青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十四章 迫る闇の中で

憎悪に染まった愛を

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 ブラックアウトした視界が戻っていく。

 悔しさだけが残る結末。甘んじて断頭台に乗ったわけですが、戒めることよりも苛立ちが私を襲っています。

 とはいえ、私は死に戻って、あの世界線を知る者は一人もいなくなっている。


 いつものように私はセーブポイントからリスタートしていました。

「アナ、キスして良いか?」

 どうやら、先日の時点でセーブされていたみたい。

 ルークとの邂逅から、妙な雰囲気になった場面へと私は戻されていました。

「今度は確認するんだ?」

 この時間帯であれば、禁書庫の所蔵確認には間に合わない。

 既に髭はアンジェラ・ローズマリーの日記を手に入れているはずだから。

「俺も学んだからな? 気が強い女の子の唇は奪うものじゃないって……」

 私はうろ覚えの遣り取りを続けます。

 今はそれどころじゃないのだと。


 イセリナが無実の罪で斬首刑とされてしまった。

 悪役令嬢ではなくなったからか、私は油断しすぎていました。強い力を持つ彼女にはまだ敵が大勢残っていたのです。

「自分勝手に行動するより良いことだわ。別に私は気が強いなんてことないけどね」

 再びキスするというのに、全くときめかない。

 クレアフィール公爵に対する憎悪だけが私を支配しています。さりとて、了承の返事をしないことには新しい世界線は動き始めません。

「いいよ……」

 ここは間違いじゃない。

 どこかで選択を誤ったとすれば、イセリナが容疑者とされるまでの行動です。

 この時点であれば、私は誓った通りに彼女を救ってあげられるはず。

「本当に……?」

「あのときはごめんね。私はどうしようもなかったんだ。貴方に当たり散らすしか精神を保てなかった。この人生では色々と後悔してるけど、あのときは最悪だった。やり直せるのなら、やり直したい。ずっとそう思ってる……」

 心が籠もっていない返事で悪いと思っている。

 でもね、私の親友が無実の罪で天界へと還るなんて我慢ならないのよ。

 だから、どうか許して欲しい。

「神さえも恨むほどに、あの瞬間を後悔してるわ……」

 どうしても集中できないわ。

 イセリナを助けようとしているのに、彼女の婚約者であるルークとキスしようとしているのだから。

「それは俺もさ……」

 罪悪感と期待感と。再び唇を重ねることには葛藤があるけれど、私は私が選択した道を選ぶ。

 イセリナを救うという意志は少しも動じない。

「アナ、一緒になろう」

 とりあえず、私はこの口づけに誓うよ。

 私が動かした世界線の責任は私が負う。

 第一王子の婚約者として手を挙げたのは、生半可な覚悟じゃない。私が思い描いた未来に到達するまで、何一つ譲るつもりはありませんでした。

 貴族界も査問会も全て牛耳ってやるんだ。誰にも邪魔はさせないつもりよ。

 私を怒らせるという意味をその身体に刻みつけてやるんだから。
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