青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十四章 迫る闇の中で

婚約者騒動

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 一ヶ月が過ぎていました。

 対抗馬なしという貴院長選挙でしたが、満場一致でルークが当選しています。加えてメルヴィス公爵家の廃爵については少しの波風も立たないまま決定していました。

 色々とありましたが、とりあえずは新年度まで春休み。とはいえ、私は割と忙しくしていました。

 あと九ヶ月で最低でも伯爵位を得ること。更にはエリカの闇属性を取り除く魔法の構築が必須だったからです。

「アナ、咽が渇きましたの……」

 私の部屋に入って来たかと思えば、イセリナはそのようなことを口にする。

 かなり衰弱していたイセリナですけれど、現在は体調も戻っています。ただ以前にも増して、怠惰な人になってしまったような感じですね。

「咽が渇いたなら、食堂に行けばいいでしょ?」

「アナはワタクシの侍女でしょう? 早く飲み物を用意して」

 忙しいってのに。

 てか身分で言えば私は正式に貴族であって、ご令嬢よりも格上だと思うのだけどね。

 仕方なくレモネードでも作ろうかと席を立つと、どうしてかイセリナもついてきます。

「一緒に飲むの?」

「その方が楽しいでしょう?」

 この娘は本当に結婚とかできるのかな。

 転生した直後はライバル令嬢感がもの凄くあったというのに、どうしてこうなってしまったのでしょう。


 レモネードを作って二人して席につく。

 ま、煮詰まっていたし、気分転換も必要だもんね。

「それでアナ、ワタクシ破談しそうなのです」

 思わずレモネードを噴き出すところでした。

 えっと、マジなの? 確かにルークはそんな話をしていたけれど。

「イセリナは婚約関係を続けたいの?」

 一応は確認です。

 一時は前向きに捉えていましたけれど、王太子妃など望んでいないとも口にしていたのですから。

「ワタクシ自身もよく分かっていませんわ。面倒だと思ったり、悔しいと感じたり。寝込んでいただけですのに、そのような話になっていますの」

 どうにもフェリクス殿下の妄言が現実を誘っている感じです。

 私自身としては好ましい展開なのですけど、イセリナが落胆するならば素直に喜べません。

「実は私のせいなのよ……」

 真相を語ることにしました。イセリナに落ち度はないってこと。

 全てはフェリクス殿下が予知夢のような言葉を残したからだと。

「フェリクス殿下が、そんなことを?」

「それで王様も王妃様もその方向で考えてしまってるの。髭が納得しないと思うけどね」

 現状では髭の同意なく、婚約を解消する術はありません。

「じゃあ、アナは幸せになれるの?」

 妙な話が続きます。

 私は間違いなく渦中の人でありましたが、イセリナは私がどう感じているのかを気にしている。

 素直に喜ぶべきかどうか。どの世界線も彼女なくして成立しません。

 世話をしてきたのは確かですけれど、イセリナに助けられてここまで来たのだと思えます。

「私は幸せだよ……」

 濁して答えています。

 イセリナにも矜持があるはずで、私にはそれを傷つける資格などありません。

「ならいいわ。ワタクシは生涯に亘ってアナに世話をさせるつもりですの」

「また、そんなこと……」

 イセリナの冗談だと考えていたのですが、実際には想像よりも物事は進んでいました。

「実はセシル殿下の婚約者となってくれないかとも言われております」

 王家はまず本人の意思確認から行っているようです。

 代案まで伝えているなんて、やはり本気なのでしょうか。

「それって髭は知っているの?」

「分かりませんわ。まあでも、アナが王宮へ入るのであれば、悪くない話ですの。ワタクシは死ぬまでアナの世話になれるのですから」

 イセリナが気にしないなら助かるけれど、私が伯爵位を手に入れた世界線でも問題が一つ噴出します。

 セシルの相手がイセリナになってしまうと、エリカが溢れてしまうのです。

 簡単には運ばないとは思いますが、第三王子の相手として充分に相応しい立場をイセリナは持っています。

 エレオノーラもセシルを狙っているみたいだし、急に第三王子殿下のお相手騒動が激しさを増していました。

「アナスタシア様、公爵様がお呼びです」

 ここで執事が私を呼びに来ました。

 嫌なタイミングで呼ぶじゃないの?

 どうやら髭もまた話を聞いたのかもしれません。

「アナ、ワタクシは問題ないと伝えてくださいな?」

 気楽なお姫様だこと。本当に悪役令嬢だったのかしら?

 婚約から婚約破棄といった流れだけしか面影がありません。

「ま、腹割って話をするわ……」

 気が進まないけれど、王家が動いているのなら私も意志を明確にしよう。

 髭はこれでも私の支援者だし、親代わりでもあったのですから。
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