青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十三章 巨星に挑む

不測の事態

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「貴様、ワシを騙したのか……?」

「騙したとは何のことでしょう? 調査していただけの私を無理矢理に屋敷まで引っ張っていっただけ。そもそも貴方は私の主人として不適格。死をも顧みず前線に立つほどのお方でなければ不相応なのです。その点において姫は私をもってしても鬼神かと思えるほどで……」

 褒めるのか貶すのかどちらかにしろっての。

 一応は私も結婚前の乙女なんだから、鬼神とかいうんじゃない。

「コンラッド、要件を述べなさい。貴方は何を知っているのですか?」

「これは失敬。私はメルヴィス公爵邸で聞いたのです。エスフォレストに呪術師を送り込んだと。加えて私は姫の毒殺を依頼されております」

「証拠はあるのだな?」

 モルディン大臣の問いにコンラッドは頷き、一枚のスクロールを提出しています。

「密談の全貌でございます」

「貴様、何をしているのか分かっておるのか!? もう暗殺者として仕事などもらえんぞ!?」

 叫ぶように言うメルヴィス公爵にコンラッドは不敵な笑みを浮かべています。

「言ったではないですか? 私は既にランカスタ公爵家に雇われていると。それに姫は天下人。私の主人に相応しい人物です。年老いた貴方とは違ってね……」

 このあと、コンラッドとメルヴィス公爵の密談が流されていく。

 衝撃の内容に参加者たちは言葉をなくしていた。


『ワシを侮るな? 目的のためならば暗殺も辞さない。たとえそれが王太子の筆頭であったとしてもだ』


 証拠と言うより言質でしょうか。

 ご老人は自らルークの暗殺を仄めかしています。

 誰も言葉を発せない。想像よりも明確な証拠に何を意見すれば良いのか分からなかったのです。

 ところが、一人だけ冷静な人物がいました。

「モルディン議長、儂はここにメルヴィス公爵家の廃爵を議題として提出させてもらう」

 再びどよめく査問会。二人しかいない公爵家の一人が新たな議題を提出するというのです。

 これには流石の私も驚きを禁じ得ない。

「静かに! ランカスタ公爵殿、貴殿は今、公爵家の一角を廃爵しようとする議題を口にされました。それは国家において重大な決議となります。確固たる証拠と王国の繁栄を望み、提案されるのですか?」

 この辺りはまどろっこしいね。

 モルディン大臣は形式的に言っただけでしょうけれど、焦れったくも感じる手順です。

「証拠も何も見ただろう? 儂は王国のために声を上げただけ。欲にまみれたご老人を皆で送ってあげようというだけの話だ」

 誰もが信じていないでしょうけど、そういうしかないわね。

 欲にまみれた両者の一方が勝ち残るだけなのよ。

「ならば受諾いたします。しかし、メルヴィス公爵家廃爵という議題であれば、査問会は改めて開催する運びとなります。次回は国王や各諸侯を交えてとなりますので」

 ま、公爵家の廃爵となれば、一大事ですからね。しかも北の大地を牛耳っていたフィクサーです。

 下位貴族のなんちゃって領主ことアナスタシアとは違います。

「とりあえず、今回の決議を取りましょうか。アナスタシア・スカーレット子爵とレグス・キャサウェイ男爵の処分。賛成の方は挙手を願います」

「皆、聞いてくれ! 俺は絶対に王太子となる! 俺の味方になってくれ! どのような圧力にも屈しない立派な王太子になってやる!」

「殿下、お静かに。惑わすようなことは謹んでくださいまし」

 ルークが口を挟んだせいで、仕切り直しです。

 再度、モルディン大臣から裁決をすべく挙手が求められました。

 静まり返る会議室。互いが横目で視線を投げ合うだけ。

 なぜなら、一人だけしか手を挙げていなかったからです。

「貴様ら、今までの恩を忘れたのか!?」

 メルヴィス公爵だけが挙手していました。

 脅すような声を上げていましたが、全員が視線を逸らすだけです。


 兎にも角にも、私は無罪となったみたい。

 やれやれと思っていたのですが、このあと予想もしない展開となってしまいます。

「失礼。念話が届きました……」

 ふと、モルディン大臣に念話が届いたらしい。

 既に決議を取ったあとなので、罪状処分を告げるだけだったというのに。

「ア、アナスタシア様!?」

 どうしてかモルディン大臣は私の名を呼びました。

 小首を傾げる私に彼は続けます。

「クルセイドの街にドルトン・シーズ・メルヴィスの軍勢が押し寄せているそうです!」
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