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第十四章 迫る闇の中で

満ちていく闇

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 翌日のこと。

 本日は貴族院が休みであったのですが、どうしてか私はモルディン大臣に呼び出されて王城へと来ています。

 割と小さな部屋。尋問室のような部屋でモルディン大臣が待っていました。

「ご足労いただき申し訳ございません。盗聴されると危険な話でしたので。もちろん、この部屋は完全に外から隔絶しております」

 不穏な話に眉根を寄せる。

(どんな問題ごとなのよ……)

 私は別にトラブルシューティング用のAIじゃないってのに。

「何用ですか?」

「ここだけの話ですが、実はイセリナ様が査問会に呼び出されることになっておりまして、今朝方拘束されました」

 えええ!?

 ちょっと待って!

 どうしてイセリナが査問会に出頭しなきゃいけないの?

 怠惰罪とか昼寝罪とか難癖つけられちゃったってわけ!?

 私は早朝からスラム街の様子を見に行っていましたから、イセリナがどうなっていたのか知りません。

 新たに持たせてもらった魔道具の念話により、呼び出されただけなのです。

「なぜです? イセリナは無害な令嬢ですよ?」

「そうなのですが、イセリナ様に窃盗の疑いがあるのです。先月のことなのですが、禁書庫の所蔵確認が行われ、その際に書物を盗んだとされています」

 窃盗って嘘? ひょっとして髭が雇った調査員がやらかしたっての?

 てか、犯人は私なんだけど!?

「ななな、何を盗んだというのです?」

 冷静に対処できない。

 私のせいでイセリナが濡れ衣を着せられるだなんて。

「それが王家の婚約者名簿なのです……」

 あれ? アンジェラ・ローズマリーの日記じゃないの?

 他にも間者が潜んでいたなんて、禁書庫のチェックってザルすぎない?

「そのようなものをイセリナが盗むわけありません。そもそもまだイセリナはルーク殿下の婚約者でしょう? 盗まずともそのうちに閲覧できる立場ですけど?」

 誰が盗んだのか。

 イセリナではないと断言できますけれど、どうしてか彼女に嫌疑がかかっているみたい。

「証拠が見つかっています。貴族院にある彼女の机から盗まれた蔵書が発見されたのです」

「明らかな工作じゃないですか!?」

 盗んだものを堂々と貴族院に持ち込んでいるはずがありません。

 イセリナを陥れる工作に違いないのです。

「そうなのですが、実際に見つかっておりますから。イセリナ様に事情を聞いたのですが、知らないの一点張りでして……」

 そりゃ知らないのだから、知らないと答えるわね。

 一点張りって話から推察すると、既に犯人として扱われている感じ。罪を認めるかどうかというところまで来ているはず。

「どのような経緯で見つかったのです?」

「それが最近になって、禁書庫の再封印を行ったベリンガム大司教が千番までの書棚に隙間があったと発言されたのです。一応は禁書庫ですので、確認のために封印を解いたのですが、大司教が仰った通りに王家の婚約者名簿はなくなっていたのです」

 それだけでイセリナが疑われちゃうの?

 実際に盗んだ私はのうのうとしているというのに。

「イセリナの机の中から見つかったから、イセリナが疑われているのですか?」

 明らかにおかしいって。

 イセリナが婚約者名簿なんて欲しがるはずもないし、髭に頼んだらもっと上手くやるはずだもの。

「実をいうと調査員は全員が退職していまして、他に手がかりは何もありません。盗まれた書物がイセリナ様の机の中から発見されただけ。けれど、ご存じのように貴族界は誰かを吊し上げて満足する傾向が強い。明らかな悪意だと分かりきっていても、イセリナ様を犯人とすることで落ち着こうとしております」

 本当に貴族界は腐りきっているわね。

 しかし、調査員全員が誰かに雇われていたんじゃないの?

 私も一枚噛んでいたけれど、全員が退職だなんて馬鹿げています。

「なるほど、多かれ少なかれ重箱の隅をつつかれたくない輩が大勢いるのですね。従って手っ取り早く処理して終わらせようとしていると……」

「その通りです。このままではイセリナ様は断罪に処されるでしょう。物的証拠がある限り、言い逃れできない状況が構築されております」

「イセリナはどこに? 査問会はいつですか? 私も出来る限り、動いていくつもりです」

 あの眠り姫はどうしても断罪されちゃうのね。

 私が経験した断罪も多くが冤罪でしたけれど、現状のイセリナもまた貴族界の闇に呑まれているみたい。

「助かります。イセリナ様は王城の一室に閉じ込められております。それで査問会は明後日の予定です。上位貴族の査問会ですので、アナスタシア様もご出席ください」

 まさか私が査問会の審議側に回るなんてね。

 少しも考えていなかったけれど、過半数の否決がない限り、彼女は断罪に処されるみたい。

「それで、議事申請者は誰なのです?」

 分かっていましたけれど、確認です。

 既にメルヴィス公爵家は廃爵が決定しています。従って議事の提出を行った者は一人しか存在しないのです。

「申し訳ございませんが、クレアフィール公爵です……」

 ま、そうだろうね。

 髭が訴えるはずもないし、残る公爵家は一つしかない。

 クレアフィール公爵家がイセリナを亡き者にしようと画策したのだと思います。

「おいたがすぎますわね?」

 私はそういって立ち上がる。まずはイセリナに会って話を聞くだけ。

 面会くらいはさせてもらえるだろうと。
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