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第十二章 天恵

敵陣へと

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「真の強者とは誰であるのかを魂に刻み込んでやるのよ……」

 もう二度と再プレイしたくない。アナスタシアの人生で終わらせてみせる。

 世界を救おうという私に邪魔立てするのなら、少しも容赦しない。

「アナスタシア様が危害を加えられないでしょうか?」

「リックは心配しないでいいわ。マリィも連れて行くし、何かあれば正当防衛を主張する。遣り取りの一部始終を魔法陣に記録するつもりだし」

 そうそうボロは出さないでしょうけれど、念のためにね。

 チンケなアンチマジック術式が施されていたとして私は気にする必要もないし。

「暴言を吐かれそうですけれど……」

「今さらよ。私は子爵令嬢でしかなかったから、そんなの慣れっこだもの。寧ろ、憐れに思えてくる。他者を蔑むことでしか、悦に浸れないのですから」

 ここまで言えば私の覚悟と決意を分かってくれたことでしょう。

 敵はリーフメルにいるのよ。リットモンドを天へと還したあと、世界を蝕む悪はあのご老人だけなの。

「確か長男はもう五十歳くらいかしら? 早く跡目を継がせるように諭してあげないとね」

「ああ、そういえば私が潜入した折り、ドルトン殿下とお会いしました。やる気のない男でしたが、やはりアレも男なんですね。焚き付けてやりましたら、本気になっていました」

 ここで私は確認していない話を聞く。

 コンラッドさん、報告はマメに正確にね?

 私の部下であるのなら、徹底して欲しいわ。

「どういうこと? 貴方、ドルトンに何を吹き込んだってのよ?」

「ああ、申し訳ございません。実はあの男も婚約に対する望みをまだ持っていたのです。公爵家を騒々しくさせるのも面白いかと思いまして……」

 そういえばこの人は上位貴族のいざこざが好物でしたね。

 どういった経緯でドルトン殿下の背中を押したのかしら?

 前世では爺様の死後、領主にこそなっていたけれど、結局は結婚せずに跡目を弟の長男に継がせている。

 確か権力に興味のない人間だったと思うのだけど。

「まさか気になる相手でもいたの?」

 別に興味もありませんでしたが、聞いてみることに。

 上位貴族は割と狭い世界で生きているのです。

 格に見合った相手を探すのも苦労する。特に男子であり、長男でもあれば。

「鎌をかけてイセリナ様やらエレオノーラ様の名を出しましたが、反応しませんでしたので、シャルロット王女殿下の相手はどうかと話したのです」

 いやいや、犯罪でしょ!? まだ十二歳じゃなかった!?

 そもそもイセリナやエレオノーラでも倍以上違うのだから、更に五つも年下のシャルロットとか論外です。

「彼は幼児趣味でもあったってわけ?」

 前世ではシャルロット王女殿下の婚約者はアルバートでした。

 しかし、今回の世界線においてアルバートは評判を落としています。

 だからなのか、急にドルトンはやる気をい出しているみたい。自身の年齢とか考えることなく。

「分かりませんが、シャルロット王女殿下に相応しいのは自分だと声を大きくされておりました。少し背中を押しすぎましたかね?」

「別に構わないわ。彼がどう動こうと私には関係ないもの。勝手にすればいい」

 気にする要素がありません。前世を見る限り、ドルトンは無能の極みだもの。

 典型的なお坊ちゃんに足を掬われるような事態は考えられませんでした。

「とりあえず、出発します。リックは領内の事務をお願い。コンラッドはイセリナとルーク殿下の警護をしっかりね」

 私の命令に二人は反論することなく頷いています。

 この二人がいるのなら、留守も安心です。何しろ凄腕の暗殺者と元皇太子殿下の懐刀なのですから。

 私はマリィとレグス団長様を引き連れて、いざ東の土地を目指します。
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