278 / 377
第十二章 天恵
腹の探り合い
しおりを挟む
エスフォレストを発ってから三時間。
馬車では二日かかる旅程でしたけれど、ルークたちを乗せてきたペガサスのゴンドラがあるので余裕です。
「堂々と乗り込むのは初めてなのよね……」
前世でも魔道書や特効薬探しの折りに訪れた経験はありました。
けれど、夜中であったり身分を隠しての訪問でしたので、白昼堂々と乗り込むなんて不思議な感じです。
お城の一角にある巨大な邸宅。それは建国当初から存在する建物らしいのですが、今やメルヴィス公爵家の所有物です。
「残念だけど、相手が悪かったわね……」
ご老人の陰を捕らえたこと。思わぬボーナスゲームを手にした気分です。
先んじて噂話を王都に流した北の名士はどう思うのでしょうか。
巨大な庭にゴンドラを下ろした私たちは瞬く間に公爵家の私兵に取り囲まれている。
かといって、ゴンドラには王家の紋章がありました。なので、武器を向けられるといった事態にはなっておりません。
「アナスタシア様は後からお願いします」
正直に私の方が強いと思うのだけど、やはりこの世界線はレグスルートなのかもね。
彼は率先して厄介ごとへ首を突っ込んでいきます。
レグス団長が話をつけたあと、私とマリィがリーフメルの大地へと降り立つ。
流石にどよめいています。火竜を連れた令嬢が他にいるわけもありませんしね。兵たちは戦々恐々としていました。
「急な訪問失礼いたしますわ。私はアナスタシア・スカーレットと申します。隣接する土地の領主となりましたので、公爵様にご挨拶をと赴いた次第ですの。手土産も用意しましたので、警戒されなくても結構ですわよ?」
私はアイテムボックスから台車を取り出し、ワインの木箱をレグス団長に載せてもらう。
もっとも木箱にはご老人の陰が入っているのですけれど。
「とても素晴らしい逸品を用意しました。さぞかし公爵様も気に入られるかと存じますわ。ただ検品はやめてくださいな? もしも毒が混入していた場合、貴方たちのせいにしていいのであればご自由にどうぞ?」
私兵の胆力を試すように言った。
別に中身を検められたならば、作戦を変更するだけです。あくまで強気に私は行動するだけよ。
結局、兵たちはワインの木箱を検めることなく、私たちをメルヴィス公爵の元へと案内する。
拍子抜けだけど、予定通りなのだから文句などないわ。
しばらくエントランスで待たされたあと、私たちは貴賓室へと招かれています。
贅の限りを尽くした部屋を見ると、やはり北のご老人は今もまだ上を見ているのだと思えます。
「ああ、待たせた……」
ようやくメルヴィス公爵が現れました。
一応は礼儀正しく謝辞を伝え、座れと言われてからソファへと腰掛けます。
「クック、まさか貴様が会いに来るとは思わなかったぞ?」
第一声はまだ余裕が感じられます。
まあそうでしょうね。このご老人はルークが今も呪術によって苦しんでいると考えているのでしょうし。
「あら? ご挨拶ですわね。一週間前に北部へ来たところでして、ご挨拶が遅れたのですわ」
腹の探り合いとなるのですが、この爺様が期待しているのは私の謝罪でしょうね。
グレー判定とはなったのですが、私のせいでメルヴィス公爵家は信頼を失ったわけですから。
「それで何の用だ? ワシはこれでも忙しいのだ。端的に言え」
何だか髭を思い出すね。
格下と見ているのは間違いないけれど、気の長い私でも苛々しちゃいます。
「では簡単に。私どもは別に挨拶という理由で伺ったのではありません」
「まあそうだろうな? 色々と噂が流れているらしいが……」
しらばくれちゃってさ。あんたが吹聴した噂でしょうに。
「噂? どのような内容なのでしょうか? 気になりますね……」
そう返すとご老人は笑みを大きくしました。
まるで自分の術中に私が嵌まっていることを理解したかのように。
「いやな、王都ではエスフォレストを視察されたルーク殿下が酷い病気で伏せられていると噂されている。一週間前にそこのレグスと共に視察されたそうだ。しかし、今は殿下がお見えでない。側付きの騎士が殿下の側を離れるのはおかしいな?」
私が理解できるようにメルヴィス公爵は割と踏み込んで話をしています。
確かにルークの専属騎士であるレグス団長様が私に同行しているのはおかしく見えたでしょうね。
私は不敵な笑みを浮かべて返すだけよ。
どのような反応を見せるのか楽しませてもらいましょう。
「根も葉もない噂ですわね……」
馬車では二日かかる旅程でしたけれど、ルークたちを乗せてきたペガサスのゴンドラがあるので余裕です。
「堂々と乗り込むのは初めてなのよね……」
前世でも魔道書や特効薬探しの折りに訪れた経験はありました。
けれど、夜中であったり身分を隠しての訪問でしたので、白昼堂々と乗り込むなんて不思議な感じです。
お城の一角にある巨大な邸宅。それは建国当初から存在する建物らしいのですが、今やメルヴィス公爵家の所有物です。
「残念だけど、相手が悪かったわね……」
ご老人の陰を捕らえたこと。思わぬボーナスゲームを手にした気分です。
先んじて噂話を王都に流した北の名士はどう思うのでしょうか。
巨大な庭にゴンドラを下ろした私たちは瞬く間に公爵家の私兵に取り囲まれている。
かといって、ゴンドラには王家の紋章がありました。なので、武器を向けられるといった事態にはなっておりません。
「アナスタシア様は後からお願いします」
正直に私の方が強いと思うのだけど、やはりこの世界線はレグスルートなのかもね。
彼は率先して厄介ごとへ首を突っ込んでいきます。
レグス団長が話をつけたあと、私とマリィがリーフメルの大地へと降り立つ。
流石にどよめいています。火竜を連れた令嬢が他にいるわけもありませんしね。兵たちは戦々恐々としていました。
「急な訪問失礼いたしますわ。私はアナスタシア・スカーレットと申します。隣接する土地の領主となりましたので、公爵様にご挨拶をと赴いた次第ですの。手土産も用意しましたので、警戒されなくても結構ですわよ?」
私はアイテムボックスから台車を取り出し、ワインの木箱をレグス団長に載せてもらう。
もっとも木箱にはご老人の陰が入っているのですけれど。
「とても素晴らしい逸品を用意しました。さぞかし公爵様も気に入られるかと存じますわ。ただ検品はやめてくださいな? もしも毒が混入していた場合、貴方たちのせいにしていいのであればご自由にどうぞ?」
私兵の胆力を試すように言った。
別に中身を検められたならば、作戦を変更するだけです。あくまで強気に私は行動するだけよ。
結局、兵たちはワインの木箱を検めることなく、私たちをメルヴィス公爵の元へと案内する。
拍子抜けだけど、予定通りなのだから文句などないわ。
しばらくエントランスで待たされたあと、私たちは貴賓室へと招かれています。
贅の限りを尽くした部屋を見ると、やはり北のご老人は今もまだ上を見ているのだと思えます。
「ああ、待たせた……」
ようやくメルヴィス公爵が現れました。
一応は礼儀正しく謝辞を伝え、座れと言われてからソファへと腰掛けます。
「クック、まさか貴様が会いに来るとは思わなかったぞ?」
第一声はまだ余裕が感じられます。
まあそうでしょうね。このご老人はルークが今も呪術によって苦しんでいると考えているのでしょうし。
「あら? ご挨拶ですわね。一週間前に北部へ来たところでして、ご挨拶が遅れたのですわ」
腹の探り合いとなるのですが、この爺様が期待しているのは私の謝罪でしょうね。
グレー判定とはなったのですが、私のせいでメルヴィス公爵家は信頼を失ったわけですから。
「それで何の用だ? ワシはこれでも忙しいのだ。端的に言え」
何だか髭を思い出すね。
格下と見ているのは間違いないけれど、気の長い私でも苛々しちゃいます。
「では簡単に。私どもは別に挨拶という理由で伺ったのではありません」
「まあそうだろうな? 色々と噂が流れているらしいが……」
しらばくれちゃってさ。あんたが吹聴した噂でしょうに。
「噂? どのような内容なのでしょうか? 気になりますね……」
そう返すとご老人は笑みを大きくしました。
まるで自分の術中に私が嵌まっていることを理解したかのように。
「いやな、王都ではエスフォレストを視察されたルーク殿下が酷い病気で伏せられていると噂されている。一週間前にそこのレグスと共に視察されたそうだ。しかし、今は殿下がお見えでない。側付きの騎士が殿下の側を離れるのはおかしいな?」
私が理解できるようにメルヴィス公爵は割と踏み込んで話をしています。
確かにルークの専属騎士であるレグス団長様が私に同行しているのはおかしく見えたでしょうね。
私は不敵な笑みを浮かべて返すだけよ。
どのような反応を見せるのか楽しませてもらいましょう。
「根も葉もない噂ですわね……」
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる