼び、幸せそうな顔を向けていた。
でも感謝される覚えはないわ。私こそ貴方たちに謝意を。
再び立ち上がれたのは全て貴方たちが味方してくれたからよ。
「一日中、馬鹿騒ぎよ! 商店主以外にも不要な物があれば、私が言い値で買い取ってあげる! ボロ雑巾でも割れた陶器でも何でも持って来なさい!」
たとえ白金貨千枚が尽きようと構わない。
可能な限り、還元してあげるわ。流石に白金貨千枚はなくならないだろうけど。
声かけをしたあとは本当にお祭り騒ぎでした。
先に商店主へ費用を分配したことは、冗談ではなく本気なのだと理解するに充分な出来事。私が散財しようとしていることを住民たちは理解してくれました。
商店では食事も飲み物も全て無料で提供され、指示していない武具屋や雑貨屋まで半額セールとか始めています。
「皆様、楽しむのは大いに結構! ですが、絶対に街を汚さないこと! ゴミは指定の場所に捨てるか、持ち帰ってください! 街を汚すと火竜の聖女が罰を与えますからね!」
あとで清掃が必要にならないように、拡声魔法で知らせます。
ま、彼らは言われずともゴミを出さないでしょうけれど。
「身分に関係なく、無料で提供してよね! この街に住む人々、たとえ旅人であろうとも。費用は全て私持ち! さあ、盛り上がっていきましょう!」
遂には旅芸人たちまで広場に集まっていました。
この騒ぎに便乗しようと、街の至る所で楽器が鳴り響き、皆で合唱なども始まっています。
予想以上の盛り上がり。湯水のように金貨がなくなっていきますけれど、全く問題ありません。
参加した全員が楽しめたのなら、私はそれで良かったのです。
早朝から始まったお祭りでしたが、お昼を過ぎて品切れのお店が続出しています。
依然として楽団や大道芸人たちは盛り上げてくれているのですが、一応は落ち着きを取り戻してきた感じです。
「大成功だね!」
皆の幸せそうな顔を見ると、勢いで実行して良かったと思える。
穢れたお金を純粋な笑顔に変換できるのであれば、今後も開催してみたいとも。
私がベンチに腰掛けていると、
「アナスタシア様、これは一体どういう騒ぎなのです?」
ふと声をかけられていました。
視線を向けると、そこには近衛兵を引き連れたセシルの姿がありました。
流石に馬鹿騒ぎし過ぎたのかしらね。王子殿下までもが様子を見に来るなんて。
えっと、言い訳はどうしよう。
間違ってもダルハウジー侯爵家の廃爵を祝っているなんて言えないし。
「お祭りですわ。ちょっとした収入がありましたので、住民たちに還元しておりますの。幸せそうな顔を見てくださいな。私はお金を出しただけですけれど、全員が協力をしてこの幸せを形作っているのです」
ちょっとした収入というには大金過ぎますけどね。
まあでも、嘘は言っていない。存在しなかったお金を住民に還元しているだけなんだもの。
「お祭りですか? 面白そうですね」
「一緒に見て回りますか? 商店主様がとっても綺麗に飾り付けをしてくださったのです」
私はセシルを案内していく。
王子殿下が食べるには憚られる出店の串焼きや、無料で配布しているお酒を手渡しながら。
「アナスタシア様、もうお腹一杯です! しかし、楽しいですね? 僕の所領でも同じようにして欲しいと思います」
そういや、セシルは副都リーフメルの領主になったのだっけ。
事実上、王太子選に敗北した彼は北の大地を取り纏める役割を与えられていました。
「あ、えっと、色々と済みません……」
明らかに私のせいだもの。謝罪せずにはいられません。
セシルを唯一担いでいたメルヴィス公爵家を私は廃爵としてしまったのですから。
「いえいえ! そもそも王太子となる器ではなかったのですよ。イセリナ様もアナスタシア様の所領の隣に住めることを喜んでおられますし」
もうそんなところまで話が進んでいるのね。
当然、あのぐうたら姫様は喜ぶでしょう。王太子妃という重責から逃れられ、尚且つ専属の侍女が直ぐ隣の街を治めているのですから。
「では、リーフメルでも同様の馬鹿騒ぎをしましょうか! 殿下の就任祝いとして!」
「それは嬉しいです! 来週、初めてリーフメルに行くのですよ。そのときにでもお願いできますか?」
「お任せあれ! 私も北部地域の皆様に挨拶がしたいですし、一石二鳥ですね!」
ひょんなことでお祭りの約束ができてしまいました。
本日の散財でも白金貨一枚には遠く及びません。何日でも開催できちゃうわよ?
きっとリーフメルの住民たちもセシルを歓待してくれるわ。私は前施政者を追い払った悪者だけど、セシル自身は何も関係していないのだし。
思わぬ約束に私は少しばかり楽しくなっていました。
私自身もリーフメルの人たちと分かり合えるかもしれないと。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる