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第十二章 天恵
宣戦布告
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モルディン大臣との念話を終わらせた私は長い息を吐く。
過度に躊躇うけれど、やるしかない。
術者を運び入れたコンラッドとリック、そしてレグス団長に向けて私は告げた。
「全員よく聞いて。この男性はルーク殿下を呪った術者です。どうやらクルセイドに潜伏していたみたいね。反呪の影響で昏倒したのだと思われます」
まずは説明からです。
その上で彼らが私の行動についてどう思うのか。もう決めていますけれど、知りたいと思います。
「姫、本当ですか? タイミングが良すぎる気もしますけれど?」
「この痣を見て? ルーク殿下にあったものと一緒でしょ? 魔力糸でコンラッドとも繋がっているし」
「では、この男を拷問にかけますか?」
コンラッドは私を誤解しているわ。
私は別に痛めつけることを楽しむような人間じゃないっての。
「無駄よ。爺様の陰が簡単に口を割るはずがないもの。とりあえず、この男は……」
既に宣戦布告は受けていたけれど、こちらからは何もしていない。
そんなのは私の礼儀に反する。向こう側にも知らせてあげないと。
一方的な攻撃が続くのではなく、反撃もあるってことを。
「メルヴィス公爵領に運びます」
流石に三人は困惑していました。
私が何を考えているのか検討もつかないみたいですね。
ならばと、私は詳細を語るだけ。私の覚悟を伝えるだけだわ。
「メルヴィス公爵に面会を願います」
私は公爵の目の前に間者を突き出すつもり。
もちろん惚けるでしょうけれど、そんなことは許さないのよ。
「いや、アナスタシア様、流石にそれは?」
「あの爺様は自分が有利にあると疑っていないわ。だからこそ、押しかけてやるの。きっと困り果てた私が謝罪に来たと思うはずよ……」
王都ルナレイクで妙な噂を流すくらいです。呪術師がルークを呪ったことは既に知っているはず。
小娘が白旗を揚げたと勘違いするでしょうね。
「公爵の眼前でこの男を殺す――」
これが有意義な使い方。
何の役にも立たない暗殺者の利用方法なの。私は公爵が投げた挑戦状を受け取り、了承した旨を伝えるだけよ。
「いやはや、姫は常に私の予想を超えてきますな? その極悪っぷりは真似できそうにありませんね」
「茶化さないで。私は戦争を始めようという公爵に、わざわざ挨拶に行くのですよ? 聖人だと思うのだけど?」
「しかし、アナスタシア様、簡単に公爵が会ってくれますかどうか……」
リックが話すように、問題は面会の可否となりますが、まあ会ってくれるはず。
私だけなら門前払いかもしれませんけれど。
「レグス様に同行願います。近衛騎士団長である彼が同行したという事実。メルヴィス公爵は深読みするでしょう。王都の噂話が引き起こした事態なのか、或いは策略がバレたのかもと。もしも、王子殿下暗殺容疑をかけられてしまえば、リッチモンド公爵の二の舞になりますからね。精一杯弁明を並べられることでしょう」
「ああ、なるほど。確かに私が向かえば無下にはされないような気がしますね。けれど、私は王子殿下の警護という役目がございます。同行したい気持ちはございますが……」
「それなら問題ありません。今し方、モルディン大臣から念話がありまして、既にレグス様をお借りする話はつけております。王子殿下の警護にはコンラッドをつけますから」
トントン拍子で話は進むのだけど、全ては私の思惑通りなの。
残念ながら、北の名士は私の手の平で転がっていればいいわ。
「姫、メルヴィス公爵の眼前でこの男を殺す意味はどういったことなのでしょう?」
コンラッドが真意を尋ねています。
確かに意味はないように思えますけれど、これはとても重要なことなのよ。
「爺様はこの男と契約している。双方が契約に縛られているのなら、爺様はこの男を切り捨てられない。庇わなければ契約違反になるでしょう。でもまあ、そんな契約にはなっていないはず。爺様は知らぬフリをするでしょうね」
まず間違いなく尻尾切りできる契約だと思う。
裏切り上等の悪人が、他人に運命を左右される契約を受け入れるはずもありません。
「では、どういった意図が?」
「認識を改めさせるだけ。生死は私が握っていること。捕らえた間者を送り返すほど、私には余裕があること。挑んではならない相手に喧嘩を売ったのだと理解してもらわないとね」
前世ではクリア優先とし、私は爺様まで追及しませんでした。
私に無実の罪を着せ、断罪イベントを起こした張本人。あのときはミランダに全てを背負わせている。
悪いけど、今回は完クリすると決めたのよ。立ち塞がる敵は全て排除し、私はエンディングを迎えるのだから。
はっきりと明言しておくだけだわ。
権力ではなく、人としての序列を。
「真の強者とは誰であるのかを魂に刻み込んでやるのよ……」
過度に躊躇うけれど、やるしかない。
術者を運び入れたコンラッドとリック、そしてレグス団長に向けて私は告げた。
「全員よく聞いて。この男性はルーク殿下を呪った術者です。どうやらクルセイドに潜伏していたみたいね。反呪の影響で昏倒したのだと思われます」
まずは説明からです。
その上で彼らが私の行動についてどう思うのか。もう決めていますけれど、知りたいと思います。
「姫、本当ですか? タイミングが良すぎる気もしますけれど?」
「この痣を見て? ルーク殿下にあったものと一緒でしょ? 魔力糸でコンラッドとも繋がっているし」
「では、この男を拷問にかけますか?」
コンラッドは私を誤解しているわ。
私は別に痛めつけることを楽しむような人間じゃないっての。
「無駄よ。爺様の陰が簡単に口を割るはずがないもの。とりあえず、この男は……」
既に宣戦布告は受けていたけれど、こちらからは何もしていない。
そんなのは私の礼儀に反する。向こう側にも知らせてあげないと。
一方的な攻撃が続くのではなく、反撃もあるってことを。
「メルヴィス公爵領に運びます」
流石に三人は困惑していました。
私が何を考えているのか検討もつかないみたいですね。
ならばと、私は詳細を語るだけ。私の覚悟を伝えるだけだわ。
「メルヴィス公爵に面会を願います」
私は公爵の目の前に間者を突き出すつもり。
もちろん惚けるでしょうけれど、そんなことは許さないのよ。
「いや、アナスタシア様、流石にそれは?」
「あの爺様は自分が有利にあると疑っていないわ。だからこそ、押しかけてやるの。きっと困り果てた私が謝罪に来たと思うはずよ……」
王都ルナレイクで妙な噂を流すくらいです。呪術師がルークを呪ったことは既に知っているはず。
小娘が白旗を揚げたと勘違いするでしょうね。
「公爵の眼前でこの男を殺す――」
これが有意義な使い方。
何の役にも立たない暗殺者の利用方法なの。私は公爵が投げた挑戦状を受け取り、了承した旨を伝えるだけよ。
「いやはや、姫は常に私の予想を超えてきますな? その極悪っぷりは真似できそうにありませんね」
「茶化さないで。私は戦争を始めようという公爵に、わざわざ挨拶に行くのですよ? 聖人だと思うのだけど?」
「しかし、アナスタシア様、簡単に公爵が会ってくれますかどうか……」
リックが話すように、問題は面会の可否となりますが、まあ会ってくれるはず。
私だけなら門前払いかもしれませんけれど。
「レグス様に同行願います。近衛騎士団長である彼が同行したという事実。メルヴィス公爵は深読みするでしょう。王都の噂話が引き起こした事態なのか、或いは策略がバレたのかもと。もしも、王子殿下暗殺容疑をかけられてしまえば、リッチモンド公爵の二の舞になりますからね。精一杯弁明を並べられることでしょう」
「ああ、なるほど。確かに私が向かえば無下にはされないような気がしますね。けれど、私は王子殿下の警護という役目がございます。同行したい気持ちはございますが……」
「それなら問題ありません。今し方、モルディン大臣から念話がありまして、既にレグス様をお借りする話はつけております。王子殿下の警護にはコンラッドをつけますから」
トントン拍子で話は進むのだけど、全ては私の思惑通りなの。
残念ながら、北の名士は私の手の平で転がっていればいいわ。
「姫、メルヴィス公爵の眼前でこの男を殺す意味はどういったことなのでしょう?」
コンラッドが真意を尋ねています。
確かに意味はないように思えますけれど、これはとても重要なことなのよ。
「爺様はこの男と契約している。双方が契約に縛られているのなら、爺様はこの男を切り捨てられない。庇わなければ契約違反になるでしょう。でもまあ、そんな契約にはなっていないはず。爺様は知らぬフリをするでしょうね」
まず間違いなく尻尾切りできる契約だと思う。
裏切り上等の悪人が、他人に運命を左右される契約を受け入れるはずもありません。
「では、どういった意図が?」
「認識を改めさせるだけ。生死は私が握っていること。捕らえた間者を送り返すほど、私には余裕があること。挑んではならない相手に喧嘩を売ったのだと理解してもらわないとね」
前世ではクリア優先とし、私は爺様まで追及しませんでした。
私に無実の罪を着せ、断罪イベントを起こした張本人。あのときはミランダに全てを背負わせている。
悪いけど、今回は完クリすると決めたのよ。立ち塞がる敵は全て排除し、私はエンディングを迎えるのだから。
はっきりと明言しておくだけだわ。
権力ではなく、人としての序列を。
「真の強者とは誰であるのかを魂に刻み込んでやるのよ……」
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