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第十四章 迫る闇の中で
契約
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二日後のことです。
貴族院が終わったあと、私は王城にあるモルディン大臣の執務室へと呼び出されていました。
部屋にはクレアフィール公爵の姿があります。どうやらモルディン大臣は孫娘を不憫に思うあまり、息子を説得したみたいね。
「アナスタシア様、講義でお疲れのところ申し訳ございません」
モルディン大臣は頭を下げますが、クレアフィール公爵はふんぞり返ったままでした。
流石に気分が悪いわ。彼の出方によって、私は対応を変えるつもりなのに。
「頭を下げる人間が違いましてよ?」
「貴様、無礼だろうが!!」
割と短気なのかな。煽り耐性がありませんね。
ま、上位貴族とはプライドの塊ですし、こんなものかもしれません。
モルディン大臣が宥めますけれど、クレアフィール公爵は不機嫌そのものです。
「えっと、どうやら私の出る幕はないようですので、失礼致しますわ」
「お待ちください! アナスタシア様!」
ぶっちゃけ、髭に頼んでクレアフィール公爵家の廃爵案を出しても構わないってのに。
クレアフィール公爵は頼みごとをする態度ではありません。
「白金貨千枚を用意しました。どうかお納めください……」
「あら? 私の条件は金銭だけではありませんよ? 契約を済まさなければ、エレオノーラ様を助ける義理などございませんわ」
「貴様を不敬罪で訴えてやる! お前も断罪処分だ!」
あくまで強気なのね?
良いでしょう。私が強く出ている理由を教えてあげましょう。
「ご自由に。言っておきますが、私は強力なアンチマジックの術式を施しておりますの。チンケな録画術式には何も映っておりませんわよ? 証拠がない言いがかりでは逆に名誉毀損で訴えることができますの。廃爵をご希望ですか?」
絶句するクレアフィール公爵。
私が敵陣に何の準備もせずに訪れると考えていたのでしょうか。
「アナスタシア様、申し訳ございません。お前も頭を下げろ!」
唸り声を上げながら、クレアフィール公爵は無理矢理に頭を下げさせられている。
私はとても気が長いのよ。このような態度では湿った導線でも着火してしまいますわ。
「誠意が足りませんね。そもそも私にエレオノーラを助ける義理はございません。どう考えても断罪処分は自己責任ですし、ご勝手にどうぞ」
言って私は立ち上がる。
ここに来ただけでモルディン大臣への義理は果たした。
このあとクレアフィール公爵家がどうなろうと知ったことではない。
「お待ちください! 貴方様だけが頼りなのです!」
この様子だと査問会の根回しは無駄に終わったのかもしれません。
その理由を私は知っていますけれど。
「あら? 査問会なら心配ご無用ですわ。重要な議案でしたので、私はペガサスを各地へ飛ばして遠方の方々までご出席いただけるよう手配致しましたの。余計なお世話だったのでしょうか?」
クレアフィール公爵の逃げ道は塞いだ。
味方ばかりが参加すること。それだけが頼みの綱であったはず。
でもね、私は最初から手配していの。参加者には金貨をバラ撒いて、出席いただけるように。
「貴様の策だったのか!?」
「何かご不満でも? 全員で話し合ってこその査問会。明確な証拠がございますけれど、一応は皆様にもご一考いただくべきではなくて? そもそも公爵様ご自身がご提案されたのではありませんか? それに証拠がある以上、味方が味方であるとは考えられませんけれど」
私は手を挙げてこの場を去る。
予定通り、クレアフィール公爵家には辛酸を嘗めてもらいます。
「待て!」
しかし、ここでクレアフィール公爵が私を呼び止めています。
今さら何の用? 水浸しだった私の導火線はもの凄い勢いで火薬へと向かっているのだけど?
睨み付ける私に対して、クレアフィール公爵は小さく頷いています。
「契約する……」
貴族院が終わったあと、私は王城にあるモルディン大臣の執務室へと呼び出されていました。
部屋にはクレアフィール公爵の姿があります。どうやらモルディン大臣は孫娘を不憫に思うあまり、息子を説得したみたいね。
「アナスタシア様、講義でお疲れのところ申し訳ございません」
モルディン大臣は頭を下げますが、クレアフィール公爵はふんぞり返ったままでした。
流石に気分が悪いわ。彼の出方によって、私は対応を変えるつもりなのに。
「頭を下げる人間が違いましてよ?」
「貴様、無礼だろうが!!」
割と短気なのかな。煽り耐性がありませんね。
ま、上位貴族とはプライドの塊ですし、こんなものかもしれません。
モルディン大臣が宥めますけれど、クレアフィール公爵は不機嫌そのものです。
「えっと、どうやら私の出る幕はないようですので、失礼致しますわ」
「お待ちください! アナスタシア様!」
ぶっちゃけ、髭に頼んでクレアフィール公爵家の廃爵案を出しても構わないってのに。
クレアフィール公爵は頼みごとをする態度ではありません。
「白金貨千枚を用意しました。どうかお納めください……」
「あら? 私の条件は金銭だけではありませんよ? 契約を済まさなければ、エレオノーラ様を助ける義理などございませんわ」
「貴様を不敬罪で訴えてやる! お前も断罪処分だ!」
あくまで強気なのね?
良いでしょう。私が強く出ている理由を教えてあげましょう。
「ご自由に。言っておきますが、私は強力なアンチマジックの術式を施しておりますの。チンケな録画術式には何も映っておりませんわよ? 証拠がない言いがかりでは逆に名誉毀損で訴えることができますの。廃爵をご希望ですか?」
絶句するクレアフィール公爵。
私が敵陣に何の準備もせずに訪れると考えていたのでしょうか。
「アナスタシア様、申し訳ございません。お前も頭を下げろ!」
唸り声を上げながら、クレアフィール公爵は無理矢理に頭を下げさせられている。
私はとても気が長いのよ。このような態度では湿った導線でも着火してしまいますわ。
「誠意が足りませんね。そもそも私にエレオノーラを助ける義理はございません。どう考えても断罪処分は自己責任ですし、ご勝手にどうぞ」
言って私は立ち上がる。
ここに来ただけでモルディン大臣への義理は果たした。
このあとクレアフィール公爵家がどうなろうと知ったことではない。
「お待ちください! 貴方様だけが頼りなのです!」
この様子だと査問会の根回しは無駄に終わったのかもしれません。
その理由を私は知っていますけれど。
「あら? 査問会なら心配ご無用ですわ。重要な議案でしたので、私はペガサスを各地へ飛ばして遠方の方々までご出席いただけるよう手配致しましたの。余計なお世話だったのでしょうか?」
クレアフィール公爵の逃げ道は塞いだ。
味方ばかりが参加すること。それだけが頼みの綱であったはず。
でもね、私は最初から手配していの。参加者には金貨をバラ撒いて、出席いただけるように。
「貴様の策だったのか!?」
「何かご不満でも? 全員で話し合ってこその査問会。明確な証拠がございますけれど、一応は皆様にもご一考いただくべきではなくて? そもそも公爵様ご自身がご提案されたのではありませんか? それに証拠がある以上、味方が味方であるとは考えられませんけれど」
私は手を挙げてこの場を去る。
予定通り、クレアフィール公爵家には辛酸を嘗めてもらいます。
「待て!」
しかし、ここでクレアフィール公爵が私を呼び止めています。
今さら何の用? 水浸しだった私の導火線はもの凄い勢いで火薬へと向かっているのだけど?
睨み付ける私に対して、クレアフィール公爵は小さく頷いています。
「契約する……」
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