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第十四章 迫る闇の中で
気高き姿を
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イセリナが拘束された僅か三日後、査問会が開かれています。
ぶっちゃけ何もできませんでした。貴族界は本当にイセリナを吊し上げることで、事態の収拾を図ろうとしています。
あまりにも急だったもので、出席者は僅か十五人。ペガサスを使う余裕のない遠方の貴族たちは呼び出し通知時に委任状を手渡しています。
せめてダンツだけでも呼び出そうとしたわけですが、私が話を聞いた日には既に委任状を手渡したあと。手際の良すぎる事前準備でした。
モルディン大臣から罪状が読み上げられていく。
罪は聞いていたように王家の婚約者名簿を禁書庫から盗んだというもの。また与えられる罰は即日の斬首でした。
それによりランカスタ公爵家への罰は与えられないものとなっています。
議題を提出したのはクレアフィール公爵です。
駆け足すぎる日程もまた策略の一部なのでしょう。
「イセリナ嬢、間違いありませんか?」
「ワタクシは盗んでおりません」
毅然と返すイセリナ。
彼女は罪を認め、刑罰を軽くするよう求めることもできたはずが、己を偽ってまで生き延びようとしていません。
「議長、発言を!」
髭が何も言わないので、私は手を挙げました。
下位貴族でありましたけれど、発言を認めて欲しい。言いたいことが山ほどあるのよ。
ろくな調査もしていないというのに、結審するなんて許せない。
「アナスタシア子爵、どうぞ……」
私は宣言しておかねばならない。
この救いようのない貴族界には私がいることを。
「どうして拘束から僅か三日で結審するのです? 断罪処分という罪状も重すぎます。どこの誰かは知りませんけれど、調査することで真相が明らかになることを恐れているように感じますの。たとえば、議題を提出されたお方とか……」
私が意見すると、罵声が飛び交います。
全ては私を罵倒するもの。クレアフィール公爵を疑う私に対するものでした。
「アナスタシア子爵、訂正をお願いします。不敬罪とされますよ?」
「構いませんわ! 何度でも申し上げましょう。もう貴族界にその噂が流れております。被告であるイセリナ様はセシル殿下の婚約者になるのだと。さぞかし年頃の娘を抱えた上位貴族のとあるお方は焦られたことでしょう。何しろ、早くから彼女はセシル第三王子殿下にすり寄っていましたからね」
再び汚い言葉が浴びせられますが、私は気にしない。
「明言致しますわ。此度の謀略は計画されたものではない。突発的に行ったものです。だからこそ、急がねばボロがでかねない。今までの査問会で拘束から三日で審議すると言ったことがございましたか? いいえ、あるはずもありません。強大な力が利己的に動かしているだけなのです。一人の女性を血祭りに上げようと……」
「黙れ、貴様! 議長、私は追加の議事を提出させていただく! アナスタシア・スカーレットを不敬罪で斬首刑とするのだと!」
怒り狂ったかのようなクレアフィール公爵。対する私は笑みを浮かべていました。
「弱い犬ほどよく吠えますわね? 真の強者とはイセリナのような者を指す。完全な茶番に身を晒しているというのに、あの子は今も無罪を主張している。直ぐに噛みつく駄犬とは違いますわ」
「アア、アナスタシア様!?」
モルディン大臣には悪いけど、もうこの世界線は終わりよ。
結末は分かりきっているもの。
「茶番といって何がおかしいのです? どうしてかクレアフィール公爵に近い方々は遙々北部から出席されていますわ。マルクス男爵領にペガサスを借りる余裕があるのかしら? まるで査問会の日程を知っていたみたいですわね?」
私は高笑いをしてみせる。このクズたちの心へと深く刻まれるように。
私たちは気高く逝くのよ。
それが悪役令嬢の様式美なのですから。
「断罪してくださいな? 私は火竜の聖女。ここにいる敵を末代まで呪って差し上げます。決して幸福を望みませんように。叶うことなどないのですから!」
このあとクレアフィール公爵は気が狂ったように声を荒らげ、議長のモルディン大臣に結審を急かす。
当然のこと賛成多数であり、反対が二つ。否認したのは私と髭だけでした。
久しぶりの断頭台が確定です。
転生をして無縁になったかと思えば、何の因果か前世の私と共に首を落とされることになっています。
ま、今回は負けを認めてあげるわ。
だけど、次は必ず私が勝利するから……。
ぶっちゃけ何もできませんでした。貴族界は本当にイセリナを吊し上げることで、事態の収拾を図ろうとしています。
あまりにも急だったもので、出席者は僅か十五人。ペガサスを使う余裕のない遠方の貴族たちは呼び出し通知時に委任状を手渡しています。
せめてダンツだけでも呼び出そうとしたわけですが、私が話を聞いた日には既に委任状を手渡したあと。手際の良すぎる事前準備でした。
モルディン大臣から罪状が読み上げられていく。
罪は聞いていたように王家の婚約者名簿を禁書庫から盗んだというもの。また与えられる罰は即日の斬首でした。
それによりランカスタ公爵家への罰は与えられないものとなっています。
議題を提出したのはクレアフィール公爵です。
駆け足すぎる日程もまた策略の一部なのでしょう。
「イセリナ嬢、間違いありませんか?」
「ワタクシは盗んでおりません」
毅然と返すイセリナ。
彼女は罪を認め、刑罰を軽くするよう求めることもできたはずが、己を偽ってまで生き延びようとしていません。
「議長、発言を!」
髭が何も言わないので、私は手を挙げました。
下位貴族でありましたけれど、発言を認めて欲しい。言いたいことが山ほどあるのよ。
ろくな調査もしていないというのに、結審するなんて許せない。
「アナスタシア子爵、どうぞ……」
私は宣言しておかねばならない。
この救いようのない貴族界には私がいることを。
「どうして拘束から僅か三日で結審するのです? 断罪処分という罪状も重すぎます。どこの誰かは知りませんけれど、調査することで真相が明らかになることを恐れているように感じますの。たとえば、議題を提出されたお方とか……」
私が意見すると、罵声が飛び交います。
全ては私を罵倒するもの。クレアフィール公爵を疑う私に対するものでした。
「アナスタシア子爵、訂正をお願いします。不敬罪とされますよ?」
「構いませんわ! 何度でも申し上げましょう。もう貴族界にその噂が流れております。被告であるイセリナ様はセシル殿下の婚約者になるのだと。さぞかし年頃の娘を抱えた上位貴族のとあるお方は焦られたことでしょう。何しろ、早くから彼女はセシル第三王子殿下にすり寄っていましたからね」
再び汚い言葉が浴びせられますが、私は気にしない。
「明言致しますわ。此度の謀略は計画されたものではない。突発的に行ったものです。だからこそ、急がねばボロがでかねない。今までの査問会で拘束から三日で審議すると言ったことがございましたか? いいえ、あるはずもありません。強大な力が利己的に動かしているだけなのです。一人の女性を血祭りに上げようと……」
「黙れ、貴様! 議長、私は追加の議事を提出させていただく! アナスタシア・スカーレットを不敬罪で斬首刑とするのだと!」
怒り狂ったかのようなクレアフィール公爵。対する私は笑みを浮かべていました。
「弱い犬ほどよく吠えますわね? 真の強者とはイセリナのような者を指す。完全な茶番に身を晒しているというのに、あの子は今も無罪を主張している。直ぐに噛みつく駄犬とは違いますわ」
「アア、アナスタシア様!?」
モルディン大臣には悪いけど、もうこの世界線は終わりよ。
結末は分かりきっているもの。
「茶番といって何がおかしいのです? どうしてかクレアフィール公爵に近い方々は遙々北部から出席されていますわ。マルクス男爵領にペガサスを借りる余裕があるのかしら? まるで査問会の日程を知っていたみたいですわね?」
私は高笑いをしてみせる。このクズたちの心へと深く刻まれるように。
私たちは気高く逝くのよ。
それが悪役令嬢の様式美なのですから。
「断罪してくださいな? 私は火竜の聖女。ここにいる敵を末代まで呪って差し上げます。決して幸福を望みませんように。叶うことなどないのですから!」
このあとクレアフィール公爵は気が狂ったように声を荒らげ、議長のモルディン大臣に結審を急かす。
当然のこと賛成多数であり、反対が二つ。否認したのは私と髭だけでした。
久しぶりの断頭台が確定です。
転生をして無縁になったかと思えば、何の因果か前世の私と共に首を落とされることになっています。
ま、今回は負けを認めてあげるわ。
だけど、次は必ず私が勝利するから……。
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