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第十四章 迫る闇の中で
文官ヒューズ
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髭が雇った調査員とアポイントが取れたとのことで、私はルナレイクの街外れにある小汚い酒場へと来ていました。
密談には最適と思えるような場末の酒場。
冒険者や日雇い労働者のような面々が酒に酔って騒いでいます。
「お嬢さん、美しい薔薇ですね?」
ようやく到着したみたいです。
深いフードの付いたローブを纏い変装はしていましたけれど、娼婦だと間違われること六回。なので合い言葉を口にする者の登場には長い息を吐いています。
「座りなさい。防音術式を施しました。この密談は誰にも聞かれることがありません」
髭に雇われた文官ヒューズが対面に座る。
彼のアルコールは注文済み。じっくりと聞かせてもらうわよ。
「まず調査の方法から教えて。どのような手順でどのように調査していくのかを」
「それを知ってどうする? 厄介ごとは勘弁してくれよ?」
「良いから答えなさい。知ればもっと厄介なことに巻き込まれるわよ?」
一応は脅しておかないと。
彼が知るには重大すぎる話。私はクレアフィール公爵家に楯突こうとしているのですから。
「分かった。調査は十区画に分けて行われる。一人二区画ずつ担当し、二日をかけてチェックするんだ。最終日は区画を入れ替えて書物の背表紙番号を最終確認する。詳しく調べる時間はないから、連番かどうかをチェックしていくんだ」
ヒューズは語っていく。あまりにも杜撰な調査方法を。
禁書庫とされているけれど、要はその名に相応しい蔵書がないってことかしらね。
「個別に調査するの? 幾らでも悪事が働けるじゃない?」
「そういうことだ。最終日に番号のチェックがあるから、すり替える偽物を必ず用意しなければならない。だから盗んだ蔵書が既に偽物という可能性も高いというわけだ」
どうやらリスクがありすぎる行為みたいね。
せっかく盗んだとして偽物とか最悪じゃないの。
「王家の婚約者名簿を狙った人物を知らない? 実は調査員五人共が何者かに雇われていたのよ」
私は婚約者名簿の背表紙番号を口にする。
それだけで彼が思い出してくれるだろうと。
「千番までは一区画だ。ダストンという文官が担当しているはず。しかし、全員が雇われだったのか。どうりで仕事をしやすかったはずだな」
ヒューズは笑っています。
彼によるとアンジェラ・ローズマリーの日記は初日にすり替えしたらしい。
恐らく初日にダストンも仕事をしただろうと口にしています。
「いや、それはないわ。最終日に連番の確認があるのでしょ? 王家の婚約者名簿は抜け番となっているはずだもの」
私の返答にヒューズは驚きを隠せない。
代品がなければ、必ず最終日に引っかかるといいます。
他者の過失により調べ直しだなんて事態は避けたい話であり、欠番を出すような雇われの文官などいないと口にしています。
「他区画の見逃しだけはない。余計な問題が起きては自分がした仕事まで見つかる可能性があるだろう? 偽物かどうかまでチェックするのは稀だけど、最終日の連番確認だけは見落とすはずがない」
どういうことだろう。
イセリナの罪は欠番によって発覚したはず。彼女の机から盗まれた蔵書が見つかったとかで。
「ダストンもまた姿をくらますのよ? 私は予知をして全員が雇われの調査員であることを知っているし、彼が怪しいのは明らかでしょ」
「全員が雇われであったのなら、確実に全てが連番だったはず。俺の最終確認は九・十区画だったが、自分の区画よりしっかり確認した。国外へ逃げ出す前に発覚しては意味がないだろう?」
そりゃそうだけど、話が繋がらない。
欠番となっていないのに、どうしてイセリナの机から蔵書が見つかるってのよ?
「ダストンはどこにいるの? 話を聞いてみる」
「あまり掻き乱さないでくれよ? 俺は残りの人生を優雅に送るつもりなんだから」
知ったこっちゃないわ。イセリナが捕まるのなら、私の罪がバレても一緒。
彼女が斬首刑に処されるのなら世界線はリセットされてしまうのだから。
このあと私はダストンの役職について聞きました。
王城で働いているそうなので、モルディン大臣に許可を願うしかないでしょうね。
「ありがとう。第二の人生が成功するように願っているわ」
私は酒場の代金に加え、迷惑料として金貨を置いていく。
直ぐに犯人が分かると考えていたけれど、予想よりも難しいかと思われます。
何しろ盗まれていない蔵書をイセリナは押し付けられていたのですから。
密談には最適と思えるような場末の酒場。
冒険者や日雇い労働者のような面々が酒に酔って騒いでいます。
「お嬢さん、美しい薔薇ですね?」
ようやく到着したみたいです。
深いフードの付いたローブを纏い変装はしていましたけれど、娼婦だと間違われること六回。なので合い言葉を口にする者の登場には長い息を吐いています。
「座りなさい。防音術式を施しました。この密談は誰にも聞かれることがありません」
髭に雇われた文官ヒューズが対面に座る。
彼のアルコールは注文済み。じっくりと聞かせてもらうわよ。
「まず調査の方法から教えて。どのような手順でどのように調査していくのかを」
「それを知ってどうする? 厄介ごとは勘弁してくれよ?」
「良いから答えなさい。知ればもっと厄介なことに巻き込まれるわよ?」
一応は脅しておかないと。
彼が知るには重大すぎる話。私はクレアフィール公爵家に楯突こうとしているのですから。
「分かった。調査は十区画に分けて行われる。一人二区画ずつ担当し、二日をかけてチェックするんだ。最終日は区画を入れ替えて書物の背表紙番号を最終確認する。詳しく調べる時間はないから、連番かどうかをチェックしていくんだ」
ヒューズは語っていく。あまりにも杜撰な調査方法を。
禁書庫とされているけれど、要はその名に相応しい蔵書がないってことかしらね。
「個別に調査するの? 幾らでも悪事が働けるじゃない?」
「そういうことだ。最終日に番号のチェックがあるから、すり替える偽物を必ず用意しなければならない。だから盗んだ蔵書が既に偽物という可能性も高いというわけだ」
どうやらリスクがありすぎる行為みたいね。
せっかく盗んだとして偽物とか最悪じゃないの。
「王家の婚約者名簿を狙った人物を知らない? 実は調査員五人共が何者かに雇われていたのよ」
私は婚約者名簿の背表紙番号を口にする。
それだけで彼が思い出してくれるだろうと。
「千番までは一区画だ。ダストンという文官が担当しているはず。しかし、全員が雇われだったのか。どうりで仕事をしやすかったはずだな」
ヒューズは笑っています。
彼によるとアンジェラ・ローズマリーの日記は初日にすり替えしたらしい。
恐らく初日にダストンも仕事をしただろうと口にしています。
「いや、それはないわ。最終日に連番の確認があるのでしょ? 王家の婚約者名簿は抜け番となっているはずだもの」
私の返答にヒューズは驚きを隠せない。
代品がなければ、必ず最終日に引っかかるといいます。
他者の過失により調べ直しだなんて事態は避けたい話であり、欠番を出すような雇われの文官などいないと口にしています。
「他区画の見逃しだけはない。余計な問題が起きては自分がした仕事まで見つかる可能性があるだろう? 偽物かどうかまでチェックするのは稀だけど、最終日の連番確認だけは見落とすはずがない」
どういうことだろう。
イセリナの罪は欠番によって発覚したはず。彼女の机から盗まれた蔵書が見つかったとかで。
「ダストンもまた姿をくらますのよ? 私は予知をして全員が雇われの調査員であることを知っているし、彼が怪しいのは明らかでしょ」
「全員が雇われであったのなら、確実に全てが連番だったはず。俺の最終確認は九・十区画だったが、自分の区画よりしっかり確認した。国外へ逃げ出す前に発覚しては意味がないだろう?」
そりゃそうだけど、話が繋がらない。
欠番となっていないのに、どうしてイセリナの机から蔵書が見つかるってのよ?
「ダストンはどこにいるの? 話を聞いてみる」
「あまり掻き乱さないでくれよ? 俺は残りの人生を優雅に送るつもりなんだから」
知ったこっちゃないわ。イセリナが捕まるのなら、私の罪がバレても一緒。
彼女が斬首刑に処されるのなら世界線はリセットされてしまうのだから。
このあと私はダストンの役職について聞きました。
王城で働いているそうなので、モルディン大臣に許可を願うしかないでしょうね。
「ありがとう。第二の人生が成功するように願っているわ」
私は酒場の代金に加え、迷惑料として金貨を置いていく。
直ぐに犯人が分かると考えていたけれど、予想よりも難しいかと思われます。
何しろ盗まれていない蔵書をイセリナは押し付けられていたのですから。
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