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第十四章 迫る闇の中で
捕縛
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再び貴族院が始まっていました。
私は魔法科を選ぶ予定を一般科に変更しています。
まあ既に放課後なわけですが、とりあえず私はイセリナの無実を証明しなければなりません。
彼女の席を確認し、現行犯で捕まえてやるつもりなのです。
「イセリナが拘束されたのは二学年が始まった翌日。初日の放課後しか犯行時間はあり得ない」
始業式の翌朝。いきなりの休日でしたが、イセリナは拘束されたのです。
犯行は今夜。王家の婚約者名簿はイセリナの机へとしまい込まれたはず。
「夜通しでも張り込んでやるんだから……」
気配を消す魔法を唱え、教壇の後ろへと隠れる。何日も張り込むわけじゃないのですから、どうってことありません。
何時間が過ぎたでしょうか。見回りの兵も来なくなった頃、講堂の扉を開く音が聞こえました。
ランプの明かりが揺らめく。
現れた何者かは真っ直ぐにイセリナの机へと向かっているようです。
(当たりだね……)
暗部でもなさそう。何しろランプを片手に堂々と侵入しているのですから。
私はそっと教壇の影から覗き見る。
やはり、犯人はイセリナの机にある引き出しを開いていました。
「そこまでよ!」
私は直ぐさま施錠術式を講堂中に展開。
扉だけでなく窓までもが、私の制御下に置かれました。加えて即座に照明魔法を唱える。
犯人を捕縛しようとした私ですが、次の瞬間には固まっていました。
「シルヴィア……?」
忘れもしない女が目の前にいたのです。
シルヴィアはイセリナの実母。イセリナを産み落として直ぐに離婚していった女に他なりません。
「貴方、こんな時間に何をしているの!?」
動揺したシルヴィアが言った。
それはこっちの台詞よ。
どこぞの歓楽街で野垂れ死んでいるのかと思いきや、シルヴィアは今ものうのうと生きていたみたい。
「シルヴィア、貴方こそ何をしているの? そこはイセリナ・イグニス・ランカスタ公爵令嬢の席なのだけど?」
見た感じ、シルヴィアの血色は良い。
メイドに扮して忍び込んだみたいだけど、堂々と侵入できたところを見ると、高位の存在に囲われているに違いありません。
「無礼者め。わたくしと知って、そんな口をきくなんて。一刻も早く立ち去れ!」
本当に馬鹿な女だわ。高圧的な大声を出せば、誰でも跪くと思って?
イセリナが可哀相……。あの子が悪役令嬢となった理由はこの女しか考えられない。
現に私が世話をしてきたイセリナは無差別に悪意を振りまくようなことはしないの。穏やかな性格で、怠け者。口は悪いけれど、悪役令嬢であるとは思えない。
全てはシルヴィアが愛を与えなかったから。イセリナが歪んだ原因はこの女よ。
「貴方こそ立場を理解できて? ここは私のフィールドなの。獰猛な獣の巣へと迷い込んだ哀れな羊は咀嚼されることなく、呑み込まれるだけなのよ」
この女をどうすべきか。私はそればかり考えていました。
シルヴィアに会ったのは二度目だけど、それはリセットされた世界線の話。だから、彼女が私を知らないのは当然のことだったりします。
「貴方、何者? わたくしを脅すというの?」
「馬鹿な女ね? 一度お会いしておりますわよ? 魂に刻まれた記憶を呼び覚ましてみなさい。そうすれば分かるはず。私はあのとき確かに言ったはずよ……」
分からないのなら教えてあげるわ。あの世界線で私が何を伝えたのかを。
魂も凍り付くほどの殺意を込めて。
「次は確実に殺すと――」
私は魔法科を選ぶ予定を一般科に変更しています。
まあ既に放課後なわけですが、とりあえず私はイセリナの無実を証明しなければなりません。
彼女の席を確認し、現行犯で捕まえてやるつもりなのです。
「イセリナが拘束されたのは二学年が始まった翌日。初日の放課後しか犯行時間はあり得ない」
始業式の翌朝。いきなりの休日でしたが、イセリナは拘束されたのです。
犯行は今夜。王家の婚約者名簿はイセリナの机へとしまい込まれたはず。
「夜通しでも張り込んでやるんだから……」
気配を消す魔法を唱え、教壇の後ろへと隠れる。何日も張り込むわけじゃないのですから、どうってことありません。
何時間が過ぎたでしょうか。見回りの兵も来なくなった頃、講堂の扉を開く音が聞こえました。
ランプの明かりが揺らめく。
現れた何者かは真っ直ぐにイセリナの机へと向かっているようです。
(当たりだね……)
暗部でもなさそう。何しろランプを片手に堂々と侵入しているのですから。
私はそっと教壇の影から覗き見る。
やはり、犯人はイセリナの机にある引き出しを開いていました。
「そこまでよ!」
私は直ぐさま施錠術式を講堂中に展開。
扉だけでなく窓までもが、私の制御下に置かれました。加えて即座に照明魔法を唱える。
犯人を捕縛しようとした私ですが、次の瞬間には固まっていました。
「シルヴィア……?」
忘れもしない女が目の前にいたのです。
シルヴィアはイセリナの実母。イセリナを産み落として直ぐに離婚していった女に他なりません。
「貴方、こんな時間に何をしているの!?」
動揺したシルヴィアが言った。
それはこっちの台詞よ。
どこぞの歓楽街で野垂れ死んでいるのかと思いきや、シルヴィアは今ものうのうと生きていたみたい。
「シルヴィア、貴方こそ何をしているの? そこはイセリナ・イグニス・ランカスタ公爵令嬢の席なのだけど?」
見た感じ、シルヴィアの血色は良い。
メイドに扮して忍び込んだみたいだけど、堂々と侵入できたところを見ると、高位の存在に囲われているに違いありません。
「無礼者め。わたくしと知って、そんな口をきくなんて。一刻も早く立ち去れ!」
本当に馬鹿な女だわ。高圧的な大声を出せば、誰でも跪くと思って?
イセリナが可哀相……。あの子が悪役令嬢となった理由はこの女しか考えられない。
現に私が世話をしてきたイセリナは無差別に悪意を振りまくようなことはしないの。穏やかな性格で、怠け者。口は悪いけれど、悪役令嬢であるとは思えない。
全てはシルヴィアが愛を与えなかったから。イセリナが歪んだ原因はこの女よ。
「貴方こそ立場を理解できて? ここは私のフィールドなの。獰猛な獣の巣へと迷い込んだ哀れな羊は咀嚼されることなく、呑み込まれるだけなのよ」
この女をどうすべきか。私はそればかり考えていました。
シルヴィアに会ったのは二度目だけど、それはリセットされた世界線の話。だから、彼女が私を知らないのは当然のことだったりします。
「貴方、何者? わたくしを脅すというの?」
「馬鹿な女ね? 一度お会いしておりますわよ? 魂に刻まれた記憶を呼び覚ましてみなさい。そうすれば分かるはず。私はあのとき確かに言ったはずよ……」
分からないのなら教えてあげるわ。あの世界線で私が何を伝えたのかを。
魂も凍り付くほどの殺意を込めて。
「次は確実に殺すと――」
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