280 / 377
第十二章 天恵
一流の陰
しおりを挟む
「術式に干渉しましたの。今し方、この部屋のアンチマジック術式に介入したのと同じですわ。私は魔力糸を見ることができます。魔法陣が目に見えたのなら、どうにでもできるってわけです」
ゴクリと唾を呑む音が聞こえました。
そろそろ締めにしましょうか。ご老人をいたぶる趣味もありませんし。
「そちらに用意しました木箱。どうぞ中を検めてくださいまし」
意味が分からなかったでしょう。
しかしながら、メルヴィス公爵は執事に命じて、ワインの木箱を開けさせます。
絶句する執事に、ご老人も慌てて中を覗き込む。執事が引っ張り出したその顔には見覚えがあることでしょう。
「っ!?」
「それはルーク殿下を呪った術士ですの。殿下を蝕んでいた術式を反呪させましたわ。従いまして、その方は呪術によって昏倒しております。恐らくあと十日くらいの命ではないでしょうかね?」
愕然とした目をしてご老人は私を見ていました。
これより私刑ともいえる罰が始まるのよ。
「反呪だと?」
「身体を見てもらえますか? 縛り付けるような黒い痣。それが呪いですの。ルーク殿下にあったそのままをお返ししました」
「いや、どうして貴様は呪術師をワシに届けるのだ!?」
あら、まだお気付きでないのね。
私は魔力糸が見えると言ったじゃないの?
それは別に私だけじゃなく、視覚化できるってだけ。
「どうしても公爵様に見て頂きたいのです。この呪術師がどこから派遣されたのか。もしも契約者がいるのなら、魂が魔力糸によって繋がっております。私が魔力糸の可視化術式を唱えたとすれば、この呪術師と契約者が一本の糸で結ばれるというわけですのよ?」
目を泳がせるメルヴィス公爵様。
でもまだメインディッシュじゃないのよね。
「いや、ワシは知らんぞ!? このような男は初めて見た!」
「そう仰ると考えておりました。それではこの男の呪いを解呪しましょうか? 聞きたい話がありますし。もちろん、嘘を言わぬように契約をしてからになりますが……」
別にここで全てを洗いざらいにするつもりもなかったりするのですけど、メルヴィス公爵はやはりこの先にも邪魔になるはず。優位に立っておくべき相手です。
「何を……聞くつもりだ……?」
「大したことではございませんわ。嘘を言えば苦しむようにするだけですから。幾つか質問をするだけで、真相が明らかになります」
青ざめるご老人。でも、これからですよ?
貴方が私にした嫌がらせの倍返し。私が赴いた理由を知るのはここからです。
「その前に、魔力糸を明らかとしましょうか。呪術師の契約者が誰であるのか判然とするでしょう」
呆然と頭を振るメルヴィス公爵ですが、私は躊躇しない。
悪事を働くのであれば、どこまでも悪に徹するべき。今さら命乞いなんて許さないわ。
術式を展開していく。
古代エルフ文字でありますから、魔道書を見ながら慎重に。
録画している手前、失敗だなんて恥ずかしいですからね。
「判明しましたわ。反呪で苦しむ術者から二つの糸が見えます。一つはエスフォレスト方向ですわね? これは反呪した際に呪術の起点を私の従者としたからです。そしてもう一方の魔力糸。どうしてかメルヴィス公爵様に繋がっていますね?」
「濡れ衣だ! 貴様はとんだペテン師だな!?」
「じゃあ、見ていてください。術者に浮かんだ魔法陣。中央の大きな術式は私の従者と繋がるためのもの。周囲にある五つの魔法陣が呪いを意味しています。これから私の光属性にて術式を破壊します」
イセリナで解呪は実証済み。
此度は呪術師から魔力糸を追い、コンラッドの起点魔法陣を破壊するだけです。
念のため、手足を縛り上げてから、私は解呪を試みる。
しばらくすると、呪術師の身体から呪縛が消えていく。どうやら問題なく解呪できたようです。
「うぅ……」
透かさずエクストラヒールをかけて、回復を促します。
ルークたちのように一週間も伏せっていたわけではないので、体力は問題ないことでしょう。
「気がついた? 私が誰だか分かる?」
うっすらと開いた目は私を見るなり、大きく見開いていました。
ま、殺害対象を知らないはずはないものね。
「ア、アナスタシア・スカーレット……?」
ホント、笑っちゃうわ。
私を狙っていたことが呪術師自身から語られているのですから。
しかし、証拠としては甘い。これでも私は有名人だし。
「そう、アナスタシア・スカーレットよ。とりあえず、貴方の血をもらうわね?」
言って私は呪術師の腕をナイフで切って、少しばかり血を流してもらう。魔法陣を転写した羊皮紙に雫を垂らせば契約完了なのよ。
「この契約によって嘘はつけなくなる。嘘を口にすると死と同等の痛みを覚えますわ。また自害しようとしても同じこと。絶対に死ねない拷問の術式ですの」
メルヴィスの爺様だけじゃなく、レグス団長までドン引きしているのはなぜかしらね?
「まずは名前を……」
私は呪術師に名を問う。
実をいうとこれは術式がどういったものかという説明のようなもの。子飼いの暗殺者が素直に名乗るとは思えないからです。
「ジャスティン……」
そういった直後、呪術師は奇声を上げ、のたうち回っています。
やはり偽名を名乗ってしまったみたいね。
狂人のごとくもがき苦しんだあと、あまりの苦しみから嘔吐しています。
「嘘を言うなといったでしょ? 貴方の名は?」
臨死体験をしたのだし、もう嘘はつけないことでしょう。きっと彼は本名を名乗るはず。
爺様もがよく知る名を口にすることでしょう。
「私はザック……」
ゴクリと唾を呑む音が聞こえました。
そろそろ締めにしましょうか。ご老人をいたぶる趣味もありませんし。
「そちらに用意しました木箱。どうぞ中を検めてくださいまし」
意味が分からなかったでしょう。
しかしながら、メルヴィス公爵は執事に命じて、ワインの木箱を開けさせます。
絶句する執事に、ご老人も慌てて中を覗き込む。執事が引っ張り出したその顔には見覚えがあることでしょう。
「っ!?」
「それはルーク殿下を呪った術士ですの。殿下を蝕んでいた術式を反呪させましたわ。従いまして、その方は呪術によって昏倒しております。恐らくあと十日くらいの命ではないでしょうかね?」
愕然とした目をしてご老人は私を見ていました。
これより私刑ともいえる罰が始まるのよ。
「反呪だと?」
「身体を見てもらえますか? 縛り付けるような黒い痣。それが呪いですの。ルーク殿下にあったそのままをお返ししました」
「いや、どうして貴様は呪術師をワシに届けるのだ!?」
あら、まだお気付きでないのね。
私は魔力糸が見えると言ったじゃないの?
それは別に私だけじゃなく、視覚化できるってだけ。
「どうしても公爵様に見て頂きたいのです。この呪術師がどこから派遣されたのか。もしも契約者がいるのなら、魂が魔力糸によって繋がっております。私が魔力糸の可視化術式を唱えたとすれば、この呪術師と契約者が一本の糸で結ばれるというわけですのよ?」
目を泳がせるメルヴィス公爵様。
でもまだメインディッシュじゃないのよね。
「いや、ワシは知らんぞ!? このような男は初めて見た!」
「そう仰ると考えておりました。それではこの男の呪いを解呪しましょうか? 聞きたい話がありますし。もちろん、嘘を言わぬように契約をしてからになりますが……」
別にここで全てを洗いざらいにするつもりもなかったりするのですけど、メルヴィス公爵はやはりこの先にも邪魔になるはず。優位に立っておくべき相手です。
「何を……聞くつもりだ……?」
「大したことではございませんわ。嘘を言えば苦しむようにするだけですから。幾つか質問をするだけで、真相が明らかになります」
青ざめるご老人。でも、これからですよ?
貴方が私にした嫌がらせの倍返し。私が赴いた理由を知るのはここからです。
「その前に、魔力糸を明らかとしましょうか。呪術師の契約者が誰であるのか判然とするでしょう」
呆然と頭を振るメルヴィス公爵ですが、私は躊躇しない。
悪事を働くのであれば、どこまでも悪に徹するべき。今さら命乞いなんて許さないわ。
術式を展開していく。
古代エルフ文字でありますから、魔道書を見ながら慎重に。
録画している手前、失敗だなんて恥ずかしいですからね。
「判明しましたわ。反呪で苦しむ術者から二つの糸が見えます。一つはエスフォレスト方向ですわね? これは反呪した際に呪術の起点を私の従者としたからです。そしてもう一方の魔力糸。どうしてかメルヴィス公爵様に繋がっていますね?」
「濡れ衣だ! 貴様はとんだペテン師だな!?」
「じゃあ、見ていてください。術者に浮かんだ魔法陣。中央の大きな術式は私の従者と繋がるためのもの。周囲にある五つの魔法陣が呪いを意味しています。これから私の光属性にて術式を破壊します」
イセリナで解呪は実証済み。
此度は呪術師から魔力糸を追い、コンラッドの起点魔法陣を破壊するだけです。
念のため、手足を縛り上げてから、私は解呪を試みる。
しばらくすると、呪術師の身体から呪縛が消えていく。どうやら問題なく解呪できたようです。
「うぅ……」
透かさずエクストラヒールをかけて、回復を促します。
ルークたちのように一週間も伏せっていたわけではないので、体力は問題ないことでしょう。
「気がついた? 私が誰だか分かる?」
うっすらと開いた目は私を見るなり、大きく見開いていました。
ま、殺害対象を知らないはずはないものね。
「ア、アナスタシア・スカーレット……?」
ホント、笑っちゃうわ。
私を狙っていたことが呪術師自身から語られているのですから。
しかし、証拠としては甘い。これでも私は有名人だし。
「そう、アナスタシア・スカーレットよ。とりあえず、貴方の血をもらうわね?」
言って私は呪術師の腕をナイフで切って、少しばかり血を流してもらう。魔法陣を転写した羊皮紙に雫を垂らせば契約完了なのよ。
「この契約によって嘘はつけなくなる。嘘を口にすると死と同等の痛みを覚えますわ。また自害しようとしても同じこと。絶対に死ねない拷問の術式ですの」
メルヴィスの爺様だけじゃなく、レグス団長までドン引きしているのはなぜかしらね?
「まずは名前を……」
私は呪術師に名を問う。
実をいうとこれは術式がどういったものかという説明のようなもの。子飼いの暗殺者が素直に名乗るとは思えないからです。
「ジャスティン……」
そういった直後、呪術師は奇声を上げ、のたうち回っています。
やはり偽名を名乗ってしまったみたいね。
狂人のごとくもがき苦しんだあと、あまりの苦しみから嘔吐しています。
「嘘を言うなといったでしょ? 貴方の名は?」
臨死体験をしたのだし、もう嘘はつけないことでしょう。きっと彼は本名を名乗るはず。
爺様もがよく知る名を口にすることでしょう。
「私はザック……」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる