青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十四章 迫る闇の中で

許せない

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 深夜の貴族院。一般科の講堂は静寂に満ちていました。

 てっきりクレアフィール公爵の名を口にするかと思いきや、盗人騒動で名を聞かなかったダルハウジー侯爵の名前が飛びだしています。

「ダルハウジー侯爵?」

 あり得ないわ。査問会で私にまで噛みついたクレアフィール公爵ではないなんて。

 彼が動揺していたのは確実で、事を急いだばかりに私まで断罪したのだから。

「ダルハウジー侯爵よ。リッチモンド公爵領から逃げたあと、わたくしは行商の馬車に乗り、ダルハウジー侯爵領へと入った。酒場で働くことになっていたのだけど、わたくしは侯爵に声をかけられたのよ」

 どうもこの魔性の女は北東部まで逃げ延びたあと、ダルハウジー侯爵を籠絡したようです。

「貴方は死罪が言い渡されている犯罪者なのに、侯爵が匿っていたの?」

「愛人契約を結んでいた。関係を持つたびに金貨がもらえるのよ? 住む家も与えられていたし、何でも買ってくれた」

 この場にイセリナがいなくて良かったと思う。

 どこまでも狂った女が母親だなんて認めたくない現実だもの。

「愛人がどうして、こんな真似をしてんのよ? 一応はあんたの娘なのよ?」

「イセリナが邪魔なのよ。わたくしの美貌を受け継いでるんだもの。この世に美女は一人だけで良い。だから、この役を買って出たわ」

 刹那に響く甲高い音。私は平手打ちしていました。

 本当に殺してしまおうかと考えてしまう。真実を語っているのは確かだけど、前世から今世までこの女が許せない。

「痛い? でもこんな痛みじゃないわよ! 母親を失った痛みはこんなものではない!」

 どうしてか暴力を止められない。

 私は殴りつけ、倒れ込むや蹴りを入れている。

 本当に最低だ。感情に任せて痛めつけるだけだなんて。

「姫! それくらいで!」

 コンラッドに止められるまで私はシルヴィアを殴り続けていました。

 自慢の顔は腫れ上がり、口からは血を流しています。

「ハイヒール!!」

 こんなことでは死なせない。

 この女を使って査問会を掻き乱してやりたくなる。

「コンラッド、この女をどこかに匿ってくれない? 流石に連れて戻れないし」

「承知しました。何年でも監禁いたします」

 ドS成分は出さなくていいから。きっと数日で解決するはずよ。

 何しろ朝一番にイセリナは拘束されるんだもの。発見されてから拘束まで数時間とかかっていないはずよ。

「姫はどうされるのですか?」

「私? 特等席で見てみたいじゃない?」

 私は貴族院で徹夜するつもり。せっかく死に戻ったんだもの。全てを見届けさせてもらうわ。

 だからこそ、期待感を込めて返しています。

「強大な力が瓦解していく姿をね……」
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