青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十二章 天恵

誓いを立てて

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「呪術師を捕まえたのか?」

「呪いを反呪したからね。クルセイドに潜伏していたから、旅人が昏倒したと住民が運んでくれたのよ」

 一応は詳しく伝えています。

 呪術師の魂がメルヴィス公爵と繋がっていたこと。あくまでシラを切り、無関係を装っていたことまで。

「メルヴィス公爵め、何て爺さんだ。アナを呪殺しようとしていたなんて……」

「いや、問題はそこじゃないのよ。私に呪いが効かなかったから、ルークやイセリナを代わりに呪ったこと。私はそれが許せないの……」

 今思い出しても腹が立つわ。

 ルークの足でも蹴飛ばせば、この苛立ちも解消されるかしら?

「アナ、無茶すんなよ。行動力がありすぎて怖くなる。あんな爺さんでも公爵であって、どのような行動も容認されるほど支持者がいるんだ」

「そうは言っても私は査問会に呼び出されているのよ。王都に戻るや、招集されるでしょうね」

 ルークは聞いていなかったのか丸い目をしています。

 査問会は事実上、有罪が決定しているのです。開かれたなら最後、弱者の弁明など通るはずもありません。


 また査問会は四大公爵家の裁量で開かれます。

 リッチモンド公爵家が廃爵となった今、髭とご老人、そしてクレアフィール公爵しか開催の声を上げられません。

「アナ、出席するのか? どんな言い掛かりをつけられるか分からないぞ?」

「仕方ないでしょ? 私は下位貴族だし、もう三日も出席を突っぱねているんだから」

 えええと大きな声を出すルーク。

 出席要請を三日も無視するなんて、ただでさえ不利な状況が益々怪しくなってしまうだろうと。

「アナ、俺も出席するから。俺たちが無理矢理にクルセイドへ行ったせいだ……」

「言っとくけど、殿下の話なんか聞いてもらえないわよ? 髭とモルディン大臣しか頼れない状況なの」

 そもそもルークの出席が認められるはずがないわ。

 メルヴィス公爵に不利な証言をするだろう者の参加が許可されるはずがないの。

「俺はアナを助けたいと思う。この五年間、俺はずっとそれを考えていた。助けられるばかりじゃ、俺は王子として格好悪いからな……」

 気持ちは嬉しいけど、無理なものは無理。

 出席する権利がある髭と議長である大臣くらいしか私には味方がいないの。

 でも、大丈夫よ。私は所領を失うことになったとして、厄介ごとから解放されるだけだし。

 加えて断罪になったとして、リセットされるだけだからね。

 ところが、ルークは続けました。予想すらしていない理由を口にしています。

「俺は今もアナが好きだから……」

 ゴンドラ内に沈黙が満ちた。

 寝息を立てるイセリナはともかくとして、私とレグス団長は言葉がありません。

 いきなり何を言うの? もっと気の利いた場所を選べないわけ?

 視線を泳がせる私にルークは笑みを浮かべています。

「もう自分に嘘はつきたくねぇよ。俺は君が好きだ……」

「ちょ、やめてよ! まだ私は準備していない。胡蝶蘭の夜会で決めてくれと話したでしょ!?」

 困惑するしかありません。

 レグス団長もいるというのに、何てことを口走るの?

 全ての準備が完了してから、私は選んでくれと話したはず。

「アナスタシア様、殿下もこう仰ってます。出席が叶うか分かりませんけれど、殿下の気持ちを汲んで頂きたいと存じます」

「レグス様、貴方は誰の味方なの? 査問会で妙なことを口走れば、きっとまた良くない噂を流されてしまいますよ? メルヴィス公爵は今もまだセシル殿下側の人間なのですから」

 ルークが何を言い出すのか分からない。だから、許可されないし、私も許可できない。

 容易に望まぬ未来が想像できるんだもの。きっと私は色仕掛けをした汚い女だと言われるに決まっている。

 その先に私がルークと共に過ごす時間など少しですら用意されていないはず。

「アナ、少しくらい俺を頼れ。君のためにできること。俺はやりたいと思う。もちろん、絶対に迷惑をかけるつもりはないから」

「本当ぉ? いまいち信用ならないのだけど……」

 昔よりは思慮深くなっているだろうけど。

 それでも追及されたとき、ルークが咄嗟に嘘をつけるとは思えないのです。

 私と違って真っ直ぐな彼はそのとき事実を伝えてしまいそうで。


 はぁっと長い息を吐く。

 私は小さく漏らしていました。

「こんな喧嘩っ早い女の何がいいの……?」

 私の気持ちは明確でしたけれど、自分が男であれば私だけは選ばない。

 平気で悪事にも手を染める女を好きになる理由が分からないわ。

「アナ、君は確かに気が短いけれど、君の行動は全て誰かのためになっている。自分をそっちのけで、他者を優先できる人だ。スラムでの活動もそうだし、俺と初めて会ったときだって捨て身で助けてくれただろ? 俺はずっと格好いい女性が好きだった。君は他者を思いやる心を持っていながら、強くてとても格好いい。あの頃からずっとそう思ってる」

 私には褒められる要素なんかない。

 結果的に人のためになっているだけであって、その実は使命を遂げようとしているだけなんだもの。

「まあ、分かりました。可能ならば出席してちょうだい。ただし、私は格好良くなんかできない。あのご老人とはどちらかが死ぬまで戦うことになるだろうし」

 あと一年もある。貴族院を卒業して、ルークが相手を決めるまで。

 まあしかし、私は一つずつ問題を解決しながら、ここまで来たんだ。

 これから先の時間もこれまでと変わらず、努力していこうと思います。
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