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第十四章 迫る闇の中で
意外な人物
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「次は確実に殺すと……」
シルヴィアは声を失っている。
かつて見逃されたこと。並行世界の記憶を思い出しているのかもしれません。
「あ、貴方……?」
「リッチモンド公爵家の縁故関係者は断罪処分が決まっているのよ。誰もいない講堂で貴方を殺そうが私の自由。犯罪者を見つけただけだもの」
言って私はスカートの内側からナイフを抜く。
照明魔法により不気味に輝く刃先をシルヴィアに向けていました。
「待って! わたくしは死にたくない!」
どこまでも最低な女。
その美貌で誰かに取り入ったのでしょうけれど、生憎と私には無関係。貴方には憎悪しか覚えないわ。
『姫、一人でお楽しみとはいただけませんな?』
不意に念話が届く。その声はコンラッドに違いありません。
恐らく私の施錠術式があって進入できないでいるのでしょう。
『コンラッド、戻ったのね?』
『ええ、つい先ほど。姫がまだお戻りでないというので、貴族院までお迎えに上がりました』
よくできた従者だわ。ちょうどお楽しみの時間に戻ってくるなんてね。
私は即座に解錠をし、講堂へとコンラッドを呼び寄せています。
「姫、この女はシルヴィアですね?」
「ええ、そうよ。今から拷問にかける予定なの」
「ぶ、無礼者! 拷問だなんて……」
シルヴィアは震えた声で訴えるけれど、残念ながら私の従者はドSなのよね。泣き喚こうが全てを吐くまで拷問は続くわ。
再び施錠をし、更には防音の術式を施す。
ここは学び舎でありましたが、そんなことはコンラッドに関係ないようです。
「姫、何を尋問するのです?」
「とりあえず、雇い主を聞き出さないとね」
「私は誰にも雇われていない! イセリナは死ねば良いのよ!」
シルヴィアが叫んだ直後、コンラッドは彼女の手の平に長針を突き刺していた。
シルヴィアの絶叫が轟くも、残念ながら誰にも聞こえないわ。
聴衆は私とコンラッドだけ。それでも彼女は私たちを楽しませるように狂乱して見せてくれるのでしょう。
「本当に誰とも契約していないのね……」
意外でした魔力糸を確認したとして、シルヴィアは誰とも繋がっていないのです。
発覚を恐れたなんてことはないでしょうけれど、この女は信頼などできる人間じゃないというのに。
三本目の長針が突き刺さっています。
意識を失うたびに張り手をして目覚めさせるのですが、一本で音を上げるのかと思いきや、彼女はまだ口を噤んだままでした。
「こんなことして、ただじゃ済まないわよ……?」
逆恨みとは実に恐ろしい。
シルヴィアは自身の不幸を他人のせいにすることで、恨みを増幅させている感じ。この分だと心が折れるまで時間がかかりそう。
「姫、あれをやりましょう。強情な女には心削しかありません」
「ああ、あれ? 気が進まないけれど……」
コンラッドが取り出したのは巨大なヤスリです。
生きながら身体を削り取られるという拷問で、私はヒールをかけ続けなければなりません。
「シルヴィア、これから貴方を削っていきます。ヒールをかけ続けるので血が噴き出すことはありません。ただし、痛みは長針を軽く凌駕するでしょう。せめて指が完全になくなる前に話した方が賢明ですわ」
「私は助かるの!? 全て話せば助けてくれるの!?」
「馬鹿言っちゃいけない。貴方は公爵令嬢を断罪に追い込もうとしたのですよ? 先ほどの様子は魔法陣に記録しておりますし。断罪は避けられないでしょうね。もしも貴方に口を割る理由があるとすれば……」
敢えて望みを絶つような話をする。
この女は今も罪の意識など覚えていないのですから。
「地獄への道連れを増やすかどうかですよ……」
シルヴィアはゴクリと唾を飲み込んでいる。
私が本気なのはこれまでの拷問で分かったはず。元公爵家の妻であり、元公爵家の妾であろうと容赦しないのだと。
コンラッドがシルヴィアの腕を掴んだ直後、
「待って! 話すわ! でも命だけは助けて!」
この期に及んで命乞いなのね。
まあでも、想定通りで助かります。
「それはどれだけ喋るかによるわ。考慮してあげてもいい」
「何でも聞いて! 私は知る限りのことを口にすると約束するわ!」
本当のクズね。しかし、素直に喋るのなら助けてあげましょう。せめて査問会までは生かしておいてあげる。
私はシルヴィアの血を使って契約を済ませる。
嘘を言えないように。適当な話で誤魔化すなんて許さないのだから。
「貴方はその書物が禁書庫から盗まれたと知ってイセリナの机にしまい込もうとしたの?」
まずは軽く質問を。
シルヴィアが素直に答えるかどうかを見極めようとして。
「知ってる。これをイセリナが盗んだように仕向けるのが私の仕事……」
思ったより従順になったわね。
それならば聞くしかない。誰が背後にいるのか。クレアフィール公爵の名を。
「じゃあ、貴方を使ってイセリナを陥れようとしているのは誰なの?」
確信を持って聞く。
しかし、結果からいうと私の予想は間違っていたようです。
既に切り捨てていた名前がシルヴィアから告げられたのでした。
「ダルハウジー侯爵」――と。
シルヴィアは声を失っている。
かつて見逃されたこと。並行世界の記憶を思い出しているのかもしれません。
「あ、貴方……?」
「リッチモンド公爵家の縁故関係者は断罪処分が決まっているのよ。誰もいない講堂で貴方を殺そうが私の自由。犯罪者を見つけただけだもの」
言って私はスカートの内側からナイフを抜く。
照明魔法により不気味に輝く刃先をシルヴィアに向けていました。
「待って! わたくしは死にたくない!」
どこまでも最低な女。
その美貌で誰かに取り入ったのでしょうけれど、生憎と私には無関係。貴方には憎悪しか覚えないわ。
『姫、一人でお楽しみとはいただけませんな?』
不意に念話が届く。その声はコンラッドに違いありません。
恐らく私の施錠術式があって進入できないでいるのでしょう。
『コンラッド、戻ったのね?』
『ええ、つい先ほど。姫がまだお戻りでないというので、貴族院までお迎えに上がりました』
よくできた従者だわ。ちょうどお楽しみの時間に戻ってくるなんてね。
私は即座に解錠をし、講堂へとコンラッドを呼び寄せています。
「姫、この女はシルヴィアですね?」
「ええ、そうよ。今から拷問にかける予定なの」
「ぶ、無礼者! 拷問だなんて……」
シルヴィアは震えた声で訴えるけれど、残念ながら私の従者はドSなのよね。泣き喚こうが全てを吐くまで拷問は続くわ。
再び施錠をし、更には防音の術式を施す。
ここは学び舎でありましたが、そんなことはコンラッドに関係ないようです。
「姫、何を尋問するのです?」
「とりあえず、雇い主を聞き出さないとね」
「私は誰にも雇われていない! イセリナは死ねば良いのよ!」
シルヴィアが叫んだ直後、コンラッドは彼女の手の平に長針を突き刺していた。
シルヴィアの絶叫が轟くも、残念ながら誰にも聞こえないわ。
聴衆は私とコンラッドだけ。それでも彼女は私たちを楽しませるように狂乱して見せてくれるのでしょう。
「本当に誰とも契約していないのね……」
意外でした魔力糸を確認したとして、シルヴィアは誰とも繋がっていないのです。
発覚を恐れたなんてことはないでしょうけれど、この女は信頼などできる人間じゃないというのに。
三本目の長針が突き刺さっています。
意識を失うたびに張り手をして目覚めさせるのですが、一本で音を上げるのかと思いきや、彼女はまだ口を噤んだままでした。
「こんなことして、ただじゃ済まないわよ……?」
逆恨みとは実に恐ろしい。
シルヴィアは自身の不幸を他人のせいにすることで、恨みを増幅させている感じ。この分だと心が折れるまで時間がかかりそう。
「姫、あれをやりましょう。強情な女には心削しかありません」
「ああ、あれ? 気が進まないけれど……」
コンラッドが取り出したのは巨大なヤスリです。
生きながら身体を削り取られるという拷問で、私はヒールをかけ続けなければなりません。
「シルヴィア、これから貴方を削っていきます。ヒールをかけ続けるので血が噴き出すことはありません。ただし、痛みは長針を軽く凌駕するでしょう。せめて指が完全になくなる前に話した方が賢明ですわ」
「私は助かるの!? 全て話せば助けてくれるの!?」
「馬鹿言っちゃいけない。貴方は公爵令嬢を断罪に追い込もうとしたのですよ? 先ほどの様子は魔法陣に記録しておりますし。断罪は避けられないでしょうね。もしも貴方に口を割る理由があるとすれば……」
敢えて望みを絶つような話をする。
この女は今も罪の意識など覚えていないのですから。
「地獄への道連れを増やすかどうかですよ……」
シルヴィアはゴクリと唾を飲み込んでいる。
私が本気なのはこれまでの拷問で分かったはず。元公爵家の妻であり、元公爵家の妾であろうと容赦しないのだと。
コンラッドがシルヴィアの腕を掴んだ直後、
「待って! 話すわ! でも命だけは助けて!」
この期に及んで命乞いなのね。
まあでも、想定通りで助かります。
「それはどれだけ喋るかによるわ。考慮してあげてもいい」
「何でも聞いて! 私は知る限りのことを口にすると約束するわ!」
本当のクズね。しかし、素直に喋るのなら助けてあげましょう。せめて査問会までは生かしておいてあげる。
私はシルヴィアの血を使って契約を済ませる。
嘘を言えないように。適当な話で誤魔化すなんて許さないのだから。
「貴方はその書物が禁書庫から盗まれたと知ってイセリナの机にしまい込もうとしたの?」
まずは軽く質問を。
シルヴィアが素直に答えるかどうかを見極めようとして。
「知ってる。これをイセリナが盗んだように仕向けるのが私の仕事……」
思ったより従順になったわね。
それならば聞くしかない。誰が背後にいるのか。クレアフィール公爵の名を。
「じゃあ、貴方を使ってイセリナを陥れようとしているのは誰なの?」
確信を持って聞く。
しかし、結果からいうと私の予想は間違っていたようです。
既に切り捨てていた名前がシルヴィアから告げられたのでした。
「ダルハウジー侯爵」――と。
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