青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十五章 世界と君のために

バカ騒ぎ

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 クレアフィール公爵家から巻き上げたお金。白金貨千枚は私の生活を格段に向上させることでしょう。

 加えて追加分の白金貨千枚は借款を交わしたので、クレアフィール公爵家は白金貨六十枚を二十年に亘って支払い続けることになります。

「もうクレアフィール公爵家は動けないはず。向こう二十年は余裕すらなくなったのだし」

 親友を断頭台に乗せた罰。私を怒らせた罪はこの世界で何よりも重いの。

「とりま、あぶく銭は散財と相場が決まっているわね……」

 私は思い出していました。

 断頭台での記憶。集まった住人たちは全員が私の処刑に反対であったことを。

「味方には利益の還元が必要だわ」

 彼らは権力に反発して声を上げてくれた。

 結果として処刑を取りやめにはできなかったけれど、それでも私は嬉しく思う。


 そうと決まれば実行あるのみ。私は早朝から王都ルナレイクの街へと向かっています。

 行き交う人たち。すれ違うや、皆が私に声をかけてくれる。

 誰も身分など気にしない。敬うような態度を私が望んでいないと知っているから。

「全ての商店主たちよ、集まりなさい! とっても良いお話がございますの!」

 私は拡声魔法を使って、ルナレイク中に呼びかけた。

 これから始まるお祭りは断罪回避の大祝賀会となるのだと。

 しばらくして、私の呼びかけに応じた商店主たちが広場に集まってきました。加えて一般の市民たちも何事だろうと足を運んでいます。

「食品関係は私が全て買い取ります! 材料が尽きるまで無料で市民たちに提供してくださいな! 食品以外の商店主たち、貴方たちは大通りの飾り付けを始めなさい! お店にあるものや買ってきたものでも構わないわ。費用は全て私が持ちますから、お祭りに相応しい飾り付けをお願いします!」

 私は声を大にして言い放つ。本日催される行事について。

「今日はルナレイク中で大騒ぎしましょう! アナスタシア・スカーレットの奢りだから!」

 私の声に住民たちは歓喜の声を上げる。口々に私の名を呼び、幸せそうな顔を向けていた。

 でも感謝される覚えはないわ。私こそ貴方たちに謝意を。

 再び立ち上がれたのは全て貴方たちが味方してくれたからよ。

「一日中、馬鹿騒ぎよ! 商店主以外にも不要な物があれば、私が言い値で買い取ってあげる! ボロ雑巾でも割れた陶器でも何でも持って来なさい!」

 たとえ白金貨千枚が尽きようと構わない。

 可能な限り、還元してあげるわ。流石に白金貨千枚はなくならないだろうけど。

 声かけをしたあとは本当にお祭り騒ぎでした。

 先に商店主へ費用を分配したことは、冗談ではなく本気なのだと理解するに充分な出来事。私が散財しようとしていることを住民たちは理解してくれました。

 商店では食事も飲み物も全て無料で提供され、指示していない武具屋や雑貨屋まで半額セールとか始めています。

「皆様、楽しむのは大いに結構! ですが、絶対に街を汚さないこと! ゴミは指定の場所に捨てるか、持ち帰ってください! 街を汚すと火竜の聖女が罰を与えますからね!」

 あとで清掃が必要にならないように、拡声魔法で知らせます。

 ま、彼らは言われずともゴミを出さないでしょうけれど。

「身分に関係なく、無料で提供してよね! この街に住む人々、たとえ旅人であろうとも。費用は全て私持ち! さあ、盛り上がっていきましょう!」

 遂には旅芸人たちまで広場に集まっていました。

 この騒ぎに便乗しようと、街の至る所で楽器が鳴り響き、皆で合唱なども始まっています。

 予想以上の盛り上がり。湯水のように金貨がなくなっていきますけれど、全く問題ありません。

 参加した全員が楽しめたのなら、私はそれで良かったのです。


 早朝から始まったお祭りでしたが、お昼を過ぎて品切れのお店が続出しています。

 依然として楽団や大道芸人たちは盛り上げてくれているのですが、一応は落ち着きを取り戻してきた感じです。

「大成功だね!」

 皆の幸せそうな顔を見ると、勢いで実行して良かったと思える。

 穢れたお金を純粋な笑顔に変換できるのであれば、今後も開催してみたいとも。

 私がベンチに腰掛けていると、

「アナスタシア様、これは一体どういう騒ぎなのです?」

 ふと声をかけられていました。

 視線を向けると、そこには近衛兵を引き連れたセシルの姿がありました。

 流石に馬鹿騒ぎし過ぎたのかしらね。王子殿下までもが様子を見に来るなんて。

 えっと、言い訳はどうしよう。

 間違ってもダルハウジー侯爵家の廃爵を祝っているなんて言えないし。

「お祭りですわ。ちょっとした収入がありましたので、住民たちに還元しておりますの。幸せそうな顔を見てくださいな。私はお金を出しただけですけれど、全員が協力をしてこの幸せを形作っているのです」

 ちょっとした収入というには大金過ぎますけどね。

 まあでも、嘘は言っていない。存在しなかったお金を住民に還元しているだけなんだもの。

「お祭りですか? 面白そうですね」

「一緒に見て回りますか? 商店主様がとっても綺麗に飾り付けをしてくださったのです」

 私はセシルを案内していく。

 王子殿下が食べるには憚られる出店の串焼きや、無料で配布しているお酒を手渡しながら。

「アナスタシア様、もうお腹一杯です! しかし、楽しいですね? 僕の所領でも同じようにして欲しいと思います」

 そういや、セシルは副都リーフメルの領主になったのだっけ。

 事実上、王太子選に敗北した彼は北の大地を取り纏める役割を与えられていました。

「あ、えっと、色々と済みません……」

 明らかに私のせいだもの。謝罪せずにはいられません。

 セシルを唯一担いでいたメルヴィス公爵家を私は廃爵としてしまったのですから。

「いえいえ! そもそも王太子となる器ではなかったのですよ。イセリナ様もアナスタシア様の所領の隣に住めることを喜んでおられますし」

 もうそんなところまで話が進んでいるのね。

 当然、あのぐうたら姫様は喜ぶでしょう。王太子妃という重責から逃れられ、尚且つ専属の侍女が直ぐ隣の街を治めているのですから。

「では、リーフメルでも同様の馬鹿騒ぎをしましょうか! 殿下の就任祝いとして!」

「それは嬉しいです! 来週、初めてリーフメルに行くのですよ。そのときにでもお願いできますか?」

「お任せあれ! 私も北部地域の皆様に挨拶がしたいですし、一石二鳥ですね!」

 ひょんなことでお祭りの約束ができてしまいました。

 本日の散財でも白金貨一枚には遠く及びません。何日でも開催できちゃうわよ?

 きっとリーフメルの住民たちもセシルを歓待してくれるわ。私は前施政者を追い払った悪者だけど、セシル自身は何も関係していないのだし。

 思わぬ約束に私は少しばかり楽しくなっていました。

 私自身もリーフメルの人たちと分かり合えるかもしれないと。
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