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第十二章 天恵

解決方法

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「魔力糸に私の魔力を流し込めるのなら、やりたい放題できるんじゃない?」

 問題は呪いの方向性。対象と呪術師が接続していたとして、魔力糸が一方通行である可能性は否定できません。

 そうなると逆流させていくことになり、簡単ではなくなります。

「起点と終点のルートが構築されているのだから、反呪という括りなら簡単かも。ルークかイセリナに施された術式を解析して、術式の末端を探せばいい。あとは術式に介入できたのなら、反呪させられるかもしれない」

 イメージは固まりつつあります。

 魔力を可視化することで、二人にかけられた術式が視認できるかもしれない。

 問題は術式の解析となるのですけれど、時間をかけたのなら大丈夫だと思う。

 どうせ死に戻り覚悟です。何度だって繰り返してやるわ。


 そうと決まれば、実行に移します。

 失敗すると死に戻りが確定するイセリナではなく、ルークを実験台とすることに。

 いや、私はこの人が好きなのよ? ホントだからね……?

 少しでも時間を有効に使うことがルークのためでもあるし、えっとその、これが私の愛の形よ……。

 ルークの部屋に入ると、ずっとレグス団長が看病していました。

 昏睡しているのだから時間は残されていません。何も食べることができないということは、呪い以前に衰弱していくのですから。

「アナスタシア様……?」

「退いてください。術式を行使します」

 魔道書片手に私は詠唱していく。

 辿々しい古代エルフ文字。新しい詠唱は難しいのですが、術式自体が複雑じゃないのが救いだったりします。

「殿下は助かるのでしょうか?」

 詠唱中だというのに、黙っててくれないかしら?

 かといって、今はまだ術式に干渉するのではなく、ただ魔力糸を解析するだけです。

 間違ってもルークに影響などありません。

「実行……」

 魔法陣に魔力を流す。

 この魔道書が本物であれば、ルークを蝕む魔力糸が露わになるはずです。

 思いのほか、大量の魔力を呑み込んでいく。まあそこは古代魔法なので仕方ありません。

 目に見えない魔力糸を可視化させるのだし、織り込み済みだったりします。

「これは……?」

 レグス団長がゴクリと唾を飲み込んでいました。

 それもそのはず、ルークの身体から黒い糸が浮き出ていたからです。

 加えて、黒い糸でできた魔法陣が大小合わせて六個。

 大きな魔法陣の周囲に小さな魔法陣が五個配置されていました。

「五芒星法陣か……」

 やはり天恵スキルは少しばかり複雑です。

 しかし、現在魔法と同じように、行使されたスキルもまた単式の魔法陣を組み合わせたものみたい。

 これならずっと簡単に解読できるかもしれません。

「アナスタシア様?」

「ああ、ごめんなさい。実は古代魔法の一つが有効かと思い使ってみたのです。魔力糸を可視化できる魔法で、ルーク殿下を蝕む術式が明らかとなりました」

「古代魔法ですか!?」

「私は古代エルフ文字の解読が趣味でして、これくらいの魔道書なら行使可能ですの」

 実をいうと前世の半分くらいかけて解析したので、軽く五百年は勉強しましたかね。

 荒唐無稽な話をするよりも、単に解読したと言った方が楽ですし。

「術式を転写します……」

 とりあえず今晩の宿題を書き写す。

 一晩あれば、それなりに分かると思う。

 どうせ起点と終点の違いくらいしかない。恐らく大きな魔法陣によって遠隔接続を果たし、周囲の小さな魔法陣は呪いを解としているはず。


 羊皮紙に転写した私は魔力可視化の魔法を止める。

 あとは解析をして、魔法陣の書き換えを行ってからです。

 倍返しにするその日を夢見つつ、私は一歩ずつ進んでいくだけですね。

「アナスタシア様、その術式をどうされるのでしょう?」

「ああ、解析をして、反呪させてやろうと思うの。呪いのスキルも魔法陣を基礎とし、それが目に見えるのであれば、私なら何とかできます。遠隔にて離れていようと、起点と終点の魔法陣は同じ。途中を魔力糸で繋いでいるだけですからね」

 スキルも魔法と同じような原理であることが確認できたのです。

 ならば私の真骨頂。幾らでも仕返しができるかと考えます。

「いやしかし、反呪ですか? ルーク殿下から呪術師へと返すなんてできるのでしょうか?」

「構造さえ分かれば……。こちらを起点に書き換えて、魔力糸を逆流させる。向こう側を終点に書き換えるのですよ。もちろん、膨大な魔力が必要となりますけれど」

 複雑な構造ならば、高難度かと思うけれど、魔力糸の接続以外は五つの命令しか含まれないのですから、問題ありません。

「しかし、呪術は闇属性ですけれど?」

「当てがあります。呪術に関する書物を買い漁るよう命令している従者がいるのです。彼は闇属性ですから」

  私は光属性なので、呪術の術式に干渉すると、暴走を起こす恐れがあります。

 最悪の場合は魔力糸が切れてしまい、呪術師を探せなくなってしまう。

「とりあえず、呪術ですので今日明日で殿下が失われることにはならないわ」

「いや、一週間で解決するのでしょうか!? 大ごとになってしまいます!」

 リアルに一週間しかないレグス団長は焦って当然です。

 まあしかし、私は違う。仮にこの一週間で問題が解決できなくとも、別に構わない。

 どこまで戻されるのか分かりませんけれど、セーブポイントへ戻されるだけなのですから。

「ご安心を。私の従者が呪いについての書物を持ち帰らないことには始まりません。呪いについてはど素人ですし、転写した呪術式の解析をしてからですわ」

 問題が起きるとすれば、コンラッドの帰りが一週間以上かかる場合です。

 そうなると絶望的になってしまいますけれど、リスタート時には準備する時間があるでしょう。よって焦ることなどありません。

「私は術式の解析に入りますので、レグス様はお休みください。それでは……」

 コンラッドが戻っても一週間ギリギリまで呪いを解くつもりはない。

 なぜなら、メルヴィス公爵が先走って尻尾を出すかもしれないからです。

 ルークが戻らない現状をルナレイク中に吹聴し、私の責任を追及し出すはずだから。

 お爺さま、受けて立ちますわよ?

 青二才ですけれど、そのときにはどうぞよろしくお願い致しますわ。
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