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第十一章 謀略と憎悪の大地
悪の根
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「アナスタシア様、少しよろしいですか?」
不意に私は話しかけられていました。
大勢が私について歩いていましたけれど、挨拶以外で声をかけられたのは初めてです。
「何でしょう?」
振り返ると貴族的な衣装を身に纏った男性がいました。
悪い予感しかしないのはメルヴィス公爵に近い者ではないかと考えたからです。
「私めは中央区の区長を務めておりますアンドレと申します。真紅のドレスがとてもお似合いですね。ご挨拶が遅れましたけれど、以後お見知りおきを……」
アンドレが話すように、私は真っ赤なドレスを着ていました。
少しばかり目立とうとしていたのは事実ですが、やはり真っ先に視線が向くようですね。
「中央区といえば、この広場周辺よね?」
「よくご存じで。昨日は所用で留守にしておりまして、アナスタシア様が危険に晒されていたというのに、駆け付けられませんでした。誠に申し訳ございません」
よくもまあ、いけしゃあしゃあと言えたものね?
どうせ影から見ていたのでしょう。
「女神に誓えますか?」
「もちろんです。ワインの酒造組合の方へと行っておりました」
酒造組合はエスフォレストの北部地域にある。世界の頂に面したエリアですね。
「ならば各区長と自衛団、それに組合員がいるのでしたら集めてくださいまし。大切なお話がございます」
「ならば部屋を用意いたし……」
「結構。この広場へ集めてください」
この際だから膿は出し切っておきましょうか。
アンドレだけじゃなく、全員を更迭するしかないわ。
◇ ◇ ◇
小一時間が経過し、広場にアンドレが戻って来ました。
正直に組合の人間は期待していませんでしたが、街の重責を担う二十人が集められた模様です。
「さて、お集まりいただき、誠に恐縮ですわ。まずは全員のお名前を知りたく存じますので、この用紙にご署名をお願いいたします」
「私もでしょうか?」
「当然です」
アンドレの名も必要。無実であれば、命は助けてあげるけどね。
二十人の署名が終わり、私は再び声を張ります。
「昨日、アンドレ区長は中央区にいらっしゃらなかったと話されております。まあでも、私は信用したわけではありません。昨日もお伝えしましたが、私はメルヴィス公爵家を悪と見做しており、悪人は徹底的に排除する所存ですの」
二十人はまだ余裕がありそうですね。まあしかし、本番はこれからです。
「今ならば命は助かります。女神様に誓うとおっしゃいましたので、もしも嘘をついておられたのなら命を失う契約をさせていただきましょうか」
「そんな話聞いていませんよ!?」
「黙りなさい。貴方自身が女神様に誓って嘘はないとおっしゃったではないですか?」
ぐうの音もでないでしょうね。
でも、私は本気だから。悪の芽は全て排除するだけよ。
「もしも、貴方たちがメルヴィス公爵家と無関係でしたら、何も起きません。しかし、少しでも関わりがあり、我が所領に害を成すのであれば、その者は心臓が破裂して死を迎えるでしょう」
ざわめき立つ広場に私の声が響いている。
面倒ごとは今回限りで終わらせてあげるわ。
「もしも、子爵領を裏切っているのでしたら挙手を願います。牢獄へ閉じ込めることになりますけれど、命を奪うことは致しませんわ」
もしも契約した者が失われたとすれば、恐らくメルヴィス公爵はそれを知るだろう。私が確実に敵対していることについて。
しばらく待っていると、五人が手を挙げています。
組合の人間だという男を皮切りにして、比較的若い人たちが名乗り出てくれました。
とても素晴らしい判断ね。じゃあ、貴方たちは生かしてあげるわ。
しかしまあ、アナスタシア子爵領はどうなっているのよ?
これなら戦場の方がよほど悪意がない。全方位から殺意を抱かれるなんてね。
だけど、仕方ないわ。
何しろ私は青き薔薇の悪役令嬢なんだもの……。
不意に私は話しかけられていました。
大勢が私について歩いていましたけれど、挨拶以外で声をかけられたのは初めてです。
「何でしょう?」
振り返ると貴族的な衣装を身に纏った男性がいました。
悪い予感しかしないのはメルヴィス公爵に近い者ではないかと考えたからです。
「私めは中央区の区長を務めておりますアンドレと申します。真紅のドレスがとてもお似合いですね。ご挨拶が遅れましたけれど、以後お見知りおきを……」
アンドレが話すように、私は真っ赤なドレスを着ていました。
少しばかり目立とうとしていたのは事実ですが、やはり真っ先に視線が向くようですね。
「中央区といえば、この広場周辺よね?」
「よくご存じで。昨日は所用で留守にしておりまして、アナスタシア様が危険に晒されていたというのに、駆け付けられませんでした。誠に申し訳ございません」
よくもまあ、いけしゃあしゃあと言えたものね?
どうせ影から見ていたのでしょう。
「女神に誓えますか?」
「もちろんです。ワインの酒造組合の方へと行っておりました」
酒造組合はエスフォレストの北部地域にある。世界の頂に面したエリアですね。
「ならば各区長と自衛団、それに組合員がいるのでしたら集めてくださいまし。大切なお話がございます」
「ならば部屋を用意いたし……」
「結構。この広場へ集めてください」
この際だから膿は出し切っておきましょうか。
アンドレだけじゃなく、全員を更迭するしかないわ。
◇ ◇ ◇
小一時間が経過し、広場にアンドレが戻って来ました。
正直に組合の人間は期待していませんでしたが、街の重責を担う二十人が集められた模様です。
「さて、お集まりいただき、誠に恐縮ですわ。まずは全員のお名前を知りたく存じますので、この用紙にご署名をお願いいたします」
「私もでしょうか?」
「当然です」
アンドレの名も必要。無実であれば、命は助けてあげるけどね。
二十人の署名が終わり、私は再び声を張ります。
「昨日、アンドレ区長は中央区にいらっしゃらなかったと話されております。まあでも、私は信用したわけではありません。昨日もお伝えしましたが、私はメルヴィス公爵家を悪と見做しており、悪人は徹底的に排除する所存ですの」
二十人はまだ余裕がありそうですね。まあしかし、本番はこれからです。
「今ならば命は助かります。女神様に誓うとおっしゃいましたので、もしも嘘をついておられたのなら命を失う契約をさせていただきましょうか」
「そんな話聞いていませんよ!?」
「黙りなさい。貴方自身が女神様に誓って嘘はないとおっしゃったではないですか?」
ぐうの音もでないでしょうね。
でも、私は本気だから。悪の芽は全て排除するだけよ。
「もしも、貴方たちがメルヴィス公爵家と無関係でしたら、何も起きません。しかし、少しでも関わりがあり、我が所領に害を成すのであれば、その者は心臓が破裂して死を迎えるでしょう」
ざわめき立つ広場に私の声が響いている。
面倒ごとは今回限りで終わらせてあげるわ。
「もしも、子爵領を裏切っているのでしたら挙手を願います。牢獄へ閉じ込めることになりますけれど、命を奪うことは致しませんわ」
もしも契約した者が失われたとすれば、恐らくメルヴィス公爵はそれを知るだろう。私が確実に敵対していることについて。
しばらく待っていると、五人が手を挙げています。
組合の人間だという男を皮切りにして、比較的若い人たちが名乗り出てくれました。
とても素晴らしい判断ね。じゃあ、貴方たちは生かしてあげるわ。
しかしまあ、アナスタシア子爵領はどうなっているのよ?
これなら戦場の方がよほど悪意がない。全方位から殺意を抱かれるなんてね。
だけど、仕方ないわ。
何しろ私は青き薔薇の悪役令嬢なんだもの……。
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