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第十四章 迫る闇の中で
面談
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モルディン大臣のセッティングによって、私は面談を始めています。
イセリナを嵌めた人間がクレアフィール公爵であれば、さぞかし焦っていることでしょう。
なぜなら彼の父親が私に与していると明確に理解できたはずですもの。
一人目はダストンという文官。現状で最も怪しいとされる第一区画の調査員でした。
「ダストン、呼び出された理由は分かりますか?」
いきなり凄む私にダストンは首を振る。
まあそうでしょうね。彼は契約者を裏切れないのだから。
「まずは手を出してください」
用意した契約書の上に伸ばされた手。私は躊躇いなく長針を突き刺しています。
絶叫するダストン。長針が貫通した手の平からは血が滴っています。
「私は少々腹が立っていましてね。貴方の血をもらうのに手加減をするつもりはありませんでしたの」
目的はダストンの血を得ること。ダストンの契約を上書きする術式に使用しています。
「私との間に血の契約が成されました。既に貴方は雇われた人間の契約から解き放たれています。思う存分、話してくださいな?」
「俺は何もしていな……ぐあ゙あ゙ぁぁあああっっ!?」
早速と嘘をついて臨死体験してしまったのね。
しかし、これで理解したことでしょう。私の意を汲むことが楽になれる唯一の方法だと。
「素直に話さなければ、ずっとこの拷問が続きます。貴方は誰から金銭を受け取り、何を禁書庫から盗み出したのですか?」
ヒューズが語っていたように、最終チェックでは何も盗まれていませんでした。
従って一人目で片付くとは考えにくい。
「正直に話したとして死ぬことはありません。ですが、嘘を口にすると死ぬほどの苦しみに襲われる。もう経験済みですので、お分かりかと存じますが……」
頷くダストン。私の命令に逆らえないのだから、素直に話した方が楽でしてよ?
「ブラガン伯爵に依頼された。白金貨二枚。第五区画の竜脈図を手に入れることになっていた」
ようやく話し始めたダストンに私は笑みを浮かべる。
もうこれでブラガン伯爵を裏切ったとして死なないことが分かったはず。
「竜脈図?」
「王国内の竜脈が記されているらしい。金と一緒に偽物を預かっていた」
「しかし、貴方は第一区画と第二区画の担当でしょう?」
「区画は抽選だから仕方がない。だから、俺は第五区画を担当するジャッシュと取引をした。白金貨一枚ですり替えてくれるように」
どうやらダストンはハズレみたいね。苦しむ様子がない彼は真相を語っている。
依頼料の半分である白金貨一枚をジャッシュへと手渡し、依頼を遂げたらしい。
「俺はどうなる? 投獄されるのか?」
「正直に話してくれてありがとう。罪を問うつもりはありません。他に知っていることはない? 貴方が最終確認した区画と、あとはエイベルやセオドアについて……」
エイベルが七区画と八区画、セオドアが九区画と十区画を担当していたことは判明しています。
彼らの情報を持っているのなら助かるのだけど。
「俺が最終確認したのは三区画と四区画。エイベルとセオドアは何をしていたのか分からない。基本は自分の持ち場でチェックしていくだけだからな」
髭が雇ったヒューズは三区画と四区画の担当でした。
どうやら、その区画の最終確認はダストンが行ったみたいね。
「王家の婚約者名簿を誰かに盗んでくれと頼まれなかった?」
もしも婚約者名簿の依頼を誰かが受けていたのなら。
間違いなく担当者であるダストンに接触することでしょう。
「いいや、俺は依頼しただけで、何も依頼されていない」
どうしてだろう?
王家の婚約者名簿は盗まれたというのに、担当者であるダストンを経由していないみたいです。
「婚約者名簿が盗まれたのだけど、貴方が怪しまれるわよ? 何しろ偽物を用意していないみたいだから」
「嘘だろ!? 俺はちゃんと番号を確認した。担当区画は全部連番になっていたぞ!?」
いよいよおかしな話になっています。
盗まれたはずなのに、ダストンの確認時や最終確認でも見つからないなんて。
「知らないわよ。実際に貴方の担当だった区画の蔵書が盗まれてるんだもの」
「お願いだ。助けてくれ。白金貨一枚でどうだ? 見逃してくれ……」
私を査問会の人間だと勘違いしているのかしら。
「命が惜しいのなら、即刻王国から立ち去りなさい。私との面会は直ぐに伯爵も気付くことでしょう。恩賞をもらうのを待てば、確実に有罪となるか、或いは始末されるわ」
「忠告感謝する。これでどうか頼む……」
私は白金貨を受け取らず、ダストンを逃がした。
竜脈図はきっと世界線が違えば髭が手にしていたものでしょう。ブラガン伯爵はミスリル鉱脈を発見しようとしているのだと思われます。
「ダストンは無関係だね……」
どちらかというとダストンは嵌められた側になるのだし。
次に部屋へと入って来たのは先ほど話をしたジャッシュでした。
同じように契約を済ませると、ジャッシュもまた洗いざらい吐き出しています。
「俺はフェザー伯爵から白金貨一枚を受け取った。近年の納税報告書を手に入れろと。エイベルが担当だったから、金貨五百枚で依頼したんだ」
どうして禁書庫に保管されているのか謎ですが、契約金も含めて安っぽい話です。
ジャッシュの最終確認区画は七区画と八区画みたい。自身が盗みを依頼したエイベルの担当区画です。
「まるで数珠つなぎね……」
全員が何らかの役割を持っていたのは知っていましたが、自己完結した者は髭が雇ったヒューズだけみたい。
続いてエイベルの面談となったわけですが、彼もまた受けた依頼を最後の一人に依頼していたようです。
品物こそ宝物庫目録という追加的な犯罪を予感させるものでしたけれど、彼もまた王家の婚約者名簿とは無関係でした。
エイベルの最終確認区画は五区画と六区画。こちらはダストンが依頼をした竜脈図の区画らしい。
最後はセオドアという文官です。
これまでで一番若い感じ。どうにも、この男が巨悪と繋がっているようには思えません。
「全て話してもらうわよ? 正直に話すのなら命は助けてあげる。誰に雇われて、何を盗もうとしていたの?」
ここでまだ名前が出ていないダルハウジー侯爵。
急に飛び出してくるのであれば、私的に助かるのだけどね。加えて王家の婚約者名簿という蔵書名が……。
ところが、まるで見当外れ。期待した言葉を聞くことはありませんでした。
「俺はジェラルド伯爵から白金貨四枚で依頼を受けた」
やはり大物の名前は出てきません。
どうしようかと思案していると、とんでもない話を聞く羽目になりました。
「品物はアンジェラ・ローズマリーの日記……」
え? いやいや、おかしいって!
それは髭がヒューズに依頼した蔵書よ? どうしてその書物がここで出てくるってわけ!?
「アンジェラ・ローズマリーの日記?」
「ああ、そうだ。高値で転売する相手がいるらしい。恐らく他国の人間だろうな」
「いや待って! それって貴方の担当区画じゃないでしょ!?」
アンジェラ・ローズマリーの日記だけはヒューズの担当で間違いない。
あれだけの内容を文法も間違えずに偽装できるはずがないのですから。
「だから俺はヒューズに盗みを依頼した」
頭がこんがらがる。どういうことなの?
一冊しかない蔵書をどうやって手に入れたってのよ?
「貴方はヒューズからアンジェラ・ローズマリーの日記を受け取ったの?」
「最終日にな。白金貨四枚を要求しやがってけど、二枚にまで値切った。ちゃんと受け取ったし、背表紙番号も聞いていたものと一致した」
「貴方は偽物を用意していたの?」
アンジェラ・ローズマリーの日記は表紙からして古代エルフ文字で書かれていました。
伯爵家の転売利益がどれほどあるのか不明ですが、精巧な偽物を用意できるとは思えません。
「俺は借金していてな。大金が必要なのは伯爵も知っていたのだろう。代品なしで白金貨四枚。危ない橋であるのは確かだが、俺は引き受けるしかなかった。確実に国外へ逃がすと言われているし、何とかなると思ったんだ」
やはりセオドアはすり替える書物を用意していなかったみたい。
禁書庫の欠番は彼が生み出したのだと考えられます。
しかし、腑に落ちない。
どうしてアンジェラ・ローズマリーの日記じゃなく、王家の婚約者名簿が欠番となり、それがイセリナの机へと入れられていたのか。
「どうしてまだ逃げてないの?」
「明日、伯爵の使いがやって来ることになっている。今日はマジで肝が冷えたぜ」
どうやら来年まで見つからないという話を聞かされていたようです。
「ちなみに禁書庫の封印は誰が行うの? 毎日、封印しているのかしら?」
「作業は毎日午後五時まで。定刻前に司教が来て封鎖の術式を施すことになっていた。最終日だけはベリンガム大司教が来ていたんだ。司教では不可能だと思える大がかりな術式を施していたな」
夜間に盗まれたわけでもない感じ。
翌日の作業がある日は司教による施錠魔法が施されたのでしょうが、最終確認後は完全な封印を施すためベリンガム大司教が術式を唱えたらしいです。
私は礼を言って、セオドアを解放する。
彼を捕らえたとして、芋づる式に伯爵連中が捕まっていくだけだもの。
最終的に髭まで疑われては意味がありません。
現状では何の強制力も行使できませんでした。
イセリナを嵌めた人間がクレアフィール公爵であれば、さぞかし焦っていることでしょう。
なぜなら彼の父親が私に与していると明確に理解できたはずですもの。
一人目はダストンという文官。現状で最も怪しいとされる第一区画の調査員でした。
「ダストン、呼び出された理由は分かりますか?」
いきなり凄む私にダストンは首を振る。
まあそうでしょうね。彼は契約者を裏切れないのだから。
「まずは手を出してください」
用意した契約書の上に伸ばされた手。私は躊躇いなく長針を突き刺しています。
絶叫するダストン。長針が貫通した手の平からは血が滴っています。
「私は少々腹が立っていましてね。貴方の血をもらうのに手加減をするつもりはありませんでしたの」
目的はダストンの血を得ること。ダストンの契約を上書きする術式に使用しています。
「私との間に血の契約が成されました。既に貴方は雇われた人間の契約から解き放たれています。思う存分、話してくださいな?」
「俺は何もしていな……ぐあ゙あ゙ぁぁあああっっ!?」
早速と嘘をついて臨死体験してしまったのね。
しかし、これで理解したことでしょう。私の意を汲むことが楽になれる唯一の方法だと。
「素直に話さなければ、ずっとこの拷問が続きます。貴方は誰から金銭を受け取り、何を禁書庫から盗み出したのですか?」
ヒューズが語っていたように、最終チェックでは何も盗まれていませんでした。
従って一人目で片付くとは考えにくい。
「正直に話したとして死ぬことはありません。ですが、嘘を口にすると死ぬほどの苦しみに襲われる。もう経験済みですので、お分かりかと存じますが……」
頷くダストン。私の命令に逆らえないのだから、素直に話した方が楽でしてよ?
「ブラガン伯爵に依頼された。白金貨二枚。第五区画の竜脈図を手に入れることになっていた」
ようやく話し始めたダストンに私は笑みを浮かべる。
もうこれでブラガン伯爵を裏切ったとして死なないことが分かったはず。
「竜脈図?」
「王国内の竜脈が記されているらしい。金と一緒に偽物を預かっていた」
「しかし、貴方は第一区画と第二区画の担当でしょう?」
「区画は抽選だから仕方がない。だから、俺は第五区画を担当するジャッシュと取引をした。白金貨一枚ですり替えてくれるように」
どうやらダストンはハズレみたいね。苦しむ様子がない彼は真相を語っている。
依頼料の半分である白金貨一枚をジャッシュへと手渡し、依頼を遂げたらしい。
「俺はどうなる? 投獄されるのか?」
「正直に話してくれてありがとう。罪を問うつもりはありません。他に知っていることはない? 貴方が最終確認した区画と、あとはエイベルやセオドアについて……」
エイベルが七区画と八区画、セオドアが九区画と十区画を担当していたことは判明しています。
彼らの情報を持っているのなら助かるのだけど。
「俺が最終確認したのは三区画と四区画。エイベルとセオドアは何をしていたのか分からない。基本は自分の持ち場でチェックしていくだけだからな」
髭が雇ったヒューズは三区画と四区画の担当でした。
どうやら、その区画の最終確認はダストンが行ったみたいね。
「王家の婚約者名簿を誰かに盗んでくれと頼まれなかった?」
もしも婚約者名簿の依頼を誰かが受けていたのなら。
間違いなく担当者であるダストンに接触することでしょう。
「いいや、俺は依頼しただけで、何も依頼されていない」
どうしてだろう?
王家の婚約者名簿は盗まれたというのに、担当者であるダストンを経由していないみたいです。
「婚約者名簿が盗まれたのだけど、貴方が怪しまれるわよ? 何しろ偽物を用意していないみたいだから」
「嘘だろ!? 俺はちゃんと番号を確認した。担当区画は全部連番になっていたぞ!?」
いよいよおかしな話になっています。
盗まれたはずなのに、ダストンの確認時や最終確認でも見つからないなんて。
「知らないわよ。実際に貴方の担当だった区画の蔵書が盗まれてるんだもの」
「お願いだ。助けてくれ。白金貨一枚でどうだ? 見逃してくれ……」
私を査問会の人間だと勘違いしているのかしら。
「命が惜しいのなら、即刻王国から立ち去りなさい。私との面会は直ぐに伯爵も気付くことでしょう。恩賞をもらうのを待てば、確実に有罪となるか、或いは始末されるわ」
「忠告感謝する。これでどうか頼む……」
私は白金貨を受け取らず、ダストンを逃がした。
竜脈図はきっと世界線が違えば髭が手にしていたものでしょう。ブラガン伯爵はミスリル鉱脈を発見しようとしているのだと思われます。
「ダストンは無関係だね……」
どちらかというとダストンは嵌められた側になるのだし。
次に部屋へと入って来たのは先ほど話をしたジャッシュでした。
同じように契約を済ませると、ジャッシュもまた洗いざらい吐き出しています。
「俺はフェザー伯爵から白金貨一枚を受け取った。近年の納税報告書を手に入れろと。エイベルが担当だったから、金貨五百枚で依頼したんだ」
どうして禁書庫に保管されているのか謎ですが、契約金も含めて安っぽい話です。
ジャッシュの最終確認区画は七区画と八区画みたい。自身が盗みを依頼したエイベルの担当区画です。
「まるで数珠つなぎね……」
全員が何らかの役割を持っていたのは知っていましたが、自己完結した者は髭が雇ったヒューズだけみたい。
続いてエイベルの面談となったわけですが、彼もまた受けた依頼を最後の一人に依頼していたようです。
品物こそ宝物庫目録という追加的な犯罪を予感させるものでしたけれど、彼もまた王家の婚約者名簿とは無関係でした。
エイベルの最終確認区画は五区画と六区画。こちらはダストンが依頼をした竜脈図の区画らしい。
最後はセオドアという文官です。
これまでで一番若い感じ。どうにも、この男が巨悪と繋がっているようには思えません。
「全て話してもらうわよ? 正直に話すのなら命は助けてあげる。誰に雇われて、何を盗もうとしていたの?」
ここでまだ名前が出ていないダルハウジー侯爵。
急に飛び出してくるのであれば、私的に助かるのだけどね。加えて王家の婚約者名簿という蔵書名が……。
ところが、まるで見当外れ。期待した言葉を聞くことはありませんでした。
「俺はジェラルド伯爵から白金貨四枚で依頼を受けた」
やはり大物の名前は出てきません。
どうしようかと思案していると、とんでもない話を聞く羽目になりました。
「品物はアンジェラ・ローズマリーの日記……」
え? いやいや、おかしいって!
それは髭がヒューズに依頼した蔵書よ? どうしてその書物がここで出てくるってわけ!?
「アンジェラ・ローズマリーの日記?」
「ああ、そうだ。高値で転売する相手がいるらしい。恐らく他国の人間だろうな」
「いや待って! それって貴方の担当区画じゃないでしょ!?」
アンジェラ・ローズマリーの日記だけはヒューズの担当で間違いない。
あれだけの内容を文法も間違えずに偽装できるはずがないのですから。
「だから俺はヒューズに盗みを依頼した」
頭がこんがらがる。どういうことなの?
一冊しかない蔵書をどうやって手に入れたってのよ?
「貴方はヒューズからアンジェラ・ローズマリーの日記を受け取ったの?」
「最終日にな。白金貨四枚を要求しやがってけど、二枚にまで値切った。ちゃんと受け取ったし、背表紙番号も聞いていたものと一致した」
「貴方は偽物を用意していたの?」
アンジェラ・ローズマリーの日記は表紙からして古代エルフ文字で書かれていました。
伯爵家の転売利益がどれほどあるのか不明ですが、精巧な偽物を用意できるとは思えません。
「俺は借金していてな。大金が必要なのは伯爵も知っていたのだろう。代品なしで白金貨四枚。危ない橋であるのは確かだが、俺は引き受けるしかなかった。確実に国外へ逃がすと言われているし、何とかなると思ったんだ」
やはりセオドアはすり替える書物を用意していなかったみたい。
禁書庫の欠番は彼が生み出したのだと考えられます。
しかし、腑に落ちない。
どうしてアンジェラ・ローズマリーの日記じゃなく、王家の婚約者名簿が欠番となり、それがイセリナの机へと入れられていたのか。
「どうしてまだ逃げてないの?」
「明日、伯爵の使いがやって来ることになっている。今日はマジで肝が冷えたぜ」
どうやら来年まで見つからないという話を聞かされていたようです。
「ちなみに禁書庫の封印は誰が行うの? 毎日、封印しているのかしら?」
「作業は毎日午後五時まで。定刻前に司教が来て封鎖の術式を施すことになっていた。最終日だけはベリンガム大司教が来ていたんだ。司教では不可能だと思える大がかりな術式を施していたな」
夜間に盗まれたわけでもない感じ。
翌日の作業がある日は司教による施錠魔法が施されたのでしょうが、最終確認後は完全な封印を施すためベリンガム大司教が術式を唱えたらしいです。
私は礼を言って、セオドアを解放する。
彼を捕らえたとして、芋づる式に伯爵連中が捕まっていくだけだもの。
最終的に髭まで疑われては意味がありません。
現状では何の強制力も行使できませんでした。
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