青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
338 / 377
第十四章 迫る闇の中で

契約

しおりを挟む
 二日後のことです。

 貴族院が終わったあと、私は王城にあるモルディン大臣の執務室へと呼び出されていました。

 部屋にはクレアフィール公爵の姿があります。どうやらモルディン大臣は孫娘を不憫に思うあまり、息子を説得したみたいね。

「アナスタシア様、講義でお疲れのところ申し訳ございません」

 モルディン大臣は頭を下げますが、クレアフィール公爵はふんぞり返ったままでした。

 流石に気分が悪いわ。彼の出方によって、私は対応を変えるつもりなのに。

「頭を下げる人間が違いましてよ?」

「貴様、無礼だろうが!!」

 割と短気なのかな。煽り耐性がありませんね。

 ま、上位貴族とはプライドの塊ですし、こんなものかもしれません。

 モルディン大臣が宥めますけれど、クレアフィール公爵は不機嫌そのものです。

「えっと、どうやら私の出る幕はないようですので、失礼致しますわ」

「お待ちください! アナスタシア様!」

 ぶっちゃけ、髭に頼んでクレアフィール公爵家の廃爵案を出しても構わないってのに。

 クレアフィール公爵は頼みごとをする態度ではありません。

「白金貨千枚を用意しました。どうかお納めください……」

「あら? 私の条件は金銭だけではありませんよ? 契約を済まさなければ、エレオノーラ様を助ける義理などございませんわ」

「貴様を不敬罪で訴えてやる! お前も断罪処分だ!」

 あくまで強気なのね?

 良いでしょう。私が強く出ている理由を教えてあげましょう。

「ご自由に。言っておきますが、私は強力なアンチマジックの術式を施しておりますの。チンケな録画術式には何も映っておりませんわよ? 証拠がない言いがかりでは逆に名誉毀損で訴えることができますの。廃爵をご希望ですか?」

 絶句するクレアフィール公爵。

 私が敵陣に何の準備もせずに訪れると考えていたのでしょうか。

「アナスタシア様、申し訳ございません。お前も頭を下げろ!」

 唸り声を上げながら、クレアフィール公爵は無理矢理に頭を下げさせられている。

 私はとても気が長いのよ。このような態度では湿った導線でも着火してしまいますわ。

「誠意が足りませんね。そもそも私にエレオノーラを助ける義理はございません。どう考えても断罪処分は自己責任ですし、ご勝手にどうぞ」

 言って私は立ち上がる。

 ここに来ただけでモルディン大臣への義理は果たした。

 このあとクレアフィール公爵家がどうなろうと知ったことではない。

「お待ちください! 貴方様だけが頼りなのです!」

 この様子だと査問会の根回しは無駄に終わったのかもしれません。

 その理由を私は知っていますけれど。

「あら? 査問会なら心配ご無用ですわ。重要な議案でしたので、私はペガサスを各地へ飛ばして遠方の方々までご出席いただけるよう手配致しましたの。余計なお世話だったのでしょうか?」

 クレアフィール公爵の逃げ道は塞いだ。

 味方ばかりが参加すること。それだけが頼みの綱であったはず。

 でもね、私は最初から手配していの。参加者には金貨をバラ撒いて、出席いただけるように。

「貴様の策だったのか!?」

「何かご不満でも? 全員で話し合ってこその査問会。明確な証拠がございますけれど、一応は皆様にもご一考いただくべきではなくて? そもそも公爵様ご自身がご提案されたのではありませんか? それに証拠がある以上、味方が味方であるとは考えられませんけれど」

 私は手を挙げてこの場を去る。

 予定通り、クレアフィール公爵家には辛酸を嘗めてもらいます。

「待て!」

 しかし、ここでクレアフィール公爵が私を呼び止めています。

 今さら何の用? 水浸しだった私の導火線はもの凄い勢いで火薬へと向かっているのだけど?

 睨み付ける私に対して、クレアフィール公爵は小さく頷いています。

「契約する……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

処理中です...