青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十二章 天恵

一流の陰

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「術式に干渉しましたの。今し方、この部屋のアンチマジック術式に介入したのと同じですわ。私は魔力糸を見ることができます。魔法陣が目に見えたのなら、どうにでもできるってわけです」

 ゴクリと唾を呑む音が聞こえました。

 そろそろ締めにしましょうか。ご老人をいたぶる趣味もありませんし。

「そちらに用意しました木箱。どうぞ中を検めてくださいまし」

 意味が分からなかったでしょう。

 しかしながら、メルヴィス公爵は執事に命じて、ワインの木箱を開けさせます。

 絶句する執事に、ご老人も慌てて中を覗き込む。執事が引っ張り出したその顔には見覚えがあることでしょう。

「っ!?」

「それはルーク殿下を呪った術士ですの。殿下を蝕んでいた術式を反呪させましたわ。従いまして、その方は呪術によって昏倒しております。恐らくあと十日くらいの命ではないでしょうかね?」

 愕然とした目をしてご老人は私を見ていました。

 これより私刑ともいえる罰が始まるのよ。

「反呪だと?」

「身体を見てもらえますか? 縛り付けるような黒い痣。それが呪いですの。ルーク殿下にあったそのままをお返ししました」

「いや、どうして貴様は呪術師をワシに届けるのだ!?」

 あら、まだお気付きでないのね。

 私は魔力糸が見えると言ったじゃないの?

 それは別に私だけじゃなく、視覚化できるってだけ。

「どうしても公爵様に見て頂きたいのです。この呪術師がどこから派遣されたのか。もしも契約者がいるのなら、魂が魔力糸によって繋がっております。私が魔力糸の可視化術式を唱えたとすれば、この呪術師と契約者が一本の糸で結ばれるというわけですのよ?」

 目を泳がせるメルヴィス公爵様。

 でもまだメインディッシュじゃないのよね。

「いや、ワシは知らんぞ!? このような男は初めて見た!」

「そう仰ると考えておりました。それではこの男の呪いを解呪しましょうか? 聞きたい話がありますし。もちろん、嘘を言わぬように契約をしてからになりますが……」

 別にここで全てを洗いざらいにするつもりもなかったりするのですけど、メルヴィス公爵はやはりこの先にも邪魔になるはず。優位に立っておくべき相手です。

「何を……聞くつもりだ……?」

「大したことではございませんわ。嘘を言えば苦しむようにするだけですから。幾つか質問をするだけで、真相が明らかになります」

 青ざめるご老人。でも、これからですよ?

 貴方が私にした嫌がらせの倍返し。私が赴いた理由を知るのはここからです。

「その前に、魔力糸を明らかとしましょうか。呪術師の契約者が誰であるのか判然とするでしょう」

 呆然と頭を振るメルヴィス公爵ですが、私は躊躇しない。

 悪事を働くのであれば、どこまでも悪に徹するべき。今さら命乞いなんて許さないわ。


 術式を展開していく。

 古代エルフ文字でありますから、魔道書を見ながら慎重に。

 録画している手前、失敗だなんて恥ずかしいですからね。

「判明しましたわ。反呪で苦しむ術者から二つの糸が見えます。一つはエスフォレスト方向ですわね? これは反呪した際に呪術の起点を私の従者としたからです。そしてもう一方の魔力糸。どうしてかメルヴィス公爵様に繋がっていますね?」

「濡れ衣だ! 貴様はとんだペテン師だな!?」

「じゃあ、見ていてください。術者に浮かんだ魔法陣。中央の大きな術式は私の従者と繋がるためのもの。周囲にある五つの魔法陣が呪いを意味しています。これから私の光属性にて術式を破壊します」

 イセリナで解呪は実証済み。

 此度は呪術師から魔力糸を追い、コンラッドの起点魔法陣を破壊するだけです。

 念のため、手足を縛り上げてから、私は解呪を試みる。

 しばらくすると、呪術師の身体から呪縛が消えていく。どうやら問題なく解呪できたようです。

「うぅ……」

 透かさずエクストラヒールをかけて、回復を促します。

 ルークたちのように一週間も伏せっていたわけではないので、体力は問題ないことでしょう。

「気がついた? 私が誰だか分かる?」

 うっすらと開いた目は私を見るなり、大きく見開いていました。

 ま、殺害対象を知らないはずはないものね。

「ア、アナスタシア・スカーレット……?」

 ホント、笑っちゃうわ。

 私を狙っていたことが呪術師自身から語られているのですから。

 しかし、証拠としては甘い。これでも私は有名人だし。

「そう、アナスタシア・スカーレットよ。とりあえず、貴方の血をもらうわね?」

 言って私は呪術師の腕をナイフで切って、少しばかり血を流してもらう。魔法陣を転写した羊皮紙に雫を垂らせば契約完了なのよ。

「この契約によって嘘はつけなくなる。嘘を口にすると死と同等の痛みを覚えますわ。また自害しようとしても同じこと。絶対に死ねない拷問の術式ですの」

 メルヴィスの爺様だけじゃなく、レグス団長までドン引きしているのはなぜかしらね?

「まずは名前を……」

 私は呪術師に名を問う。

 実をいうとこれは術式がどういったものかという説明のようなもの。子飼いの暗殺者が素直に名乗るとは思えないからです。

「ジャスティン……」

 そういった直後、呪術師は奇声を上げ、のたうち回っています。

 やはり偽名を名乗ってしまったみたいね。

 狂人のごとくもがき苦しんだあと、あまりの苦しみから嘔吐しています。

「嘘を言うなといったでしょ? 貴方の名は?」

 臨死体験をしたのだし、もう嘘はつけないことでしょう。きっと彼は本名を名乗るはず。

 爺様もがよく知る名を口にすることでしょう。

「私はザック……」
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