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第十三章 巨星に挑む

徹底抗戦

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「このような記録は捏造だ!!」

 透かさず声を荒らげるメルヴィス公爵。

 悪党は基本的にそう言うのよね。不利な状況は捏造されたものだと。

「公爵殿、お言葉ですが私もこの場におりました。全て事実だと証言させていただきます」

「貴様、議長だろうが!?」

 ご老人は大層ご立腹なご様子。

 議長であるモルディン大臣が私に加勢したものですから、穏やかではありません。

「議長であります。だからこそ事実を伝える。双方の意見を正しく認識するために」

 毅然と言い放つモルディン大臣。

 私に老人趣味などありませんが、何だか惚れてしまいそうになっているわ。

「ついでに申し上げますと、クルセイドに到着した日、領主代行をしていたゼクシス男爵もまた契約違反により死去されております。彼は死の間際、メルヴィス公爵から脅されていたと語っていました。議長の権限において、真実のみを伝えさせてもらっております」

 ヤバいな。議長と髭の独壇場じゃないの。

 これなら私が鬼神の如く暴れ回る未来はないんじゃない?

「議長は議事を進めるだけで良いのだ!」

「いいえ、わざわざ査問会を開いたのです。真相を知る者が黙り込んでいては正しい判断ができかねます」

 本当に格好いいわ。

 私とレグス団長は突っ立っているだけで、このイベントをクリアできそう。この様子なら、余計なことは口にしない方が賢明ですわね。

「いや、実際にルーク殿下は伏せられていたのだ! 警備の不備は明らかだろう!?」

 ご老人も負けていません。さりとて、彼が主張するのはそこしかないのも事実です。

 ルークとイセリナが昏倒していたのは間違いありませんし。

 再び髭が手を挙げる。やはり交渉ごとは髭に敵う者はいないかもね。

「その件に関してだが、アナスタシア・スカーレット子爵に聞きたい。貴殿は病状の一部始終を知っているだろう? 弁明と併せて話してみろ」

 えええ、マジですか。貴方が決定的な証拠を出してくれるんじゃないの?

 まあしかし、発言の機会をくれたのは信頼されているからでしょうね。私ならボロを出さないと考えてのことだと思います。

「失礼ながら、意見させていただきます」

 私も腹を括る。この場でメルヴィス公爵を廃爵にするなどできませんが、彼の支持者を奪う良い機会です。

 あることないことでっち上げて見せましょう。

「私も幾つか魔法陣に記録しております。まあそれよりも、私は着任早々、北の名士が送り込んだ間者の相手と、盗賊を名乗る傭兵団二百人の相手をさせられましたからね。アポイントもなく非公式に来られた王子殿下の警護まで手が回りませんでしたの。どうしてか東側の街道から傭兵団はやって来たのです。メルヴィス公爵、傭兵団に詳しくありませんか?」

「知らんな!? それよりも貴様は警備の不備を認めるのだな!?」

「だから、私は警備を任されていなかったのですよ。王子殿下は子爵領に到着されたときには既に呪いを受けておられましたから」

「そんなはずはない! 殿下が呪われたのは一泊してからだろう!? ワシはそのような報告を受けて……」

「あら? どなたに報告を受けていたのでしょう? それに毒だと議事には記載されております。呪いだと知っておられるのは不思議ですわね。私が知る事実と異なるのでしたら、是非ともお教えくださいな」

 私の返答に、髭がクックと笑っている。

 これくらいできるわ。私だって修羅場を幾つもくぐり抜けているのですから。

「とにかく貴様は警備を怠ったのだ! その事実だけで有罪なのだよ!」

 ゴリ押しで来るなんて無様ね。北の名士も年には勝てないのかしら。

「公爵様、私は無実ですわ。なぜなら、私は警護の命を受けておりませんもの。そもそも貴方様の暗部が王子殿下の危機に近くにおられたのなら、どうして王子殿下を救うように動かれないので? まさかセシル王子殿下を推されているからと、ルーク殿下が邪魔だったなんてことは?」

 割と際どい発言であったのですが、査問会の参加者から失笑が漏れています。

 誰もがセシル王子の後ろ盾となった事実を知っているのです。

 ルークを見殺しにする命令を下していたと邪推するくらい簡単なことでした。

「ワシはルーク殿下の暗殺など指示しておらん! 神に誓ってそのようなことは命じていない!」

「と、言われましても、事実として公爵様はセシル殿下の後ろ盾となられております。ルーク殿下が失われて得をするのは誰でしょう? 私はランカスタ公爵様に庇護されております故、ルーク殿下を賢明に治療いたしましたわ」

 査問会の図式が明確になっていく。

 国務大臣の席を取り合う者の戦い。互いが推す王子殿下を王太子とする場と変貌していました。

「ルーク殿下は何者かに呪術を受けておりましたの。議事では記されておりませんが、同行されたイセリナ様も同様の呪いをかけられていました」

 私が続けると、参加者がどよめいている。

 事実であるとすれば、容疑者が一人に絞られてしまうからです。

 何しろイセリナはランカスタ公爵家唯一の跡取り。ルーク第一王子と同じく目の上のコブであったのですから。

 私は徹底的に攻めるだけよ。北のご老人が言葉をなくす瞬間まで……。

「議事から削除された意味合いを教えてくださらないでしょうか?」
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