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第十四章 迫る闇の中で

王太子妃

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「アナにとって俺は大切な人じゃないのか!? 功を成す困難さを理解しているのかよ!?」

「出来レースなんて嫌よ。子爵のまま婚約者になったとして嬉しくないし、貴族界が黙っちゃいないわ。でも、私はやり遂げるつもり。いつだって私は困難を乗り越えてきたのだから」

 エリカに譲るつもりはない。私が駄目だったなら、彼女が繰り上がるだけ。

 聖教会が認めた聖女であれば、ずっとスムーズに纏まるでしょう。何しろ、貴族の誰にも損得が生じないのですから。

「私は勝ち取るだけよ……」

 残された期間を考えると非常に厳しいのは明らかです。

 加えて、私はエリカが選ばれた場合の準備も続けなくてはなりません。

「もう一年もないんだぞ!? 俺は王家の慣例に倣って、婚約者と胡蝶蘭の夜会に出席するつもりだ。月が照らし出す純白のテラスで、俺は君と踊りたい」

「去年も踊ったでしょ? それにイセリナという婚約者とも……」

「あんなのただのゲストだろう!? 俺自身が成人し、貴族院を卒業した晴れの舞台には君が隣にいて欲しいんだ……」

 もうルークは誤魔化すような話をしません。

 ここは密室でもなければ、貴族院の廊下であったというのに。

「やれるだけはやるつもりよ。でも、よく考えて欲しいの。私の準備が絶対的に遅れてるわ。胡蝶蘭の夜会まで十ヶ月しかないじゃないの……」

 エスフォレストの領主でしかないというのに、今の私があと十ヶ月で相応しい立場を得られるわけがない。

 あと数年は最低でも必要だと思います。嫌というほど貴族界については理解していますし、子爵のまま選ばれるわけにはなりません。

 私が王太子妃になるのであれば、少なからず髭の権力が増大する。

 それを良く思わない貴族が絶対に現れるはず。だとしたら、やはりエリカが選ばれるべき。

「アナ……」

 落胆したような私の両肩をルークが掴みました。

 何を言われたとして、困難な状況は覆らないというのに。

「フェリクスの夢を覚えてるか?」

 何のこと? そりゃあ覚えてるけど、今する話じゃないと思う。

「私は殿下を看取ったのだから、覚えてるわ……」

「あのときは本当に驚いた。桃色の髪をした王太子妃だなんてフェリクスが口にしたからな。フェリクスはアナと会ったことがないというのに」

 それは私も同じよ。本当にアマンダの仕業なのかと疑問しか思い浮かばなかったし。


 フェリクス殿下が本当に夢を見ていたのか真偽は分からないままでした。

 さりとて、今話し合う内容じゃない。私はそう思っていました。

 ところが、ルークはどうしてかフェリクス殿下の妄言と現実を結びつけてしまう。

「王太子妃はアナだ――」
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