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第十一章 謀略と憎悪の大地

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「アナスタシア様……、この男は本当に間者なのですか?」

 メイドの一人が見かねたのか、そんなことをいう。恐らく彼女であれば、既に精神力が尽きていたのでしょうね。

 自分を投影して間者が一般人ではないかと考えたらしいわ。

「当たり前でしょ? 無実であればそう主張するわ。でも、この男はそれをしない。私との契約にある嘘を口にした場合の罰を恐れているのよ」

 メイドはもう何も言わない。

 だとすれば、私は間者を痛めつけるだけ。刺しては抜くを繰り返すだけなの。

「姫、この男はなかなか優秀な人間かと思います。姫の能力を信じていないのか、或いはかなり教育された忠臣かもしれません」

「そうね。もう疲れてきたわ。他に良い案はあるかしら?」

「お任せあれ。姫の回復魔法があるのであれば、心削《こころけずり》というヤスリがございます」

 聞いたことないけれど、コンラッドだもの。心削は拷問具に違いないわね。

「どうやって使うの?」

「いや、単にこの巨大なヤスリで身体を削っていくだけです。回復魔法とセットでなければ直ぐに死んでしまいますけれど」

 おうぅ、何て恐ろしい道具を持っているのかしら? 生きながらにして人を削る道具があるなんて。

 恐らく精神までもを削ってしまうからこそ、心削と呼ばれているのね。

「まずは足から削りましょう。姫は回復魔法を随時唱えてください」

「面倒だから継続的に回復するリハイヒールをかけます。延々と回復していくので死なないはずよ」

「それは恐ろしい魔法をお持ちで……」

 いや、あんたの方が恐ろしいって。

 私のは回復魔法だし、別に拷問用の魔法じゃないっての。

「お、お待ちください!」

 ここで若い女性が声を上げた。

 流石に拷問は見ていられなかったのかもしれません。

「レナ……やめろ……」

 どうしてか間者の男が始めて声を上げた。

 ああ、なるほど。愛人って感じでもないし、娘なのかもね。

「レナといったわね? 貴方のお父さんかしら?」

 私が問うと、彼女は頷いている。

 素直なのは美徳だけど、間者としては不合格だわ。

「ならば、貴方をメルヴィス公爵との契約から解除します。心置きなく公爵の悪口が言えるようにね」

「やめろ、レナ!!」

 私は彼女がサインした契約書を取りだし、術式を変更する。

 普通の契約では絶対にできないことだけど、私の術式は後から追記もできるし、変更くらい可能なのよ。

 直ぐさま再構築をして、レナの顔を見る。しかし、父親に制止されたからか、口を噤んだままです。

「姫、この娘を拷問にかけてはどうでしょう?」

 ここでコンラッドが悪魔的な提案をする。

 まあそれは私も考えたけれど、彼女は恐らく私よりも若い。自らの意志で契約したとは思えないし、流石にね……。

「や、やめろ……」

「御仁、貴方のせいですよ? 貴方のせいで娘は嫁入りできないような容姿になることでしょう」

 ああもう、勝手に話しちゃって。

 レナに拷問するつもりはないけれど、ここはコンラッドに任せておきましょうかね。

「これを見てください。ただの針ではない特注品。幾つも棘があるでしょう? これを頬に突き刺して抜く。ただそれだけのことです。姫ならば躊躇いなくやってのけるでしょう」

 って私がやるのかい!?

 コンラッドは絶対に誤解しているな。私が超ドSだとでも考えてるんじゃない?


 ま、流れ的にはそうかもしれない。

 私はコンラッドから拷問具を受け取っています。

 しょうがないなと嘆息していると、ようやくと捕らえた男が語り出す。

「やめてくれ。全て話す……」
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