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第十四章 迫る闇の中で
真相に近付いて
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『いつしか私は火竜の聖女と呼ばれていた』
魔女から聖女に。アンジェラ・ローズマリーは東にあるアルカニア王国にてそう呼ばれ始めたみたいです。
火竜を連れた聖女。私に枢機卿という重責が任されたのは全てアンジェラのお陰であったらしい。
火竜を引き連れた彼女が多くの人命を救ったからのよう。
『教会の信徒たちに祝福を与え、私は旅立つ。恐らくまだ黒竜は北にいる。地竜程度ではない脅威が迫っているのだ。急ぐしかない』
アンジェラの日記からは悲壮感しか感じない。
どうしてか彼女が命を代償としているとしか思えませんでした。
『アルカニア王国から北上を続けた。しかし、ピークレンジの麓であるそこは破壊し尽くされていた。南下していないのであれば、黒竜は西にあるリーフメルという小国を狙ったのかもしれない』
アンジェラに黒竜と戦う術があるのか。
疑問しか感じませんが、覚悟を決めた彼女は足跡を追うように西へと向かいます。
『リーフメル王国はまだ無事だった。しかし、夜な夜な恐ろしい咆哮が聞こえるという。それはまさに黒竜が街を襲う前兆。私が奴を悪魔と呼ぶ理由の一つだ』
いよいよ決戦の時が近づいていました。
黒竜はピークレンジ山脈を根城とし、近場の街を襲っていたようです。
『私はリーフメルの城主に黒竜討伐を誓う。だが、それは嘘だ……』
え? 嘘ってなに?
伝承では黒竜は貴方が討伐したことになっているのに。
『私では黒竜を倒せない。しかし、世界を救う手段はあった。完全な嘘ではないけれど、私は懺悔と悔恨を日記にだけしたためよう』
アンジェラは黒竜を討伐できないらしい。
伝わっている話と違いすぎるけれど、結局は何とかしたってことかしら?
『マリィとルイを引き連れ、私は再びピークレンジへと戻っていた。途中に女神像があった。それは豊穣を願うものに違いなかったけれど、祈らずにはいられない。私はまだ死にたくないのだから』
ピークレンジ山脈の中腹にはアマンダの像があったみたい。
願っても意味などないと私は知っているけれど、アンジェラは藁をも縋る気持ちで祈りを捧げたようです。
『祈りは女神に届いた。輝きが私を包み込み、私は女神の声を聞く。黒竜という存在は魔王の化身なのだと。加えて私は女神から戦う術を頂戴している』
ちょっと待って! なにその超展開!?
アマンダは私に何もしてくれないのに、アンジェラには術式を授けてたの!?
このあと私は知らされている。
同質化した世界の有りようを。女神アマンダが授けたという戦う術について。
『超大魔法ロナ・メテオ・バーストを――』
嘘よ……。
それは魔導書を頼りに私が構築した魔法なのに……。
『女神アマンダに感謝を。しかしながら、私には黒竜を倒せない。昏倒するほどの魔法なのだ。たった一発しか撃てないのだから、倒せるはずもない』
私は今もロナ・メテオ・バーストについて考えていました。
けれども、日記は足早に進んでいく。
『女神像から一刻ほど歩いた場所。強大な存在を感じる。奴がそこにいるはず。私は透かさず魔法陣を展開し、作戦を実行に移す』
いよいよアンジェラの作戦が明らかになろうとしています。
現世に伝わっていないこと。どのような戦闘が始まるのか、私は息を呑んで読み進めています。
『マリィとルイを先行させ、黒竜に気付かせる。交戦的な奴のことだ。きっと巣から飛び出してくるだろう』
マリィとルイ、頑張って!
スーパーなんちゃらシスターズは世界を救うのよ!
『マリィとルイが黒竜を連れて来た。とても良い子たちだ。あとは私に任せておきなさい』
ゴクリと唾を呑み込む。
ようやくロナ・メテオ・バーストが発動するのかしら?
『黒竜が予め仕掛けた魔法陣に引っかかった。全てが女神の策であるけれど、私が生き残る手段は他にない』
『ロナ・メテオ・バースト――』
淡々と綴られている。
恐らくアンジェラはロナ・メテオ・バーストを撃ち放ったのだと思う。
『女神の魔法は強大な力を発揮していた。だが、やはり超大魔法は私を昏倒させている。私にしか撃てない魔法。巨悪を仕留めるという魔法……』
やはりアンジェラはたった一発で昏倒してしまったみたい。
火竜の聖女は十二歳の私と大差ない魔力量であったようです。
『今だから記す。私は昏倒したものの、使命を果たせた。何日が経過したのか分からないが、マリィたちが顔を舐めたことで私は意識を戻している。そこにはもう巨悪の存在はなかった』
どうやら一撃だったみたい。何だかんだでアンジェラは討伐してみせたのよ。
だけど、私はこのあと真相を知らされていた。
『黒竜は封印できた――』
どうにも頭が回りません。
「封印って……?」
伝承には残っていない話です。
後世にはアンジェラが黒竜を討伐したと伝わっていたのに。
『私は土魔法を行使し、封印式を埋めた。きっと黒竜は生きている。だからこそ、二度と目覚めないことを祈って』
信じられないけど、これは彼女の日記。
タチの悪いジョークを書き綴っているはずもありません。
『安心させるために私は討伐報告をしている。こんなにも心が痛むとは思わなかった。討伐を記念し石像まで建てられる始末。更には祝賀会や褒賞を頂戴するたび、私の良心は痛んだ。だからこそ、私はここに書き記す。恐らくこの手記を手にする者に届くだろうと』
アンジェラは嘘を言って人族を安心させようとしただけ。
しかし、その嘘は逆に彼女を苦しめていたようです。
『私は聖女などではない。ただの魔女だ。嘘を言って地位と金を得た悪魔。せめて後悔と懺悔を弁明として書き記す。誰か私の魂を絡みついたイバラから解放してくれ。世界は救われてなどいない』
アンジェラは罪悪感に苛まれていました。
最後に悲痛な叫びが綴られています。
『黒竜を討ってくれ……』
その後にはロナ・メテオ・バーストの多重魔法陣が記されていました。
しかし、私は首を振る。幾ら期待したとして、古代エルフ文字じゃ誰にも伝わらない。
告白なのだから仕方ありませんが、それでも誰かに読んでもらわねば意味を成しません。
けれども、アンジェラが語った手記を手にする者とは明確であったりします。
「私が読んでいる……」
皮肉にも同じ火竜の聖女と呼ばれた私が彼女の日記を読んでいます。
だけど、そんなの後付けだわ。
結果として私が読んだだけで、私がいなければ意味はありません。
「でも私は存在する。解読もしているんだ……」
どこまでが運命なのでしょう。
何も分からない。私はアンジェラの無念を晴らすために転生したわけではないというのに。
「ひょっとして過去もレジュームポイントの反映を受けた?」
何しろマリィとルイという名が引っかかるし、ロナ・メテオ・バーストに関してもそう。
特にロナ・メテオ・バーストはイセリナ時代に編み出した術式だからです。
「そんなはずもないか。何しろ魔法名は自然と思いついた。同質化しているとすれば、私に違いない」
嘆息してしまいますが、あまり気にする問題でもないと思う。
なぜなら、迷えるアンジェラの魂を送る役目など私にはありません。
よって、この件は知識として得ただけにしておこう。
ただでさえ、私には時間がなかったのですから。
魔女から聖女に。アンジェラ・ローズマリーは東にあるアルカニア王国にてそう呼ばれ始めたみたいです。
火竜を連れた聖女。私に枢機卿という重責が任されたのは全てアンジェラのお陰であったらしい。
火竜を引き連れた彼女が多くの人命を救ったからのよう。
『教会の信徒たちに祝福を与え、私は旅立つ。恐らくまだ黒竜は北にいる。地竜程度ではない脅威が迫っているのだ。急ぐしかない』
アンジェラの日記からは悲壮感しか感じない。
どうしてか彼女が命を代償としているとしか思えませんでした。
『アルカニア王国から北上を続けた。しかし、ピークレンジの麓であるそこは破壊し尽くされていた。南下していないのであれば、黒竜は西にあるリーフメルという小国を狙ったのかもしれない』
アンジェラに黒竜と戦う術があるのか。
疑問しか感じませんが、覚悟を決めた彼女は足跡を追うように西へと向かいます。
『リーフメル王国はまだ無事だった。しかし、夜な夜な恐ろしい咆哮が聞こえるという。それはまさに黒竜が街を襲う前兆。私が奴を悪魔と呼ぶ理由の一つだ』
いよいよ決戦の時が近づいていました。
黒竜はピークレンジ山脈を根城とし、近場の街を襲っていたようです。
『私はリーフメルの城主に黒竜討伐を誓う。だが、それは嘘だ……』
え? 嘘ってなに?
伝承では黒竜は貴方が討伐したことになっているのに。
『私では黒竜を倒せない。しかし、世界を救う手段はあった。完全な嘘ではないけれど、私は懺悔と悔恨を日記にだけしたためよう』
アンジェラは黒竜を討伐できないらしい。
伝わっている話と違いすぎるけれど、結局は何とかしたってことかしら?
『マリィとルイを引き連れ、私は再びピークレンジへと戻っていた。途中に女神像があった。それは豊穣を願うものに違いなかったけれど、祈らずにはいられない。私はまだ死にたくないのだから』
ピークレンジ山脈の中腹にはアマンダの像があったみたい。
願っても意味などないと私は知っているけれど、アンジェラは藁をも縋る気持ちで祈りを捧げたようです。
『祈りは女神に届いた。輝きが私を包み込み、私は女神の声を聞く。黒竜という存在は魔王の化身なのだと。加えて私は女神から戦う術を頂戴している』
ちょっと待って! なにその超展開!?
アマンダは私に何もしてくれないのに、アンジェラには術式を授けてたの!?
このあと私は知らされている。
同質化した世界の有りようを。女神アマンダが授けたという戦う術について。
『超大魔法ロナ・メテオ・バーストを――』
嘘よ……。
それは魔導書を頼りに私が構築した魔法なのに……。
『女神アマンダに感謝を。しかしながら、私には黒竜を倒せない。昏倒するほどの魔法なのだ。たった一発しか撃てないのだから、倒せるはずもない』
私は今もロナ・メテオ・バーストについて考えていました。
けれども、日記は足早に進んでいく。
『女神像から一刻ほど歩いた場所。強大な存在を感じる。奴がそこにいるはず。私は透かさず魔法陣を展開し、作戦を実行に移す』
いよいよアンジェラの作戦が明らかになろうとしています。
現世に伝わっていないこと。どのような戦闘が始まるのか、私は息を呑んで読み進めています。
『マリィとルイを先行させ、黒竜に気付かせる。交戦的な奴のことだ。きっと巣から飛び出してくるだろう』
マリィとルイ、頑張って!
スーパーなんちゃらシスターズは世界を救うのよ!
『マリィとルイが黒竜を連れて来た。とても良い子たちだ。あとは私に任せておきなさい』
ゴクリと唾を呑み込む。
ようやくロナ・メテオ・バーストが発動するのかしら?
『黒竜が予め仕掛けた魔法陣に引っかかった。全てが女神の策であるけれど、私が生き残る手段は他にない』
『ロナ・メテオ・バースト――』
淡々と綴られている。
恐らくアンジェラはロナ・メテオ・バーストを撃ち放ったのだと思う。
『女神の魔法は強大な力を発揮していた。だが、やはり超大魔法は私を昏倒させている。私にしか撃てない魔法。巨悪を仕留めるという魔法……』
やはりアンジェラはたった一発で昏倒してしまったみたい。
火竜の聖女は十二歳の私と大差ない魔力量であったようです。
『今だから記す。私は昏倒したものの、使命を果たせた。何日が経過したのか分からないが、マリィたちが顔を舐めたことで私は意識を戻している。そこにはもう巨悪の存在はなかった』
どうやら一撃だったみたい。何だかんだでアンジェラは討伐してみせたのよ。
だけど、私はこのあと真相を知らされていた。
『黒竜は封印できた――』
どうにも頭が回りません。
「封印って……?」
伝承には残っていない話です。
後世にはアンジェラが黒竜を討伐したと伝わっていたのに。
『私は土魔法を行使し、封印式を埋めた。きっと黒竜は生きている。だからこそ、二度と目覚めないことを祈って』
信じられないけど、これは彼女の日記。
タチの悪いジョークを書き綴っているはずもありません。
『安心させるために私は討伐報告をしている。こんなにも心が痛むとは思わなかった。討伐を記念し石像まで建てられる始末。更には祝賀会や褒賞を頂戴するたび、私の良心は痛んだ。だからこそ、私はここに書き記す。恐らくこの手記を手にする者に届くだろうと』
アンジェラは嘘を言って人族を安心させようとしただけ。
しかし、その嘘は逆に彼女を苦しめていたようです。
『私は聖女などではない。ただの魔女だ。嘘を言って地位と金を得た悪魔。せめて後悔と懺悔を弁明として書き記す。誰か私の魂を絡みついたイバラから解放してくれ。世界は救われてなどいない』
アンジェラは罪悪感に苛まれていました。
最後に悲痛な叫びが綴られています。
『黒竜を討ってくれ……』
その後にはロナ・メテオ・バーストの多重魔法陣が記されていました。
しかし、私は首を振る。幾ら期待したとして、古代エルフ文字じゃ誰にも伝わらない。
告白なのだから仕方ありませんが、それでも誰かに読んでもらわねば意味を成しません。
けれども、アンジェラが語った手記を手にする者とは明確であったりします。
「私が読んでいる……」
皮肉にも同じ火竜の聖女と呼ばれた私が彼女の日記を読んでいます。
だけど、そんなの後付けだわ。
結果として私が読んだだけで、私がいなければ意味はありません。
「でも私は存在する。解読もしているんだ……」
どこまでが運命なのでしょう。
何も分からない。私はアンジェラの無念を晴らすために転生したわけではないというのに。
「ひょっとして過去もレジュームポイントの反映を受けた?」
何しろマリィとルイという名が引っかかるし、ロナ・メテオ・バーストに関してもそう。
特にロナ・メテオ・バーストはイセリナ時代に編み出した術式だからです。
「そんなはずもないか。何しろ魔法名は自然と思いついた。同質化しているとすれば、私に違いない」
嘆息してしまいますが、あまり気にする問題でもないと思う。
なぜなら、迷えるアンジェラの魂を送る役目など私にはありません。
よって、この件は知識として得ただけにしておこう。
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