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第十四章 迫る闇の中で
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ランカスタ公爵家の別宅へと戻った私は髭の執務室へと押し入っていました。
ノックもなければ挨拶もしない。怒りに任せて、私は意見をぶつけるだけ。
「禁書庫の調査員名簿を出して! 持っているのでしょ!?」
とりあえずは状況の確認からです。何人が調査員として選ばれ、誰に雇われていたのか。
何しろ、調査後に全員が姿を消しているのです。犯人へと辿り着く手がかりがきっと残されているはず。
「お前は敬意を払えといつもいっているだろ?」
「早く! 予知を見たのよ。このままではイセリナは無実の罪で断罪に処されてしまう」
暢気な返答をする髭に私は事実を伝えていました。
愛娘の一大事であれば、少しくらい慌てるだろうと。
「断罪だと? イセリナがどうして?」
「禁書庫の所蔵確認のせいよ。調査員全員が買収されていた。その中の一人にイセリナは濡れ衣を着せられる。王家の婚約者名簿というつまらぬ蔵書を盗んだとして査問会にかけられるのよ」
貴族院にある机の引き出しから盗まれた蔵書が見つかったこと。イセリナは知らないと答えたけれど、罪が確定していること。
先ほどの世界線で知った情報を髭へと伝えます。
「なるほど。明らかにクレアフィールの策じゃないか? 名簿を見れば分かるのか?」
「一人ずつ潰す。まだ逃げていないでしょ? 急がなければ全員が国外へと逃げてしまうわ」
イセリナが捕まるまで時間がかかった理由は髭が囲い込んだ調査員と同じだから。
三月末をもって王家勤めを終える話になっていたからでしょう。
従って新年度が始まるまでにケリを付けなきゃいけない。真犯人へと辿り着き、逆襲劇を演じるためには。
「これが名簿だ。上から二番目のヒューズという文官を儂は囲っている」
リストにあったのは五人でした。
一人を髭が雇ったというのなら、残りは四人です。スケジュール的には三日間をかけて、五人で調査したみたい。
広い禁書庫を五人で調査するのですから、盗む機会は誰にでもあったと思われます。
「ランカスタ公爵家が雇った文官はまだ国内にいるの?」
「金は渡したが、まだ王国にいるだろう。円満退職すると話していたぞ」
髭から大金を受け取ったというのに、王家から慰労金まで手に入れようとしているのね。
まったく、どいつもこいつも金の亡者なんだからどうしようもないわ。
「状況を確認してくる。合い言葉とかあるわけ?」
私が接触したとしてしらを切るに決まっています。
何か身分を証明する方法が取られているはず。髭が直々に契約したとは思えないし。
「それなら儂の陰に聞け。直ぐに呼び出す」
言って髭は魔道具を操作している。
契約に関わったという右腕を呼び出してくれるらしい。
しばらくして執務室の扉がノックされました。本当に早いわね。常に近くで待機しているのかもしれません。
「旦那様、何用でございましょうか?」
現れたのは私も知る顔でした。
かといって、前世で見たことがある程度。紳士風なのはどの暗部も同じみたいね。
「アナスタシアの要望について覚えているな? 依頼した文官と連絡を取りたい」
「はて? 受け取ったものは間違いなくご依頼の品だったかと?」
「文句があるわけではない。話を聞く事情ができただけだ……」
承知しましたと男が返す。
彼によると不測の事態以外は接触しないことになっているらしく、アポイントから数日かかる手順を踏むしかないみたいです。
「しょうがないわね。急いでくれる? 私は急を要しているのよ」
「承知しました。直ちに連絡を取ってみます」
去って行く陰に私は嘆息している。
時間がないというのにもどかしい。遅れるほどに証拠がなくなっていくのですから。
「コンラッドを呼び戻そう。彼にも動いてもらうわ」
「暗殺とかやめておけよ? 余計な問題まで噴出しかねん」
「分かってるわ。彼は拷問が得意なのよ。全員を徹底的に痛めつけてやるの」
「お前ってやつは……」
髭が呆れようと、私は急ぐだけ。
イセリナに容疑が向けられた時点で終わるのだし、少しでも駒を用意しておかねばなりません。
すべきことが多すぎる。
私にとって正念場となる貴族院最終年は波乱に満ちた幕開けとなってしまうのでした。
ノックもなければ挨拶もしない。怒りに任せて、私は意見をぶつけるだけ。
「禁書庫の調査員名簿を出して! 持っているのでしょ!?」
とりあえずは状況の確認からです。何人が調査員として選ばれ、誰に雇われていたのか。
何しろ、調査後に全員が姿を消しているのです。犯人へと辿り着く手がかりがきっと残されているはず。
「お前は敬意を払えといつもいっているだろ?」
「早く! 予知を見たのよ。このままではイセリナは無実の罪で断罪に処されてしまう」
暢気な返答をする髭に私は事実を伝えていました。
愛娘の一大事であれば、少しくらい慌てるだろうと。
「断罪だと? イセリナがどうして?」
「禁書庫の所蔵確認のせいよ。調査員全員が買収されていた。その中の一人にイセリナは濡れ衣を着せられる。王家の婚約者名簿というつまらぬ蔵書を盗んだとして査問会にかけられるのよ」
貴族院にある机の引き出しから盗まれた蔵書が見つかったこと。イセリナは知らないと答えたけれど、罪が確定していること。
先ほどの世界線で知った情報を髭へと伝えます。
「なるほど。明らかにクレアフィールの策じゃないか? 名簿を見れば分かるのか?」
「一人ずつ潰す。まだ逃げていないでしょ? 急がなければ全員が国外へと逃げてしまうわ」
イセリナが捕まるまで時間がかかった理由は髭が囲い込んだ調査員と同じだから。
三月末をもって王家勤めを終える話になっていたからでしょう。
従って新年度が始まるまでにケリを付けなきゃいけない。真犯人へと辿り着き、逆襲劇を演じるためには。
「これが名簿だ。上から二番目のヒューズという文官を儂は囲っている」
リストにあったのは五人でした。
一人を髭が雇ったというのなら、残りは四人です。スケジュール的には三日間をかけて、五人で調査したみたい。
広い禁書庫を五人で調査するのですから、盗む機会は誰にでもあったと思われます。
「ランカスタ公爵家が雇った文官はまだ国内にいるの?」
「金は渡したが、まだ王国にいるだろう。円満退職すると話していたぞ」
髭から大金を受け取ったというのに、王家から慰労金まで手に入れようとしているのね。
まったく、どいつもこいつも金の亡者なんだからどうしようもないわ。
「状況を確認してくる。合い言葉とかあるわけ?」
私が接触したとしてしらを切るに決まっています。
何か身分を証明する方法が取られているはず。髭が直々に契約したとは思えないし。
「それなら儂の陰に聞け。直ぐに呼び出す」
言って髭は魔道具を操作している。
契約に関わったという右腕を呼び出してくれるらしい。
しばらくして執務室の扉がノックされました。本当に早いわね。常に近くで待機しているのかもしれません。
「旦那様、何用でございましょうか?」
現れたのは私も知る顔でした。
かといって、前世で見たことがある程度。紳士風なのはどの暗部も同じみたいね。
「アナスタシアの要望について覚えているな? 依頼した文官と連絡を取りたい」
「はて? 受け取ったものは間違いなくご依頼の品だったかと?」
「文句があるわけではない。話を聞く事情ができただけだ……」
承知しましたと男が返す。
彼によると不測の事態以外は接触しないことになっているらしく、アポイントから数日かかる手順を踏むしかないみたいです。
「しょうがないわね。急いでくれる? 私は急を要しているのよ」
「承知しました。直ちに連絡を取ってみます」
去って行く陰に私は嘆息している。
時間がないというのにもどかしい。遅れるほどに証拠がなくなっていくのですから。
「コンラッドを呼び戻そう。彼にも動いてもらうわ」
「暗殺とかやめておけよ? 余計な問題まで噴出しかねん」
「分かってるわ。彼は拷問が得意なのよ。全員を徹底的に痛めつけてやるの」
「お前ってやつは……」
髭が呆れようと、私は急ぐだけ。
イセリナに容疑が向けられた時点で終わるのだし、少しでも駒を用意しておかねばなりません。
すべきことが多すぎる。
私にとって正念場となる貴族院最終年は波乱に満ちた幕開けとなってしまうのでした。
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