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第十四章 迫る闇の中で
断頭台
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即日の断頭台。私とイセリナは城下の広場に連れられていました。
やはり手際が良すぎる。予め決定していたと思えるほどに。
「アナスタシア様、残念です。どうか王国を恨まずにいてくれたらと存じます」
モルディン大臣が付き添ってくれる。
まあ別に王国に対して不満は抱いていないわ。
腐敗した貴族界が許せないだけ。どうせリセットされるのだから、私はイセリナに付き合おうというだけです。
「モルディン大臣、世界は悪意で満ちています。より強い悪が世界に残り、弱い悪が淘汰されていくだけ。私が弱かっただけですわ」
震えるイセリナの肩を抱きながら答えた。
イセリナは立派だと思う。リセットされることなど分かっていない彼女にとって、この生は一度きりなのです。
しかし、最後まで泣き喚くことすらしなかった彼女を私は誇りに感じます。
「我が息子は、やはりエレオノーラの嫁ぎ先について悩んでいたのかもしれません。こんなことなら、妙な提案をすべきでなかったかと思います」
「気にしないでください。ほら、大観衆が見守っていますよ? ひっそりと斬首されるのかと考えていましたけれど、貴方様の息子様は本当に愚かですわね?」
ただでは死んであげない。
この世界線を見届けることなどできませんけれど、深い傷跡を残していく。
私の力を過小評価したあの男に恐怖を味わわせてあげるわ。
何も返事をしないモルディン大臣。私とイセリナは見世物のような仮設台へと連行され、二人共が断頭台に首を固定されました。
「何か言い残したことはないか?」
兵が声をかける。
まあ、これは慣例的なことでありまして、迷わずいけるように洗いざらいぶちまける機会を受刑者に与えるものでした。
「アナ、申し訳ないわ。貴方まで巻き込んでしまって……」
「イセリナ、気にしなくて良い。私は事実を述べただけだし、こんな今も貴方を助けたいと思ってる。安心して逝きなさい」
王家の面々は姿を見せていません。
知らされていたでしょうけれど、流石に許可されなかったのだと思います。
私はイセリナに苦痛を除去する魔法を施す。せめてイセリナは痛みを感じることなく逝くべきだと。
無罪であるというのに、処刑される彼女が苦痛を味わうなんてあり得ません。
私は残された時間に訴えるだけだわ。とても後味の悪い処刑にすることが、この断頭台でできる最後の足掻きなのですから。
「皆様、アナスタシア・スカーレットですわ! 此度、私はクレアフィールという名の逆賊に正論を述べただけで処刑されますの! しかも今朝方の話です。小物すぎて笑ってしまいましたわ。不敬という言葉通りなら、私は確かに敬っていなかったでしょう。何しろ尊敬すべきところが一つもない。自身の悪事を私たちに押し付けている小悪党ですから」
私の話に市民からは大きな声が返ってきます。
やはり私の味方は存在する。やり直しの人生でも、彼らが私の背中を押してくれることでしょう。
「アナスタシア様!」
ここで一際甲高い声が聞こえました。
視線を向けると、そこには修道着を着たエリカが立っています。
「アナスタシア様が処刑されるなんて信じられません!」
声を上げずにいられなかったのでしょう。
でも、気持ちだけで充分。貴方まで妙な疑惑を持たれてしまうわ。
「エリカ、王国の未来を託します。如何なる不正も許さない真っ当な国を作ってください」
「何かの間違いです! 弁明の機会を!?」
慌てふためくエリカに私は首を振った。
もう時間がない。あまり長引かせると、隣の眠り姫が恐怖によって処刑よりも早く死んでしまうからね。
「一人で旅立つわけではない! 私は親友たるイセリナ・イグニス・ランカスタと共に天へと還ります。しかし、悪は許さない。クレアフィール公爵だけは許してはならない!」
これでいい。少しでも恐怖に震える夜があの男に訪れることを願って。
「イセリナ、次は必ず助けてあげるわ」
そういった直後、私の視界がブラックアウトしていく。
久しぶりの断頭台。
確か首と胴体が離れて少しの時間だけ感覚があるらしいけど、私の場合はリセットされてしまうので、空を見上げることなどできません。
悪役令嬢っぽい死に様だね。
きっと今頃は悲鳴が飛び交っているでしょう。
少しだけ待っていてください。
私は必ず世界に戻り、敵対する悪を全てなぎ倒してあげますから。
やはり手際が良すぎる。予め決定していたと思えるほどに。
「アナスタシア様、残念です。どうか王国を恨まずにいてくれたらと存じます」
モルディン大臣が付き添ってくれる。
まあ別に王国に対して不満は抱いていないわ。
腐敗した貴族界が許せないだけ。どうせリセットされるのだから、私はイセリナに付き合おうというだけです。
「モルディン大臣、世界は悪意で満ちています。より強い悪が世界に残り、弱い悪が淘汰されていくだけ。私が弱かっただけですわ」
震えるイセリナの肩を抱きながら答えた。
イセリナは立派だと思う。リセットされることなど分かっていない彼女にとって、この生は一度きりなのです。
しかし、最後まで泣き喚くことすらしなかった彼女を私は誇りに感じます。
「我が息子は、やはりエレオノーラの嫁ぎ先について悩んでいたのかもしれません。こんなことなら、妙な提案をすべきでなかったかと思います」
「気にしないでください。ほら、大観衆が見守っていますよ? ひっそりと斬首されるのかと考えていましたけれど、貴方様の息子様は本当に愚かですわね?」
ただでは死んであげない。
この世界線を見届けることなどできませんけれど、深い傷跡を残していく。
私の力を過小評価したあの男に恐怖を味わわせてあげるわ。
何も返事をしないモルディン大臣。私とイセリナは見世物のような仮設台へと連行され、二人共が断頭台に首を固定されました。
「何か言い残したことはないか?」
兵が声をかける。
まあ、これは慣例的なことでありまして、迷わずいけるように洗いざらいぶちまける機会を受刑者に与えるものでした。
「アナ、申し訳ないわ。貴方まで巻き込んでしまって……」
「イセリナ、気にしなくて良い。私は事実を述べただけだし、こんな今も貴方を助けたいと思ってる。安心して逝きなさい」
王家の面々は姿を見せていません。
知らされていたでしょうけれど、流石に許可されなかったのだと思います。
私はイセリナに苦痛を除去する魔法を施す。せめてイセリナは痛みを感じることなく逝くべきだと。
無罪であるというのに、処刑される彼女が苦痛を味わうなんてあり得ません。
私は残された時間に訴えるだけだわ。とても後味の悪い処刑にすることが、この断頭台でできる最後の足掻きなのですから。
「皆様、アナスタシア・スカーレットですわ! 此度、私はクレアフィールという名の逆賊に正論を述べただけで処刑されますの! しかも今朝方の話です。小物すぎて笑ってしまいましたわ。不敬という言葉通りなら、私は確かに敬っていなかったでしょう。何しろ尊敬すべきところが一つもない。自身の悪事を私たちに押し付けている小悪党ですから」
私の話に市民からは大きな声が返ってきます。
やはり私の味方は存在する。やり直しの人生でも、彼らが私の背中を押してくれることでしょう。
「アナスタシア様!」
ここで一際甲高い声が聞こえました。
視線を向けると、そこには修道着を着たエリカが立っています。
「アナスタシア様が処刑されるなんて信じられません!」
声を上げずにいられなかったのでしょう。
でも、気持ちだけで充分。貴方まで妙な疑惑を持たれてしまうわ。
「エリカ、王国の未来を託します。如何なる不正も許さない真っ当な国を作ってください」
「何かの間違いです! 弁明の機会を!?」
慌てふためくエリカに私は首を振った。
もう時間がない。あまり長引かせると、隣の眠り姫が恐怖によって処刑よりも早く死んでしまうからね。
「一人で旅立つわけではない! 私は親友たるイセリナ・イグニス・ランカスタと共に天へと還ります。しかし、悪は許さない。クレアフィール公爵だけは許してはならない!」
これでいい。少しでも恐怖に震える夜があの男に訪れることを願って。
「イセリナ、次は必ず助けてあげるわ」
そういった直後、私の視界がブラックアウトしていく。
久しぶりの断頭台。
確か首と胴体が離れて少しの時間だけ感覚があるらしいけど、私の場合はリセットされてしまうので、空を見上げることなどできません。
悪役令嬢っぽい死に様だね。
きっと今頃は悲鳴が飛び交っているでしょう。
少しだけ待っていてください。
私は必ず世界に戻り、敵対する悪を全てなぎ倒してあげますから。
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