上 下
310 / 377
第十四章 迫る闇の中で

帰宅前に

しおりを挟む
 エレオノーラと別れたあと、私は馬車の停車場へと急いでいました。

 迎えの馬車をあまり待たせるものではありませんし。

「アナ!」

 ところが、呼び止める声がします。

 もうとっくに王宮殿へ戻ったのかと思えば、まだ貴族院にいたみたいですね。

「ルーク、こんな時間まで何していたの?」

 普通に話ができる。別にウブな女だというつもりもありませんが、それだけで私は平穏を得られます。

 たった三日で自ら死に戻りを選んだ世界線を考えると、現状がどれだけ幸せなことであるのか分かるのです。

 たとえ彼に婚約者がいたとしても。

「いやな、貴院長選挙の立候補手続きを済ませていたんだ。アナはもう手続きをしたのか?」

 そういや、私は貴院長選挙に出ると息巻いていたのだっけ。

 髭の目録を見てから取り止めにしたことを話してなかったな。

「実は貴院長選挙には出ないことにしたのよ。第一王子と争っても良い結果が得られないでしょうし」

「本当か? てか、アナは禁書庫へ入る権利が欲しかったんだよな?」

 あの頃はね。既に魔道書がないことは確定しているし、面倒ごとを抱えたくないの。

「それは解決したわ。だから禁書庫はもういいのよ。選挙は頑張ってね?」

 拍子抜けしたような表情のルーク。私が出馬しないのであれば、もう確定でしょうに。

 貴族院にはまだ侯爵家の嫡男とかいますけど、流石にルークの敵ではないのですから。

「お前な、まぁた良からぬことをしてんじゃないだろうな?」

 やけに鋭いじゃない。てか、またって何?

 確かに私は幾つも悪事を働いていたけれど、バレるようなヘマはしていないわよ。

「良からぬことって何? 別に法を犯したつもりはありません」

「頼むから妙な行動を起こすなよ?」

 ルークに言われるまでもないわ。

 私は目的のためには手段を選ばないけれど、それはいつも信念に基づいている。どのような悪事であっても、正義があると信じているもの。

「私が捕まると困るってか……」

「当たり前だろ? アナにはもっと力を手に入れて欲しい……」

 このところ、ルークはずっと積極的になっています。

 濁されていたけれど、それは私が願っていることと同じ。選べる立場にならなきゃいけないのに、評判を落とすなという意味でしょう。

「そういえば、セシル殿下がリーフメル城の城主になるみたいね。まだ公爵家の廃爵も決まっていないのに」

「それな。外堀から埋まってる。もう王家の直轄地になることは決定した。つまり、事前の根回しで廃爵も決定的だな」

 あらま。既に査問会の意味すらないのね。

 ま、あのご老人は人生を楽しんだことでしょう。小国並の力を持っていたんだし。

「ミランダはどうなるの? 亡命したとか聞いたけど……」

「既に潜伏先は判明してる。現状では孫まで断罪。直系以外は罰金で済ますらしい」

「そゆことね。ダルハウジー侯爵家は生き残ったのか……」

 ダルハウジー侯爵家は北部にある上位貴族の一つです。

 メルヴィス公爵とダルハウジー侯爵は兄弟でありまして、リッチモンド公爵家のような罰を受けるのなら、真っ先に断罪されていたことでしょう。

「この数年で上位貴族の取り潰しが相次いだからな。北東部は他国とも隣接しているし、ダルハウジー侯爵は既にメルヴィス家から籍を抜いている。北部の大半を王家の直轄地とするのも負担が大きいからな」

「もう強欲なお爺さまはお腹一杯なんだけどな……」

「アナの所領とは隣接していないだろ? 問題ないと思うぞ」

 貴族院二年目における最大の障害であるメルヴィス公爵が断罪されるのだから、ダルハウジー侯爵家が現状維持でも問題はないかもしれない。

 北東部は隣国との小競り合いが多いし、王家も二の足を踏んだことでしょう。

 ルークは嘆息する私に構わず、次なる台詞を浴びせてくるのでした。

「とにかくアナは功を成してくれ。それしか俺は……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...