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第十四章 迫る闇の中で

悪意の第三者

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「ベリンガム大司教が悪意の第三者であると考えます」

 絶句するモルディン大臣。

 ベリンガム大司教はアウローラ聖教会に長年寄与された尊いお方です。そもそも王国内に二人しかいない大司教の一人であります。

 そのような要人を私が犯人扱いしたものですから、言葉がなかったことでしょう。

「本気なのですか?」

「予知ではありませんが、そう考えます。最後に封印したベリンガム大司教が関与していたとしか思えないのです」

 私が作成した偽物を売り払ったのであれば、現状の禁書庫は二つの欠番がある。

 一つはダストンが見逃したからでありましたが、もう一つは最終チェック時に存在していたと考えるべき。

「最終確認のあと、ベリンガム大司教は有無を言わせず封印しますか? 取り残された人がいないか確認くらいしませんか?」

「いえ、恐らく確認したのではと思われます。封印式は強固なものですから。しかし、仮にベリンガム大司教が誰かに雇われたとして、自ら手を染めるでしょうか?」

 当然、その疑問が思い浮かびます。

 憶測でしかないけれど、調査員だけで完結しないのは明らかです。

「盗むしかなかったのでしょう。たとえば教会への寄付金を停止すると脅されたとか……」

「いや、それならば教会ぐるみじゃないですか!?」

「教会ぐるみじゃないと言えますか? 強大な何かとアウローラ聖教会が繋がっていないと言い切れますか?」

 モルディン大臣は黙り込んだ。

 私が暗に告げたのはクレアフィール公爵家に他なりません。莫大な寄付の見返りとして引き受けた可能性は否定できないのですから。

「しかし、アウローラ聖教会を抱き込むより、文官を雇った方が早いのでは?」

 まだ分からないみたいね。

 現状の予測で欠番の問題をクリアするのは大司教の買収だけ。ベリンガム大司教にしか目的を遂げられない。

「要は急に必要となったからですよ。偽物を用意する時間が足りなかった。けれど、どこかの権力者には不可能を可能とする資力があったのです。どれほどの寄付金が動いたのかは分かりませんけれど」

「それでも聖教会の大司教を抱き込むなんて馬鹿な真似を……」

「馬鹿な真似ではないでしょう? 消去法で優位に立っていたはずの第三王子殿下のお相手。急に公爵令嬢が繰り下がって来るだなんて思わないじゃないですか?」

 黒幕は絶対に間違っていない。

 過程は複雑になっていたとしても。

「そもそもおかしいのですよ。禁書庫には二つの欠番があったというのに、ベリンガム大司教は千番台の空き番だけを指摘していた。黒幕に都合が良いものしか指摘していないのです。しかも封印する前に指摘すべきことをしていません。恐らく貴族院が春休みの期間ではイセリナに罪を着せられなかったからでしょう」

 流石にモルディン大臣も反論できない。

 もし仮にベリンガム大司教に悪意がないのであれば、両方を指摘しているはずですもの。

「加えてクレアフィール公爵家にはイセリナを陥れる理由がございます」

 モルディン大臣は今もベリンガム大司教や息子であるクレアフィール公爵を信じていたと思います。

 だけど、私の結論は変わらない。

「クレアフィール公爵はイセリナがセシル殿下の婚約者になる噂を聞いたのでしょう。つい最近の話です。イセリナを陥れる策は急遽決まったことだと思われます」

「アナスタシア様、ですがエレオノーラにはルーク殿下という選択肢もあるはずです!」

「そうでしょうか? 急に繰り下がった理由。婚約破棄だけなら邪推もしないでしょうけれど、繰り下がった理由はイセリナ以上の誰かが王太子妃候補になったのだと容易に推測できたはず。大国の王女殿下であったり、若しくは準ずる要職に就く女性が割り込んだのだと……」

 実際には子爵でしかないアナスタシアだけど、イセリナが繰り下がってしまった事実はそういった想像を加速させたに違いありません。

 嘆息するモルディン大臣。どうやら私の推論に、もう反論できない感じです。

「あり得る話ですね。確かに急場凌ぎ的な策です。しかも大金を投じる価値もある。愚息が考えそうなことだと思います」

 私たちの思考は一致しました。

 これより私は対策について考えねばなりません。

 既にそれぞれの蔵書は依頼者の手に渡っている。イセリナが罪を着せられるよりも前に、動かなくてはならないのです。

 もう二度とリスタートなんかするもんか。

 この世界線で絶対にケリをつけてあげるわ。
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