303 / 377
第十三章 巨星に挑む
驚愕の事実
しおりを挟む
「北の地を下賜しやすくなる」
私は息を呑んでいました。
確かにそうだわ。メルヴィス公爵家を残したとすれば、その土地を奪う機会など訪れない。
再びやらかしでも起きないと、公爵領は公爵領のままだもの。
「私が手を挙げていいの……?」
「隣接する貴族であれば下賜されやすいだろうな。まあしかし、アナが功績を上げた場合だ。無料で手に入る所領などない。まして、あの地は副都だからな……」
私は言いくるめられていました。
髭は割と考えている。自身の利益追求じゃなく、私に関することなのに。
「良くしてくれるんだ?」
「ふん、お前には儲けさせてもらったからな。それに北部地域の求心力を高めることにもなる。儂にも利があるのだよ」
この辺りは素直じゃないね。
イセリナにもそうだけど、面と向かって褒めたり可愛がったりしないのよ。
「じゃあ、その方向で進めましょうか。モルディン大臣には話を付けておくわ。忙しいったら、ありゃしないわね。貴族院に行く暇もない……」
「そういえば、貴院長選挙に立候補するんだったな? 勝算はあるのか?」
貴族院の話を聞いてくるなんて珍しいこともあるもんね。
まあでも、貴院長選挙ね。正直にルークが立候補すると勝ち目がないと思う。
片や王子殿下であるし、片や北部の下位貴族。
知名度はあったとして、貴族院は概ね上位貴族のご子息だし、無記名投票であってもルークに票を投じるはずです。
「ううん、全然ない。私が勝つ見込みなんてあるはずがないでしょ?」
「なら、どうして出る? お前の経歴に泥を塗るようなものだぞ?」
「禁書庫に入りたいの。古代エルフの魔道書がないかと思ってね……」
エリカを助けてあげたい。というよりエリカの邪魔をしたくない。
譲るつもりはないけれど、彼女が夢を追うことを邪魔したくないのよ。
「禁書庫? 目録ならあるが……」
え、マジ?
禁書庫の目録が存在するって!?
「本当? まぁた悪いルートで手に入れたやつじゃないの?」
「まあ正規のルートではないがな。金儲けに繋がるような書物はなかったと記憶している」
やはり裏ルートか。
王家の人間と貴院長のみ閲覧が可能という禁書庫。目録が存在しているのなら、貴院長になった者が小遣い稼ぎとして制作したものでしょうか。
髭が戸棚の書類を引っ張り出す。どうやら堂々と王都にて禁書庫の調査をしたみたいね。
「これだ……。概ね王国史に関する書物だぞ? お前が見たい蔵書などないはずだ」
机に置かれた目録を覗き込む。
古代エルフの魔道書があれば、立候補をする。何もなければ貴院長選挙はスルーで。
もの凄い数の蔵書でありましたが、髭が話す通りに概ね王家の家系に関するものや、王国史のような書物。
禁書庫となっているのは強大な魔道書があるわけではなく、王家の血筋や縁故関係が追えるというだけみたいですね。
「これは駄目だわ……」
ざっと見ていくのですけど、もう最後の一枚になっています。
明らかに興味を惹くものはなかったはずが、とある題名に私は目を留めました。
【アンジェラ・ローズマリー】
その名は知っています。
ゲームでも登場した火竜の聖女こそがアンジェラ・ローズマリー。エリカの遠い祖先に当たるのが彼女でした。
「アンジェラ・ローズマリーって……」
「ああ、それは火竜の聖女だな。本人が書いたという日記らしい」
意外にも内容まで分かっているみたい。
アンジェラ・ローズマリーの日記が残っているなんて初耳だわ。
「どんな内容なの?」
「それが内容は全く分からんようだ。何しろ解読できない代物らしいな」
んん? 解読できないってどういうことかしら?
アンジェラ・ローズマリーは字が下手くそだったってことかな。
「読めないくらい達筆?」
「ああいや、そうじゃない。アンジェラ・ローズマリーの日記は古代エルフ文字で記されている」
うそ? 日記をわざわざ古代エルフ文字で書く?
そもそもプロメティア世界には古代エルフ文字を読む手段がなかったはずだけど。
「どうして古代エルフ文字なの?」
「なんだ、お前でも知らないことがあるんだな? アンジェラ・ローズマリーは……」
一々腹が立つけれど、知らないものは知らない。
このあと私は思いもしない話を聞かされることになります。
「エルフの生き残りだと言われている――」
私は息を呑んでいました。
確かにそうだわ。メルヴィス公爵家を残したとすれば、その土地を奪う機会など訪れない。
再びやらかしでも起きないと、公爵領は公爵領のままだもの。
「私が手を挙げていいの……?」
「隣接する貴族であれば下賜されやすいだろうな。まあしかし、アナが功績を上げた場合だ。無料で手に入る所領などない。まして、あの地は副都だからな……」
私は言いくるめられていました。
髭は割と考えている。自身の利益追求じゃなく、私に関することなのに。
「良くしてくれるんだ?」
「ふん、お前には儲けさせてもらったからな。それに北部地域の求心力を高めることにもなる。儂にも利があるのだよ」
この辺りは素直じゃないね。
イセリナにもそうだけど、面と向かって褒めたり可愛がったりしないのよ。
「じゃあ、その方向で進めましょうか。モルディン大臣には話を付けておくわ。忙しいったら、ありゃしないわね。貴族院に行く暇もない……」
「そういえば、貴院長選挙に立候補するんだったな? 勝算はあるのか?」
貴族院の話を聞いてくるなんて珍しいこともあるもんね。
まあでも、貴院長選挙ね。正直にルークが立候補すると勝ち目がないと思う。
片や王子殿下であるし、片や北部の下位貴族。
知名度はあったとして、貴族院は概ね上位貴族のご子息だし、無記名投票であってもルークに票を投じるはずです。
「ううん、全然ない。私が勝つ見込みなんてあるはずがないでしょ?」
「なら、どうして出る? お前の経歴に泥を塗るようなものだぞ?」
「禁書庫に入りたいの。古代エルフの魔道書がないかと思ってね……」
エリカを助けてあげたい。というよりエリカの邪魔をしたくない。
譲るつもりはないけれど、彼女が夢を追うことを邪魔したくないのよ。
「禁書庫? 目録ならあるが……」
え、マジ?
禁書庫の目録が存在するって!?
「本当? まぁた悪いルートで手に入れたやつじゃないの?」
「まあ正規のルートではないがな。金儲けに繋がるような書物はなかったと記憶している」
やはり裏ルートか。
王家の人間と貴院長のみ閲覧が可能という禁書庫。目録が存在しているのなら、貴院長になった者が小遣い稼ぎとして制作したものでしょうか。
髭が戸棚の書類を引っ張り出す。どうやら堂々と王都にて禁書庫の調査をしたみたいね。
「これだ……。概ね王国史に関する書物だぞ? お前が見たい蔵書などないはずだ」
机に置かれた目録を覗き込む。
古代エルフの魔道書があれば、立候補をする。何もなければ貴院長選挙はスルーで。
もの凄い数の蔵書でありましたが、髭が話す通りに概ね王家の家系に関するものや、王国史のような書物。
禁書庫となっているのは強大な魔道書があるわけではなく、王家の血筋や縁故関係が追えるというだけみたいですね。
「これは駄目だわ……」
ざっと見ていくのですけど、もう最後の一枚になっています。
明らかに興味を惹くものはなかったはずが、とある題名に私は目を留めました。
【アンジェラ・ローズマリー】
その名は知っています。
ゲームでも登場した火竜の聖女こそがアンジェラ・ローズマリー。エリカの遠い祖先に当たるのが彼女でした。
「アンジェラ・ローズマリーって……」
「ああ、それは火竜の聖女だな。本人が書いたという日記らしい」
意外にも内容まで分かっているみたい。
アンジェラ・ローズマリーの日記が残っているなんて初耳だわ。
「どんな内容なの?」
「それが内容は全く分からんようだ。何しろ解読できない代物らしいな」
んん? 解読できないってどういうことかしら?
アンジェラ・ローズマリーは字が下手くそだったってことかな。
「読めないくらい達筆?」
「ああいや、そうじゃない。アンジェラ・ローズマリーの日記は古代エルフ文字で記されている」
うそ? 日記をわざわざ古代エルフ文字で書く?
そもそもプロメティア世界には古代エルフ文字を読む手段がなかったはずだけど。
「どうして古代エルフ文字なの?」
「なんだ、お前でも知らないことがあるんだな? アンジェラ・ローズマリーは……」
一々腹が立つけれど、知らないものは知らない。
このあと私は思いもしない話を聞かされることになります。
「エルフの生き残りだと言われている――」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる