青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十四章 迫る闇の中で

火竜の聖女

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 マリィとルイってファイアーなんちゃらシスターズじゃん……。

 現在の私はアナスタシア・スカーレットだけど、少し前まではルイと名乗っていたのです。

 ここで思い出されるのは天界での話。愛の女神アマンダが語っていた内容です。

『経過した時間と世界線データが同質化を図れています――』

 全然、気にしていなかったけど、それってアナスタシアのデータがイセリナとしてのプレイデータと世界の過去データを反映したってことじゃないの?

 だとしたら、私は無意識にマリィと名付け、自身の偽名をルイにしてしまったのかもしれない。

「あり得る?」

 転生させたのは女神アマンダであるし、私はアナスタシアとしてプロメティア世界へ送り込まれた。

 人格の根底にそういったデータが反映されていたとして、私は否定しきれない。

「いや、過去にもマリィとルイが存在しただけよ……」

 ここは深く考えないようにしよう。

 偉人の日記を読んでいるだけ。同じ名前だからといって影響があるわけではないのだと。

 黒竜の日記はあまりないようで、ページが割と飛ばされていきます。


『エルドア王国へ流れついてから、今日で五年。マリィとルイも竜らしくなった。私自身は結婚をして、子を産んだばかり。この幸せを黒竜に潰されてはならない』


 五年間は何事もなく過ごしていたみたいね。

 結婚して子供までいるなんて、かなり順応している感じです。


『今日も近衛魔道兵団への指導が終わった。兵たちは本当に魔力が少ない。だから私は簡略化した術式を教えている。しかし、こんなことでは黒竜に襲われたなら一日で全滅するだろう』


 現状の魔法文化を垣間見られる内容です。

 古代魔法は自然と滅びたのかと思いきや、魔力不足により最初から簡略術式を使用するしかなかったみたい。


『ふと黒竜について思い出す。あれは悪魔だ。視界に入る全てを破壊しようとする。せめてブレスを防ぐ魔法を編み出せたのなら楽なのだが、生憎と私には構築できない』


 アンジェラの無念さが伝わってきます。

 身を守る魔法のあるなしで生存可能性が生まれる。しかし、巨悪と呼ばれる黒竜が相手なのですから簡単ではなかったみたいね。


『やはり黒竜はピークレンジ山脈を越えてきた。飛べない黒竜であればとの願いは神に届かなかったらしい。既に山麓の集落は全滅したと聞いた』


 徐々にきな臭くなっていました。

 英雄譚の裏側は決して華やかではありません。

 幸せな生活を送っていたアンジェラは黒竜から逃げ延びて来たのです。

 戦うつもりもなかった彼女ですが、幸福を守るためには戦うしかなかったのかもしれません。


『私はエルドア国王に呼び出された。まあ、覚悟はしていたがな。大地を侵食するように破壊する黒竜を止める手立ては他にないのだから』


 遂に話が伝承と繋がります。

 アンジェラはエルドアという王様に黒竜の討伐依頼を受けることになるのでしょう。


『火竜の魔女だと? 笑わせる。私は決して強者ではない。だというのに、そのような二つ名をエルドア王は私に与えた』


 え? 聖女じゃなく魔女なの?

 近付いたかと思えば、内容は急に離れていきました。


『腹を括るしかない。私が戦わねば、恐らくエルドア王国も滅びる。愛する夫と子供たちのためにも、私は命を賭して戦おう』


 エルフの生き残りであったことが、使命に繋がっている気がしました。

 私とは異なりましたけれど、彼女も避けて通れぬルートに入ってしまったらしい。

 このあとは再びページが飛ぶ。どうしてか隣国に彼女はいました。


『私は東にあるアルカニア王国へと来ていた。竜の目撃情報を聞いたからだ。しかし、肩透かしに終わる。ただの地竜が暴れ回っていただけだ』


 アンジェラは覚悟を決め、竜の目撃情報を頼りに隣国まで来たらしい。

 東というとサルバディール皇国があった辺りかもしれません。


『地竜を討伐した私は瀕死の者たちを救うべく治癒魔法をかけた。運命には抗えぬものだが、か細い糸が繋がるのであればと』


 アンジェラは地竜を討伐しただけでなく、被害にあった人たちの治療を始めたみたい。


『何百人と魔法をかけ続けた。死人も出てしまったが、多くが命を取り留めている』


 これは仕方がない。生命力が尽きた者には回復魔法は作用しないのだから。

 このあと私は知らされている。

 アンジェラ・ローズマリーという存在が何者であるのかを。


『いつしか私は火竜の聖女と呼ばれていた』
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