青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十三章 巨星に挑む

驚愕の事実

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「北の地を下賜しやすくなる」

 私は息を呑んでいました。

 確かにそうだわ。メルヴィス公爵家を残したとすれば、その土地を奪う機会など訪れない。

 再びやらかしでも起きないと、公爵領は公爵領のままだもの。

「私が手を挙げていいの……?」

「隣接する貴族であれば下賜されやすいだろうな。まあしかし、アナが功績を上げた場合だ。無料で手に入る所領などない。まして、あの地は副都だからな……」

 私は言いくるめられていました。

 髭は割と考えている。自身の利益追求じゃなく、私に関することなのに。

「良くしてくれるんだ?」

「ふん、お前には儲けさせてもらったからな。それに北部地域の求心力を高めることにもなる。儂にも利があるのだよ」

 この辺りは素直じゃないね。

 イセリナにもそうだけど、面と向かって褒めたり可愛がったりしないのよ。

「じゃあ、その方向で進めましょうか。モルディン大臣には話を付けておくわ。忙しいったら、ありゃしないわね。貴族院に行く暇もない……」

「そういえば、貴院長選挙に立候補するんだったな? 勝算はあるのか?」

 貴族院の話を聞いてくるなんて珍しいこともあるもんね。

 まあでも、貴院長選挙ね。正直にルークが立候補すると勝ち目がないと思う。

 片や王子殿下であるし、片や北部の下位貴族。

 知名度はあったとして、貴族院は概ね上位貴族のご子息だし、無記名投票であってもルークに票を投じるはずです。

「ううん、全然ない。私が勝つ見込みなんてあるはずがないでしょ?」

「なら、どうして出る? お前の経歴に泥を塗るようなものだぞ?」

「禁書庫に入りたいの。古代エルフの魔道書がないかと思ってね……」

 エリカを助けてあげたい。というよりエリカの邪魔をしたくない。

 譲るつもりはないけれど、彼女が夢を追うことを邪魔したくないのよ。

「禁書庫? 目録ならあるが……」

 え、マジ?

 禁書庫の目録が存在するって!?

「本当? まぁた悪いルートで手に入れたやつじゃないの?」

「まあ正規のルートではないがな。金儲けに繋がるような書物はなかったと記憶している」

 やはり裏ルートか。

 王家の人間と貴院長のみ閲覧が可能という禁書庫。目録が存在しているのなら、貴院長になった者が小遣い稼ぎとして制作したものでしょうか。

 髭が戸棚の書類を引っ張り出す。どうやら堂々と王都にて禁書庫の調査をしたみたいね。

「これだ……。概ね王国史に関する書物だぞ? お前が見たい蔵書などないはずだ」

 机に置かれた目録を覗き込む。

 古代エルフの魔道書があれば、立候補をする。何もなければ貴院長選挙はスルーで。


 もの凄い数の蔵書でありましたが、髭が話す通りに概ね王家の家系に関するものや、王国史のような書物。

 禁書庫となっているのは強大な魔道書があるわけではなく、王家の血筋や縁故関係が追えるというだけみたいですね。

「これは駄目だわ……」

 ざっと見ていくのですけど、もう最後の一枚になっています。

 明らかに興味を惹くものはなかったはずが、とある題名に私は目を留めました。


【アンジェラ・ローズマリー】


 その名は知っています。

 ゲームでも登場した火竜の聖女こそがアンジェラ・ローズマリー。エリカの遠い祖先に当たるのが彼女でした。

「アンジェラ・ローズマリーって……」

「ああ、それは火竜の聖女だな。本人が書いたという日記らしい」

 意外にも内容まで分かっているみたい。

 アンジェラ・ローズマリーの日記が残っているなんて初耳だわ。

「どんな内容なの?」

「それが内容は全く分からんようだ。何しろ解読できない代物らしいな」

 んん? 解読できないってどういうことかしら?

 アンジェラ・ローズマリーは字が下手くそだったってことかな。

「読めないくらい達筆?」

「ああいや、そうじゃない。アンジェラ・ローズマリーの日記は古代エルフ文字で記されている」

 うそ? 日記をわざわざ古代エルフ文字で書く?

 そもそもプロメティア世界には古代エルフ文字を読む手段がなかったはずだけど。

「どうして古代エルフ文字なの?」

「なんだ、お前でも知らないことがあるんだな? アンジェラ・ローズマリーは……」

 一々腹が立つけれど、知らないものは知らない。

 このあと私は思いもしない話を聞かされることになります。

「エルフの生き残りだと言われている――」
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