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第十二章 天恵
天界と自分と
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ミカエル様からいただいた呪術の指南書。
一通り読み終えた私はやる気に満ちていました。
「レグス様、これより悪を裁く儀式を始めます」
こと細かに説明されていた書物の内容は私の予想を肯定しています。
基本的に一方通行である呪術の術式ですが、術式に介入し逆転させることで反呪が成り立つのだと。
「まずは術式の可視化を行います……」
リックが持ち帰った魔道書を片手に私は古代エルフの魔法を詠唱していく。
レグス団長とコンラッドが見守る中、私は魔力糸の視覚化に成功しています。
「次に呪術魔法陣の書き換えを行います。コンラッドはこれを……」
アイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出し、それをコンラッドに十本ほど手渡します。
「何ですか、これは……?」
「コンラッドには私が構築する魔法陣に魔力を注いでもらいます。恐らく通常の呪術式に使用する魔力の十倍ほど。よってポーションを飲みながら供給してちょうだい」
ミカエル様が与えてくれた書物にも記されているのです。
魔法陣の終点を起点に書き換えたあとは中央の大魔法陣に魔力を注ぎ込むとある。
向こう側を終点と書き換えるため、向こう側まで届く膨大な魔力量が必要になるのだと。
「始めるわよ。テーブルにポーションを並べなさい。目眩を感じたら躊躇なく飲み干すこと」
「いや、姫の方が魔力があるでしょうに!?」
困惑するのは当たり前かもね。
上位の暗殺者といえども、私並みに魔力があるはずもないのですから。
「私は光属性なの。呪術は闇の属性。よって私の魔力で介入できないわ。下手をしたら術式が暴走してしまうかもしれないの」
まともに機能するはずもないのだけど、光属性を流し込むことはやはりリスクが大きい。
勢いだけの話なら目一杯の魔力を注ぐのだけど、生憎と先方の術式まで改変しなければなりません。
「承知しました。私が闇の魔力を注ぎましょう」
コンラッドが理解したところで、私は術式の改変を始める。
正確且つ素早く。術者に気取られる隙を与えてはなりません。
ミカエル様の指南書通りに術式への介入を始めます。終点であるルークの術式を即座に書き換えました。
「コンラッド!!」
直ぐさまコンラッドが魔力を注ぐ。
ここからは時間の勝負。術者が気付いて呪いを解除するなんてあってはなりません。
反呪をし、確実に術者を炙り出さなければ私たちの勝利とはいえないのです。
「もっと魔力を注いで!!」
勢いが足りない。正直にコンラッドの魔力量では吐出される量が少なすぎる。
しぼんだ風船から吐き出される程度の量でしかない。私とコンラッドでは容量の違いが明らかでした。
「ああ、もう!!」
ここで私も魔力を注いだ。
確実に賭けでしかありませんが、コンラッドが流し込んだ魔力を押し出すかのように。
「いけぇぇえええっ!!」
私は間違っていない。こんな今も天界が伝えた言葉を信じている。
ただし、無鉄砲に垂れ流すのではありません。
魔力糸の周囲を削るように流し、細くなった魔力糸にコンラッドの魔力が流れていくように。
幼き日から続けた魔力操作は伊達じゃないの。術士へと繋がる魔力糸の周囲を包み込み、極めて細い魔力糸へと変貌させてやるわ。
コンラッドの魔力でも逆流させられるように。
(アマンダ、よく見てなさいよ!?)
繊細な魔力コントロールが要求されたとしても、私はやり遂げるだけだわ。
私を信じた天界の二人が今も見ているんだもの。絶対に失敗なんて許されない。
「メルヴィスに与する悪は滅するだけ!!」
膨大な魔力を放出しつつも、私は微細な魔力操作を終えている。
介入をして僅か五秒。突き抜けたような感覚を手の平に感じ、私は魔力供給を止めていました。
これ以上は術式に関与してしまうだろうと。
「やった……」
確認の作業が残っていましたが、私は成功を疑わない。
何しろ、ルークの身体にあった術式は明確にコンラッドへと移譲されていたのですから。
「アナスタシア様……?」
ずっと心配していたレグス団長が問うように話す。
私は長い息を吐いてから、ルークから視線を上げていました。
「反呪に成功しました。もうルーク殿下は呪いの影響下を脱しておりますわ……」
術式の起点と終点が逆転した今、呪術式はコンラッドから術者に向けられています。
従ってルークは程なく目覚めることでしょう。
「レグス団長様、食事の用意を使用人に伝えてください。私はこれからイセリナの解呪を行います」
コンラッドの魔力が持つのか分かりませんので、イセリナには解呪を行います。
ミカエル様の指南書にある魔力糸への介入方法。私の魔力を流して反呪させるのは不可能ですけれど、解呪であれば造作もないことでしょう。
術士より劣っているはずもないし、そもそも光属性は浄化や解呪を得意とするエレメントですからね。
「殿下が再び呪いを受ける可能性はございますか?」
「いいえ、割と強力な呪いですからね。恐らく反呪を受けた術士は昏倒していることでしょう。もう既に意識はないだろうと考えます」
レグス団長は納得したのか、先ほどの指示通りに厨房へと向かう。
二人には栄養を付けてもらって、早く王都に戻ってもらわないといけません。
このあと私はイセリナの解呪を行いました。指南書さえあれば、何てこともない結末。どうやら私は天界の期待に応えられたみたい。
この世界線を続けたいという天界の希望を汲むことができたらしい。
せっかくの旅行を意識なくベッドで過ごした二人には悪いと思いますけれど、私にとっては有意義な時間となっています。
天界と私の思惑が初めて一致していたのですから……。
一通り読み終えた私はやる気に満ちていました。
「レグス様、これより悪を裁く儀式を始めます」
こと細かに説明されていた書物の内容は私の予想を肯定しています。
基本的に一方通行である呪術の術式ですが、術式に介入し逆転させることで反呪が成り立つのだと。
「まずは術式の可視化を行います……」
リックが持ち帰った魔道書を片手に私は古代エルフの魔法を詠唱していく。
レグス団長とコンラッドが見守る中、私は魔力糸の視覚化に成功しています。
「次に呪術魔法陣の書き換えを行います。コンラッドはこれを……」
アイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出し、それをコンラッドに十本ほど手渡します。
「何ですか、これは……?」
「コンラッドには私が構築する魔法陣に魔力を注いでもらいます。恐らく通常の呪術式に使用する魔力の十倍ほど。よってポーションを飲みながら供給してちょうだい」
ミカエル様が与えてくれた書物にも記されているのです。
魔法陣の終点を起点に書き換えたあとは中央の大魔法陣に魔力を注ぎ込むとある。
向こう側を終点と書き換えるため、向こう側まで届く膨大な魔力量が必要になるのだと。
「始めるわよ。テーブルにポーションを並べなさい。目眩を感じたら躊躇なく飲み干すこと」
「いや、姫の方が魔力があるでしょうに!?」
困惑するのは当たり前かもね。
上位の暗殺者といえども、私並みに魔力があるはずもないのですから。
「私は光属性なの。呪術は闇の属性。よって私の魔力で介入できないわ。下手をしたら術式が暴走してしまうかもしれないの」
まともに機能するはずもないのだけど、光属性を流し込むことはやはりリスクが大きい。
勢いだけの話なら目一杯の魔力を注ぐのだけど、生憎と先方の術式まで改変しなければなりません。
「承知しました。私が闇の魔力を注ぎましょう」
コンラッドが理解したところで、私は術式の改変を始める。
正確且つ素早く。術者に気取られる隙を与えてはなりません。
ミカエル様の指南書通りに術式への介入を始めます。終点であるルークの術式を即座に書き換えました。
「コンラッド!!」
直ぐさまコンラッドが魔力を注ぐ。
ここからは時間の勝負。術者が気付いて呪いを解除するなんてあってはなりません。
反呪をし、確実に術者を炙り出さなければ私たちの勝利とはいえないのです。
「もっと魔力を注いで!!」
勢いが足りない。正直にコンラッドの魔力量では吐出される量が少なすぎる。
しぼんだ風船から吐き出される程度の量でしかない。私とコンラッドでは容量の違いが明らかでした。
「ああ、もう!!」
ここで私も魔力を注いだ。
確実に賭けでしかありませんが、コンラッドが流し込んだ魔力を押し出すかのように。
「いけぇぇえええっ!!」
私は間違っていない。こんな今も天界が伝えた言葉を信じている。
ただし、無鉄砲に垂れ流すのではありません。
魔力糸の周囲を削るように流し、細くなった魔力糸にコンラッドの魔力が流れていくように。
幼き日から続けた魔力操作は伊達じゃないの。術士へと繋がる魔力糸の周囲を包み込み、極めて細い魔力糸へと変貌させてやるわ。
コンラッドの魔力でも逆流させられるように。
(アマンダ、よく見てなさいよ!?)
繊細な魔力コントロールが要求されたとしても、私はやり遂げるだけだわ。
私を信じた天界の二人が今も見ているんだもの。絶対に失敗なんて許されない。
「メルヴィスに与する悪は滅するだけ!!」
膨大な魔力を放出しつつも、私は微細な魔力操作を終えている。
介入をして僅か五秒。突き抜けたような感覚を手の平に感じ、私は魔力供給を止めていました。
これ以上は術式に関与してしまうだろうと。
「やった……」
確認の作業が残っていましたが、私は成功を疑わない。
何しろ、ルークの身体にあった術式は明確にコンラッドへと移譲されていたのですから。
「アナスタシア様……?」
ずっと心配していたレグス団長が問うように話す。
私は長い息を吐いてから、ルークから視線を上げていました。
「反呪に成功しました。もうルーク殿下は呪いの影響下を脱しておりますわ……」
術式の起点と終点が逆転した今、呪術式はコンラッドから術者に向けられています。
従ってルークは程なく目覚めることでしょう。
「レグス団長様、食事の用意を使用人に伝えてください。私はこれからイセリナの解呪を行います」
コンラッドの魔力が持つのか分かりませんので、イセリナには解呪を行います。
ミカエル様の指南書にある魔力糸への介入方法。私の魔力を流して反呪させるのは不可能ですけれど、解呪であれば造作もないことでしょう。
術士より劣っているはずもないし、そもそも光属性は浄化や解呪を得意とするエレメントですからね。
「殿下が再び呪いを受ける可能性はございますか?」
「いいえ、割と強力な呪いですからね。恐らく反呪を受けた術士は昏倒していることでしょう。もう既に意識はないだろうと考えます」
レグス団長は納得したのか、先ほどの指示通りに厨房へと向かう。
二人には栄養を付けてもらって、早く王都に戻ってもらわないといけません。
このあと私はイセリナの解呪を行いました。指南書さえあれば、何てこともない結末。どうやら私は天界の期待に応えられたみたい。
この世界線を続けたいという天界の希望を汲むことができたらしい。
せっかくの旅行を意識なくベッドで過ごした二人には悪いと思いますけれど、私にとっては有意義な時間となっています。
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