325 / 377
第十四章 迫る闇の中で
断頭台
しおりを挟む
即日の断頭台。私とイセリナは城下の広場に連れられていました。
やはり手際が良すぎる。予め決定していたと思えるほどに。
「アナスタシア様、残念です。どうか王国を恨まずにいてくれたらと存じます」
モルディン大臣が付き添ってくれる。
まあ別に王国に対して不満は抱いていないわ。
腐敗した貴族界が許せないだけ。どうせリセットされるのだから、私はイセリナに付き合おうというだけです。
「モルディン大臣、世界は悪意で満ちています。より強い悪が世界に残り、弱い悪が淘汰されていくだけ。私が弱かっただけですわ」
震えるイセリナの肩を抱きながら答えた。
イセリナは立派だと思う。リセットされることなど分かっていない彼女にとって、この生は一度きりなのです。
しかし、最後まで泣き喚くことすらしなかった彼女を私は誇りに感じます。
「我が息子は、やはりエレオノーラの嫁ぎ先について悩んでいたのかもしれません。こんなことなら、妙な提案をすべきでなかったかと思います」
「気にしないでください。ほら、大観衆が見守っていますよ? ひっそりと斬首されるのかと考えていましたけれど、貴方様の息子様は本当に愚かですわね?」
ただでは死んであげない。
この世界線を見届けることなどできませんけれど、深い傷跡を残していく。
私の力を過小評価したあの男に恐怖を味わわせてあげるわ。
何も返事をしないモルディン大臣。私とイセリナは見世物のような仮設台へと連行され、二人共が断頭台に首を固定されました。
「何か言い残したことはないか?」
兵が声をかける。
まあ、これは慣例的なことでありまして、迷わずいけるように洗いざらいぶちまける機会を受刑者に与えるものでした。
「アナ、申し訳ないわ。貴方まで巻き込んでしまって……」
「イセリナ、気にしなくて良い。私は事実を述べただけだし、こんな今も貴方を助けたいと思ってる。安心して逝きなさい」
王家の面々は姿を見せていません。
知らされていたでしょうけれど、流石に許可されなかったのだと思います。
私はイセリナに苦痛を除去する魔法を施す。せめてイセリナは痛みを感じることなく逝くべきだと。
無罪であるというのに、処刑される彼女が苦痛を味わうなんてあり得ません。
私は残された時間に訴えるだけだわ。とても後味の悪い処刑にすることが、この断頭台でできる最後の足掻きなのですから。
「皆様、アナスタシア・スカーレットですわ! 此度、私はクレアフィールという名の逆賊に正論を述べただけで処刑されますの! しかも今朝方の話です。小物すぎて笑ってしまいましたわ。不敬という言葉通りなら、私は確かに敬っていなかったでしょう。何しろ尊敬すべきところが一つもない。自身の悪事を私たちに押し付けている小悪党ですから」
私の話に市民からは大きな声が返ってきます。
やはり私の味方は存在する。やり直しの人生でも、彼らが私の背中を押してくれることでしょう。
「アナスタシア様!」
ここで一際甲高い声が聞こえました。
視線を向けると、そこには修道着を着たエリカが立っています。
「アナスタシア様が処刑されるなんて信じられません!」
声を上げずにいられなかったのでしょう。
でも、気持ちだけで充分。貴方まで妙な疑惑を持たれてしまうわ。
「エリカ、王国の未来を託します。如何なる不正も許さない真っ当な国を作ってください」
「何かの間違いです! 弁明の機会を!?」
慌てふためくエリカに私は首を振った。
もう時間がない。あまり長引かせると、隣の眠り姫が恐怖によって処刑よりも早く死んでしまうからね。
「一人で旅立つわけではない! 私は親友たるイセリナ・イグニス・ランカスタと共に天へと還ります。しかし、悪は許さない。クレアフィール公爵だけは許してはならない!」
これでいい。少しでも恐怖に震える夜があの男に訪れることを願って。
「イセリナ、次は必ず助けてあげるわ」
そういった直後、私の視界がブラックアウトしていく。
久しぶりの断頭台。
確か首と胴体が離れて少しの時間だけ感覚があるらしいけど、私の場合はリセットされてしまうので、空を見上げることなどできません。
悪役令嬢っぽい死に様だね。
きっと今頃は悲鳴が飛び交っているでしょう。
少しだけ待っていてください。
私は必ず世界に戻り、敵対する悪を全てなぎ倒してあげますから。
やはり手際が良すぎる。予め決定していたと思えるほどに。
「アナスタシア様、残念です。どうか王国を恨まずにいてくれたらと存じます」
モルディン大臣が付き添ってくれる。
まあ別に王国に対して不満は抱いていないわ。
腐敗した貴族界が許せないだけ。どうせリセットされるのだから、私はイセリナに付き合おうというだけです。
「モルディン大臣、世界は悪意で満ちています。より強い悪が世界に残り、弱い悪が淘汰されていくだけ。私が弱かっただけですわ」
震えるイセリナの肩を抱きながら答えた。
イセリナは立派だと思う。リセットされることなど分かっていない彼女にとって、この生は一度きりなのです。
しかし、最後まで泣き喚くことすらしなかった彼女を私は誇りに感じます。
「我が息子は、やはりエレオノーラの嫁ぎ先について悩んでいたのかもしれません。こんなことなら、妙な提案をすべきでなかったかと思います」
「気にしないでください。ほら、大観衆が見守っていますよ? ひっそりと斬首されるのかと考えていましたけれど、貴方様の息子様は本当に愚かですわね?」
ただでは死んであげない。
この世界線を見届けることなどできませんけれど、深い傷跡を残していく。
私の力を過小評価したあの男に恐怖を味わわせてあげるわ。
何も返事をしないモルディン大臣。私とイセリナは見世物のような仮設台へと連行され、二人共が断頭台に首を固定されました。
「何か言い残したことはないか?」
兵が声をかける。
まあ、これは慣例的なことでありまして、迷わずいけるように洗いざらいぶちまける機会を受刑者に与えるものでした。
「アナ、申し訳ないわ。貴方まで巻き込んでしまって……」
「イセリナ、気にしなくて良い。私は事実を述べただけだし、こんな今も貴方を助けたいと思ってる。安心して逝きなさい」
王家の面々は姿を見せていません。
知らされていたでしょうけれど、流石に許可されなかったのだと思います。
私はイセリナに苦痛を除去する魔法を施す。せめてイセリナは痛みを感じることなく逝くべきだと。
無罪であるというのに、処刑される彼女が苦痛を味わうなんてあり得ません。
私は残された時間に訴えるだけだわ。とても後味の悪い処刑にすることが、この断頭台でできる最後の足掻きなのですから。
「皆様、アナスタシア・スカーレットですわ! 此度、私はクレアフィールという名の逆賊に正論を述べただけで処刑されますの! しかも今朝方の話です。小物すぎて笑ってしまいましたわ。不敬という言葉通りなら、私は確かに敬っていなかったでしょう。何しろ尊敬すべきところが一つもない。自身の悪事を私たちに押し付けている小悪党ですから」
私の話に市民からは大きな声が返ってきます。
やはり私の味方は存在する。やり直しの人生でも、彼らが私の背中を押してくれることでしょう。
「アナスタシア様!」
ここで一際甲高い声が聞こえました。
視線を向けると、そこには修道着を着たエリカが立っています。
「アナスタシア様が処刑されるなんて信じられません!」
声を上げずにいられなかったのでしょう。
でも、気持ちだけで充分。貴方まで妙な疑惑を持たれてしまうわ。
「エリカ、王国の未来を託します。如何なる不正も許さない真っ当な国を作ってください」
「何かの間違いです! 弁明の機会を!?」
慌てふためくエリカに私は首を振った。
もう時間がない。あまり長引かせると、隣の眠り姫が恐怖によって処刑よりも早く死んでしまうからね。
「一人で旅立つわけではない! 私は親友たるイセリナ・イグニス・ランカスタと共に天へと還ります。しかし、悪は許さない。クレアフィール公爵だけは許してはならない!」
これでいい。少しでも恐怖に震える夜があの男に訪れることを願って。
「イセリナ、次は必ず助けてあげるわ」
そういった直後、私の視界がブラックアウトしていく。
久しぶりの断頭台。
確か首と胴体が離れて少しの時間だけ感覚があるらしいけど、私の場合はリセットされてしまうので、空を見上げることなどできません。
悪役令嬢っぽい死に様だね。
きっと今頃は悲鳴が飛び交っているでしょう。
少しだけ待っていてください。
私は必ず世界に戻り、敵対する悪を全てなぎ倒してあげますから。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる