青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十三章 巨星に挑む

未来への扉

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 住民を引き連れ、王城へと戻った私たちですが、モルディン大臣は咎めることなく、私を査問会が行われる部屋へと連れて行きます。

 モルディン大臣の部下がルークと住民たちを宥めてくれるようで、とりあえずルークの乱入はなくなってしまったみたい。

「アナスタシア様、住民たちの怒りは相当なものですね?」

 他人事のようにモルディン大臣。って、貴方が仕組んだことじゃないの?

 結果を分かってパレードを提案したとしか思えないのだけど。

「彼らは悪くありません。できれば早々に解放してください」

「悪いようには扱いませんよ。少なからず予想していましたし。まあ、あの規模は想定外でしたけれど……」

 ほら、やっぱ分かってたんじゃないの。

 私が悪いみたいに言わないでくれるかしら?

「そう不満げな顔をするものではありませんよ? 査問会では冷静にお願いしますね」

「モルディン様の言い回しが、少し癪だっただけですわ」

 冷静に対処ね……。

 私にできるだろうか。煽り耐性がないのはご老人だけの話じゃない。

 実際に私は売り言葉に買い言葉で反応してしまうのだから。

「冷静には難しいかもです。ただ私は最後の最後まで諦めないし、覚悟も決めております。信念だけは曲げないようにするつもりです」

 刑を軽くするように頼めば、恐らく受け入れられることでしょう。

 でもね、そんなの望んでいない。ルークたちは情状酌量を求めているかもだけど、私は無罪を主張するだけよ。

「まあ、そうでしょうな。此度の議題は誰の目から見ても善悪が明らかですし。それでも強者の言い分がまかり通る。貴族社会の慣例でありますな。ただし、今回の決議によってメルヴィス公爵家は多くの貴族に借りを作ることになります。障害を排除するためだけに、招集したのですから」

 説明されなくとも分かっています。

 メルヴィス公爵がどうしても私を潰しておきたいのは明らかですもの。

「しかし、メルヴィス公爵にそこまでさせたという事実。少なからず招集を受けたものたちは貴方の実力を垣間見ているはず。貴方の立ち回り次第で、ランカスタ公爵に付くのも悪くないと考えるでしょう」

 本当に髭頼みかもね。

 髭に求心力があるかどうか分からないけれど、領地的にはメルヴィス公爵領の二倍はあるはず。

 強大な力という意味において、彼は畏怖されるべき存在だと思う。

「ガゼル陛下は出席されますか?」

「残念ながら下位貴族の処分決議ですからね。ガゼル王は出席の旨を示されたそうですが、丁重に断られたと聞いております」

 ま、そうなるね。王様が出席したのなら、否決に回るだろうし。

 そもそも最初に聞いた人数以上は参加しないということだね。

「アナスタシア様、私は一連の事案に対して酷く憤りを覚えております。北の地は長くメルヴィス公爵家が治めており、王家が関与しなかったことは害悪であったことでしょう。せめてリーフメル城に王子殿下でも住まわせておけば、現状は避けられたのやもしれません」

 今さらですよ。それに誰を配置していたとして、あのご老人の性格が変わるとも思えません。

 全面戦争を決意したあの日から、公爵家のお家芸である査問会へと招かれるのは決まっていたことです。

「ソレスティア王城を破壊して良いのなら簡単なのですけどね……」

「恐ろしいことを言わないでくだされ。まあしかし、それに準ずる劇薬が王国には必要かもしれませんが……」

 モルディン大臣は分かっている。

 メルヴィス公爵の傍若無人な振る舞い。とても貴族を統べる公爵家とは思えないのだと。

「もしも、公爵家が二つになってしまったとして、モルディン様はどうお考えになられます?」

 私は質問を続けた。

 別に査問会で魔法を放つなんて考えてもいませんけれど、ゲージに入れたマリィはその限りではありません。

 たとえ部屋に入れなかったとして、私の危機を察知するかもしれないのです。

「支障はありません。王国はセントローゼス王家あってのもの。その昔、統一を果たした折りの名残が四大公爵家です。当時はその地域ごとに求心力のある統治者が必要だっただけ。王国の誕生から二千年近くが経過し、今やどの地域も王国民であることを認識しております。公爵という地位が必要な時期はもう過ぎ去っているのですよ」

 私も同じ意見だわ。

 王家が力を持ちすぎることを懸念して存在していたとしても、その力もまた絶大。

 弱き者からすれば、脅威となり得るでしょう。力を持つ者が善政を敷くとは限らないのですから。

「ならば、私はいずれメルヴィス公爵家を呑み込んで見せましょう。正直に業腹なのです。仮初めの権力が如何に無力であるのかを知らしめてやろうと存じます」

 何度リスタートしたとしても、絶対に私はメルヴィスを討つ。

 幾度、断頭台に送られようとも決して心を折ることはない。

 その都度、私は憎悪を溜めて、反発力に変えて見せるわ。

「本当に強いお方だ……。もしも、王国を引っ張っていく方が王家以外に存在するのなら、それは貴方のことでしょうね」

 女帝みたいに言わないで欲しいのだけど。

 さりとて、公爵家を呑み込むのなら、それくらいにはならないといけない。

「私は強くない。一つだけ力があるとすれば、信念でしょうかね」

 何度も心が折れそうになったこの世界線。私は認識を改めていました。

 愛を知ることで強さを失っている。けれど、目指すべき未来を追い続けていました。

 きっと、それは信じていたから。

 理想の世界。女神が目指す世界。この先にそれらが拡がっていることを。

「信念とは強い方の考えです。弱き者は縋る柱すら持ちません。よって直ぐに倒れてしまう。挫けそうになっても倒れない貴方は歴とした強者ですよ」

 そうかもね。それじゃあ、私は強者らしく振る舞いましょうか。

 査問会への出席は恐らく私が一番多い。場数を踏んできた私は誰よりも戦えると信じたい。

 何しろ、今回の議題に私の落ち度はないと断言できるのですから。

「さあ、行きましょうか!」

 マリィに良い子で待ってなさいと言ってから、私は査問会が開かれる扉を開く。

 もう前へと進むしかない。

 私は未来へ繋がる扉を開いているのだから。
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