291 / 377
第十三章 巨星に挑む
未来への扉
しおりを挟む
住民を引き連れ、王城へと戻った私たちですが、モルディン大臣は咎めることなく、私を査問会が行われる部屋へと連れて行きます。
モルディン大臣の部下がルークと住民たちを宥めてくれるようで、とりあえずルークの乱入はなくなってしまったみたい。
「アナスタシア様、住民たちの怒りは相当なものですね?」
他人事のようにモルディン大臣。って、貴方が仕組んだことじゃないの?
結果を分かってパレードを提案したとしか思えないのだけど。
「彼らは悪くありません。できれば早々に解放してください」
「悪いようには扱いませんよ。少なからず予想していましたし。まあ、あの規模は想定外でしたけれど……」
ほら、やっぱ分かってたんじゃないの。
私が悪いみたいに言わないでくれるかしら?
「そう不満げな顔をするものではありませんよ? 査問会では冷静にお願いしますね」
「モルディン様の言い回しが、少し癪だっただけですわ」
冷静に対処ね……。
私にできるだろうか。煽り耐性がないのはご老人だけの話じゃない。
実際に私は売り言葉に買い言葉で反応してしまうのだから。
「冷静には難しいかもです。ただ私は最後の最後まで諦めないし、覚悟も決めております。信念だけは曲げないようにするつもりです」
刑を軽くするように頼めば、恐らく受け入れられることでしょう。
でもね、そんなの望んでいない。ルークたちは情状酌量を求めているかもだけど、私は無罪を主張するだけよ。
「まあ、そうでしょうな。此度の議題は誰の目から見ても善悪が明らかですし。それでも強者の言い分がまかり通る。貴族社会の慣例でありますな。ただし、今回の決議によってメルヴィス公爵家は多くの貴族に借りを作ることになります。障害を排除するためだけに、招集したのですから」
説明されなくとも分かっています。
メルヴィス公爵がどうしても私を潰しておきたいのは明らかですもの。
「しかし、メルヴィス公爵にそこまでさせたという事実。少なからず招集を受けたものたちは貴方の実力を垣間見ているはず。貴方の立ち回り次第で、ランカスタ公爵に付くのも悪くないと考えるでしょう」
本当に髭頼みかもね。
髭に求心力があるかどうか分からないけれど、領地的にはメルヴィス公爵領の二倍はあるはず。
強大な力という意味において、彼は畏怖されるべき存在だと思う。
「ガゼル陛下は出席されますか?」
「残念ながら下位貴族の処分決議ですからね。ガゼル王は出席の旨を示されたそうですが、丁重に断られたと聞いております」
ま、そうなるね。王様が出席したのなら、否決に回るだろうし。
そもそも最初に聞いた人数以上は参加しないということだね。
「アナスタシア様、私は一連の事案に対して酷く憤りを覚えております。北の地は長くメルヴィス公爵家が治めており、王家が関与しなかったことは害悪であったことでしょう。せめてリーフメル城に王子殿下でも住まわせておけば、現状は避けられたのやもしれません」
今さらですよ。それに誰を配置していたとして、あのご老人の性格が変わるとも思えません。
全面戦争を決意したあの日から、公爵家のお家芸である査問会へと招かれるのは決まっていたことです。
「ソレスティア王城を破壊して良いのなら簡単なのですけどね……」
「恐ろしいことを言わないでくだされ。まあしかし、それに準ずる劇薬が王国には必要かもしれませんが……」
モルディン大臣は分かっている。
メルヴィス公爵の傍若無人な振る舞い。とても貴族を統べる公爵家とは思えないのだと。
「もしも、公爵家が二つになってしまったとして、モルディン様はどうお考えになられます?」
私は質問を続けた。
別に査問会で魔法を放つなんて考えてもいませんけれど、ゲージに入れたマリィはその限りではありません。
たとえ部屋に入れなかったとして、私の危機を察知するかもしれないのです。
「支障はありません。王国はセントローゼス王家あってのもの。その昔、統一を果たした折りの名残が四大公爵家です。当時はその地域ごとに求心力のある統治者が必要だっただけ。王国の誕生から二千年近くが経過し、今やどの地域も王国民であることを認識しております。公爵という地位が必要な時期はもう過ぎ去っているのですよ」
私も同じ意見だわ。
王家が力を持ちすぎることを懸念して存在していたとしても、その力もまた絶大。
弱き者からすれば、脅威となり得るでしょう。力を持つ者が善政を敷くとは限らないのですから。
「ならば、私はいずれメルヴィス公爵家を呑み込んで見せましょう。正直に業腹なのです。仮初めの権力が如何に無力であるのかを知らしめてやろうと存じます」
何度リスタートしたとしても、絶対に私はメルヴィスを討つ。
幾度、断頭台に送られようとも決して心を折ることはない。
その都度、私は憎悪を溜めて、反発力に変えて見せるわ。
「本当に強いお方だ……。もしも、王国を引っ張っていく方が王家以外に存在するのなら、それは貴方のことでしょうね」
女帝みたいに言わないで欲しいのだけど。
さりとて、公爵家を呑み込むのなら、それくらいにはならないといけない。
「私は強くない。一つだけ力があるとすれば、信念でしょうかね」
何度も心が折れそうになったこの世界線。私は認識を改めていました。
愛を知ることで強さを失っている。けれど、目指すべき未来を追い続けていました。
きっと、それは信じていたから。
理想の世界。女神が目指す世界。この先にそれらが拡がっていることを。
「信念とは強い方の考えです。弱き者は縋る柱すら持ちません。よって直ぐに倒れてしまう。挫けそうになっても倒れない貴方は歴とした強者ですよ」
そうかもね。それじゃあ、私は強者らしく振る舞いましょうか。
査問会への出席は恐らく私が一番多い。場数を踏んできた私は誰よりも戦えると信じたい。
何しろ、今回の議題に私の落ち度はないと断言できるのですから。
「さあ、行きましょうか!」
マリィに良い子で待ってなさいと言ってから、私は査問会が開かれる扉を開く。
もう前へと進むしかない。
私は未来へ繋がる扉を開いているのだから。
モルディン大臣の部下がルークと住民たちを宥めてくれるようで、とりあえずルークの乱入はなくなってしまったみたい。
「アナスタシア様、住民たちの怒りは相当なものですね?」
他人事のようにモルディン大臣。って、貴方が仕組んだことじゃないの?
結果を分かってパレードを提案したとしか思えないのだけど。
「彼らは悪くありません。できれば早々に解放してください」
「悪いようには扱いませんよ。少なからず予想していましたし。まあ、あの規模は想定外でしたけれど……」
ほら、やっぱ分かってたんじゃないの。
私が悪いみたいに言わないでくれるかしら?
「そう不満げな顔をするものではありませんよ? 査問会では冷静にお願いしますね」
「モルディン様の言い回しが、少し癪だっただけですわ」
冷静に対処ね……。
私にできるだろうか。煽り耐性がないのはご老人だけの話じゃない。
実際に私は売り言葉に買い言葉で反応してしまうのだから。
「冷静には難しいかもです。ただ私は最後の最後まで諦めないし、覚悟も決めております。信念だけは曲げないようにするつもりです」
刑を軽くするように頼めば、恐らく受け入れられることでしょう。
でもね、そんなの望んでいない。ルークたちは情状酌量を求めているかもだけど、私は無罪を主張するだけよ。
「まあ、そうでしょうな。此度の議題は誰の目から見ても善悪が明らかですし。それでも強者の言い分がまかり通る。貴族社会の慣例でありますな。ただし、今回の決議によってメルヴィス公爵家は多くの貴族に借りを作ることになります。障害を排除するためだけに、招集したのですから」
説明されなくとも分かっています。
メルヴィス公爵がどうしても私を潰しておきたいのは明らかですもの。
「しかし、メルヴィス公爵にそこまでさせたという事実。少なからず招集を受けたものたちは貴方の実力を垣間見ているはず。貴方の立ち回り次第で、ランカスタ公爵に付くのも悪くないと考えるでしょう」
本当に髭頼みかもね。
髭に求心力があるかどうか分からないけれど、領地的にはメルヴィス公爵領の二倍はあるはず。
強大な力という意味において、彼は畏怖されるべき存在だと思う。
「ガゼル陛下は出席されますか?」
「残念ながら下位貴族の処分決議ですからね。ガゼル王は出席の旨を示されたそうですが、丁重に断られたと聞いております」
ま、そうなるね。王様が出席したのなら、否決に回るだろうし。
そもそも最初に聞いた人数以上は参加しないということだね。
「アナスタシア様、私は一連の事案に対して酷く憤りを覚えております。北の地は長くメルヴィス公爵家が治めており、王家が関与しなかったことは害悪であったことでしょう。せめてリーフメル城に王子殿下でも住まわせておけば、現状は避けられたのやもしれません」
今さらですよ。それに誰を配置していたとして、あのご老人の性格が変わるとも思えません。
全面戦争を決意したあの日から、公爵家のお家芸である査問会へと招かれるのは決まっていたことです。
「ソレスティア王城を破壊して良いのなら簡単なのですけどね……」
「恐ろしいことを言わないでくだされ。まあしかし、それに準ずる劇薬が王国には必要かもしれませんが……」
モルディン大臣は分かっている。
メルヴィス公爵の傍若無人な振る舞い。とても貴族を統べる公爵家とは思えないのだと。
「もしも、公爵家が二つになってしまったとして、モルディン様はどうお考えになられます?」
私は質問を続けた。
別に査問会で魔法を放つなんて考えてもいませんけれど、ゲージに入れたマリィはその限りではありません。
たとえ部屋に入れなかったとして、私の危機を察知するかもしれないのです。
「支障はありません。王国はセントローゼス王家あってのもの。その昔、統一を果たした折りの名残が四大公爵家です。当時はその地域ごとに求心力のある統治者が必要だっただけ。王国の誕生から二千年近くが経過し、今やどの地域も王国民であることを認識しております。公爵という地位が必要な時期はもう過ぎ去っているのですよ」
私も同じ意見だわ。
王家が力を持ちすぎることを懸念して存在していたとしても、その力もまた絶大。
弱き者からすれば、脅威となり得るでしょう。力を持つ者が善政を敷くとは限らないのですから。
「ならば、私はいずれメルヴィス公爵家を呑み込んで見せましょう。正直に業腹なのです。仮初めの権力が如何に無力であるのかを知らしめてやろうと存じます」
何度リスタートしたとしても、絶対に私はメルヴィスを討つ。
幾度、断頭台に送られようとも決して心を折ることはない。
その都度、私は憎悪を溜めて、反発力に変えて見せるわ。
「本当に強いお方だ……。もしも、王国を引っ張っていく方が王家以外に存在するのなら、それは貴方のことでしょうね」
女帝みたいに言わないで欲しいのだけど。
さりとて、公爵家を呑み込むのなら、それくらいにはならないといけない。
「私は強くない。一つだけ力があるとすれば、信念でしょうかね」
何度も心が折れそうになったこの世界線。私は認識を改めていました。
愛を知ることで強さを失っている。けれど、目指すべき未来を追い続けていました。
きっと、それは信じていたから。
理想の世界。女神が目指す世界。この先にそれらが拡がっていることを。
「信念とは強い方の考えです。弱き者は縋る柱すら持ちません。よって直ぐに倒れてしまう。挫けそうになっても倒れない貴方は歴とした強者ですよ」
そうかもね。それじゃあ、私は強者らしく振る舞いましょうか。
査問会への出席は恐らく私が一番多い。場数を踏んできた私は誰よりも戦えると信じたい。
何しろ、今回の議題に私の落ち度はないと断言できるのですから。
「さあ、行きましょうか!」
マリィに良い子で待ってなさいと言ってから、私は査問会が開かれる扉を開く。
もう前へと進むしかない。
私は未来へ繋がる扉を開いているのだから。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる